森のかけら | 大五木材

今日のかけら084

ニッケイ

肉桂

クスノキ科ニッケイ属・広葉樹・宮崎産

学名:Cinnamomum sieboldii

別名:ニッキ

 英語名:Cinnammon Tree(シナモンツリー)

気乾比重:0.61

ほろ苦き肉桂の味・・・④*

今日のかけら・#084 【肉桂/ニッケイ】クスノキ科ニッケイ属・広葉樹・宮崎産

近所の方から、庭の木を伐るけど要りませんか?のお電話がありました。町内の方々には、機会あるごとに『変わった庭木』や実のなる木(この辺りは宮内ミカンの産地ですのでミカンをはじめ、モモ、ウメなど植えてる方が多いのです)を伐採する時にはお声をかけて下さいとお願いしているので、ときどきこういうお電話をいただきます。それで今回伐られる木というのが、『ニッケイ(肉桂』の木。なんと、こんな身近でニッケイの木が得られるとは考えてもいませんでした

やはりアンテナは立てておくものです。今回伐られるニッケイは、数十年昔に庭に植えたニッケイですが、根元から伐るのではなく、塀を越えて伸びた枝部分なので、それほど大きなものではありません。しかも湿度の多い場所だったようで、多少腐りもありますが、『骨までしゃぶって使い切る』を身上としている材木屋としては、そんな事は気にしません。何に使うんですか?と質問されますが、いちいち事前に完全な『出口』が見えているわけではありません。とりあえず、手に入れる!

どう使うかは後で考えればいい事。持っておけばアイデアも湧いてこようというもの。どうせ自然乾燥させるわけですから、伐るのは枝だけとはいえ、かなり枝葉が伸びていたので、伐った枝葉だけでも軽トラック1車分ぐらいはありました。その中からめぼしい大きさのものだけいただきました。以前は葉っぱも全部落として持ち帰っていましたが、こういう場合はその木が何の木であるかの確認作業を自分でせねばなりませんので、必ず大切に持ち帰るようにしております。

確認作業といっても、数冊の木材図鑑を引っ張り出して、葉の特徴を照合するわけですが、葉っぱも見慣れてないと微妙は特徴の違いが分かりにくいものです。似たような葉が2枚並んでいれば、その差は分かりやすいのですが、単独の1枚見るだけでは、書いてある特徴がどれもあるような、ないような・・・。答えを探し求める木に限って判断がつきにくいもの。今回のニッケイは葉の特徴が分かりやすく、ヤブニッケイとの区別ぐらいでいけるので助かります。この話、明日に続きます。

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ほろ苦き肉桂の味・・・②*

それこそ今まさに伐ったばかりの木というものは、水分をたっぷり含んで生々しいのでその樹皮も簡単に剥くことができます。外皮がついたまま乾かしておくと、虫にやられる危険があるためなるべく早い段階で剥くのですが、今回の『ニッケイ』については、それだけではない理由で早く皮を剥いておきたい理由がありました。うちの倉庫には『ニッケイ』の耳付き板が幾つかあって、お客さんが材を来られた時に、文字通り五感で木を味わってもらう時に活躍しています。

名前は伏せておいて、ニッケイの樹皮を少し取って手渡し、匂いをかいでもらいます。木に詳しくない方でも、ほとんどの方が「どこかで嗅いだことのある匂い」と言って、『シナモン』あるいは『ニッケイ』(あるいは、ニッケ)の名前を挙げられます。それまで高級銘木とか、大きな一枚板みたいなものに気後れして遠くに感じられていて木の世界が、途端に身近に感じていただくきっかけになるので、とても重宝しています。やはり木は、いろいろな感覚で味会わなければなりません。

そのニッケイの板は、長さが2m、幅が300㎜前後の小幅なものですが、それでもニッケイの木としたら相当な大物だと思います。ご存じの方も多いとは思いますが、ニッケイの木が匂うのは樹皮の裏部分のみで、材そのものには匂いはありません。なので、お客さんが来られるたびに、そのニッケイの樹皮を取る(実際には、皮も乾いて硬くなっているのでパキンと小さく折るようにして取ります)のですが、あまりに樹皮を取り過ぎて、そろそろ丸裸になりつつありました。

そのニッケイとて、いつまでも匂いを楽しむためだけに倉庫にあっても仕方がないので、いずれ巣立っていくことになるので(これがなかなか巣立たないので、ありがたいような困ったような・・・)、代わりのニッケイを探さねばならないと思っていたのですが、木材市場に行ってもニッケイなんて見かける事はありません。伐採したとしても、かなり早い段階でその筋の関係者に回っていくのでしょう。樹皮は生薬にもなるそうなので、材そのものよりも皮や根が金になるのでしょう。

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ほろ苦き肉桂の味・・・③*

私が小学生の頃は、ニッケイの根っこをよく噛んでいたものです。私たちのところでは、『ニッケ』と呼んでいましたが、何とも言えない清涼感のある味が好きでした。でも自分でニッケイの根っこを採った記憶はありませんので、いつも誰かにもらっていたのだと思うのですがよく思い出せません。当時は、木の事などに一切興味もありませんでしたが、専門的な知識などなくとも、あれがトリモチの採れる木、これがニッケの採れる木、などと妙に詳しい友達がいたものです。

料理にスパイスに用いられるシナモンは、ニッケイはニッケイでも外国産の『セイロンニッケイ』という同じクスノキ科の別類のもので、日本のニッケイにはそこまでの香ばしさはありません。セイロンニッケイの樹皮を剥がして、内側のコルク層の部分を薄く削って乾燥させると、皮が丸まりスティック状になるそうです。また、京都の八つ橋などに含まれるニッキ油も、『シナニッケイ』という別種の根から作られるそうで、用途によって細かく樹の使い分けがされているようです。

しかしそれも最近では、シシャモと呼ばれて流通しているもののほとんどが、カラフトシシャモこと「カペリン」であって、その味にも舌がすっかり馴れてしまい、本家の味の混乱が生じているようにニッケイの世界でも混乱があるようです。本来はセイロンニッケイにしか含まれていないオイゲノールという成分があるため、よりマイルドな香りが得られるセイロンニッケイがシナモンの原料であったはずなのに、最近日本で販売されているものにはシナニッケイで作られたものもあるとか。

安さや供給の安定ばかりを望んでいると、自分たちがそうだと思って使っているものが実は全然違うものであったということは少なくないと思います。もともと供給が細いものが、ある日突然廉価で市場に大量に出回るようになったら、その正体を怪しまねばなりません。特に自然素材の場合は。徐々に慣らされてしまえば、五感の記憶もあやふやになってしまうもの。食べ物の分野については『本物』に出会えることがこれからドンドン難しくなってくるよう感じて不安です。

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ほろ苦き肉桂の味・・・④*

ニッケイについてはどうしてもその葉や樹皮にばかり注目が集まり、材そのものについては顧みられることが少ないように感じます。用途としては、器具材や家具材、造作材、彫刻材、薪炭材などに利用されているそうですが、葉や樹皮に対していまひとつ特徴的な出口が定まっていないようです。今回伐採したニッケイの木肌は淡いクリーム色でしたが、これから乾燥工程を経てかなり色調が変わっていくのだと思います。在庫のニッケイは、ミズメザクラのような淡い紅褐色です。
ニッケイの材そのものの在庫をわずかしか持っていないので、実際に使用実績も少なく、どういう用途が適しているのかもよく分からないのですが、気乾比重が0.70ということなので、そこそこの重量感もありますし、触感も滑らかです。それでも材が市場に出回らないのは、樹皮や葉の採集を目的として植えられていることもあり、なかなか伐採しないからでしょうか。初めてニッケイ材を手に入れて以後まったくご縁がないので、在庫の板は『非売』扱いにしようかな・・・
そんな事を考えだしたらもはや商売人としては失格なのですが、こういう事がきっかけになってまたご縁が巡ってくることを期待しつつ。ところでそのニッケイ、材としては今一つ認知度が無くとも、樹皮や根などから作られるものは昔から大人気。地域によってニッキと言ったり、ニッケと言ったりするようですが、私たちは子どもの頃からニッキと言っていました。関西ではニッキ、関東ではニッケと呼ぶことも多いようですが、いずれもニッケイから転じたものだと思われます。
ニッキを使ったものとしては、前述した八つ橋をはじめ、ニッキ水やらニッキ飴、ニッキ茶、ニッキ酒などがあります。お隣の高知でニッケイの栽培が行われているようで、ニッキを使った商品が数多く作られていますが、前に木材を仕入れに岐阜に行った時にも、売店などでニッキ飴が売られていましたので、岐阜でもニッケイの栽培が盛んなのでしょうか。無邪気にニッキの根を齧っていたのはもう40年近く前のこと。今ではニッキの根を齧る子供はいないのかもいれません。
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シナモンの香りに導かれて*

昨日、肉桂(ニッケイ)の板が入荷しました。材そのものよりもその香り(シナモン)の方が有名な木で、シナモンは知っていてもその木を見た人は少ないかもしれません。私はたまたま若い頃にニッケイの木に出会って、もの珍しさで買っていました。シナモンの香りに期待しての事でしたが、残念ながらその香りが得られるのは樹皮の裏側部分のみで、材そのものからシナモンの香りが発せられるわけではありません。それでもご来店されたお客さんに、樹皮を渡して匂いから何の木か連想してもらうなど弊社にとっては貢献度の高い木のひとつです。

ニッケイの樹皮は乾燥すると硬くなって剥がれやすくなります。私は板の状態で乾いたものしか知りませんが、板チョコの割れのような筋が収縮によって勝手に割れて、剥がすというよりもペキッて折る感じで剥がせます。乾燥が甘いとなかなか粘りがありますが、乾ききると簡単に取れます。在庫しているニッケイは、ひとに匂いを嗅いでもらいうとそれを繰り返しすぎてすっかり樹皮が無くなってしまいました。それでニッケイあれば確保しておきたいと思っていたので、今回ある程度のニッケイを得れたのはとてもありがたい!

しかも樹皮もいい感じに取りやすそうです。このニッケイは岐阜の市場で仕入れたものですが、その日の市には仕事の都合で参加出来なかったので、「秘技遠隔操作競り」で金沢の村本さん競り落としてもらいました。材は村本さんの他の木材と共に一旦金沢に持ち帰ってもらい、改めて愛媛に配送してもらうのですが、それに先んじて金沢から謎の小包が到着!開封してみるとそこにはビニール袋に入れられたニッケイの樹皮。荷卸ししてたらその辺に落ちてたので、きっとお前は欲しいやろうと思ってので拾い集めて送ったと。すべてお見通し、ありがたし!!

材はまだそこまで乾ききっていませんが、少し触るだけで樹皮はポロポロ剥がれ落ちます。これは見過ごせん!そこからニッケイの樹皮剥がし&採集が始まったのですが、これが終わりの見えない戦いに突入!乾燥機に入れるための桟積みを兼ねて採集するのですが、途中からはどちらが主目的は分からなくなり、作業は停滞。2時間ほどかけてこれぐらい収集。残りはお客さんへのプレゼン用に残しといてやるか、と負け惜しみを残して終了。さあこれをどう生かすか?!とりあえあず水に浸してニッケ水を作ってみよう(^^♪




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