森のかけら | 大五木材

今日のかけら059

ジンダイスギ

神代杉

スギ科スギ属・針葉樹・秋田産

学名:Cryptomeria japonica

別名:*****

 英語名:‎Japanese cedar(ジャパニーズシーダー)

気乾比重:0.30~0.45

※〔データはスギのものです〕

鳥海山の不死なる神代杉①*


今日のかけら・#059 【神代杉/ジンダイスギ】 スギ科スギ属・針葉樹・秋田産

少し前にこのブログで、映画『八甲田山』の事を書いた時に『秋田富士』あるいは出羽富士とも呼ばれる名山・鳥海山に少しだけ触れました。本来はそのタイミングでご紹介しようとも思ったのですが、主題の高倉健さんから更に話が逸れそうでしたので敢えてその時にはスルーしました。改めまして本日はその鳥海山のめぐみである「神代杉」についての話。多くの動植物にめぐみをもたらす鳥海山ですが、そのめぐみの一片が弊社の倉庫にも・・・

本家の富士山にも劣らぬ美しい姿を誇る鳥海山は標高2236mで、東北を代表する名山ですが、富士山同様に活火山であり、過去に幾度も激しい噴火を繰り返してきました。太古の昔、轟音とともに空を噴煙が覆い太陽の光をさえぎる。火砕流や溶岩流れが田畑を押し流し、大小の岩石が飛乱。獣は恐れおののき鳥は狂ったように啼き叫び、火山灰が降り注ぎ、いつ終わるとも知れぬこの世の地獄のような光景は神の怒りに思えたことでしょう。

その一方で神のご乱心は、数百年後の時代に思いもよらぬ「めぐみ」をもたらしてくれます。それが火山の噴火で地下深くに閉じ込められた木、いわゆる『土埋木(どまいぼく』です。後世の時代に道路工事などで掘り返され、数百年の眠りから覚めたタイムカプセルの木。地下水の影響などで、もはや木であって木でないモノに変化した『生ける化石』は、数百年ぶりに大気に触れる事で、急激に変形したり収縮、暴れ、割れます

もはや人間のコントロールできる範疇を越え、神の領域に達したそれら土埋木の中でも特に色合いが美しかったり趣きのあるものは、『神代(じんだい)』と呼ばれます。誰が名づけたのか、まさに神の世界からやってきた不死なる木。有史以来幾度となく噴火を繰り返し、多くの神代木を生み出してきた鳥海山は、神代木産出の山としても知られており、市場などにもわざわざ鳥海山の名前が冠して出材されるほどの一大ブランドなのです。明日に続く・・・

 

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鳥海山の不死なる神代杉②*

立派な神代木を山ほど在庫して全国へ流通されている大きな銘木屋さんならいざ知らず、基本的に愛媛を商圏としている弊社のような零細材木屋にとっては、高価な神代木の大物は高嶺(高値)の花。『神代』というのは、タイムカプセル形容詞なので、いろいろな樹に対してその冠はつくわけで、神代欅とか神代楢とか神代栗とかいろいろあるわけですが、同じ神代の中でも広葉樹に比べると針葉樹は比較的出土後の暴れっぷりは少ないです。

スギヒノキの場合、ケヤキなどのように大暴れしたりねじれまくる事は少ないものの、収縮、割れ、腐食は多く見受けられます。そんな神代杉の板材を幾らか在庫しています。木であって木でなくなっているため、強度や精度の安定性は望むべくもなく、あくまでも装飾的な用途に使わせていただくのですが、その一部は【森のかけら】として再生させてもらいます。そんな場合は、ザックリ割れとか入っていた方が諦めもつきます。

もう【かけら】意外に用途が考えらないようなコンディション(割れたり反っていたり)であれば、私のモッタイナイレーダーにも反応が薄いのです。神代木に関して言えば、弱い部分は土の中で既に腐食してしまっているので、耳の辺りは大体ボロボロ。その付近について言えば【森のかけらこそが無駄なく骨までしゃぶって使い切れる商品サイズなのです。そういう時は、「小さなサイズの商品」を作っておいて良かったとつくづく思います。

どこにどれぐらいの期間お眠りになっていらいたかという事で、地下変化の仕上がり具合も千差万別ですが、神代木を名指しで来店される方は稀で、中でも『鳥海山ブランド』で辿り着かれるケースは余程のマニア!本当に来られたとしても、ご希望のサイズを作り出すことは出来ませんし、探せば足元を見られて高くなる世界。『今ここにある現物』に要望を合わせていただく寛容さを持つことが神の木と対峙できる前提条件なのです。

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神代木のかけら浪漫*

生きている化石』という事で『メタセコイア』の事を紹介してきましたが、文字通り化石化してしまう手前で地上に現れた木が『神代木(じんだいぼく)』です。神の御代(みよ)の時代から土の中で眠り続けた木という意味で、神の時代の木として敬意を込めて『神代』の冠が与えられるのですが、その目安は500年とも1000年とも言われます。本来は、時間の長さだけでなくコンディションや杢目、色あいなど総合的に判断して銘木的な価値のあるものだけに付けられる由緒ある名称なのです。

専門的な銘木の世界ではそのように定義づけされるべき神代木ですが、【森のかけら】においてはその浪漫溢れる呼称や、土埋木という存在などをもっと知っていただきたいとの思いから、不遜ながら土埋木全般に対してその呼称を使わせていただいております。その性質上、欠品すればいつでも簡単に補充が効くといういうものでもありません。生えている木を伐り倒すというわけではなくて、地下に眠っている木を掘り起こすのですが、その多くは道路工事や河川の改修工事の副産物です。


埋まっていた地質や地下水などの影響を受けてその性質までも複雑に変化してしまった神代木は、出土して大気に触れる事で色合いが変わったり極端に歪みやねじれが発生するなど、神の傍らにいた木だけあって人間のコントロールの及ばない存在です。なので精度や強度の求められる用途には不向きではありますが、そのワビサビなど風情を楽しむ場面ではとても重宝されています。和室の床の間や茶室、工芸品などの分野で評価が確立されているため、それなりのルートではストックもかなりされています。

とはいえ一般的な感覚からするとかなり高額なものになるため通常は目にする事は少ない存在だと思われます。弊社にも旭川秋田などで出土したナラケヤキ、スギなどの土埋木があり、その一部を加工して『神代のかけら』にしています。板として在庫していても、何らかの需要があってカット落ちでも発生しなければ、大きな板を切ってかけらを作る事になってしまうため痛し痒しなのですが、弊社のようなゲテモノ系の材木屋でさえ神代木指定でのご注文にはなかなか巡り合えません。




今日のかけら102

イスノキ

柞木

マンサク科イスノキ属・広葉樹・宮崎産

学名:Distylium racemosum

別名:ユスノキ、ヒョンノキ、蚊母樹

 英語名:*****

気乾比重:0.75~1.02

 

 

日本でもっとも重たい木イスノキ①*


今日のかけら・#011 【柞木/イスノキ】 マンサク科イスノキ属・広葉樹・宮崎産

昨日に続いて、高知県梼原町の太郎川公園の話しです。この公園の中には、『きつつき学習館』という施設があるのですが、自然体験学習施設といった趣きある木造の建物で、森の掃除役・啄木鳥(キツツキ)と木工作(木をつつく)から命名されたものだそうです。当日は施錠されていましたが、係の方が気さくに開けてもらい中を拝見させていただきました。地元梼原のスギをふんだんに使った、その地に馴染んだ建物でした。私が興味があったのは建物そのものよりも中の展示物の方です。

そこには、木に興味の無い方には恐らくスルーされてしまうであろう変哲もない1本の丸太が横たわっていました。そのネームプレートには『ゆすのき』の文字が!そう、これこそ『日本でもっとも重たい木の1つイスノキ』の別名です。「日本でもっとも重たい木の1本」というのは矛盾したような表現ですが、国産の木の場合、個体差を考えると重さに幅がありそれぞれの木の産地の強い主張もあり、イスノキ、ウバメガシ、オノオレカンバなど複数の木が『日本でもっとも重たい木』の称号を得ています。

木材図鑑などでもその表現については苦慮しているようで、『世界一重たい木・リグナムバイタ、世界一軽い木・バルサ、日本一軽い木・キリ』は、ほぼ定説となっていて異論もないようですが、『日本一重たい木』の座はなかなか決まりそうにありません。材木屋の肉体感覚(肩に担いだり加工したりの)では、このイスノキがもっとも重たく感じられますが、それはこの木の通直で大きなものが少ないため、曲がっていたり枝が出ていて担ぎにくい(持ちにくい)ため力が分散するからかも。

幾つもの樹種がNO.1という曖昧さに不満を持つ方もいるようで、何が真の日本一なのかを決めようという声もあるようですが、私はむしろこの曖昧さこそが木の面白さだと思うのです。いいんじゃないでしょうか、「OOと言われる」とか「OOらしい」なんて怪しい表現で楽しんでこそ『生きている素材・木』の魅力じゃないですか。何でもかんでも理詰めで、数値に置き換えて工業化して、鉄やアルミなどと競うという道が、木に対してどれほどの負荷を与えているのかと考える事があります

数年かけて乾燥させたんじゃ商売にならない、経験則に頼った天然乾燥では、後々のクレームの原因になる、という現実はあります。でも昔の家はそうして造られてきました。昔の大工さんはそうして木と付き合ってきました。これは単なる家作りの工程の問題ではなく、何もかもを短時間で素早く処理・解決し答えを求めようとする、今の駆け足の生き方そのものの問題だと思います。自然の時間と向き合う事を忘れると美しい風景が見えなくなってしまうんだと諭されました。

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日本でもっとも重たい木・イスノキ②*

 

さて、『イスノキ』に話しを戻します。その解説のプレートには、『ゆすのき 標準和名:イスノキ』とありました。木材業界では、「イスノキ」の名前の方が一般的だと思うのですが、俗称や別名の多さこそが、暮らしに根ざしさまざまな用途で使われてきた木の多様性を物語るものでもあります。解説文には梼原町では自生も見られ、町名にちなみ九州から製材品を取寄せ木材加工の研究をしたり、町有林の複層林の下木として植栽もしているとありました。

以前に旅行した際、鹿児島で植生された立派なイスノキを見ましたが、県内では見た事がありません。在庫として倉庫に眠るイスノキは、上の看板にもあるように私も九州は宮崎県から仕入ています。宮崎県の都城市は木工が盛んな地域で、以前お邪魔した都城木材さんでは、広葉樹の堅木(樫など)を使ったスコップや鍬など器具の柄の加工もされていました。このイスノキの出口として有名なのが木刀ですが、都城市では全国のおよそ8割ほどのシェアを持っているそうで木刀王国

ただその素材の多くは樫(シラカシ、アカガシなど)だそうで、生育量の多くないイスノキは木刀の世界でも貴重なもののようです。特に高齢木のイスノキの芯を使ったものは地元で『スヌケ』と呼ばれ、木刀の中でも最高級材として珍重されています。こんな重硬な木刀で叩かれる事を考えただけで寒気が・・・。今までに幾つものイスノキを仕入れてきましたが、立て掛けるために倉庫に運ぶのにどれほど苦労した事か!もうその見た目だけで、この木がどれほど重たいのかを自己主張しています。

濃いこげ茶色の木肌を磨いてやれば惚れ惚れするほどの滑らかさなのですが、硬さも半端ではありません!こちらはそのイスノキで作った『森のりんご』。釘すらも曲がってしまうほどに強靭なイスノキをよくぞここまで見事に加工してくれたものです!荒材の時にはその鋭いそげらに何度も泣かされたものですが(刺さるともの凄く痛い!)、こうして曲線になるとその滑らかさ、そしてズシリと掌に伝わる重さは尋常ではありません!美しいものには棘あり!

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日本でもっとも重たい木・イスノキ③*

本日も『日本で最も重たい木の1つ・イスノキ』の話しです。この重硬な木は、建築の現場ではあまり、いやほとんどお目にかかることはありません。余程上質なものがあれば、床柱床框など床の間の装飾に使われる事が稀にありますが、愛媛に限っていえば私は未だ住宅にイスノキが使われている現場を見た事はありません。中には「キツツキ館」に鎮座ましましていたような大きなイスノキもあるのでしょうがそんなものはレア!家具材としても量が揃わねば使いづらいものです。

ではなぜそんな材を仕入れているかといえば、これはもうきっぱりと『材木屋の好奇心』のみ!世界中の木を見てみたい、触ってみたいという好奇心です(どちらかと言うと、立木よりも材としての木。つまり製材された材の方への気持ちが強いのですが)。そのために仕入れるなんて道楽だ思われるかもしれませんが、決してコレクションとして仕入ているわけではありません。実際にこの目で見て、触れて、担いで、削って、塗装してみないとその特性を知ることは出来ません。

そこから、その木に適した出口を探していくのですが、すぐに出口が見つかるというわけではありません。木によっては数年、10数年かかる事も。いつ上の方から啓示が降りてくるのか?これも人とで出会い、モノとの出会いなのですが、未だ道に迷っているばかり・・・。倉庫にあるイスノキは長さが3mあり、体調のいい時に覚悟を決めて臨まないと簡単には動かす事も出来ません。今回も明るいところに移動させて写真を撮ろうと思ったのですが、肘の調子が悪いのであえなく断念・・・。

このイスノキ、生垣や庭木、公園木として植栽されますが、材は木刀だけでなく、櫛や楽器、器具、ステッキ、寄木細工にも使われます。またその灰は「柞灰(いすばい)」として陶磁器の釉薬にも使われるそうです。時々、イスノキ=椅子の木なんですか?と訊ねられる事があるのですが、そうではなくてこの名前の由来は琉球の方言に由来したものだそうですが、詳しい事が分かっていません。四国や九州の一部では『ユスノキ』とか『ユス』とも呼ばれることもあります。


それは古名のユシノキ(由之乃支)の通音と考えられているようですがはっきりしません。また『ヒョンノキ』なる変わった別名もあるのですが、それはこの木の葉っぱにアブラムシ類が寄生して作る『虫えい(虫こぶ』が出きるのですが、成虫が出た後小さな穴が空いて空洞になります。その穴に唇を当て笛のようにして吹くとヒョウヒョウと鳴る音に由来しているようです。 その虫えいはタンニンが含まれているので染料としても利用されます。硬く引き締まった木にはなにひとつ無駄がありません!




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