森のかけら | 大五木材

 nire no tobira

エルム・サイドストーリー/序章

1. 今日のかけら

★今日のかけら・#085 【楡/ニレ】 ニレ科ニレ属・広葉樹・四国産

20120326 1

 

 

 

 

 

 

 

20120325 1久し振りの『今日のかけら』です。本日俎上に上がるのは、『楡(ニレ)』。英語で言うと『エルム(Elm)』ですが、私が木の仕事をする前にこの名を意識するようになったのは、アメリカ史における汚点『ケネディ暗殺事件』が実行されてしまった場所「エルム・ストリート」が初めて。もともとこの種のミステリーは大好物で、中・高校生の頃から盛んにその手の雑誌を読み漁りました。UFO、アトランティス大陸、古代の巨大生物、UMA、陰謀、謀略・・・田舎住まいの少年の心は世界の謎でときめいておりました。

 

20120325 2なかでもアメリカ合衆国の恥部であり最大の謎『ケネディ大統領暗殺事件』に関しては、映画『JFK』や『ザプルーター・フィルム』の最新解析などでさまざまな説が展開されていますが、個人的には後任の大統領リンドン・ジョンソン真犯人説を支持派です。中・高校生の頃(昨今のようにTVで堂々と検証されることなどあり得ませんでしたので後ろめたいような雰囲気の中、国家の陰謀を知っているのは自分だけだ的なドキドキ感で)読んだ落合信彦氏の『二〇三九年の真実―ケネディを殺った男たち』にハートを鷲掴みされました!当時はまだ米ソが冷戦状態で、謀略やスパイなどの「ハードボイルドモノ」が充分に成立する時代でした。

 

20120325 3今となってはその立場は危ういものとなっているようですが・・・。話がどんどん「ニレの木」から遠ざかってきているように思われますがもう少々お付き合い下さい。それで当時漠然と記憶にあった『エルムストリート』の名前が次に鐘を鳴らすのは、大学生の時に観た映画『エルム街の悪夢』です。この悲惨な惨劇の夢舞台(?)となる『エルムストリート』はダラスのそこではなく、あくまで架空の街という設定ですが、誰もがあの事件をイメージするのは必然。そして三度目の覚醒が、職業としての木材としてです。

 

20120325 4ここまで書くと「エルム」にネガティブなイメージを持たれるかもしれませんが、ミステリー好きで、映画好きの私としては、木を語るうえでの「たまらないサイドストーリー」でもあります。もうそれだけでエルムが好きになってしまうじゃないですか!木を知り、木を語る楽しみはこんなところにもあります。産地や学名、特徴や気乾比重を知るという直球勝負もいいですが、時にはこういうパスボール必至の変化球も楽しいのでは!しかしそれだけでは納得のいかない方向けに明日は真面目に木の話!


エルム・サイドストーリー/②楡の出口

1. 今日のかけら
20120326 2(ニレ)』の木の説明をするのに、英語名の『エルム』から「ディ暗殺事件の現場となった「ルムストリートを引き合いに出す材木屋なんてきっと他にいないんだろうなあと、改めて己の立ち位置を確認して悦に入っております。しかし、木の話」を「木の世界」だけに留めてしまうなんて、なんてモッタイナイ!頂にたどり着くのに色々なアプローチがあっていんだと思うのです。料理方法(加工)次第でどのようにも形を変える「したたかさ」こそが他の資材とは袂を分ける木の最大の特徴でもあります。

 

20120326 3さてそのニレですが、大別すると春に開花するルニレ(春楡)9月頃開花し、11月頃に実がつくアキニレ(秋楡)に分けられます。秋楡の葉っぱは春楡より小さくてブ厚いようですが、一般的には「ニレ」というと、「ハルニレ」の事を指すようです。我々が扱う「木材」としても「ニレ」としてひとくくりにされて流通しています。それが「ハルニレ」なのか「アキニレ」なのか考えたりした事もありませんでした。「材」となってからその違いを識別することは困難なのではないでしょうか。

20120326 4ちなみに【森のかけら】に加工しているのは、身元を確認した「ハルニレ」です。ニレは、非常に重厚な木で、その強度を生かして車軸にも使われたりするので、別名「石欅(いしげやき」とか「河原欅(かわらげやき」とも呼ばれます。ただ地域によっては、欅の中でも非常に硬い材質のものを「石のように硬い欅」として「石欅」と表現する地域もあるようです。実はそれもニレがいまひとつ知名度が低く、認識が薄い事に起因しているのかもしれないと思うのです。

20120326 5木目のくっきりした日本の広葉樹の代表格と言えば、ナラ、タモ、クリあたりになると思います。戦後に学校の学童机作する際に、ナラ、タモ、ブナの樹種が採用されたのですが、どういう理由かニレは選考から漏れたために、これらの広葉樹の中で用途のはっきり定義されないニレだけが著しく安い価格で取引されることとなり、その後もマイナーな評価を脱しきれないという話を聞いた事があります。それだけが原因というわけではないでしょうが妙に説得力のある話だと思います。更に明日へ続く。


エルム・サイドストーリー/③マットな質感

1. 今日のかけら

20120327 1弊社にも『ニレ』の挽き板はあるのですが、日々倉庫を巣立っていくナラブナを尻目に、いつまでも寂しそうに倉庫の中で埃をかぶっているのがニレです。良い悪いの問題というよりも、(それも「個性」なのですが)触感がザラっとしていて光沢や艶が無いのがニレの特徴で、手(触感)と目(視覚)で無垢材を楽しみたい方にはどうしても物足りなく感じてしまうのかもしれません。鉋でいくら綺麗に削って仕上げてもトチカエデのような触感は生まれません。ナチュラル・マットな仕上がりです!

 

20120327 2だからといって材が低級なのかというとそういわけではなく、粘りや強度もあり、価格もリーズナブルですから用途次第、『出口』次第だと思うのです。明確な出口さえあれば、評価は後からついてくるもの。その木でなくてはならない絶対的は王道の出口の重要性を感じます、特にニレには。時には大きく耳が変化した周辺に複雑な造形の『ニレ瘤』と呼ばれる瘤(こぶ)が現れたりして、そこに斑点のような面白い柄が出たりもします。むしろ大人しい赤味よりも瘤を意匠的に使う事もあるぐらいです。

 

20120327 3このHPを立ち上げた頃にご紹介した事があるのですが、そんなニレの出口がこちらの「フライ返し」です。英語ではspatula(スパチュラ)なんてお洒落な言い方もあるようですが私には馴染めません・・・。ニレの柾目部分をうまく利用して、絶妙の角度がついているのですが、目玉焼きなどを引っくり返すには最適。目玉焼きの下にスルリと入り込む感触がたまりません!製作していただいたのは内子に工房を構えられクラフト製作に励まれている『樹のぬくもり工房』さん。丁寧な仕事ぶりです。

 

20120327 4日本人は豊穣な森から生まれいずる「恩恵」に多種多様な「出口」を見つけてきました。それは『適材適所』という言葉が表わすとおり、材の特質を見抜いた優れた知恵の文化です。それは決して沢山生えているわけでもない木々に対しても同様のまなざしが向けられ、木材が日本人の暮らしにとっていかに重要な素材であったかという事を証明するものでもあります。にも関わらず、分布域が狭いというわけでもないこのニレに対して「王道の出口」が定まっていないというのも妙な気がしていました。そしたら・・・続きは明日へ!


 エルム・サイドストーリー/④樹の出口

1. 今日のかけら
20120328 1そう思ってモノの本を調べていたらニレの出口が沢山ありました!粘りがあり割裂しにくいことから太鼓の胴にも使われているようです。またその硬さを利用して木槌掛矢(建築現場で使われる大きな木槌)、鍬などの柄や器具材、車両材など。さらに切削性が良い事から刳(く)り細工としても重宝されるようで、東北地方では仏像や彫刻の彫材にも使われているそうです。製炭すれば硬い炭も出来るとか。さすが木を愛するわが日本民族、抜け目がありませんでした。まだまだ勉強不足・・・反省。

 

20120328 2ニレ属の木は寒さに強い落葉広葉樹で、北半球の温帯地方に広く分布しています。ヨーロッパには、『レッドエルム』や『グレイエルム』など幾つかの種類に分類されます。それらの材の用途としては、家具、水車の板、荷車の車輪、棺桶、戦車の車輪などに使われてきました。古代ギリシャにおいては、エルムは黄泉の国に生えているとされ、墓地などにも植栽されたようです。ドイツではエルムは農地の守護者であり、人間社会と大自然の霊との間にある門を守っているとされています

 

20120328 3ニレは成長すると高さ25m、直径2mほどになるものもあり、老樹になると半球形の綺麗な樹冠をつくるため、その壮大で重厚な樹形から公園や街路樹に植えられることも多いようです。しかしハルニレは贅沢な生育条件を求める木でもあり、乾燥しすぎず湿りすぎずほどほどに水分が必要で肥沃な土地を好むようです。「エルムの街」として有名な札幌などはその条件がピタリと当てはまる場所という事だそうです。

 

20120328 4アメリカでは先住民たちが、エルム(ニレ)の木を土地選びの指標にしていたとか。つまり立派なエルムが生えている場所は、水を得やすい環境にあり、かつ洪水の心配もなく、土地が肥えていて耕作などにも適していることが分かるからだそうです。ボストンの街などはそうして生まれたとも言われており、先人たちは材としての「出口」だけでなく「樹」としての「出口」までしっかりと見据えておられたようです。ダラスのエルム・ストリートにも導きのエルムが沢山植えられていたのでしょうか。明日の完結篇へ・・・。


 エルム・サイドストーリー/⑤高貴な滑(ぬ)れ

1. 今日のかけら

20120329 1英語のエルムの語源はケルト語のUlmeからきていて、神オーディンが樹を人間に変えたとき、その1本がニレで女性になった。その女性の名をEmbla(エムブラ)とし、そこからエルムになったという神話もあるようです。日本においても 、葉が大きく大木になるハルニレを『雄(おん)ニレ』と呼ぶのに対して、葉が小さく小枝が多く樹形も優しいイメージのアキニレを『雌(めん)ニレ』と呼ぶ地域もあります。国が変われどもその樹形から男女の別をつけるあたり、樹に抱く認識は世界共通のようです。

 

20120329 2ちょっと脱線しますが、上記の神・オーディンについて。北欧の神話に登場する神々の王・オーディンは強大な魔力を持ち、その威厳は人間界にも響き渡っていました。そのオーディンと人間界の女神ジョオドの間に生まれたのが、昨年公開された映画『マイティ・ソー』その人です。映画では王・オーディンを名優アンソニー・ホプキンスがケレン味たっぷりに演じていました。「レクター博士」(!)に引き取られて世継ぎとして英才教育を受けたわけですから、独尊傲慢になるのも止む無し・・・。

 

20120329 3さて日本語のニレの語源は、木の皮を剥がすとヌルヌルする事から、「滑(ぬ)れ」が訛ってニレになったというが有力なようですが、ニレの内皮を剥いて叩き、トリモチを作る事もあり、そこからネレ・ネレ(練り)が語源となっているという説もあります。アキニレの葉を硯に入れて墨を摩(す)るとよく粘りがことから『ネバリギ』なる俗称もあるようです。ちなみにニレの木言葉は『高貴』。ケヤキやタモの代用品というイメージを払拭して木言葉に相応しい『出口』も考えねば。

 

20120329 4以前、北海道産のニレの神代木(土埋木)を幾つか在庫していました。ニレの特徴として光沢や艶が無いマットな質感と述べましたが、長い間地下深くに埋もれている間に、「光沢や艶」を「わびさびや深み」と交換したニレの土埋木にとっては、本来のマットな材質が幸いしているように思われます。もともと乾いた質感ですが、一層渋みが増して時代がかった雰囲気になったように感じられます。ニレの神代木についてはいずれ日を改めて。それではこれにて『今日のかけら・楡篇』完結です!

 




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