森のかけら | 大五木材


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ウォーターガム』の話の続き・・・今から5,6年ぐらい前に瀬村製材さんの土場でたまたまウォーターガムの材を見つけました。樹種の指定をしたわけではなかったけれど、重硬な材を頼んだらたまたまM.L.Hの中に混ざっていたそうで、丸太は挽かれた後でしたがその一部が残っていたので分けてもらいました。既に『森のかけら』の240種の解説書は完成した後でしたが、いずれ樹種を増やすときのため、あるいはリストのレギュラー選手たちに不測の事態があった際のスーパーサブになればと考えたのでした。

それでしばらくは40㎜の角材にして乾燥させておいたのですが、実物のウォーターガムを手にしたのはその時が初めてだったので、どうしても完全に乾燥するのが待ちきれなくて、いつもより早めの乾燥期間で35㎜角のキューブに加工してしまいました。初めて掌の上で眺めた『ウォーターガムのかけら』は眩しく輝いて見えたものでした。チークブラックウォールナットなどのように高価だから輝いて見えるのではなく、その人にとってどれだけその木が大切であるかによって木は輝きを放つのだと実感。

世間一般では、「その他大勢」などと十把一絡げにされ固有の名前ですら呼んでもらえない木だって、それを必要としている人のところへ導ければ宝物になるのだと強く感じた瞬間でした。ところがそんな私の甘い感傷を引き裂くような現実が起こります。早く完成品を見たい、触りたいと、急いたため乾燥が甘かったため、その後しばらく経って並べてみると他のかけらよりもひと回り小さくなっているではないですか!乾燥しきっていなかったので加工後に収縮してしまったのです。手に入った材をすべて一気に加工してしまったためウォーターガムは全て『夢のかけら』行きに・・・。

これはウォーターガムに限ったことではなくて、ほとんど情報も無い樹種を加工する場合はトライ&エラーの繰り返し。今までもさまざまな失敗をしてきました。しかしそのお陰で普通の樹木図鑑には載っていないようなマニアックな材の性質や特徴を得ることが出来ました。文字通り肌感覚で得た実用的な情報です。かけらの1ピースとしては非常に重要な木でしたが、材としてはキクイムシによる虫害が多いのと木が小さなため割れが出やすいので用途は限定されるかもしれません。現地での利用も主に造船車両、橋梁などの重構造材、農機具などが多いようです。続く・・・




今日のかけら番外篇・E051ウォーターガムWater gum   フトモモ科・広葉樹

本日はパプアニューギニア(PNG)産のM.L.Hシリーズ第2弾。このシリーズは今後不定期長期化していく予定です。数あるM.K.Hの中でも比較的知名度があって、もうM.L.Hというよりも個別の名前で流通していることも多いようですが、こういう事を書くと「普通のまともな材木屋さん」からは「聞いたこともないわっ!」と総突っ込みが入りそうですが・・・。ご紹介するのはフトモモ科の広葉樹『ウォーターガム(Water gum)』です。世界の熱帯地方に分布しその仲間は1,000種を越えるとも言われています。

一般的には馴染みの薄い木ですが、私は若いころからこの木の存在だけは知っていました。というのも木材業界の兄貴分である瀬村製材所瀬村要二郎さんのところでよく見かけていたから。20数年前は愛媛でも合板生産が盛んで、アピトンをはじめ南洋材を挽いていた瀬村製材にはいろいろな南洋材の丸太が転がっていました。その中にはウォーターガムの木もあって、瀬村さんからこれがそうだと教えてもらいました。しかし当時はの私はまだ多樹種偏執症候群の萌芽期にも入っておらず、名前は聞いても興味は湧きませんでした。

当時の大五木材まだ普通のまともな材木屋だったので、そういう材を扱う土壌が無かったのです(笑)。瀬村さんのところでは主に梱包材用にウォーターガムを挽かれていました。いつもあったというわけでなく、時々入ってきていたという程度だったと思います。それで漠然とその名前を記憶していましたが、その後10数年経ってまさかウォーターガムも探すようになるとは思ってもみませんでした。『森のかけら』を作るようになった頃に思い出して瀬村さんに聞いたら、今は無くていつ入るかも分からないということだったので240版には加えれませんでした。

この属は樹種が多いこともあって平均気乾比重にも幅があり、0.65~0.95程度とされていますが、私の認識では非常に重たい木というイメージ。灌木も多くそのほとんどが胸高直径1m以内で樹高のせいぜい10m。稀に直径が1m、樹高が20mにも及ぶものも出現するそうですが、基本的には大木ではない(大木は滅多に無い)ようです。しかし仲間が1,000種を越えるとなると図鑑などで解説されているウォーターガムと私が見てきた、そして今回仕入れたウォーターガムはまったく別物という可能性だってあります。このあたりがM.L.Hの難しさでもあり面白さでもあり。続く・・・




例年より早い梅雨入りに気分も滅入っています。「大工殺すにゃ刃物はいらぬ。雨の三日も降ればいい」などと言われましたが、それも昔の話。この言葉は江戸時代に都々逸(どどいつ)で謡われた言葉のようですが、当時はすべて手作業なので瓦を葺くまでに数日かかったためその間雨を避けなければならず、梅雨に入ると仕事にならなかったのでしょう。これって頭の部分を土方(土木作業員)や左官、的(テキ)屋など雨と相性の悪い職種に変えても使われますが、倉庫の小さい零細材木屋にも当てはまります。

弊社のような小さな倉庫しか持たない材木屋は、とにかくスペースを無駄にしないように奥に奥に押し込みながら高く高く積み上げていくので、奥にあるものを出そうと思ったらその前にある物全部を一旦出さねばなりません。フォークリフトがあるので晴れている日ならばいいのですが、これが雨でも降っていると、出した材を濡らさずに仮置きするスペースを先行して作らなければならず、本来の目的までなかなか辿り着けません。

それでも移動できる「濡れないスペース」があればいいのですが、それが確保できなければ雨が止むまで諦めざるを得ません。以前に梅雨の最中に、ちょっと雨が止んだ隙をついて奥の材を引っ張り出して、いよいよ目的の材を出そうというその時に雨が落ちてきて慌てて動かそうと思ったらリフトの調子が悪くなって商品がずぶ濡れになったという苦い経験もあるので、今はあまり無駄な抵抗はしません。

この時期、一旦雨に濡れた材を奥に詰め込むとカビの発生原因にもなるので荒材といえども極力濡らしたくはないのです。しかし皮肉なもので、カビや腐朽菌の恩恵を受けて商品価値のあがるスポルテッドという存在もあります。いっそこの長雨に打たれて運良くスポルテッドが出来ないかしらなんて思ったりもしますが、そう甘くはない。そんな自然の気まぐれが生み出した、フェチなファン垂涎のスポルテッド材、各種入荷していま~す!




昨日に続いて、アメリカはケンタッキー州に多く自生する『ケンタッキーコーヒーツリー』について。たまたま初めてこの木を手にして時には、誰に訊いてもその正体を明確に説明してくれる人がいませんでした。もともと材木業界においては木の話なんて文章として書き残すというものではなくて、先輩から口伝で教わり語り継がれていくものでした。聞いた人それぞれのアレンジも加わって、口から口へと語り継がれるうちに尾ひれ背ひれがついていって、その人なりの木物語が出来るわけです。長い時間の中で換骨奪胎されて物語がより熟成され完成度が高まっていく。

桐の花の中には鳳凰が棲んでいるだの、イザナキが黄泉の国から逃げ出す際に悪霊たちに桃を投げつけただの、神オーディンが樹を人間に変えたとき、その1本がニレで女性になっただのの伝説・伝承・神話が大好物で、そこから垣間見える木の世界に強く惹かれるのです。材木屋をしてなければ実物ではなく、物語の世界観の中だけで木を愛でていたかもしれません。なので本当は気乾比重や学名、葉や樹皮など樹木の性状にはあまり興味は無かったのですが、より専門的な引き出しが多いほうが物語を堅牢に構築できることを学び遅ればせながらそちらも勉強中です。

ということで、このコーヒーツリー(森のかけら400ではケンタッキーコーヒーツリーと表記する予定)についても少しでも多くのサイドストーリーを引っ張ってきたいと思っています。昨日、焙煎していない鞘や種子には有毒成分が含まれいてると書きましたが、実際に中毒になったという事例はほとんど無いようです。この葉を食べたり落ち葉が溶けた水を飲んだ牛が死亡したという事例はあるようなので、鞘や種子にはかなり強い毒性が含まれていると思われます。『森の毒りんご』に加わるポテンシャルはありそうです。

今までは厚みのある材を持っていなかったのと、正体がよく分からず供給の不安もあったのですが、徐々に正体が分かって厚みのある材も入手出来れ供給の心配もなさそうなので(森のかけら基準)、近いうちに『ケンタッキーコーヒーツリーのりんご』も作るつもり。しかし初期の入植者はそんな危険な木の種子を挽いてコーヒーの代用品のようなものを作って飲んでいた(焙煎の過程で毒素は消える)というのですから、ひとの食への探究心は凄まじい。多くの被害を乗り越えてたどり着いた「命がけの一杯」の味はいかほどであったか




私が『森のかけら』に着手した20年ほど前にネットにもほとんど情報が無かった木も多く、樹木図鑑や木材事典などを読み漁り、何かわずかでもいいからその木に関する記述がないものか目を皿のようにして探したものです。あれから幾年月、当時はいくら調べても分らなかった木の出自やエピソードがSNSには溢れかえっています。それらによれば私が調べたカタコトの情報にも誤解や間違いが多くあり、それも今度の『森のかけら400』の解説書では修正させていただくつもりです。気軽に情報が得られるってありがたい反面、なんかちょっと悔しいような複雑な気分ですが。

例えばそのひとつがこの『コーヒーツリー』。14、15年前に仕入れた当時は、販売している会社にもほとんど情報が無くて曖昧な説明しかありませんでした。それでよく買ったな、と思われるかもしれませんが、当時はまだまだ樹種数が少なくて1つでも多くの樹種を集めようとしていましたので、その正体は後から調べればいいやと考えていました。それが後からいくら調べても情報が出てこない。先輩方に訊ねても、知らない、使ったこともない。Wikipediaにすら木材としての情報はありませんでした。

植物とか観賞用としての情報は結構あるのですが、こちらが知りたいのは花や見た目ではなく用材としての情報。それならば買った自分が使ってみて体感した思いを書けばいいのでしょうが、何に適しているのかも分らなくては使いようもない。それでもとりあえずコツコツと集め続けてきました。昔に比べるとその名前を目にする機会が増えて来たので、日本に入って来る量も増えてきているのかもしれません。それに伴い情報も開示されてきました。こういう用材としての日本でも経験値の少ない木って木材業界以外の分野から探す方が情報が得やすかったりします。

このコーヒーツリーはアメリカ中西部原産で、特にケンタッキー州には多く、かつては州木でもありました。先住民たちがこの木の種子を挽いてコーヒーのような飲み物を作ったことからコーヒーツリーと呼ばれるようになったようですが、現在我々が口にするコーヒーとはまったくの別物。今の感覚だと「コーヒーの木」と思われるかもしれませんが、「コーヒーのような飲み物になる実が採れる木」という事。しかも焙煎していない鞘や種子には有毒成分が含まれるので、勘違いすると大変なことになります。明日に続く・・・




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