森のかけら | 大五木材


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日本の『イチイ』の事を書くにあたっていろいろな文献を読んでいて、私の中のイチイのイメージが少し変わりました。そこでヨーロッパにおけるイチイの世界観について少し補足させていただきます。若い頃にシェークスピアの戯曲でイチイの毒が使われたエピソードを知って以来、ヨーロッパにおいては「イチイ=毒=不吉」というような印象だと思い込んでいました。確かにイチイは赤い果肉の部分以外すべてにタキシンという強い有毒物質が含まれていて、刻んだ葉を50~100g摂取すると成人でも死に至らしめるほどの毒性があります。

その毒性を知っていたギリシャの医師ディオスコリデス、イチイの木の下で眠ると死んでしまうという説を唱えた事で永らくの間、その迷信が信じられてきました。進化論を唱えたダーウィンは、よく教会にあるイチイの木陰で休憩していて、自分が死んだらここに埋めてくれと言っていたそうですから、学者としてそれが迷信だと分っていて皮肉としてそう言っていたのかもしれません。実際にイチイの毒によって亡くなった事例はごくわずかで、むしろ死とは真逆の命の木としての信仰の対象にすらなっていたという事実が浮かび上がりました。

それはイチイが非常に成長速度が遅いということに由来しています。一説にはヨーロッパにある木のおよそ半分ぐらいの速さでしか成長しないともいわれています。成長スピードが遅いのでその分長寿になり、ヨーロッパには1000年越えの長寿のイチイがいくつも存在しています。最高齢はスコットランドのアーガイル州にあるイチイはイギリスに現存する最古の木と考えられていて、その樹齢はおよそ5000年と推定されているとか。古代ケルト人はそんなイチイを大切にしていて、集落や部族の名前にもイチイ由来のものが多く残っているようです。

中世グルジアには古語でイチイを表わす言葉の王国も存在していたほど。また10世紀のウェールズでは、教会の敷地に生えている「神聖なイチイの木」を伐った不届き物には1ポンド(当時の1ポンドは市民が一生かかっても払えないほどの高額)の罰金を科すという法律もあったほど手厚く保護されていました。古代ギリシャ人は、イチイを「黄泉の国に繋がる扉」と考えていて埋葬地にはイチイが植えられてきました。長寿のイチイが生の象徴として、死とのバランスを保つ役割を担ってきたのに、やがて死のイメージの方が強くなってしまったのです。

そのようにヨーロッパではイチイと人間の関わりが古く深いので、さまざまな記述が残っています。日本やヨーロッパ以外にも、北半球の温帯地方から中米、東南アジアまで広く分布しています。その種は8つあるそうですが、特徴は非常によく似ていて区別しにくいのだとか。少し前に台湾産のイチイの加工をさせていただきましたが、そう言われなければ国産と思って疑いません。非常に目の詰まった高齢のイチイで、その密さからも『命の木』とも呼ばれる理由がうかがい知れました。

 




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