森のかけら | 大五木材

今日のかけら034

モミジバフウ

紅葉葉楓

マンサク科フウ属・広葉樹・愛媛産

学名:Liquidambar styraciflua

別名:アメリカフウ

 英語名:American sweetgum

気乾比重:0.50~0.95

 

 

モミジの葉によく似たフウ*

今日のかけら・#034紅葉葉楓/モミジバフウ】マンサク科フウ属・広葉樹・愛媛産

木材の配達で白水台(小高い丘の上に造成された松山市内の分譲地)に来ました。すると通りの街路樹に、見たことのある葉っぱが・・・。車を止めてしばし観察。『モミジバフウかと思って写真を撮っていたら、数本先の木に名前の書かれたプレートが掛けてありました。『アメリカフウとプレートに書かれていましたが、これは『モミジバフウ』の別名です。北米原産の落葉高木で、日本いは大正時代に渡来したといわれています。成長が早く、雨風にも強く、街路樹や公園などによく植えられています。 CA343608

CA343611 木材関係の仕事の方には聞きなれない名前だと思います。造園屋さんはよくご存知だと思います。実は私も恥ずかしながら【森のかけらを作るまでは聞いたことも名前でした。見たことはあったのですが、自覚がありませんでした。名前を知らないというのはその物を知らないという事と同じようなものです・・・。初めてこの木の名前を『モミジバフウと知ったのは、愛媛大学の樹木博士講座の時でした。それ以来、河原や公園でよく見かけていた『カエデの葉っぱを大きくしたような木』をしっかりと『モミジバフウと認識できるようになりました。とかく材木屋の立木知らず、林業家の製品知らずと言われますが、少しでも立木が見分けられるようになると楽しいものです。樹木博士講座には高齢の方が多く来られていましたが、仕事モードで来ていた私の目には、その人たちの目的がよく理解できませんでした。

それが今になってつくづく『木の名前が分かる』楽しみの一端を知りました。いくつになっても、知識を探求する事は素晴らしいことです!以前にもアップしたかもしれませんが、カエデ科は非常に仲間の多い木で、カエデとモミジが混同しています。植物学的にはカエデとモミジを区別してはいないようで、『イタヤカエデ』には『イロハモミジ』とか『タカオカエデなどの別名もあり、とてもややこしい事になっています。一般的にはカエデには、葉に鋸歯(きょし)があるものが多く(つまり葉がギザギザになっている)、モミジにも同じ特徴のあるものもあります。しかし、カエデ科の木は必ず葉が対生に付いていて、そこが互生に葉が付く『モミジバフウなどのマンサク科との決定的な違いです。対生や互生という言葉もその時に教わりました。 CA343610

言われてみて、実際に木を見ると確かにその通りで、これは妙に嬉しかったりするものです。ちなみに対生とは葉が左右対称に付く事で、互生とは文字通り互い違いに葉が付くことです。こういう事は農学部では1回生が教わる基本中の基本です・・・ああ、今更ながらきちんと勉強しておくべきだった・・・後悔先に立たず!それでも遅ればせながら、教えていただける機会に恵まれ幸いでした。そうでなければ一生知らなかったかもしれず、あまりの無知さに顔から火が出ます。『モミジバフウの果実は、コンペイトウのような形をして枝からぶら下がりとても特徴的な姿をしています。その姿は、多くの公園木などの中でもひときわ個性的です。種にはカエデの仲間のように羽があり、クルクル回転して落下しながら風で運ばれていきます。またその前に葉は鮮やかな紅葉を見せてくれます。

この変わった名前から、【森のかけら】で初めて知った方でも、家具や造作に使いたいという問いあわせもよくいただくのですが、私はたまたま公園木などの伐採した木を手に入れ、それで【森のかけら】を作りましたので、この木の製材品が流通していた訳ではありません。おそらく『モミジバフウ』の製材品というような物は世の中に流通していないのではないのではないかと思いますが、もしあれば購入してみたいところです。

加工した材をよく観察すれば、カエデの仲間でないことは一目瞭然。北米産のハードメープルに比べると、随分軽軟で木目もはっきりしません。成長も早いため木目も粗くメープルのような緻密さは感じられません。部分的に茶褐色の『カスリ』が見かけられます。よく乾燥させると肌触りは滑らかですが、乾燥中にねじれるのも結構ありました。大きな材が取りにくいので、材があったとしても用途は限定されそうです。しかし、木は人のためだけに生まれてきたわけではないので「使える木」という考え方で木をはかってはいけません。世の中には『モミジバフウ』でならなければならないという活用方法があるやもしれませんから。そういう訳で、あくまで今のところは【森のかけら】としての存在でしかありませんが、願っていればいつか巡り会わせがあるやも!まずは、【森のかけら】から『モミジバフウ』をお楽しみ下さい!

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大学の眠れる資源*

愛媛大学さんとのコラボして製作している木製マグネット「森のしるし」を納品するために『愛媛大学ショップえみか』さんを訪れたのですが、この時期当大学に行く楽しみは、色鮮やかに紅葉したモミジバフウの並木を見る事です。モミジバフウの大木がズラリと居並び、大振りな葉が赤や黄色に色づきカラフルなモミジバフウ・ストリートは、いつもながら惚れ惚れする美しさで、沢山の落ち葉が足元までも美しいモザイク模様に染め抜きます。カメラを構えるのは当然ながら、形のいい落ち葉は拝借させていただきます。

いつ頃から植えられていたのか知らないのですが、きっと私が隣の大学から時々遊びにお邪魔していたおよそ四半世紀前にも恐らく今と同じ光景がそこにはあったのだと思います。木の事には一切興味の無かった当時の私には、目には映っていたのでしょうが、モミジバフウのことなどまったく見えてはいませんでした。母校の松山大学(当時は松山商科大学)の校内にどんな木があったのかなんてさえ思い出せれませんし、まさか将来そんな事で母校の事を振り返るような日が来ようとは夢にも思いませんでした。

愛媛大学のキャンパスは多くの学生で賑わっていますが、その中のどれほどの数の学生が、目の前にある樹を見ているでしょうか。今の感覚のまま学生時代に戻れたら、まずは校内樹を1つ1つ写真に収めて手作りマップを作り、葉っぱや樹皮の観察、落ち葉を収集、剪定時には小枝を使って商品化と、大学の樹という素材を骨までしゃぶって味わい尽くす自信があるのですが・・・今にして思えば、随分とモッタイナイ事をした青春時代だったと思いますが、当時そんな感覚を持っていたら、友達のいない奴だったことでしょう。

これって単に職業柄というよりもこの年齢になって感じる感覚なのかもしれません。納品に行った日はちょうど耐震工事か何かの工事で業者さんの姿もありましたが、このモミジバフウも伐採される事もあるのでしょう。その時には、「産業廃棄物」などにはせずにしっかりと「大学の眠れる資源」を目覚めさせ骨の髄まで利用してあげて欲しいものです。いくら図々しくなったとはいえ、ビニール袋を広げて落ち葉を詰め集めるほどの図太さはありませんので心の中でモッタイナイを唱えながら名残惜しく大学を後にしたのです。

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大阪の街路樹 イチョウとモミジバフウ*

橘商店さんに行くまでに少し時間に余裕があったので少し足を延ばして周辺を散策。大阪の木はイチョウですが、御堂筋には立派なイチョウが数多く植えられています。御堂筋には全部で1000本近いイチョイウが植えられていて、「近代大阪を象徴する歴史的景観」として大阪指定文化財にも指定され文字通り美しいイチョウ並木が形成されています。そのイチョウを街路樹とするにあたっても激しい議論があったそうです。全国の街路樹の統計としては多い順に、イチョウサクラケヤキ、ハナミズキ、トウカエデ、クスノキとなっています。

街路樹の条件としてはいくつかあるのですが、公害に強いとか、痩せ地でもよく育つとか、刈り込みに強い、枝葉を大きく広げて日陰を作るなどが挙げられます。御堂筋のイチョウを決める際にもプラタナスにするかイチョウにするかで議論が紛糾したそうですが、「姿に風格があり、夏の木陰、秋の落葉など季節感の乏しい都会にはこんな季節感がある樹木が必要だ。イチョウは東洋の特産だから、外国人に珍しがられ、国際都市大阪を目指す大阪にふさわしい」という事でイチョウに決まり、昭和12年の完了までに928本が植えられました。

大阪駅前から大江橋まではプラタナス、大江橋から南はイチョウという折衷案が出され、これに落ち着きましたが928本のイチョウのうち250本は雌だとか。街路樹に好まれる特徴については前述しましたが、大きな実がなると付近に駐車した車に落ちて傷をつけるなどの問題もあるようで、過剰に剪定したり雌雄異株の樹の場合は選んで雄樹を植えるなどの政策がとられているようです。歩いていると、電車やバスで通ると見えない景色が見えてきます。

大阪の街にはイチョウだけではなくクスノキなどの街路樹も沢山植栽されていました。歩いているといくつかの公園を見かけたのですが(都会の方が立派な公園が多い事にはちょっとビックリしましたが)そこには金平糖のようなユニークなモミジバフウ(アメリカフウの実が沢山落ちていました。その公園では多くの家族連れがいましたが、誰もその実には気に留めていない様子。愛媛でも学校や公園などでよく見かけるモミジバフウの実ですが、これで何かできるのではといつも集めてみたくなって仕方ないのですが出口は見えず。橘商店までもう少し。

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モミジバフウ収穫祭*

捨てる神あらば拾う神ありとでも言うと大袈裟ですが、【森のかけら】などでリストアップしているある樹種が無くなりそうになった頃合いで、ちょうどその木が手に入るという有り難い巡りあわせがこのところ続いています。そもそも全国のその手のマニアックな木材関係者の皆さんには事前に網を張っている、いや情報の提供をお願いしている、これこれこういう材が出たら買います等の意思を表明しています。木材の世界も細分化していて国産、外材、針葉樹、広葉樹とジャンルも多彩。

そのため240種もあると、その仕入先も多岐にわたります。240種の中には「スモモ」や「ナシ」、「セイヨウナシ」などのフルーツウッドもあれば、「プラタナス」や「モミジバフウ」などの街路樹などもあるので、建築主体の製材所だけでは対応出来ませんので、造園屋さんや果樹園、農家などへの声掛けも重要。その流れで、先日もやや底が見えてきて不安を感じていた『モミジバフウ』に、救いの手が差し伸べられたのは数日前のこと。「モミジバフウの樹を伐るけど要る?」

「当然、要りま~す!」とふたつ返事で答えて、勇んで伐採現場に駆けつけました。そこには直径尺五寸超え(約450㎜オーバー)のモミジバフウがゴロゴロ。いつもお世話になっている造園屋さんなので、積みやすいように長さもバッチリのサイズでカットしていただいています。枝の落とし具合も理想的!しかもこちらがユニックで吊やすいように、ベルトスリングが通るように絶妙な配置で積み上げていただくなど至れり尽くせり。こちらの希望は事前に伝えてあるものの本当にありがたい!

お陰様でたっぷりとモミジバフウを補充させていただきましたので、これで向こう10年は『モミジバフウのかけら』については困ることはありません。他の種類でもこういう形で材が揃えば申し分ないのですが、240種それぞれ3トン車1台分の材が集まるとなると、それはそれで置き場の事など困った問題が・・・。こういう事を書くからなのか、最近まったく面識の無い一般の方から、「OOの樹を伐ったけど要りませんか?」という話が次から次へと舞い込んできます

木が欲しいとはいっても、何でもかんでも欲しいわけではなくて、こちらが必要とする木が欲しいのであって、一応はこちらにも選択させていただく権利があります。街路樹や庭に植えられた木には、樹形やサイズ、品質を求めているわけではなくて、希少性が鍵です。なので、住宅部材や家具が取れるような大きなモノは必要ないのですが、こちらが求めていない木の場合はそれなりのサイズや品質が伴っていなければ、こちらの保管スペースにも限りがありますのでご辞退させていただく事に。

いただいた丸太がすべてまるまるお金に代わるわけではなくて、その後製材所に持ち込んで賃挽きして板にしてもらいます。その板を桟積みして長期保管します。保管中に素性の悪いものは反ったりねじれたり、割れたりと暴れます。しっかり乾燥が出来たらようやく表面を削ったりして、中身を確認。そうしてきちんと使えるのは全体の数分の一になります。もともとが小さな樹なので癖も強く、枝も多く普通の材木屋では手に余してしまうものですが、そこに商機があったりするのですから商売は面白い!

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まだまだ続くモミジバフウ祭り!*

1月の末頃に『モミジバフウ』の丸太を大量にいただいた話をアップしましたが、モミジバフウ祭はまだまだ継続中!丸太を製材所に持ち込んで、板状に賃挽きしたもらったのですが、挽けた板が続々と弊社に戻ってき始めました。私が手を加えることが出来るのは、こうして板になってから。丸太が手に入り、運んだりしている作業は『祭りの準備』段階で、ここからが本当の祭りの始まり!祭りが盛り上がるかどうかは、それを支える各パートの熟練スタッフの存在があればこそです。餅は餅屋!

今回はすべて厚み50㎜前後の耳皮付きの板に挽いてもらいました。製材直後の板には、挽き粉が大量に付着していますので、まずは1枚ずつ表裏ひっくり返して挽き粉を掃いて化粧直し。今の時期は気にならなくても、暖かくなってくると挽き粉に含まれている水分が、木材腐朽菌繁殖の原因になりかねませんので、丁寧に時間をかけて掃き出します。そうすると挽き粉に隠れていた本来の顔が現れます。高級銘木のようなものであれば、この段階で1枚ずつサイズを測ったり検品、撮影までします。

ただし今回はモミジバフウ祭りですので、枚数が恐ろしく多いのと、これから用途を考えるということもあって、敢えて今は検品しません。とりあえず枚数が多いので、乾燥させることを主目的とします。格付けはしないにしても、中身は気になります。1枚ずつ桟を切って並べるわけですから、必然的にすべての板と面通しを行うことになります。細部は控えなくとも、このLOTにどういう程度のものが含まれているか、ザックリとイメージできれば十分。祭りの成否はこれがうまく乾燥してからのこととなります。

こうして丸太挽きの板を見ていると、いつも感じることがあります。私が丸太を買ったり、仕入れたりする場合、選木なんてことはほとんどなくて、一般的には用途不明で首をかしげたくなるような小さな広葉樹の場合が多いので、挽けば当然が絡んできます。そんな節まみれの板を何枚も何枚も見ていると、これが木本来のしかるべき姿であって、無節なんてかなり無理した窮屈な姿なのではなかろうか(あくまで私の妄想)なんて思ってしまうのです。むしろ変幻自在な節や入皮や虫穴のある表情に強く惹かれてしまうのです

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モミジバフウ顛末記 Ⅰ*

このブログでも何度か紹介させていただきましたが、今年の1月にご縁があって手元にやってきたモミジバフウユリノキですが、相当な数がありまして、大小含めるとトータルで3t車で14,15台はあったでしょうか。丸太を製材所に持ち込んで賃挽きしてもらったのですが、かなり短くて小さなものから大曲りの丸太など形もさまざまで、すべて挽き終わるにも、すべて持ち帰るにもかなり時間を費やしてしまい、結局最後の数台分を年の瀬になってようやく持ち帰ることが出来ました。何とか年内に桟積みまで完了~。

ただただ板に挽いて積み上げて在庫を増やしていただけではなく、一方で乾燥したものから加工して販売もしておりましたので、全体のボリュームとしては2/3ぐらいになった感じです。もともと枝が多くてそれほど大きな木ではなかったので、曲がりくねっていたり節も多くてテーブルや家具に使えるものは限られていました。なので思い切って小さなモノに再割り加工して使ったのですが、その決断をしていなかったら今頃倉庫はモミジバフウで溢れかえっていたことでしょう。

そんなモミジバフウですが、根元に近い部分は輪切にしてもらうことにしました。内部に洞(ウロ)があったり、腐食や割れなどもあったので、ダメもとで輪切りにしてみたのですが、結構輪切りフェチの方もいらしてそれなりに売れました。ただし大きな丸太の輪切りは重たいのと、コンディションが悪かったこともあって、売れ残り最後の数枚は製材後しばらく屋外で放置していたこともあってかなりボロボロ。それでも一応桟積みしておこうと並べていたら、腐食した穴に中から寒さで凍死した虫たちを発見。

製材時の大鋸屑などで防寒していたのだと思われますが、あまりの寒さに凍死したのか。まだ生きているものも数匹いましたが動きがノロノロ。単に寿命だったのかしら?ともあれどうにか年内に最後の仕舞いをつけることが出来ましたが、まさかのほぼ1年がかりの作業となってしまいました。折角の寒伐りだったのに、一部は梅雨にもあててしまいすっかり変色したものもありましたが、思わぬ出口が見つかったことから大量に消費することが出来ました。そしてこのモミジバフウの中から思わぬ拾いものが見つかったのです!

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モミジバフウ顛末記 Ⅱ*

モミジバフウの板の中から突如現れた拾い物の話の前に、一体どういう風に使っているのかについて。それほど大きな丸太ではなかったものの、雰囲気のある広葉樹として形のいいものや節の少ないものはそのまま棚板やら看板材として使います。問題はそれらよりもずっと小さくて節が大きかったり、乾燥工程で大きくねじれたり暴れたりしてしまった材の始末について。昔であれば私も『建築材か家具材』という物差ししか持っていなかったので、『欠品』あるいは『不良品』扱いして顔を曇らせていたところです。

あれから数十年、伊達に馬齢を重ねてきたわけではありません!むしろそういう板の方が出口探しに燃えるぐらいで、モミジバフウもこうして耳のギリギリまで使い切ります。大きな出口は持っておりませんが、多様な樹種を沢山揃えて、物語を紡いでひとつのシリーズ商品化させるという「技術」を会得してからというもの、本当の事を言えばこの皮とて焼却炉の灰とするのは抵抗があるところなのです。全部を自分一人でするわけではありませんので、どこかで明確な線引きが必要なため泣く泣くここが素材と廃棄とのボーダー。

普通の材木屋と比べるとかなりボーダーラインが低いと思われます。樹皮の裏側付近は虫たちの縄張りで、野菜などで例えると切って捨てる部分です。しかしそこはモッタイナイを社是とする弊社においては、虫食いがあってもカットすれば使えると判断すればより小さなモノの原料として活用します。乾燥に費やされた時間は、上質も杢の部分も虫に穿孔された部分も同じです。使える限りは使えるようにアイデアを絞りださねば、寝床を奪ってしまった虫たちにも申し訳ないことですから。

まあ、ただのケチとも言いますが・・・。とにかく樹皮を巻き込むギリギリまでは使うようにしているのですが、耳部分に味わいのある広葉樹ならでは。そうして再割りしていたらモミジバフウからも脂壺から溢れ出た『ヤニ』を発見。今年何百とモミジバフウの板を割ってきましたが、こういうヤニ(ヤニでいいのか?樹液?)は初めて見ました。こうして自分で小さくカットしたりしているといろいろな発見や出会いがあります。世に木の図鑑は数あれど、実際に自分で加工までした人が書かれている本は貴重、特に広葉樹は。

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モミジバフウ顛末記 Ⅲ*

話が脱線しますが、雨風にも晒していた最後の1車分はかなりのダメージがあって、若い頃の私であれば手を付けることもなく廃棄していたかもしれませんが、この四半世紀の大五木材での日々が私を果敢なチャレンジャーに成長させてくれました。明らかに木が腐っている匂いを放つ数枚の板からは、写真のような毒々しい色合いのキノコ(?!)が顔を出していました。キノコの知識はまったくないものの、敬愛する動物研究家の實吉 達郎先生の本で植物に関する毒の怖さを目にしているのでついつい過剰反応!

きっと誤ってこれを食すると映画『マタンゴ』のような姿に・・・!さすがに例えが古かったとは思うのですが、若い学生たちと木の話をする時には、よく映画や小説、歌謡曲などのタイトルなどを、分かりやすかろう、イメージしやすかろうと思って引用するのですが、若い子の映画離れ、小説離れは驚くばかり。いや最近の映画や小説については私よりもずっと観たり読んだりしているんだろうと思いますが、私たちが若いころ知っていた映画や小説、つまり古典(せめて古典的と言おう)には興味が無いようです。

若い人がどうこうと言うよりは、私の方が時代錯誤で例えそのものが古すぎるだけなのかもしれません。もっと最近の映画や小説、テレビドラマなどにも関心を示さねばならないのかもとも思うのですが、特定の固有名詞で木が登場することが少ないように感じるのは、以前にもブログで書いた通り。昔の方が固有名詞として木が必然的に使われていたように思います。木や草花など自然を愛でる日本人の感覚や距離感そのものが変わってきているようにも感じます。季節感を感じることの少ない時代ですから。

さて、これがマタンゴに変身するキノコかどうかは分かりませんが、数枚がすっかり張り付いて剥がそうとしてもビクともしない板を強引に引き剥がしてみると、材面があってはならないような色のカビが繁殖していました!材木屋でありながら、湿った木材の天敵であるカビに対する知識も希薄で恥ずかしいのですが、比較的簡単に除去できる白カビに比べると赤カビは厄介だという事は経験則で学びました。さすがにこれだけカビに侵されてしまうと削っても内部にまでその影響が及んでいると思われます。しかし、そんな中・・・

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モミジバフウ顛末記 Ⅳ*

私のずさんな管理ですっかり赤カビに侵されてしまったモミジバフウの板。赤カビが繁殖していたのは数枚で、ほとんどが白カビでしたので、全体から見れば被害はごくわずか。折角寒伐りしても後の管理がこれでは無意味なので、いくら一度に大量に入って来たとはいえ、次回の戒めにせねばなりません。湿ったところに長い間放置しているとカビが繁殖して、そしてやがて材としての価値は無くなってしまいます。とにかく製材後はなるべく速く桟積みして、乾燥させることが肝心。あまりにも数が多くてつい油断してしまいました。

白いカビは見た目にはかなりやばそうに見えますが、実際は表面に薄いカビの膜が覆っているような感じで、意外に簡単に除去できます。しかし内部にまで害が及んでいる可能性もあるので、とりあえずそのうちの数枚をプレーナーで軽く削ってみることにしました。そしたらその中の数枚に面白い化学変化を起こしているものがあったのです。それがこちら!それはまるで腐りかけのバナナのよう、いやこれは例えが悪かった。完熟バナナのよう・・・分かりづらいので例えは止めますが材全体が灰褐色に染まり妖しい筋が!?

まさに僥倖!いや、棚からぼた餅!地味でパンチのなかったモミジバフウに思わぬ形で箔がつきました。まあこれをどういう風に解釈するかはひと次第でしょうが、私にとっては嬉しい誤算。なるべく着色はせずに木本来の地の色で勝負したい私としては、こういう形で色がついたり表情が深まることについては寛大なのです。これは面白い~!こういうものを面白がっていただく人は周辺に結構いらっしゃいますので、店舗をはじめいろいろな用途に使っていただけそうです。一枚一枚検品しているからこその出会い。

転んでもただでは起きないというか、この30年近い材木屋の仕事の中で自分なりの物差しが確立できて、いろいろなタイプの大小の『出口』を発見できた証拠でもあります。なんて自分の都合のいいように超ポジティブに考えられるような逞しさ、ずる賢さも身に着けたようです。あれほど恐れた虫害や腐りについても心が寛容になりつつあるのは年齢のせいかもしれませんが。まあこうして結果的に『完熟モミジバフウ』を手に入れることが出来たのです。後はこれがうまい具合に乾いてくれることを待つのみ。

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モミジバフウ顛末記Ⅴ*

まだまだモミジバフウの話です。一時期、【森のかけら】においてモミジバフウが欠品してしまい、慌てたことが信じられないくらいに今は大五木材にはモミジバフウが溢れています。この木の多くが街路樹公園木、校庭木などのため、木材市場に出回ることはほとんどなくて、植栽されたそれらの木が事情で伐採される時にたまたま入手するという形でしか手に入らないので、入る時と入らない時のギャップが激しいのです。【森のかけら】にリストアップしているために供給責任があるので、ある時には少しでも確保しておきたいのです。

それらモミジバフウに限った話ではなくて、街路樹や公園、校庭木については、ご縁があった時には無謀と思えるぐらいのボリュームでもいただいておかないと、次いつ出会えるか分かりませんので、ついつい必要以上に無理してでも確保するようにしています。以前はその出口が【森のかけら】と『モザイクボード』が主でしたので、それだと出ていく量はわずか。結果的に街路樹ばかりが溜まってしまうというバランスの悪い樹種が偏った在庫になっていたのですが、新たな出口開拓でそれも徐々に解消されています。

世の中に使えない木なんて1本もなくて、使えない頭があるだけで、すこしひねりを利かせたり、物語性を付加したり、背景や育ちを掘り起こせば、その木ならではの必然性は必ずあるもの。モミジバフウの中にも形がいびつなモノや大きな節があるもの、虫害を受けたものなど一見すると利用価値の無さそうなものもありますが、削ってグラインダーで耳を磨けば飾り台に変身して、こんなものがと思われるかもしれませんが、雰囲気があって面白いと既に数十枚が売れました。

用途が無いのではなく、用途に気づかないだけと自己猛省。そして当然白カビに覆われたモミジバフウにもそれなりの出口はあるのです。例えば完熟モミジバフウの小口を切断してみれば、そこにはこんな魅力的は表情が隠されているのです。地味で利用価値が無いと思われているモミジバフウの中に潜む『もうひとつのモミジバフウ』、しかしこれが世に出ることはほとんどなく、世にも知られることがありません。私自身まだまだ頭が固すぎる、もっとウルトラC的出口を探さねば~!

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モミジバブルー*

木にはいろいろな色があります。例えば赤い木ならば、サッチーネブビンガ、パドック、ブラック・チェリー、イチイなどなど。黄色い木ならば、ハゼノキ、ニガキ、イエローシーダー、アマレロ、プランチョネラなどなど。黒い木ならば、コクタン、ウェンジ茶色い木ならば、ブラック・ウォールナットからオニグルミ、チークなど濃淡に合わせてさまざま。更に白い木ならばモチノキやトチノキ、ミズキ、ホワイトアッシュなど。あれは白じゃないアイボリーだというような細かな分類はさておきの話です。

そのように木にはひと口では分類できないような複雑で多彩な色がありますが、その中で無いのが青色の木。名前にこそ青が付く木はありますが(アオキ)、材質が蒼いわけではありません。以前にも書きましたが、アオキの由来は昔の日本人が青と緑を混用していた、いわゆる『日本人の青と緑の混用』によるものです。私が知らないだけで、世の中には材質が蒼い木もあるのかもしれませんが、今のところ私が目にすることの出来る『青い木』は、腐朽菌によって変色して青染みが出来てしまったブルーステインの木のみ

本来であれば歓迎すべき現象ではありませんし、若い頃であれば私もやらかした~!と頭を抱えていたところでしょう。それが今、こうなってしまった材をみて、ラッキーなんて感じてしまうようになってしまったのですから、歳も重ねて場数も踏んでみるものです。これって以前にも少しだけ紹介した愛媛県産の『モミジバフウ』です。狙って造り出したのではなく、量が多すぎて目と手が届かず結果的にこうなってしまったですが、それが怪我の功名。普通の木では飽き足らなくなってきている私の心を満たしてくれる。

筋状の黒い染みが出来たスポルテッドと青染みがなんとも言えない絶妙なバランスで自然の造形美を造り出しているではないですか!こういうのってこちらの受け止め方次第なので、ただの腐りや欠品材にしか見えない人はそれで結構。そんな方を説き伏せてまでこの魅力を押し切ろうなんて考えていません。共感できる人と楽しめれば十分。世の中広いので、ひとりやふたりぐらいはこれを「面白いっ!」と共感してくれる変わり者もいるはず。まあこれを青色と呼ぶには無理はありますが、英語では『Blue stain』です!

このモミジバフウのブルーステインって、写真で見るよりも実物だともっと青色感があるのですが、写真だと青がくすんで汚く見えてしまっているのは残念。しかもこれで仕上げてオイルでも塗ると、その青色部分がオイルに反応して青から濁った茶褐色のような感じになって、折角の青が台無しになってしまいます。なのでこのブルーステインの青を楽しみたい方は、無塗装かソープフィニッシュのように生地の色が濃く反応しないような塗料を使われる方がいいと思います。という事でこの個性的なモミジバフウの板も販売しています!

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スポルテッドの魔力*

昨日ご紹介したブルーステイン入りの個性的なモミジバフウですが、特に節の周辺はスポルテッドの黒筋とも相まって魅惑的な表情を生み出していて、まるで小宇宙のよう!に見えだしたりしたらかなりの病気ですが、木なんてこちらの受け止め方次第ですからね。私的には万人受けする美しい虎斑や縮み杢などの高級銘木なんかよりも、多くの人が見向きもしないような欠品扱いされるような木の中に、現れているへそ曲がり的な主張の方が好きです。もっとも銘木の世界なんて、目利きの集まりで私には場違いな舞台です。

そんなひねくれ者の個性の首長として、こういうものもあります。こちらはビーチ(ブナ)のスポルテッド材。誰かが意思を持って描いたとしか思えないほど芸術的に洗練された絶妙な黒筋。これはうちで造り出したものではなく、東北の兄貴筋から購入させていただいたもの。長さは2mで幅は160~280、厚みは35㎜前後。全部で18枚ありますが、全部が全部これだけアーティティックなスポルチッドになっているわけではありません。1枚1枚木柄を見ながら、私の趣味と偏見で我が子に名をつけるがごとく独自に値付けしました。

スポルテッドって、この辺りではあまり好んで使おうという工務店さんや設計士さんはいません。そもそも、こういうモノをあまり評価する遊び心のある土壌が無くて、銘木的な価値観でモノを見る施主さんが多いので、なかなか提案そのものを受けてれていただけません。そこには私の怠慢もあって、どうせこういう個性の強い木ってなかなか売れないだろうからと倉庫の奥の方にしまってしまい、そういうリクエストがあれば奥から引っ張り出してきて見せたりしてきたので、一般の方がぶらりと来店して見るという機会もなかったのです。

やっぱりこういうものって、実物を見るて触るれて感じる事が大事。それまであまり興味がなくとも、見ていたら魅入られてすっかり虜になるということもあるかもしれません。なのでこのビーチのスポルテッドはなるべく倉庫の中でも目に付くところ置いておいて、魅入られて思考停止になって知らない間に財布の紐が緩んでしまい、気がついたら購入するという作戦でいこうと思っています。ブルーダイヤって見つめていると瞳に魔力が宿るとか言われたりしますが、このスポルテッドにもそういう魔力が備わっているはず!なぜって既に私がその最初の犠牲者なのですから

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ブルークリスマス・ブルー*

モミジバフウのブルーステインからビーチのスポルテッドに話が広がりましたが、もともと言いたかったのはブルーからこの季節に連想するもの。そう、『ブルー』と『12月』という2つのキーワードから私が連想するのは『ブルークリスマス』です。毎年このぐらいの季節になったら書こう書こうと思っていて、つい書きそびれてタイミングを逸するという醜態を曝け出してきましたが、今年は間に合いました。もう随分古いのと、内容が地味なので知っている方も少ないかもしれませんが、1978年公開の東宝映画です。

脚本は『北の国から』や『前略おふくろ様』で知られる倉本聰のオリジナルシナリオです。メガホンを撮ったのは、最近また評価が高まってきている奇才・岡本喜八。この映画が製作された当時は、ハリウッドから鳴り物入りでやって来た『スターウォーズ』によって全国でSF映画ブームが巻き起こり、それに対抗して様々なSF映画が作られていました。そういう状況にあって、『ゴジラ』など日本におけるSF映画の元祖東宝が、あえて『特撮を一切使わないSF映画』として取り組んだ野心溢れる意欲作なのです。

物語のあらすじは・・・1978年の京都国際科学者会議において、UFOの存在について語った兵藤博士は何者かに拉致される。同じころにテレビドラマのヒロインに抜擢された新人女優が麻薬不法所持の濡れ衣を着せられ逮捕される。彼女は絶望し自殺するが、切った手首からは青い血が流れていたとの証言が。折しも世界各地でUFOの目撃情報が相次ぎはじめ、UFOを目撃した人の血が青く変質する。そんな青い血を持つ人間たちに政府の秘密機関からの魔の手が迫る。街が純白の雪に覆われるホワイト・クリスマスの夜、青い血が雪を染めていく・・・という話。一切特撮は出てこない不思議な雰囲気のSF映画です。

私はリアルタイムで観たわけではなくて、大学生の頃にレンタルビデオで観たのですが、当時は倉本聰のシナリオ集などを読んでいたので、地味な内容ながら星新一とか藤子不二雄的な、ドンパチの無いSF(少し不思議)映画としてとても興味深く観ました。しかし製作陣の意気込みに反して、興行成績は散々たる結果だったようですが、時代が速すぎたのかもしれません。UFOや地球以外の生命体の存在が当たり前のように論じられるようになった今こそ、もう一度再評価されるべき作品ではないかと思っています。

映画の中には、恐ろしいエイリアンも登場しませんが、エイリアン以上に怖いのは人間だという、今でこそ手垢のついた結論ですが、自主製作映画を撮るのに常に金策していた当時の私にとっては、お金はかけずともSF映画が撮れる見本として、また雪の中に流れる竹下景子の青い血とともに、強く心に残った映画となりました。なので、クリスマスというと私にとってはホワイトよりもブルー。残念ながら木材にはブルーの木はありませんが、ブルーステインを眺めながら、もしやこれも異星人からの謎のメッセージなのではないかと・・・

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ネバーエンディング〔モミジバフウ〕ストーリー*

毎月いろいろな端材を特集して取り上げようという思いで始めた端材コーナーの特集企画も、忙しさにかまけてまるまるひと月飛ばしたりすることあり反省。実際にやってみて、毎月となると告知が遅いこともあって、来店されるお客さんとの間にタイムラグが発生したり、準備に振り回されて中途半端になってしまうなど改善点が分ってきましたので、1ヶ月ごとではなく2ヶ月単位でやってみることにしました。ということで、早速変更後の第一弾11月・12月の端材特集は、都市林業の代名詞的な存在でもある『モミジバフウ』!

主に街路樹、公園や学校の校庭に植えられ、秋には美しい紅葉で目を楽しませてくれるモミジバフウですが、伐採後はほとんど利用されることなく産業廃棄物扱い。そんなモッタイナイことしたら伐られたモミジバフウも浮かばれない。骨の髄まで使わせていただこう。たとえ虫に喰われていようとも、たとえ曲がりくねっていようとも、使えない木など無いっ数年前にたまたまご縁があって大型トラック10数台分もの大量のモミジバフウの丸太が大五木材にやって来ました。それが私を都市林業に目覚めさせたきっかけにもなりました。

正直、当初は私もこのうず高く積み上げられたモミジバフウの丸太の山を見て、どう料理すればいいのか分からず呆然としました。虫に喰われ曲がりくねった短材をどこにどう使えばいいのやら・・・。そもそもモミジバフウがどういう木なのかすらも分らず、いろいろ調べてみても活用事例がほとんどない手探り状態。とりあえず板に挽いてみましたが、乾燥させてみると材質は結構硬めでそれなりに強度も確保できる。ただし長さが無いので建築や家具には難しい。さてどうしたものかと思っていたら、クラフト細工に手頃ということで少しずつ売れていきました。

その後も大量のノベルティグッズの材料となったり、店舗の小さな棚板に使っていただいたり、花台にしたり、まな板にされたり、こちらから用途を決めて販売したものもあれば、お客さんがめいめいに使い道を考えられてご購入されたりと、さまざまな用途で売れていきました。気がつけば大型トラックに10数台分もあったモミジバフウも残りが見えてきました。あれからさまざまな街路樹が大五木材にやって来るようになり、製材した板を置くスペースにも困るほどになりつつあります。そこで残りのモミジバフウを軽く加工して11、12月の葉材コーナーの特集にしました。街路樹、公園木、校庭木としても役目は終わりましたが、まだまだその人生(樹生)は終わらせないという心意気で、特集のタイトルは『ネバーエンディング〔モミジバフウ〕ストーリー』です!在庫を睨みながらどんどん追加投入していきますので、ぜひ端材コーナーを覗き来てみて下さい!

今日のかけら035

キハダ

黄蘗

ミカン科キハダ属・広葉樹・岐阜産

学名:Phellodendron amurense

別名:木肌、黄膚、黄肌、黄柏(おうばく)、

シコロ(北海道・東北の方言)

 英語名:Amur Corktree

気乾比重:0.48

 

樹皮、黄なるゆえにキハダといふ*

★今日のかけら・♯035 【キハダ/黄檗】 ミカン科キハダ属・広葉樹・岐阜産

昨日の「黄檗(きはだ)」つながりで木の話。以前にも触れたことが、京都には音読みの「黄檗(おうばく)」という地名があり、関西では「黄檗」を「おうばく」と呼ばれる方の方が断然多いとか。そもそも木の名前はカタカナ表示でするべきで、後付けで当て字の漢字等も多く、1つの種種を漢字で表すと3つも4つもある事も珍しくありません。キハダも、「大和草本」において「黄檗其木の皮黄なるゆえキハダと名づく、ハダ皮膚也」と記されているように、文字通り幹の内皮が黄色いことが名前の由来です。

その樹種が広く全国に広がれば広がるほど、その用途に合わせて名前も生き物ですからドンドン変化しくのも当然のことと言えます。キハダの場合は古来から染料や薬用植物として重用されてきたため、その色味を現す漢字が充てられたのだと思います。「黄檗」、「黄蘖」、「木膚」、「木肌」などの漢字が使われています。中国においてはキハダを使って染めた衣服は黄衣(おうえといって位の高い者の着衣とされてきました。アイヌでも伝統的にこの黄色い布が利用されてきたようです。

またキハダの染料で染めた麻を使った紙は虫害を防ぐことから、昔の戸籍謄本や写経用の紙などに「黄(檗)紙」として使われてきた歴史もあります。黄色いといっても樹すべてが黄色いわけではなく、コルク質の分厚い樹皮の下の内皮が黄色いのです。魚のキハダマグロも見た目の色合いからその名が付いています。厚みのある外皮はら、英語では『コルクツリー』と呼ばれていますが、コルクガシと区別するために『アムールコルクツリー』と呼ばれることもあります。アムールとは中国からロシアに広がる大河・黒龍江。

キハダは日本、中国、韓国などアジア周辺に分布していて、中国では古来から伝統的に万病の薬としても使用されてきたようで、日本でも昔から胃腸薬として重用されてきました。キハダの内皮の煮汁とミズキの葉を水で煮詰めた『陀羅尼助(だらにすけ』のほか、『熊の胆(い』などの原料としても利用されています。樹皮には苦味があり冷却作用があることから下痢や赤痢などにも有効だとか。そういう特徴から作り出したのが、こちらの『薬になる木の5かけら』です。明日は『キハダ』の材としての用途などについて。

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気になるキハダ*

さて今日は『キハダ』の材としての特徴について。昨日キハダの英語名が『アムールコルクツリー』であると書きましたが、その北限はロシアのアムール、ウスリー地方で、朝鮮半島、中国北部に分布する北方系の木ですが、いくつかの変種まで含めると、日本の九州地方まで分布が広がるようです。学名である『Phellodendron amurense(フェロデンドロン アムーレセン)』は、「アムール地方のコルクの木」という意味があるようです(Phellosがコルク、 dendronが木の意)。

私自身はそれほど大きなキハダを見たことはないのですが、比較的成長の早い木で大きなものになると胸高直径1m、樹高25mになるものもあるとか。私が扱ったことのある最大のものは、幅が600~700㎜程度の挽き材。見た目の印象は、少し柔らかなケヤキといったところでしょうか。内皮は黄色いのですが、材は単調な黄色ではなく芯に近い方は茶褐色で辺材は白身です。径級の小さな丸太でも白身部分はわずかです。時にケヤキに似たような『玉杢』も現れたりして、雰囲気のある材だと思います。

さて、キハダは昔からその色合いを利用して社寺建築の彫刻材や看板の彫材などに使われてきました。クワケヤキクリなどと同じ環孔材なので、その代替材という扱いが多いようですが、指物や茶箪笥、鏡台などにも使われてきて歴史があります。また杢目の面白いもは、床框や落とし掛け、床柱など和室の床の間材に意匠的に使われることもあります。ただそれほど多くの量が流通しているわけではないので、一般的にはキハダを目にする機会は薬用素材や染料ほどは多くはないと思います。知名度においては、材というよりも薬用としての方が高いかもしれません。

森のかけら】で日本の木が並んだ中においても、黄緑色のキハダは異彩を放っています。ケヤキやクワの代用としてではなく、キハダらしい用途を考えねばと思っています。私自身も今までには棚板やカウンターぐらいでしか活用していなかったのですが、今ちょど小幅のキハダも入荷していますので、その出口を検討中です。建築・家具材というよりも小物・クラフト分野で可能性が見えそうです。「薬」も切り口としては面白そうです!

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黄檗の寺から伝えし木魚*

この2日間、『キハダ』について書かせていただき、先日の「骨まで食べられる魚」の話の最後に少しだけ「木魚(もくぎょ」に触れたのですが、実はこのキハダと木魚は遠からずご縁があります。木魚の代表格の木といえば『桑』の木で、『今日のかけら』の『山桑』の項目の際にも木魚について少しだけ書かせていただきましたが、今日はその「木魚」の事について改めて木魚を考えてみます。木魚は読経の際に使われる仏具・楽器ですが、そいう宗教的背景には疎いので偏った話になりますがご了承下さい。

まず木魚が日本に根付いた歴史ですが、今から350年ほど前の江戸時代初期に中国から30人に弟子を連れて日本にやって来た隠元(いんげん)禅師によってもたらされ、その後禅宗各派をはじめ各宗にも広がっていったとされています。隠元禅師は、中国は福建省の出身で、福建省にある黄檗山萬福寺(まんぷくじ)の住職でした。当時中国は明代末期で国が荒れていたため、その騒乱を避ける意味もあり、日本からの要請もあり来日し、時の将軍・徳川家綱の知遇を受け京都の宇治に萬福寺を築きました。

中国でもキハダの事は『黄檗』と表わし、本家の中国の萬福寺では寺の周辺に多くにキハダの木が生い茂っていたところから、宗門の人たちが「古黄檗(こおうばく)」とも呼ばれていたそうです。そこから隠元禅師が日本で開山した萬福寺のある地も黄檗山と呼ばれるようになったとか。この隠元禅師が日本にもたらしたのは宗教、木魚だけではなく、隠元豆(いんげんまめ)などもあるようです。つまり中国のキハダの寺の住職が来日して日本に持ち込み全国に広めたのが木魚のルーツなのです。

しかし宗教的な解釈(静かに読経を聴きその意味を考えることを邪魔する)から一時禁令が出ましたが、木魚のリズムが精神統一を促したり、布教活動の手助けとなる、その柔らかい音色が安らぎを与えるなどの理由で再び使われるようになり、現代にまで伝えらています。ではなぜそれが木魚と呼ばれているのかという事ですが、魚は夜でも目を閉じて眠らないことから、昼夜起きて覚醒していると考えられ、修行中のお坊さんも木魚を叩くことで眠らずに修行に励むという意味だそうです。こちらは萬福寺の魚鼓(ぎょく、または魚ほう

明治時代頃までは、木魚は文字通り魚の頭と尾が刻まれていたそうですが、「鯉の滝登り」に由来するようです。「龍門へと続く黄河はとてつもない激流で、魚が遡上しようとしてもあまりの激しさに多くが死に絶えてしまうのですが、鯉だけは川を登りきり、最後には龍になる」という伝説から、木魚の魚も龍の彫刻に変化していったというのです。それで現代では、二匹の龍が玉を争う姿などが彫られています。奇しくも今日は東日本大震災から1年。鎮魂の意味も考える1日です。明日は木魚の素材について。

 

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森の魚、アート大河を遡上!*

本日は木魚の素材についてです。今までにこういう仏具を作った事はありませんが、一般的に木魚に材として適しているといわれているのが『クワ』、『クスノキ』、『カシ』、『カリン』など。地域によっては『イチョウ』や『ホオ』なども使われています。中でも最高級とされるのがクスノキだそうです。それは音色や杢目のの美しさなどが主な理由でしょうが、樟脳の成分を含むことから太古の古より神への供物などにも使われてきた歴史があるので、もしかしてその影響もあったりするのでしょうか?

隠元禅師が開山した本家の中国の萬福寺には、寺の周辺に多くに『キハダ』の木が生い茂っていたという事ですが、もしかしてそのキハダから木魚を作ったりした、そのために植えていたのではないかとも勘繰ったのですが、いろいろものの本を調べてみても「キハダで木魚を作った」という記述に辿り着けませんでしたので、どうやらそれはゲスの勘繰りというものでしょう。木魚として材に求められる必要条件は、乾燥と品質(節や芯去りで木目が緻密)と音色でしょうから、あまり俗っぽい考えでは駄目ですね。

国内での木魚の生産量は愛知県が『木魚の生産量日本一』で全国シェアの70%を占めていて、中でも一宮市が圧倒的に多いそうです。それでも木魚職人と呼ばれる方は全国でも20名ほどしかいないとか。いずこの産業も後継者問題は深刻です。やはり外国産の廉価な木魚が業界を席捲しているようですが、国産の伝統的な工芸文化も頑張って継承していただきたいものです。仏具ですから底辺は広いのでしょうが、一般の家庭でのなら買い替えは少なそうですしどの家にも仏壇があるわけでもありません。この『出口』もかなり狭小かもしれません。

しかしそういう分野にこそ意外な『けもの道』が隠れていたりするものですから、予想もしない『出口』とかがあるのかもしれません。仏具ではありませんが、『彫刻欄間』も同じような境遇にあります。凝った彫刻のになるとやはり国産のものが求められるようですが、今後はアートやインテリアとして別の『出口』もありだと思います。昨日万福寺の「魚鼓」(ぎょく)をアップしましたが、こちらは永平寺の魚鼓、これぞまさしく芸術作品!覚醒した魚は森から生まれて、再び川を遡上し悩める森の救世主となるのではないでしょうか!

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不意打ちの黄色・キハダ*

弊社の倉庫に木を探しに来られて、ご案内させていただく時に強いインパクトを与えることのできる木がいくつかあります。例えば、世界で一番重たい木(リグナムバイタ)や、世界遺産の木(屋久杉)、日本でもっとも重たい木(イスノキ)といった、「世界」や「日本」という知的好奇心をそそられるランキングワードで語られる木などです。一方、決して珍しくはないものの一般の方があまり触れる機会が少ない事から、紹介すると予想以上の反応をしていただける木が幾つかあります。

代表的なモノとしては『ニッケイ(肉桂)』。見た目は何の変哲も無い板ですが、その樹皮を剥ぎ取ると、そこからは鼻腔を刺激するシナモンの甘い香りがして、多くの方が驚かれます。そういう風に、見た目的にはインパクトは無くとも、ひと皮剥くと実は・・・的な木は、木の面白さや奥深さを端的に伝えることが出来ることから、私としてはマストアイテムとして欠かせない存在。そういう意味では、この『キハダ(黄蘗)』という木にも、いつもお世話になっております。

材の詳しい特徴や名前の由来については、以前に『今日のかけら』で書かせていただきましたので、そちらをご覧いただきたいのですが、一見すると何の特徴も無い薄汚れた木にしか見えないかもしれませんが、そのコルク質の樹皮を強めに剥ぎ取ると、鮮やかすぎる「黄色」が現れます。あまりの鮮やかさと、元の茶褐色の板の差から、「え~っ!?」という反応を得ることの出来る木です。ハゼノキニガキも黄色い木ですが、それらは材面が黄色いのですが、キハダは内皮部分のみ。

材面は、多少黄色身を帯びてはいるものの、ややくすんだ緑黄褐色といったところで、内皮のような鮮烈な黄色は現れません。経年変化では茶褐色になりますので、キハダという名前に過剰に期待してはいけません。あくまでも厚いコルク質の樹皮の内側が黄色いというだけです。このキハダですが水質に強い事でも知られていて、流し場の板などにも利用されています。それらの特徴を活かして、今回住宅の玄関建具にお使いいただいています。詳細につきましては、完成後に改めてご紹介させていただく予定です。

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