森のかけら | 大五木材

今日のかけら・#021 【榎/エノキ】 ニレ科エノキ属・広葉樹・岐阜産  

enoki

20130226 1それでは昨日ご案内したように、本日は第五惑星・JUON』からはるばる地球にやって来た星人(ほしびと)の生態をご紹介しましょう。ひとり目は、地球でいうところの『榎(えのき』の守護神、『メタリックベリー』。紫外線の影響で、モノクロでしかその姿を見せられないのが残念ですが、そのボディは地球には存在しない特殊な金属合金で美しい光沢を放ちます。しかしながら強靭軽量で、軽快に走り回ります。葉をギザギザに刻んだり、自由に影を作れる能力は名前の語源に由来しているのです。

 

20130226 2それでは、そのヤドリギ(宿木)たるの話をしましょう。エノキは、ニレ科エノキ属の広葉樹で、高さ20mにもなる高木で、大きなものになるとその直径の2mを超えるというから結構大きなものです。大木になり相応の硬さがあるものの、それほどの強度がないため建築材で使われる事は多くありません。着色すると木目の雰囲気がケヤキによく似ていう事から、大黒柱などにケヤキの代用品として使われる事があります。それよりも器や器具材、家具材などで利用されたものを時々見かけます。

 

20130226 3ニレ科の木は立ち木の姿もよく似ていますが、エノキの幹の特徴は「象の足」とも称される横皺(よこじわ)が出来ることです。枝分かれしたと部分などによく現れ、ニレ科の樹種の判別の材料ともされます。このエノキという木は、加工後の「材」としてよりも、森にある「木」とえしてのエピソードが多い木でもあります。まずは、その名前から。エノキの学名であるCeltisという言葉には、「甘い果実をつける木」という意味がありすが、実際に昔は飢饉の際の非常食として重宝されたようです

 

20130226 4それを物語るように、全国各地で飢饉の際にエノキの実や葉までも食料として飢えをしのいだことから、エノキの木が信仰の対象となって奉られている例がいくつも実在しています。城造りの名人と謳われた加藤清正公も、名城・熊本城を築く際には、成長が早く大木になって、樹皮が燃えやすく薪として燃料にも使える事から、篭城への備えてして、城内に多くのエノキやムクノキを植えました。わが松山城にもエノキが植えられていますが、その名残でしょうか。貴重な食料源としてのエノキの一面です。

 

 

20130227 1さて、次はエノキの名前の由来のついて。これには諸説あって、まずは器具の柄の木として使われたから「柄の木」とされたという説。また枝が多い事から枝の木(えのき)と呼ばれたという説。縁の木からエノキというのもあるようですが、これは樹形が似ていることからよく並べて植えられるケヤキが、別名「槻(ツキ」と呼ばれる事から、その縁が尽きたという語呂合わせから、縁尽き」→エノキとなったという説などもあり、いずれも着眼点は面白いものの、後付のこじつけのようで支持を得ていません。

20130227 2エノキはもともと関東地方にも多く、古くは一里塚に目印として植えられてきました。枝を広げる事で、旅人達に木陰を提供する役割もあったとされています。名前の由来に諸説あるのも、それだけ身近にあった馴染みのある木であった証拠でもあるのでしょう。東海道の街道沿いにはたくさんのエノキが植えられていたそうですが、馬に乗って通りかかった織田信長が部下に向かって、「同じ木ばかりで面白くない。たまには余の木(違う種類の木)を植えんか!」と叱責したそうです。

 

20130227 3いかにもカワリモノ好きの信長らしい発想!その言葉を家来がどういうわけか「エノキ」と聞き待ちがえた事から、ケヤキと同じように枝を広げて日陰を作る木を植え、その木の事をヨノキと呼ぶようになったとかエノキと漢字が、木偏に夏と書くのも、街道の一里塚に植えられ、夏に涼しい木陰を提供してくれるからという話にも結びつく、実にうまく出来た説で、個人的には断然この説を支持します!昔の話ですが中部地方の市場でエノキを仕入れた時に、樹種名が「ヨノキ」と表示してあった事がありました。

 

20130227 4そんなエノキですが、街道の一里塚としてだけではなく、上述したように飢饉の非常食としての役割もあったことから、神社などにも植えられ『御神木』として敬われてもきました。奇しくも、木偏に春夏秋冬の季節の漢字を持つ木が、いずれも聖なる木として、その枝や葉が神への供物や捧げものとされてきた事から考えれば、椿(ツバキ)、柊(ヒイラギ)、楸(アカメガシワ、ヒサゲ)と同様に、エノキにも四季のひとつが与えられたというのも頷ける話だと思うのです。

 

20130227 5そして、神仏を畏れず比叡山を焼き払った織田信長が、その神なる木を街道に植えさせたという事も、なんとなく因縁めいていて面白く、血で血を洗う戦国絵巻の中に生まれた、エノキ命名のエピソードを支持するものです。当時まだこの説を知らなかったので、一生懸命に木材辞典などで調べましたが一切「ヨノキ」などという樹種名には辿り着けず、市場の人も「ヨノキはヨノキよ」と言うばかりで、その正体が長い間分からなかった事を懐かしく思いだしました。

 

 

20130228 1エノキは、人の非常食としてだけでなく、鳥や虫たちにもとっても大切な生命をつなぎとめる存在でした。秋になると、その学名(Celtis)どおりに「甘い果実をつけ、ムクドリやヒヨドリなどの野鳥の格好の食料となります。また、近種の『エゾエノキ』は、エゾという北海道を示す名前がついているものの、全国に分布し、この種は日本の里山を代表する国蝶・オオムラサキゴマダラチョウの生育する木としても有名です。卵から孵化した幼虫は、夏から秋にかけてこの木の葉を食べて成長します。

 

20130228 2エノキの葉よりも薄いとされるエゾエノキの葉は彼らの食草で、冬になると地面に降りて、落ち葉の中で越冬し、春になると再び食草を食むために木を登ります。そして初夏になると羽化し、美しい姿を我々に見せてくれるのです。その後、成虫となるとクヌギなどの蜜を吸いに集まってくるのです。オオムラサキと並んでエノキを食草とする有名な昆虫が、メタリックな七色の鮮やかな光沢の鎧を身にまとった甲虫・タマムシです。エノキやケヤキなどの枯れ木に卵を産みつけ、その葉を食草として育ちます。

 

20130228 3とりわけエノキの葉を好むようで、タマムシの育て方を解説した本やサイトでも、エノキの葉が紹介されています。幼虫達はエノキの葉をバリバリと食むようですが、エノキを英語で言うと『Hackberry(ハックベリー)』。この『hack』という言葉には、『刻まれている』という意味もあり、それはハックベリーの葉の縁が鋸歯状に刻れていることに由来しているのですが、これは決してタマムシが食んでギザギザにしたのではないようです。さて、以上がエノキの主な特徴となります。

 

20120228 4それでは、エノキの擬態『メタリック・ベリー』について。その名前は、エノキの葉が好物のタマムシの金属光沢に由来しています。『ベリー(berry)』は、多肉質の小さな果実の事ですが、甘く美味しい実をつける英語名の『ハックベリー』にちなんでいます。そのボディは身に危険が及ぶとメタリックに輝き、鉄砲の弾すら弾きます。動きは俊敏で指先には強靭なパワーがあり、影を自由に作り出し操る能力の持ち主。妖蝶の使い手でもあり、好物はブルーベリー。緑の星JYONからやって来ました~!!

 




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