森のかけら | 大五木材

★今日のかけら・#014 【一位樫/イチイガシ】 ブナ科コナラ属・広樹・日本産(愛媛産)

 

このホームページ開設以来、多くの『木のファン』が訪れていただき、たくさんのコメントをいただいています。昨年の12月末頃に始めて以来、半年で延べ15,000人の方から約900,000件の総アクセスをいただきました。たいへんありがたいことで感謝の気持ちで一杯です。弊社の通信紙【適材適所】も11年を越えましたが、やはりネットの訴求効果には感心させられます。まあ紙とネットは別次元の物と考えていますので、これからも2刀流でいこうと思います。

 

前置きが長くなりましたが、ネットを通じ交流させていただいている『木のファン』の方から、いろいろと木の画像などをいただいております。それは大変貴重なもので、私一人では何年かかっても到底撮影できないような立派でなおかつ膨大な量です。撮影された方の承諾をいただきましたので、今後【今日のかけら】のコーナーなどで徐々にご紹介させていただこうと思います。やはり、木は文章だけでなく実際の姿がなくては面白くありません。いろいろな木をご紹介したいのですが、私の写真のストックも建築材に偏っているので、こういう写真のご提供はとてもありがたく助かります。そういう事で、今日は【イチイガシ】のお話です。

 

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画像は、熊本県泗水町にある通称「村吉の天神さん」と呼ばれるイチイガシの巨樹です。実にいいネーミングです。地元の方と、この木との距離感が伝わってきます。九州は巨樹の宝庫でまだまだ多くの巨樹が眠っています。このイチイガシは、まるで蛸の足のように根元が根上がりして異様な姿をしていますが、立派な巨樹です。根上がり部分が複雑に絡み合い、天然のジャングルジムのようです。こういう異形なものには、人間だれしも神聖な同じような気持ちになるのではないでしょうか。唯一何の抵抗もなく、格好いいジャングルジムに飛び込んでいけるのは無垢な心の子ども達だけです!

 

 

 

 

さすが大人はにこういう姿を見ると、畏敬の念を抱かずにはいられません。職業柄、材木屋の木の見方は、〔木=素材(マテリアル)〕と考えられがちですが、生き物を扱う仕事ですから、むしろ立ち木に対しては、人一倍真摯になったり恐れ、畏怖などを感じるものです。正直、この木で何枚座卓が取れるのにとか、そういう不遜な事は思い浮かびません。ところが伐ってしまえば、それではこの材でテーブルを取って、残りで棚を取ってとか、急に『材』として考えを廻らせます。都合のいい解釈だと思われるかもしれませんが、例えばおすし屋さんでも巨大な魚を見たときに、「ああこれで何人前の寿司が握れる」と思うかというとそんな事はないと思います。海原を泳ぐ姿に、生命の神秘や畏怖を感じるのではないでしょうか。むしろ「頑張って長生きしろよ」とぐらい思うのではないでしょうか。それがたまたま縁あって、釣られ市場を経由したりして自分の所に来たりすると、これで無駄のないように立派な寿司を握ってやろうと思ったりするものではないかと想像します。

 

材木屋も似たようなものです。木が好きでこの仕事をしているわけですから、仕事とはいえ木を伐る事に抵抗感のない人はいないと思います。より伐採現場に近い人ほど、伐る木に畏怖を感じたりするものではないでしょうか。日々の事ですから、いちいち手を合わせて拝んだりはしないでしょうが、やはり何らかの『覚悟』を持って伐採に臨まれるものだと思います。それは口で説明できるような物ではないでしょうが。

 

e69d91e59089e381aee5a4a9e7a59ee38195e382932撮影者の方が8年前に訪れられた時も、近所の子供たちがこの根元で元気に遊びまわっていたそうです。これほどの立派な巨樹の不遜だ!などと野暮な事を言ってはいけません。巨樹は、子ども達が木登りをするためにこそあるのです。巨樹の生命力に触れ、子ども達は知らず知らず巨樹の懐に包まれていく事でしょう。やがて大人になった時、一生懸命に遊んだ巨大なイチイガシの姿を懐かしく思いおこすことでしょう。小さな手足で触れた巨樹のぬくもりは永遠に忘れ去る事はないのです。そして彼らが、感謝と畏敬の思い出巨樹の伝説をその子ども達の語っていくのでしょう。語り継がれ、遊び継がれていく巨樹こそ、真のヒーローなのです。そしてこの巨樹とのふれあいこそが、『真の木育』なのではないでしょうか。まだまだ樹勢盛んな様子だったということで嬉しくなります。

長くなったので、材としての【イチイガシ】は明日に続く!

 

e29885e382a4e38381e382a4e382ace382b71森のかけら】に加工している【イチイガシ】は、三新機械大成君から分けてもらった愛媛産の物です。昨日アップしたような巨樹は、使うものではなく見るものだと思います。そこまで大きくなくとも、そこそこの大きさの丸太はあるのでしょうが、特定の用途(薪とかクラフト細工とか)でもないと伐採したものが、なかなか廻ってきません。ブナ科は大別すると、ナラ類とカシ類に分類されますが、カシ類にはシラカシやアカガシ、ウバメガシ、そしてイチイガシなどが含まれています。この名前は知らなくても、『どんぐり』のなる木といえばなんとなく想像出切るかもしれません。

 

森のかけら】は35㎜角なので、直径150㎜もあれば何とか取れます。大きいのに越した事はありませんが、なるべくある物、手に入った物を使うようにしています。今回分けていただいたのが、200㎜ぐらいの大きさだったので、4つ割りにした後で角材に製材してじっくり半年ほど天乾させます。製作するときには、大体40㎜強に荒割りして乾かすのですが、イチイガシは収縮が激しく35㎜以下に縮んでしまって使えなかった物もありました。あらかじめもっと大きく割っておけばいいじゃないかと思われるかもしれませんが、大きく割ると取れる数が減ってしまいます。ケチ臭い話ですが、この商品自体『ケチ根性』から生まれたものですし、なるべく無駄をなくしたいので、いつもギリギリを狙って失敗も多いです・・・。イチイガシのかけらを見てもらえれば分かりますが、端に芯の名残があります。これは、芯のところまでギリギリで加工した証です。芯が近くても使えるものは使っていますのでご了承下さい。

 

イチイガシは、他のカシ類と同様に粘りも強度もある硬い木です。成長すると樹高が30メートルにも及ぶ高木に成長し、幹もまっすぐに伸びます。その威風堂々とした姿から、神社や境内などに植えられご神木として崇められてきました。用材としては、そういう立派な大木ばかりを伐採するわけではありませんので、径の小さな物だと製材しても節の少ない良質なものが取れず、乾燥も難しく反りや割れが多く発生します。そのため住宅で建築部材として使われる事はほとんどありません。

 

20090711-e995b7e38184e6a78dしかし、使い方によってはその特徴を最大限に生かす事も出来ます。もっとも評価の高い用途としては、舟の櫓長槍の柄だといわれます。硬く強度があるうえに磨り減りにくいという理由によるものだと思われます。他にも鋤(すき)鍬(くわ)などの柄にもよく使われます。やはり長期間使っても摩擦や負荷に強いという事で好まれたようです。また火持ちがよい事から他のカシ類同様、としては重宝されています。

 

カシ語源は定かではないようですが、木が硬いという事に由来しているのは間違いないようです。もともとは橿原神宮などの『橿』(かし)の字があてられていたようで、数あるカシの木の中でも取り分け信仰の対象とされたのは、やはり立ち木の荘厳さにあるのでしょうか。自社仏閣の多い奈良市ではこの木が市木に指定されているのも、信仰と関係があるように思われます。『イチイ』を『一位』と表記するのは当て字のようです。名前の由来は、最火樫(いちびがし)からきていて、意味はもっとも良く燃える木という事で、この説が有力とされているようですが、他にも諸説あるようです。

 

e6a3aee381aeefbc95e3818be38191e38289e291a1e381a9e38293e38190e3828ae381aeefbc95e3818be38191e38289いまのところ具体的な用途は思いついていませんが、癖の出ない程度の大きさに製材したもので、あるクラフト製品が出来ないか漠然と考えています。ただ材が安定して入ってくる見込みがないのと、乾燥に恐ろしいほど時間がかかるので気の長い話になりそうです。材の特徴から『握る』あたりがキーワードになりそうな気はするのですが・・・。何はともあれ材あってこその話ですが。ついでに商品PR、イチイガシは含まれませんが仲間の『どんぐりが出来る木』を集めた、【森の5かけら・どんぐりの5かけら】も好評発売中です。5種のミニ解説書付です。今後いろいろな5かけらを発売していきますので、ご期待下さい。




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