森のかけら | 大五木材

 

バルサとウルトラセブン/夢の熱量①*

 

今日のかけら・#193 【バルサBalsa マメ科・広葉樹・中南米産

森のかけら240】における鬼門のひとつが、「世界でもっとも軽い木」の称号を持つ『バルサ』です。文字通りその軽軟さは、スポンジか発泡スチロールのごとし!他のかけらと持ち比べてみれば、「おお~っ!」という感嘆の声が聞けるのは間違いありません。更に、『リグナムバイタ』を片方の手に、『バルサ』をもう片方の手に持ち比べる『世界最重量VS世界最軽量対決』は、鉄板の人気を誇り、どこに行っても行列が出るほどの人気!しかしそれゆえに世界最軽軟の木は辛い運命を辿る事に・・・

皆から愛される『バルサ』は、どこでも誰にでも手厚い(手荒い)歓迎を受け、軟らかすぎるその体はあっという間にボロボロに・・・。掌で思い切り握るだけでダメージを受けるほど繊細な・・・いやいやこれも宿命です五感で楽しむ木の正しい愛され方なのでしょう。しかし、加工や取り扱いの際の気遣いは半端ではなく、ちょっとの事ですぐに凹んでしまうナイーブな性格は、私のような大雑把人間には不向き!それでも『世界最軽量』の感触を味わってもらうためも次の入荷を急がねば~!

その特徴については、実際に入荷した際に触れますが、今日はその用途について。バルサと聞いて、男の子がまず頭に浮かぶのは「模型飛行機」!・・・だと思っていましたが、最近の子供たちには馴染みがないようです。それを売っていた模型屋や玩具屋も すっかりなくなってしまいましたし、そういう手作りのアナログなおもちゃに興味もいかないのでしょう。私も昔はよくプラモデルを作ったものですが、精巧などとは縁遠いチープなものでもそこに手作りの愛着と満足感があったものです。

さて、その昔の懐かしい手作り感とバルサの用途を繋ぐもの、それが『ウルトラセブン』なのです!今愛媛県美術館で開催している『館長 庵野秀明 特撮博物館』にはまだ行けてないのですが、それに関連したラジオ番組があり、配達中の私はラジオから流れる懐かしい特撮の話に耳を傾けていました。するとその中で関係者が、話の流れの中でひと事だけ触れられた「バルサ」という言葉を私の中の高性能セブンイヤーは聞き逃しませんでした。それは、名作・ウルトラセブンとともに・・・

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バルサとウルトラセブン/夢の熱量②*

随分もったいぶったフリをした昨日に続いて『ウルトラセブンとバルサ』の話です。間違っても『ウルトラセブンとバルタン星人』では、ありません!こういう話はとかく脱線して話が横道に逸れてしまうのでなるべく控えめにしますが(既にかなり脱線しています)、ウルトラセブンは我々昭和40年代前半生まれ世代にとっては、欠かす事の無いスーパーヒーロー!数あるウルトラマンシリーズの中でも特にセブンが好きという人は多いようです。実際のリアルタイムでのテレビ放送は昭和42年から昭和43年という事なので、私が見たのは何度か目の再放送だったと思うのですが、地球のために怪獣と戦うセブンに無我夢中。怪獣たちとの戦いに一喜一憂しいつも心底からハラハラドキドキしていたものです。嗚呼、我ながらどこまで純粋で無邪気で悩み無き少年時代であったことか・・・

当時は関連図鑑も買い、セブン大解剖、怪獣百科などを本がボロボロになるまで読み漁ったものです。そこに出てくる身長数10m、体重何マントン、飛ぶ早さマッハ何とかなんて数字も、少年にとっては夢を紡ぐリアルなエレメントでしかありませんでした。それがフィクションだとかリアリティがあるとか無いとかそんな客観的に判断できるようなレベルとかではないのです。誰でも「セブン」と叫んで両手を頭の上から振りかざせばアイスラッガが眩しく見えた、そんな時代。

さて、そのセブンとバルサの接点は何かと言うと(既に2日目にはいってますが今頃・・・)、セブンに出てくる少年羨望の的・地球の平和を守る地球防衛軍の警備車両ポインター』。私は男の子としては珍しく車輪やタイヤの付く乗り物に一切興味がなく、その名前や機能、スピードなどにもほとんど関心が向きませんでした。なので、ポインターについても、ただそのデザインと地球防衛軍の車というポジションだけに憧れていたので、そのベースがアメ車だったと知ったのも随分後になっての事でした。

ましてやその車が「クライスラーのインペリアルクラウン1958年モデル」と聞いてもまったくピンときません・・・しかし聞くところによると、それはキャデラックと張り合うほど高額の最高級車だったそうです。なにせ1$=360円の時代ですから高嶺の花であったのでしょう。中古でも相当な金額だったそうですが、スクラップ工場で廃車寸前のものを買取り、涙ぐましいまでのハンドメイドの大改造が施されたというのです。私は子供の頃、本当にそういう組織があってそういう車があると本気で信じていました。

しかし所詮は子供向け番組ですから改造経費も厳しく、撮影などで走行に支障をきたす事も多く、坂道の撮影などでは、スタッフが総がかりで車を押し上げ自重で坂道を転がす事もあったとか・・・子どもに夢を見せるために一生懸命に汗をかいている大人がいたのです。その改造工程はかなり大掛かりなうえに相当の手作り感で、見る人が見れば一目瞭然だったのでしょうが、SFチックなデザインに私の目は釘付けでした。内装の多くの部分には、軽くて加工が容易なバルサ材が多用されたとか(やっと)で、更に明日へ・・・

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バルサとウルトラセブン/夢の熱量③*

こうなる事は予想がついていましたが、ウルトラセブン第三話・・・高級車クライスラーの廃車寸前のポンコツ車を、少年たちの憧れ・地球防衛軍のスーパーカーに変えたのは『バルサ』の力だったのです。私は車の事にはまるっきり興味も関心もない男ですので、よく分からないのですが、当時のスチール写真を詳しく見ると、従来のクライスラーの内装の質感とは程遠いバルサのチープでウッディな素材感がはっきり写ったりしていて、関係者は冷や汗ものだったそうです。

車の改造というよりも工作物に近い感覚で作ったんだと思いますが、子ども番組といっても手抜きをせずに出来る限りいいものを見せようという当時のスタッフの熱意や努力の結晶が、廃車寸前の車に地球防衛という使命を与え、私たちを虜にさせたのでしょう。子どもは大人の本気の熱量に敏感です。地球を悪の手先から守る冒険譚を大人が熱く語る事が恥ずかしいとか幼いなんて言われるような冷めた時代になってきて、子どもたちも夢から覚めていってしまいました。

大人が真剣に熱くならないと子どもも認めません。テレビの仕事だけに限らず、森や木の事を話す時にも感じる事ですが、本当に木が好きな人が話しているのかどうか、子どもたちは一瞬で見分けます。まあそのレベルの人って、他人がどうこうよりも自分が好きでやりたくてやっているという心境なのでと思うのですが。当時の撮影秘話の中で、バルサが登場したのはわずかそれだけだったのですが、自分の大好きだったセブンとの距離が何だか縮まったようでとっても嬉しくなったのです。

今だとバルサよりももっと安価で加工性のよい非木質素材なんていうのもいくらでもあるでしょうから、そういう番組でバルサが使われる事もないでしょう、きっと。見た目には本物と見まがうほどの素材と技術革新が取り入れられたでしょうが、それは子どもたちをどこまで「本気」にさせる力を持っているのでしょうか。かつて薄いバルサ作りのハリボテのアナログな映像だったかもしれないけれど、精巧なデジタル処理の今よりもはるかに怪獣やヒーローたちの存在を信じ、涙が出るほど感情移入し、なにより私たちは熱中し、本気でした。怪獣ドラマに限らず、今全国の子どもたちを一斉にそこまで没頭させる『力あるもの』って何かあるでしょうか?素材の性能、機能の向上、品質追及など表現手段や方法にばかり目を奪われ、すっかり心が冷めてしまい、見た目の美しいだけの料理を並べてしまっていなかっただろうか・・・

 




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