森のかけら | 大五木材

今日のかけら101

モミ


マツ科モミ属・針葉樹・静岡産

学名:Abies firma

別名:モミソ、トウモミ、モムノキ、ホンモミ

 英語名:Japanese Fir、Momi Fir

気乾比重:0.35~0.52

樅の木は残った?

先日のNPO・カコアさんのイベント『キャラ森の不思議なクリスマス』で久し振りに銀天街商店街を歩きましたが、到る所がクリスマスの装いです。もっと早くから飾りつけはしてあったのかもしれませんが、銀店街に出ることもほとんどないので今更ですが。カコアさんのイベントでは、久万造林㈱井部健太郎君が久万高原町から桧の梢を運び込んで作りましたが、町の中には様々な木のツリーが飾られています。クリスマスツリーの木といえば、誰もが【樅/モミ】の木を想像されるでしょうが、何故ツリーにモミの木を使うようになったのでしょうか。

クリスマツツリーの起源には諸説あるようですが、8世紀の頃のドイツのケルト民族の間ででは【オーク】(ナラ)の木に対する厚い信仰があり、オークの木に生贄(いけにえ)を捧げるような習慣まであったとされています。いずこの国でも、信仰は行き過ぎてしまうと盲目になってしまうようです。そのあまりの残酷さに嘆いたイギリス人の宣教師が、森の中でそのオークの木を切り倒したところ、周りの木々が一斉になぎ倒されてしまったのに、小さなモミの木だけが傷ひとつなく元の姿で立っていたというのです

その出来事をキリスト降臨の奇跡に結びつけたのが、クリスマスにモミの木を使うようになった始まりだとされているようです。その後11世紀には、ライン川の流域で行われた宗教劇の1シーンで、エデンの園の智恵に木としてリンゴを結び付けたということから、木にデコレーションを飾りつける習慣が生まれたといわれています。この2つの事象が結び付けられて、かなり強引な解釈ですが、そこからクリスマス・ツリーの原型が生まれたとされているようです。要ははキリスト布教のためのシンボルツリーとして、枝ぶりや姿見の良いモミの木が選ばれたので、その起源は後付けの説明のような気がしないでもないのですが・・・

またヨーロッパの各地でも、古来よりモミは神聖な木とされました。スェウーデンでは、昔から五月祭には入口にモミの木を飾る習慣があったようです。日本では正月といえば、門松ですがそれぞれのお国柄が出るようです。フィンランドでは、モミの木を家族の守り神と考え、その枝にパンや肉などを捧げたようです。家を建てるときには小さなモミの木を植え、墓地に行ったときには悪霊が付いて来ないようにもモミの枝で身体を叩いたとされています。日本であれば、娘が生まれたらを植え、神様に供えるサカキのような感覚でしょうか。さらにトロイ戦争の『トロイの木馬』もモミで作られたそうです。一説には、乗っていた船を解体して作ったとも言われています。また、スイスのアルプスホルンもモミで作られていますが、これはモミのかぐわしい香りや削った時の清浄な木肌にスピリチュアルなものを感じていたのでないかとも言われています。

天に向かってまっすぐに伸びる姿と、あの独特な香りに世界中で信仰や神聖な木としてのイメージが固まったのだと思います。実際にモミの樹脂には殺菌力があり傷薬として使われてきました。また、新芽にはエッセンシャルオイルが豊富に含まれていることから、咳や気管支炎の治療にも使われ、ストレスや興奮を抑える作用もあるのです。その後、すっかり〔クリスマスツリー=モミの木〕が定着するのですが、もともとヨーロッパでは中部ヨーロッパから東ヨーロッパに分布されるという【ヨーロッパモミ】が使われていたようです。この木は、『ギンモミ』とか『シロモミ』の別名もあります。しかし、最近では身近に手に入る形の良い木が使われています。

ドイツトウヒ】や、中にはゴールドクレストなどを使われる方もあるようですが、そもそもほとんどの日本人がキリスト信仰の神聖な木として、ツリーを飾っているわけではなく、一種のイベントのモニュメントのような意味合いで楽しんでいるだけなので、何の木でも問題はないと思います。ただ起源とかだけでも知っておくと、楽しみの深まるのではないでしょうか。さてクリスマスシーズンが終わると、彼らツリーのその後はどうなってしまうのでしょうか?樅の木の運命やいかに!ちなみにモミの花言葉は『』、『向上』。

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春のツリー・樅で見る夢*

まあ絵に描いたような「雲ひとつない晴天」でした。標高が高いので空気が清々しくて、空の色に深みがあります。どこにレンズを向けても画角にそれなりの構図がきっちり収まってくれます。そこに暮らしていると、当然の日常の一風景になってしまうのかもしれませんが、田舎生まれの私でさえ郷愁の念を抱かずには入られなくなりますから、都会の方だとたまらなくなるロケーションだと思います。大野ヶ原に来るといつも、風景も貴重な観光資源であることを再確認させられますが、本当に価値のある原風景ですが、そこに暮らす人の手が入って維持されていることも忘れてはいけません。心地よい観光資源と手付かずの原風景とは大きな隔たりがあります。人間にとって心地よく感じられる風景は、人間の手によって加工されているものだと思うのです。それが良い悪いという訳ではなく、〔自然=善〕という短絡的な思考では、人の暮らす自然は維持できないということだと思うのです。

ポニー牧場の隣のペンション『もみの木』というお店の傍には、文字通り【樅/モミ】の木が幾つもそびえ立っています。枝を大きく広げて立派な樹形で佇んでいます。樅は高地を好みますので、松山市内でその立派な姿を見かけることはほとんどありませんが、この辺りでは道路沿いにもたくさんその姿を見かけます。杉、桧、松の中に樅が混ざってくると、かなり登ってきたことが実感できます。上に向かって枝を伸ばす杉や桧に比べて、両腕を広げたように枝を伸ばす樅は華やかな雰囲気があります。

以前にも『クリスマスツリーの木』として、樅の事を取り上げましたが、樅は〔マツ科モミ属〕の針葉樹です。建築材としても癖のない淡い乳白色が人気で、壁材などに使われています。床材としてはやや柔らかいものの、張り合わせてア圧縮加工してフローリングにも利用されています。マツ科の木らしく、触った時に松独特のシットリ感はありますが、松そのもののような脂っぽさはありません。樅は葉の先端が二股に分かれて鋭く尖っているので、葉先を握るとやや痛みを感じます。もっと痛いのが【カヤですが、こちらは二股ではなく葉の先端が鋭く尖っています。

弊社にもテーブルに使えるサイズの、樅の大きな板があるのですが、樅そのものはたくさん在庫を持っているわけではありません。樅は物語性の強い木なので、端材も使える要素はあるのですが、材が揃わないという、弊社にとっては非常に珍しいパターンでした。それが、縁があってうまい具合に樅の端材が入手できましたので、現在商品化を進めています。いくら企画を眠らせていたからといっても、相手は自然の物です。加工してみないとどれぐらい精度が出せるか試行錯誤の連続です。樅で見る夢は、もうしばらくお待ち下さい!こういう環境にいると、面白いアイデアもひらめいてきます。ただ、荒削りすぎて、ある程度加工・修正しないと物にはなりませんが、着想は大切です。さて、いつもはこの後『ブナの原生林』コースが定番なのですが、今回はこの青空が我々を更なる高みへと導いていくのでした!

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巨大樅、山より出づる・・・1*

先日、久万高原町に原木を仕入れに行きましたが、山がすっかり色気づいていました。既に散り始めている木々の姿も。ここ数日、三寒四温で季節感が何だかよく分かりづらかったですが、確実に冬の気配が近付いております。三坂を登っていくと空気が次第に冷たくなっていくのが実感できます。久万高原町は、かつて井部栄範翁が始めた植林事業によって作られた山なので杉・桧が大半を占めていて、本格的な紅葉が楽しめるのは、もっと奥山になるのですが、それでもあちこちで山がつぎはぎになっていました。

通常弊社では、製材品を仕入れるのですが、今回仕入れに来たのは珍しく原木です。愛媛木青協の会員でもある成川尚司君の成川木材店は、素材生産を主業務とし、山林の育成、間伐の促進等山林の整備に力を入れている会社ですが、杉・桧以外にも稀に樅(モミ)栂(ツガ)も伐採すると訊いていたので、その際には連絡してくれと頼んでいました。すると、数日前に「樅の原木を伐った」と連絡があり、久万の貯木場にやって来たのです。結構大きな木があると聴いていたのですが・・・。

これが、デカイっ!想像以上の大きさでした。弊社には再割用の小さな帯鋸しかありませんので、製材してもらうために井部健太郎君(久万造林)にも同行してもらいました。その多くは、高知県との県境近くの仁淀川上流の中津渓谷付近の山で伐採されました。その中でも、依頼を受けて伐採した社寺林は別格です!20数mの大木が雷の影響を受けて、先端が折れていて危険なので伐採したという事でしたが、そのあまりの大きさに相当手こずったようです。それがこの4本。横に立っている井部君との対比で大きさが分かると思います。

樹齢は200年を遥かに越える緻密なものです。1番玉の根元は直径が1200㎜にも及ぶ巨大さで、まるで外材の世界です。先端は激しく裂けて、落雷の凄まじさを物語っていました。それでも4mの材が4本も採れるほど立派な木だったようです。巨木になって年数を経た木は、内部に洞などが出来やすいのですが、この木は目だった外傷も見当たらない良質なものでした。本当は、幅剥ぎの家具やカウンター材とその端材で【森のかけら】や『木言葉書』などを取ろうと思っていたので、そんなに大きな木は必要なかったのですが、実際にこうしてその姿を見てしまうと、木が私を呼んでいる状態にはまってしまいます。それでも最初は傍観していただけなのですが、成川君から伐採時の苦労や作業の様子を聞いていると、うずうず・・・。あ~もうたまりません!山積みしている丸太グラップルで器用に摘み上げてはね出してくれます。さあ、どうする?

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巨大樅、山より出づる・・・2*

この(モミ)の美しいまでの目の詰まり具合、素晴らしい!想定外の買い物となりますが、こちらの原木を購入させていただきました。伐採直後ですから、たっぷり水分を含んでいて、この1本で2トン以上はあるようです。これがしっかり乾燥すると、錐(キリ)で一旦穴を開けなければ釘が打てないほど材質が締まって非常に堅くなります。当然水分も抜けて軽くなるのですが、その錐で穴を開ける際に、錐を揉(も)むことから、『揉み(モミ)』と名が付けられたという俗説もあるほど乾燥によって材質が変わります

名前の由来については諸説あって、学術的には『万葉集』の中で、「臣(おみ)の木」がモミの木に転じたものが一般的ななっているようですが「錐を揉む」=モミ説は、木を実際に扱った杣人(そまびと)や大工さん達の実体験の中から生まれたエピソードのようで、そちらの方がより木の特性を現していると思えるのです。学説は、文献に由来している事が多いのですが、地方の方言名は、生活習慣の中から生まれたおのが多く、その用途や地域の民族とも深く関わっていて、知れば知るほどに、日本人が如何に木を活用してきたかという歴史が窺い知れます。。

それで結局、直径1mサイズの巨木を1本と、400~600mmクラスの目の詰まったもの、小割り用に節は大そうだけど安価なものなどを数本買わせていただきました。成川君のところでは、主に県内とその周辺の杉・桧を伐採していますが、久万高原町内でも樅は稀に伐採するようです。面河渓の方に行くと、の原生林も残っていますし、以前は樅もよく出材されていたようなのですが、需要がないと山から出なくなります。やはり、「出口」が大切という事になろうかと思います。

まだ樹皮に枝や葉が付いていましたが、先端が丸く尖っていて触っても痛くないのが樅の葉の特徴です。最近の「ナラ枯れ」で市街地に出没する熊が問題になっていますが、このモミは鹿が樹皮を食い荒らして枯らしていることで問題となっています。動物と人間の共存は繊細なバランスの上に成り立っているので、少しそれが崩れただけでどちらかに偏りが生じます。それを思えばよくぞここまで成長した樅、理由があって伐採されたモノですが、これだけの高齢木を粗末にしては罰が当たります。骨までしゃぶって使わせていただきます。

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樅の天運、我にあり*

先日紹介した「の巨木を製材する日がやって来ました。一番大きな原木は直径1mもあり、一般的な国産材の製材工場では挽けないので、m級の外材を挽ける瀬村製材所さんの所に運んで挽いてもらう事になりました。は決して重硬な木ではありませんが、なにせ伐採直後でしたので水分をたっぷり含んでとっても重たくて、トラックで運ぶのもひと苦労だったようです。しかしここまで運んでしまえば、後はお任せ。慣れた手つきで丸太のセッティング完了。さあ、お楽しみはこれからです!

 

主にテーブル材、カウンター材を狙っているので基本的には太鼓挽きにするのですが、どう鋸を入れるかによって大幅に価値が変わってきます。芯割れに平行に挽けば簡単そうに思われるかもしれませんが、元口(根に近い方)と末口(梢に近い方)で同じ方向に割れが入っているとは限りません。中で割れがどういう風になっていて、どう挽けば一番効率的に良材が取れるかは製材所の腕の見せ所。餅は餅屋、こういう事は専門家に任します。
こちらの希望をしっかりと伝えた後は、(瀬村製材所社長)瀬村要二郎さんにお任せして、こちらは奥に控えてただ祈るのみです。いくらベテランの台車マンといえども完璧に中身が見通せるわけではありませんが、積み重ねた経験は伊達ではありません。依頼者の要望に応えるべく、少し大袈裟に言えば全知全霊を傾けて、最大の木取りを考えてもらうのです。鋸が廻り始めたら余計な口出しは無用です。家造りもそうですが、製材も信頼関係が大切。相手の意思や考えを尊重しなければ良いものは出来ません。
大きな回転音と共に鋸が入ります!一番外側は少し薄めの板を挽いて小割り用に使います。丸味のつくような物は、薄く屑って【木言葉書】【円い森】などに使います。厚みはあるけれども長さの無いものはのかけら【円き箱】に使います。このような多くの『出口』が出来た事で、以前なら手に余していた側材や端材もきちんと計画的なサイズに挽いてもらうようになりました。さあ、ここからが本番です。厚みは55mmと設定。鋸が入ってニューフェースが現れるたびにドキドキします!
おおっ、麗な杢目出て来ました!ある程度のモノが挽ける事は想定していましたが、これは嬉しい誤算でした。想像以上に綺麗な板がたくさん挽けました。節のあるモノもそれはそれで面白いのですが、全てが生節という訳ではありませんので、抜け節や死節が出てくるとちょっと辛いものがあります。また、内部に隠れた洞や傷などがあると一気に価値が下がってしまうので、何とか数枚は綺麗な板が欲しかったのですが、節のあるモノのコンディションも抜群に良かったです!嬉しい~!
節があったり割れがあっても、それはそれなりに使うノウハウはあるつもりですが、原木から挽く場合は、実際に使えるような乾燥した状態になるまでに、割れたり反ったりするリスクが相当にあるので、無節の良材は一種の保険のようなものです。節のある中心部分まで挽くと、反転させてまた側から同じように挽いていきます。芯を含んだ中央部分は少し厚めに挽いて、角物を取ったりします。無事に製材終了。桟積みしてこれから天然乾燥でしばらく乾かせます。なにしろ立派なの木でしたので、端の端まで無駄なくきっちり使い切らねば申し訳ないです。
樅は、クリスマスツリーやかまぼこ板の素材として有名ですが、その温もりのある触感はとても親しみを感じます。その樅を使った葉書】も販売中です。風雪に耐え雄々しく伸びて天に向かうその姿は、太古の昔より信仰の対象ともなりました。忍耐の象徴でもあるモミに大切な日を重ね合わせ、『モミの木も残る記念日』という事で、大切な記念日に思いを綴って贈ってみませんか。【木言葉書】は、1枚¥420(税込)からネットでも販売しておりますご興味のある方は、こちらからどうぞ!

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樅の等高線、準備よし!*

半年ほど前になりますが、愛媛と高知の県境傍で伐採された『樅(モミ)』の原木を仕入れた旨の事をアップしました。考えれば、もうあれかは早や半年が経ったという事です。いつもは、乾燥した挽き材を購入しているのですが、あれ以来急に原木買いの話が多くなり、現在弊社の敷地には、丸太を太鼓挽きにして桟を積んだ耳付の板が何種類も保管されています。生の原木挽きの場合、乾燥の見極めが重要になりますが、私の目安は「いつ挽いたのかを忘れた頃」です!
あの丸太いつ頃製材したかしら?と忘れてしまうぐらい寝かせたので(要するに長期保管してしまっているという事)丁度良いという考えです。あくまでひとつの目安で、実際には現品確認が必要ですが、あまりにその材に執着しすぎると、早く売らねばと焦って乾燥が甘い状態で売ってしまう危険があるので、私にとってはこれぐらいの物差しが合っています。水分含水計の数値よりも、自分の「」の方が最終的に覚悟が持てます。
自分での勘どころで「もう、いける!」と判断したら、それが万が一乾燥が甘くて収縮したり歪んでも、己の力量不足だと自分なりに納得がいきます。当然、そういう事が無いように注意していますが、自然素材相手ですから完璧というわけにはいきません。日々、勘どころの精度を上げる努力に務めているつもりですが、実際に使ってみないと分からないという場合もあります。実験と言えば言葉が悪いですが、良い意味での(?)挑戦者は日々募っています。最初から負けると分かってるような無謀すぎる挑戦はしませんが、そこそこいけるのでは?というぐらいであれば色気が出て、煽(あお)らせていただく事もあります!一生に一度の大切なイベントでそんな冒険は出来ないと仰る方は・・・弊社にはやって来られません。一生に一度の事だからこそ、いつまでも心に残る面白い事をしたい!という挑戦者ばかりが集結されます。
そんな材木屋が一軒ぐらいあってもいいんじゃないでしょうか。さて、半年前の樅に戻ります。たっぷり1年ぐらい寝かせてから提案させていただくつもりでいたのですが、どのぐらいの表情が出るのか試しに1枚削ってみました。2mぐらいの狭い幅の材を取り出してみると、あら?思いのほか乾燥が進行しておりました。樅は針葉樹ですから、天然乾燥でも3、4ヶ月も乾かせば大丈夫という方もいるぐらい乾燥は容易ではあるのですが、想像以上にハイペース。充分に現場で使えるレベルだと思います。
まあ、それでも念のためもう少しは寝かせておきますが、挑戦者が訪れた場合には、そろそろチャレンジカードの1枚に加えていこうと思っています。削ってみるとこれがまたいい雰囲気!のように明確な赤白の差が無くて、ほぼ美白。傾斜地に生えていた高齢木という事もあって、等高線のような複雑で面白い杢目が現われました!交差した池の波紋のようでもありますが、この不規則な年輪こそが、樅が森で生きた履歴書です。着色ノリのする木ではありますが、是非この美白の等高線を満喫していただきたいところです。長さ4m、幅500~800㎜X 厚み50㎜サイズの樅が50~60枚程揃っています。樅はマツ科モミ属で、触ってもらえれば分かりますが、柔らかい木です。それでも全然気にしないというような寛大な挑戦者を気長に待ちます。なにしろ樅の花言葉は、「時」ですから。ちなみに木言葉書は「向上」。
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樅鳥の救世主*

2年前に購入した『愛媛県産の樅(モミ)』がいい具合に仕上がってきました。モミはデリケートな木ですので、耳付きの幅広い板などを乾燥機に入れて強制乾燥させると、大切な化粧面に大きな割れが入り使い物にならなくなる事も多く、取り扱いに神経を使う木です。売り先の決まっている木でもありませんでしたので、今回は人工乾燥ではなく、倉庫の日陰で桟積みしてじっくりと乾かす「天然乾燥」を選択。2年もかけて丁寧に乾かせた・・・いえいえ、知らず知らず時がモミの上を通過しただけの事です・・・。

まあ、そのお陰で乾燥は万全!光沢や艶を損なう事もなく、ほとんど割れも入りませんでした。不思議なもので、こちらの準備が整うと続けてご注文が入ってきたりするものです。今回は珍しく原木から仕入れたので、製材時には大トロ中トロ赤身、中などの仕分けが出来るのが楽しみです。基本的にはテーブルや座卓、カウンターを取るために仕入れているので、耳付きの板に挽きます。そうすると最後に硬くごつごつした外皮(鬼皮)のついたこういうものが残ったりします。

普通ならチップにしてしまうような部分であるかもしれませんが、そんな事をしてしまっては『モッタイナイ』。骨までしゃぶり尽くして使わせていただなければ申し訳ない。そんな気持ちで倉庫の片隅に立て掛けておいたのですが、その存在も忘れた頃に『救世主』が出現!粘り強い鬼皮に包まれ、まだ何者なのかも分からず、所々に虫穴があいているこの木が愛おしいと・・・!そのメシアの正体は小学生の少年。フローリングなどを選びに来られた流れで、倉庫で材を見ていた時、その出会いがありました。

我々が倉庫の奥でご両親と別の材を見ている時に、入口の方で何かが倒れる鈍い音!慌てて駆け寄ると少年の足元にこのモミが!少し足をすりむいていたものの、全然平気と顔色一つ変えず平常心。虫が大好きで、その住処である木にも興味全開。結局それがご縁となって、このモミは少年の部屋のサイドテーブルにもらわれていく事になりました。鬼皮を外し、丁寧に磨き上げ仕上げると、なんと中から1匹の小鳥が現れました!そうか、少年この鳥に気付いていたのか~?!

森の中で木として生きている間、木は自分で自由に動く事は出来ません。その根を断ち切られてからは、製材所、木材市場、材木店、加工所等々いろいろな所に連れて行かれますが、最後に腰を落ち着ける最適な場所にまで我々が導かすことが、川上から川下まで木に携わる人の責任。嬉しそうに完成したモミをいたわるように撫でさすってくれる少年の姿を見ていると、よきご縁に巡り会えた事を感謝するのです。その価値は値段にあらず、その真髄を知るは年齢にあらず。木の鳥、少年のピュアな心に降臨。




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