森のかけら | 大五木材

椋はなっても木は榎*

今日のかけら・#103 【ムクノキ/椋木】 ニレ科ムクノキ属・広葉樹・愛媛産

 

本日こそは純粋無垢に椋の木の話。実は三重に来るひと月まえぐらいにたまたまムクノキ(椋木)はないかという問い合わせがありまして、ちょうど倉庫の奥の方からムクノキの板の山を引っ張り出した。2年ほど前にご縁があって入手したムクノキでしたが、なかなか出番が無くてずっと倉庫の中で眠っていたのですが、声がかかったついでに一部を削って写真も撮って近々『今日のかけら』で取り上げようかと思っていました。立木の写真が撮れたタイミングで書こうと思っていたら、三重で思わずそのチャンスが巡ってきました。

ムクノキはニレ科なのですが、同じニレ科の『エノキ』と特徴がよく似ていてよく混同されるので、『椋はなっても木は榎』あるいは、『椋の実は成れば成れ、木は椋の木』という諺があるほど。意味は、「椋の実がなっているにも関わらず、この木は榎だと自分の主張を絶対に曲げない強情な様子」の例えです。嗚呼、偏屈材木屋としては耳が痛い!そこまで似ていると言われるにも関わらず、地域性の問題なのかもしれませんが、そこそこ知名度のあるエノキに比べ愛媛ではほとんど話題にもならないムクノキ。

材木屋の中には、その存在すら知らずムクノキの事を尋ねると、「ムクノキって樹種名じゃなくて無垢のことでしょ?」なんて怪訝な顔をする人もいるぐらいで、私の周辺に限っては樹種としてのムクは非常にマイナーな存在です。私自身もムクノキはたまたま入手できただけで、四半世紀を超える材木屋人生でも「ムクノキ」の注文が入ったのは2,3度しかありません。その用途としてもっとも有名なのは、靭性(じんせい)が大きく避けにくい特性を生かした天秤棒。他にもショベルや工具の柄などがあります。

ただし言葉としてのムク(椋)には昔から親しみを覚えています。それはこの漢字のつく苗字・小椋(おぐら)姓がたまたま愛媛に多いということと、子どもの頃から本を読むのが好きだった私は『椋鳩十(むくはとじゅう』の動物ものをよく読んでいたから。当時はその意味も分からなかったもののインパクトのあるその変わった名前が妙に目と耳に残りました。それで今回この事を書くにあたって、子どもの頃の疑問が気になって、どうしてこんなペンネームを用いたのかを調べてみたくなりました。明日に続く・・・

椋鳩十と木地師の小椋さん*

生前の椋鳩十氏本人から聞き書きしたという明治図書の『椋鳩十のすべて』によると、「山に住んで木製の日用器具をを作る木地屋を主題に書こうと思っていたから、木地屋にちなんで椋という姓をつけた。平安期以来、木地屋の総本家は小椋(おぐら)と名乗ってきたが、椋(くら)を「むく」と読ませたわけだ。名前の『鳩十』は、椋の木には鳩が十羽ぐらいとまるだろうという程度のいい加減なことで・・・」らしい。ただしそのペンネームをつけるのに一か月も悩んだともあるので、相当に思いの込められたもののようです。

子どもの頃はよく読んだものの、タイトルや中身まで覚えてなくてそのインパクトのある名前の方が記憶に残ったわけで、それはある意味のマーケティング戦略であったかもしれません。名前の由来は分かったものの、それでまたまた気になることが。「木地屋の総本家は小椋と名乗ってきた」という一節。それは木地師はムクノキ(椋木)を使っていたということを意味するのではないだろうか?木地=椋というのが、ピンとこなかったのですが、これまた調べてみなければ、と文献を紐解けば興味深い事実が分かりました。

まず『ムク』という和名は老木になると樹皮がパリパリと剥がれることに由来しているとされます。学名の種小名aspera(アスペラ)は「ザラザラした」とか「粗面」を意味しているように葉面がザラザラしているので、トクサの代用として木地などの仕上げ磨きに乾燥させたムクの葉が使われました。材を磨くの用いたので木工(もく)が転化してムクになったとも。材が緻密で粘りもあることから、木地の原料にもなってでしょうが、最終的な仕上げに使われていたことで木地師にとってはより重要な特別な木だったのでは。

そこから木地師は小椋と名乗るようになったのではないでしょうか。推論の域を出ていないので機会があればもっと調べてみたいと思います。それとは別にムクノキの名前の由来とされるのが、ムクドリがこの実を好んで食べるから。つまり『ムクドリの好きな木=ムクノキ』という説。しかしそうなると、ムクノキよりもムクドリの命名が先である必要があるのですが、鳥の名前の由来までとなるとさすがに畑違いなのでここでは「剥く説」を支持しておきます。使ったことはほとんどないムクノキですが、かなり興味が湧いてきましたぞ~!




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