森のかけら | 大五木材

今日のかけら101

【ミズナラ】

 水楢

ブナ科・コナラ属・広葉樹・愛媛産

学名:Quercus crispula Blume

別名:オオナラ(大楢)

 英語名:Japanese oak

    気乾比重:0.67

 

真打登場・森の王様ミズナラの一枚板①*

 

3月に耳付きの一枚板への問い合わせが集中したのですが、そのうちの一枚がこちらの旭川産の『ミズナラ(水楢』です。本日はそのミズナラそのものの話ではなく、テーブルになっていく工程をご紹介しようと思って過去のブログを見直してみると、なんとミズナラをまだ『今日のかけら』で取り上げていなかったことに気がつきました!これと同じような事を何度も書いていたのですが、そのたびに先送りしてしまいました。という事で今更ではありますが、『森の王様』の異名を持つミズナラの木についてお話させていただきます。

ミズナラは今までにもこのブログに何度も登場してきましたが、あまりにメジャーし過ぎるので、つい後回しにしてしまいました。それほどまでにミズナラの知名度は高く、家具材としても人気です。しかし今でこそ弊社の倉庫のあちこちにも置いてあるミズナラですが、若い頃の私にとってミズナラは決して身近な木ではありませんでした。ナラそのものの存在は勿論知っていたものの、それは突板として家具になった「加工されたナラ」の姿で、まだ「普通の材木屋」であった大五木材には、無垢の一枚板のミズナラは遠い存在でした。

なぜなら地元の木材市場にミズナラが並ぶこともありませんでしたし、ナラの丸太を見る機会もありませんでした。当時の私にとってミズナラは本や写真として遠くで見る木であって、実際に取り扱う木ではありませんでした。私が入手した頃はホワイトオークなどの北米材の取り扱いもなく、実際に販売用の木材としてのナラ類を手にしたのはそれから数年後の事です。勿論私の実家の野山にはナラの木は沢山生えていましたが、材として手に入ることがありませんでした。用材としてのナラは北海道や東北あたりでしか得られないものだと思い込んでいたのです。

今でもこちらからオーダーしなければ愛媛の木材市場にナラの丸太が並ぶことはほとんどないのではないでしょうか。注文したとして、ナラの丸太が得られるとも限りません。それぐらい縁遠かったナラでしたが、県外の市場に赴くようになってから、珍しさや嬉しさもあって一時期貪るように買い漁りました。しかし、それまでは取り扱い樹種の多くがヒノキスギ、ベイマツ、ベイツガなどの軟らかい針葉樹一辺倒で、硬めの広葉樹を扱ったことが無かったので、その保管方法すら分からず、ねじれたり割れたりと、かなりの授業料を支払ってきました。明日に続く。

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真打登場・森の王様ミズナラの一枚板②*

若い頃に北海道に連れて行ってもらって初めて北海道産のミズナラを見ましたが、その圧倒的なボリュームに感動しました。当時はまだ『道産楢』というブランドは相当に魅力的でしたが、その後高齢木のロシア産、中国産のナラに市場を凌駕されてしまいました。愛媛にもロシア産、中国産のナラの挽き板が入ってくるようになるに合わせて、弊社にもナラ指定の家具の注文が入ってくるようになり、沢山の家具などを作ってきました。まだまだ300㎜を越えるような幅広の材も容易にはいっていたため木取りしやすいという使いよさもありました。

その後、輸入ナラの供給が不安定な時期もありましたが、やはり家具の世界では看板選手として業界を引っ張っていきました。ロシアや中国からナラが入りにくくなると、北米産の『ホワイトオーク』がその代替材として使われるようになりました。ホワイトオークの方が重く硬いものの雰囲気がとても似ているので、その時期にナラからホワイトオークに移行された工務店さんも沢山いらっしゃいました。価格も問題もあり、弊社ではかつてミズナラが占めていたポジションはすっかりホワイトオークに譲ってしまいました。

それでもやっぱりナラが好きというナラファンも多いので、地元愛媛の山元にもお願いして、ミズナラの原木が出た場合に分けていただくようにしています。手に入ったとしても乾燥までにかなりの時間を要するために、材として使えるようになるまでには天然乾燥だと2,3年ぐらいは覚悟しています。こちらは8年ほど前に挽いた久万高原町産のミズナラ。直径500㎜程度の丸太を50~60㎜ぐらいの厚みに挽いてジワジワ乾かせてきました。割れやピンホールもあったので、このまま一枚板としてというよりも脚材などに小割して使います。

愛媛の森から出てきたミズナラ。そのまま一枚でテーブルになるような巨木は望むべくもありませんが、身の丈に合った用途に使っています。まあまあ大きいものでねじれの少ないものは、奥行きのあまり必要でないカウンターなどに、ねじれや反りがあるものは小さく割り返してテーブルや座卓の脚材に、さらにもっと小さなクラフト細工などに。こちらの『カラコロ木琴』は、愛媛産のミズナラで出来ています。中にビー玉を入れたり、マレットで内部を回すように叩くとカラコロと優しい音色が響き渡ります。硬いミズナラならではの音色。明日に続く・・・

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真打登場・森の王様ミズナラの一枚板③*

ヒノキスギなどでも試しましたが音の響きが違います。他の木ではミズナラのような深いみのある音がしません。最初は家内に頼まれて半ば疑心暗鬼で作ったものの、その乾いたような音の響きに魅せられていきました。大きな割れもあったりするので、小さく割り返すにも抵抗も少なく、小さなものまで使えるのでロスもほとんどありません。しかも丈夫で耐久性もあるため、子供の荒っぽい扱いにも耐えられます。硬質なナラならではこういう材の適性をうまく生かした出口が見つかると嬉しいだけでなく安堵感もあります

とはいえ、そこそこ大きなものでコンディションもいいものはさすがに小割せずにそのまま使います。例えば2ⅿ以内で幅が300~400㎜ぐらいであれば愛媛のナラの一枚板で家具を作ることも可能です。ただしまだまだ原料が少なくコンディションのいいものばかりというわけにはいきません。割れや虫穴、青染みなど脛に傷のあるようなものも多くあります。普通の木であれば明らかに「欠点」扱いされるそれらの特徴も、ナラの場合は味わいのある「キャラクターマーク」に昇華できてしまうところもこの木の魅力のひとつだと思います。

それはもののとりようと思われるかもしれませんが、そういう傷や割れ、虫穴すらも表情のひとつ、いやもっと格好良く言えば、それらは『森の履歴書』であるとと言い切っても過言ではないほどに、長生きしたミズナラの表情には深みと味わい、そして厳かなまでの説得力があるのです。さて、ここで前述の旭川産のミズナラに登場していただきましょう。長さは2400㎜、幅は900~1000㎜、厚み48㎜のキングサイズ!北海道から愛媛に移り住まわれて既に15年が経過。一緒に移住した兄弟たちの多くはもういません

残ったのはこの2枚のみ。いずれの体にも大きく深い傷が刻み込まれています。北海道の森でどう生きてきたのでしょうか。まさかその後はるばる愛媛の地にまでやって来ようとは思ってもみなかったかとでしょう。そんな彼らにも日の当たるチャンスがやって来ました。年明けからキングサイズの一枚板のテーブルを作りたいという話が同時期に3,4件舞い込みまして、その都度彼らもオーディションに参加してきましたが、その中のあるご夫婦の目に留まりこのままダイニングテーブルとなることが決まりました。巡って来た15年目の春!

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真打登場・森の王様ミズナラの一枚板④*

 

旭川産のキングサイズのミズナラの一枚板、恐らく100年はゆうに超えていると思われる巨木から伐りだされた一枚です。兄弟であるもう一枚の体には、伐採時についたであろうチェンソーの跡も生々しく残っています。これだけのサイズとなると愛媛の森では太刀打ちできません。やはりそこは北海道のスケールの大きな大自然からの産物。そんなミズナラの名前の由来ですが、落葉広葉樹でありながら葉っぱが落ちにくいことから、枝先に残った枯葉が寒風に揺られて擦れ合って鳴る(ナル→ナラ)様子から命名されたとの説があります。

他にも「日本書紀」によると、崇神天皇の時代に官軍が草木を踏みならしたところを「なら山」と名付けたとあるように、ナラという語源には「平ら」という意味があり、葉が広くて平らなナラの名前となったという説もあります。ミズナラのミズは、文字通り「水」の意味で、この木が多量の水分を含んでいて、簡単には燃やせないということから命名されたとされています。ナラの仲間にはコナラナラガシワなどもありますが、一般的にナラというと、このあたりではミズナラの事を指しています。

そんなミズナラですが、木目がくっきりしていて力強く雄々しいことから男性に好まれる傾向にあります。キングサイズともなるとかなりの重さですが、15年間の乾燥を経てかなり軽くなりました。それでもこの大きさですから動かすには当然ふたりがかり。ほぼこのサイズのままで脚をつけてダイニングテーブルにすることになったので、裏面から脚の位置を確認。弊社ではテーブル一台ずつオーダーメイドで作っていくため、こうやって脚の位置や大きさなども一枚ずつ天板に合わせてバランスを考えます。

脚の位置や大きさが決まったら早速加工に入ります。加工してくれるのは弊社の懐刀である『ZEN FURNITURE』の善家雅智君。おおよその見立てが出来たら後は阿吽の呼吸で仕上げていきます。今回のミズナラは中央部に大きな割れが入っていましたが、敢えてそこを埋めたりせずに豪快にそのまま取り入れた仕上げとなりました。森の履歴書でもある割れの部分がこのミズナラに味わい深い表情を与えてくれています。その醍醐味部分をしっかり触ってもらえるように鑿で丁寧に整えます。明日に続く・・・

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真打登場・森の王様ミズナラの一枚板⑤*

天板が仕上がったら最後は植物性オイル+蜜蝋ワックス拭き仕上げ。鉄脚が付いて仕上がったのがこちら。中央に走った大きな割れも、豪快な流れ節も、このミズナラに力強さと唯一絶対の個性を与えてくれています。中には節や割れが許せないとか、許容出来ないという方もいらっしゃいますが、弊社の倉庫にあるのはそういう木ばかり。私自身がそういう木の表情が好きだし、それを個性だと感じているので、あえてそういう木ばかりを選んで仕入れています。なので自然とご来店される方にも感染。

もちろん欠点の無い無節の木も嫌いではありませんし、ある意味でよくぞそこまで綺麗に成長したなと感心するものの、生来のひねくれ者ゆえ万人が認める絶対的な価値に対する反発心みたいなものがありまして、節ひとつ無い優等生のような木には何か物足りなさを感じてしまうのです。欠点の無い事、それこそがある意味欠点でもあります。自身の人生を投影した、完璧なモノに対するひがみ、ねたみなのかもしれませんが、やはり私は節や割れ、傷のあるような板にこそ木の魅力を感じてしまうのです

ぬくぬくと育った優等生の無節の板からは発することのない、ワビサビのような味わい深さは、森で雨風や小動物、昆虫たちと格闘して刻まれた節や割れ、傷などの爪痕からこちらの想像力を大いに掻き立てながら滲み出してくるのです。酸いも甘いも嚙み分けたような老獪な味わい深さがたまりません。映画でも完全無欠のスーパーヒーローよりも、心に闇のあるような脇役に惹かれたりするのです。古い例えで恐縮ながら、アーネスト・ボーグナインとか ウォーレン・オーツ、ロバート・デュヴァル等々。

話が映画の方に逸れそうなので戻します。きっとそういう自分自身の中の反骨心というか反発心みたいなものが、木の節や割れなどがあって『欠点』とか『B品』なんていう表面だけしか見ない薄っぺらい世間の評価に対する怒りのメタファーとなっているのだと思います。人は誰も理想通りには生きられませんが木とて同じこと。そこに芽吹いてしまえば、いかに過酷な環境だろうがそこで生きていくしかない木。その木たちが必死にもがいて刻まれたしるしの中こそかえがたい魅力があると思うのです

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真打登場・森の王様ミズナラの一枚板⑥*

昨日までテーブルの一枚板としてもミズナラについての話でしたが、粘りがあって逞しいミズナラはフローリングや家具以外でもいろいろな用途で活躍しています。以前は厚み30㎜前後の耳を断った平板としても仕入れていたので、造作材なども利用していましたが、品質の良いものは価格が高騰したのと安定供給の問題で、そのポジションは北米産の『ホワイトオーク』に取って替わられました。大きな一枚板が必要な場合は、やはり北海道や東北、岐阜の市場などから仕入れることになります。

小さなものでよければ、地元の久万の山からも少しは出てきますので、製材所に丸太で仕入れてもらい耳付きの板に挽いて使っています。曲がり木も多く、家具などに使うには難しいものの、小さくカットして使うには十分。小さくとも曲がり木であろうともミズナラに違いはなく、例えばこういう『木の球』に加工すれば、ヒノキとは比べものにならないズシリとした重みが感じられます。木同士がふれあった時の力強い音もミズナラならでは。前述した『カラコロ木琴』をはじめ音色も楽しめます。

昔は床材、家具材としてしか見ていなかったため気づいていなかったのですが、ミズナラの魅力は小さくしてもその特性が失われにくいことにあります。小さなモノにも虎斑(トラフ)が現れたりと表情豊かで、子供たちにも「木らしさ」がよく伝わります。ヒノキやスギの針葉樹の切り取った柾目部分だと、木とは感じない子供もいたりしますが、ミズナラだとさすがに子供にも「木感」は理解できるようです。またそのしっかりした重さからも掌で木を感じているのだと思います。

節や割れだけでなく、虫に喰われる事も多いミズナラですが、最近はその虫穴も含めて『木の醍醐味』と理解して、それらも自然体で受け入れたいただく寛容な人も増えてきています。むしろそういう部分を取り込んだものが欲しいというリクエストもあったりして、木に対して求められるものは随分広がってきたと実感しています。だからこそそれを供給するこちら側が、いつまでも古臭い昔のままの物差しで木をはかっていてはいけないのです。新しき価値は新しい木の中にあるのではなく頭の中、心の中にある




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