森のかけら | 大五木材

今日のかけら035

キハダ

黄蘗

ミカン科キハダ属・広葉樹・岐阜産

学名:Phellodendron amurense

別名:木肌、黄膚、黄肌、黄柏(おうばく)、

シコロ(北海道・東北の方言)

 英語名:Amur Corktree

気乾比重:0.48

 

樹皮、黄なるゆえにキハダといふ*

★今日のかけら・♯035 【キハダ/黄檗】 ミカン科キハダ属・広葉樹・岐阜産

昨日の「黄檗(きはだ)」つながりで木の話。以前にも触れたことが、京都には音読みの「黄檗(おうばく)」という地名があり、関西では「黄檗」を「おうばく」と呼ばれる方の方が断然多いとか。そもそも木の名前はカタカナ表示でするべきで、後付けで当て字の漢字等も多く、1つの種種を漢字で表すと3つも4つもある事も珍しくありません。キハダも、「大和草本」において「黄檗其木の皮黄なるゆえキハダと名づく、ハダ皮膚也」と記されているように、文字通り幹の内皮が黄色いことが名前の由来です。

その樹種が広く全国に広がれば広がるほど、その用途に合わせて名前も生き物ですからドンドン変化しくのも当然のことと言えます。キハダの場合は古来から染料や薬用植物として重用されてきたため、その色味を現す漢字が充てられたのだと思います。「黄檗」、「黄蘖」、「木膚」、「木肌」などの漢字が使われています。中国においてはキハダを使って染めた衣服は黄衣(おうえといって位の高い者の着衣とされてきました。アイヌでも伝統的にこの黄色い布が利用されてきたようです。

またキハダの染料で染めた麻を使った紙は虫害を防ぐことから、昔の戸籍謄本や写経用の紙などに「黄(檗)紙」として使われてきた歴史もあります。黄色いといっても樹すべてが黄色いわけではなく、コルク質の分厚い樹皮の下の内皮が黄色いのです。魚のキハダマグロも見た目の色合いからその名が付いています。厚みのある外皮はら、英語では『コルクツリー』と呼ばれていますが、コルクガシと区別するために『アムールコルクツリー』と呼ばれることもあります。アムールとは中国からロシアに広がる大河・黒龍江。

キハダは日本、中国、韓国などアジア周辺に分布していて、中国では古来から伝統的に万病の薬としても使用されてきたようで、日本でも昔から胃腸薬として重用されてきました。キハダの内皮の煮汁とミズキの葉を水で煮詰めた『陀羅尼助(だらにすけ』のほか、『熊の胆(い』などの原料としても利用されています。樹皮には苦味があり冷却作用があることから下痢や赤痢などにも有効だとか。そういう特徴から作り出したのが、こちらの『薬になる木の5かけら』です。明日は『キハダ』の材としての用途などについて。

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気になるキハダ*

さて今日は『キハダ』の材としての特徴について。昨日キハダの英語名が『アムールコルクツリー』であると書きましたが、その北限はロシアのアムール、ウスリー地方で、朝鮮半島、中国北部に分布する北方系の木ですが、いくつかの変種まで含めると、日本の九州地方まで分布が広がるようです。学名である『Phellodendron amurense(フェロデンドロン アムーレセン)』は、「アムール地方のコルクの木」という意味があるようです(Phellosがコルク、 dendronが木の意)。

私自身はそれほど大きなキハダを見たことはないのですが、比較的成長の早い木で大きなものになると胸高直径1m、樹高25mになるものもあるとか。私が扱ったことのある最大のものは、幅が600~700㎜程度の挽き材。見た目の印象は、少し柔らかなケヤキといったところでしょうか。内皮は黄色いのですが、材は単調な黄色ではなく芯に近い方は茶褐色で辺材は白身です。径級の小さな丸太でも白身部分はわずかです。時にケヤキに似たような『玉杢』も現れたりして、雰囲気のある材だと思います。

さて、キハダは昔からその色合いを利用して社寺建築の彫刻材や看板の彫材などに使われてきました。クワケヤキクリなどと同じ環孔材なので、その代替材という扱いが多いようですが、指物や茶箪笥、鏡台などにも使われてきて歴史があります。また杢目の面白いもは、床框や落とし掛け、床柱など和室の床の間材に意匠的に使われることもあります。ただそれほど多くの量が流通しているわけではないので、一般的にはキハダを目にする機会は薬用素材や染料ほどは多くはないと思います。知名度においては、材というよりも薬用としての方が高いかもしれません。

森のかけら】で日本の木が並んだ中においても、黄緑色のキハダは異彩を放っています。ケヤキやクワの代用としてではなく、キハダらしい用途を考えねばと思っています。私自身も今までには棚板やカウンターぐらいでしか活用していなかったのですが、今ちょど小幅のキハダも入荷していますので、その出口を検討中です。建築・家具材というよりも小物・クラフト分野で可能性が見えそうです。「薬」も切り口としては面白そうです!

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黄檗の寺から伝えし木魚*

この2日間、『キハダ』について書かせていただき、先日の「骨まで食べられる魚」の話の最後に少しだけ「木魚(もくぎょ」に触れたのですが、実はこのキハダと木魚は遠からずご縁があります。木魚の代表格の木といえば『桑』の木で、『今日のかけら』の『山桑』の項目の際にも木魚について少しだけ書かせていただきましたが、今日はその「木魚」の事について改めて木魚を考えてみます。木魚は読経の際に使われる仏具・楽器ですが、そいう宗教的背景には疎いので偏った話になりますがご了承下さい。

まず木魚が日本に根付いた歴史ですが、今から350年ほど前の江戸時代初期に中国から30人に弟子を連れて日本にやって来た隠元(いんげん)禅師によってもたらされ、その後禅宗各派をはじめ各宗にも広がっていったとされています。隠元禅師は、中国は福建省の出身で、福建省にある黄檗山萬福寺(まんぷくじ)の住職でした。当時中国は明代末期で国が荒れていたため、その騒乱を避ける意味もあり、日本からの要請もあり来日し、時の将軍・徳川家綱の知遇を受け京都の宇治に萬福寺を築きました。

中国でもキハダの事は『黄檗』と表わし、本家の中国の萬福寺では寺の周辺に多くにキハダの木が生い茂っていたところから、宗門の人たちが「古黄檗(こおうばく)」とも呼ばれていたそうです。そこから隠元禅師が日本で開山した萬福寺のある地も黄檗山と呼ばれるようになったとか。この隠元禅師が日本にもたらしたのは宗教、木魚だけではなく、隠元豆(いんげんまめ)などもあるようです。つまり中国のキハダの寺の住職が来日して日本に持ち込み全国に広めたのが木魚のルーツなのです。

しかし宗教的な解釈(静かに読経を聴きその意味を考えることを邪魔する)から一時禁令が出ましたが、木魚のリズムが精神統一を促したり、布教活動の手助けとなる、その柔らかい音色が安らぎを与えるなどの理由で再び使われるようになり、現代にまで伝えらています。ではなぜそれが木魚と呼ばれているのかという事ですが、魚は夜でも目を閉じて眠らないことから、昼夜起きて覚醒していると考えられ、修行中のお坊さんも木魚を叩くことで眠らずに修行に励むという意味だそうです。こちらは萬福寺の魚鼓(ぎょく、または魚ほう

明治時代頃までは、木魚は文字通り魚の頭と尾が刻まれていたそうですが、「鯉の滝登り」に由来するようです。「龍門へと続く黄河はとてつもない激流で、魚が遡上しようとしてもあまりの激しさに多くが死に絶えてしまうのですが、鯉だけは川を登りきり、最後には龍になる」という伝説から、木魚の魚も龍の彫刻に変化していったというのです。それで現代では、二匹の龍が玉を争う姿などが彫られています。奇しくも今日は東日本大震災から1年。鎮魂の意味も考える1日です。明日は木魚の素材について。

 

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森の魚、アート大河を遡上!*

本日は木魚の素材についてです。今までにこういう仏具を作った事はありませんが、一般的に木魚に材として適しているといわれているのが『クワ』、『クスノキ』、『カシ』、『カリン』など。地域によっては『イチョウ』や『ホオ』なども使われています。中でも最高級とされるのがクスノキだそうです。それは音色や杢目のの美しさなどが主な理由でしょうが、樟脳の成分を含むことから太古の古より神への供物などにも使われてきた歴史があるので、もしかしてその影響もあったりするのでしょうか?

隠元禅師が開山した本家の中国の萬福寺には、寺の周辺に多くに『キハダ』の木が生い茂っていたという事ですが、もしかしてそのキハダから木魚を作ったりした、そのために植えていたのではないかとも勘繰ったのですが、いろいろものの本を調べてみても「キハダで木魚を作った」という記述に辿り着けませんでしたので、どうやらそれはゲスの勘繰りというものでしょう。木魚として材に求められる必要条件は、乾燥と品質(節や芯去りで木目が緻密)と音色でしょうから、あまり俗っぽい考えでは駄目ですね。

国内での木魚の生産量は愛知県が『木魚の生産量日本一』で全国シェアの70%を占めていて、中でも一宮市が圧倒的に多いそうです。それでも木魚職人と呼ばれる方は全国でも20名ほどしかいないとか。いずこの産業も後継者問題は深刻です。やはり外国産の廉価な木魚が業界を席捲しているようですが、国産の伝統的な工芸文化も頑張って継承していただきたいものです。仏具ですから底辺は広いのでしょうが、一般の家庭でのなら買い替えは少なそうですしどの家にも仏壇があるわけでもありません。この『出口』もかなり狭小かもしれません。

しかしそういう分野にこそ意外な『けもの道』が隠れていたりするものですから、予想もしない『出口』とかがあるのかもしれません。仏具ではありませんが、『彫刻欄間』も同じような境遇にあります。凝った彫刻のになるとやはり国産のものが求められるようですが、今後はアートやインテリアとして別の『出口』もありだと思います。昨日万福寺の「魚鼓」(ぎょく)をアップしましたが、こちらは永平寺の魚鼓、これぞまさしく芸術作品!覚醒した魚は森から生まれて、再び川を遡上し悩める森の救世主となるのではないでしょうか!

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不意打ちの黄色・キハダ*

弊社の倉庫に木を探しに来られて、ご案内させていただく時に強いインパクトを与えることのできる木がいくつかあります。例えば、世界で一番重たい木(リグナムバイタ)や、世界遺産の木(屋久杉)、日本でもっとも重たい木(イスノキ)といった、「世界」や「日本」という知的好奇心をそそられるランキングワードで語られる木などです。一方、決して珍しくはないものの一般の方があまり触れる機会が少ない事から、紹介すると予想以上の反応をしていただける木が幾つかあります。

代表的なモノとしては『ニッケイ(肉桂)』。見た目は何の変哲も無い板ですが、その樹皮を剥ぎ取ると、そこからは鼻腔を刺激するシナモンの甘い香りがして、多くの方が驚かれます。そういう風に、見た目的にはインパクトは無くとも、ひと皮剥くと実は・・・的な木は、木の面白さや奥深さを端的に伝えることが出来ることから、私としてはマストアイテムとして欠かせない存在。そういう意味では、この『キハダ(黄蘗)』という木にも、いつもお世話になっております。

材の詳しい特徴や名前の由来については、以前に『今日のかけら』で書かせていただきましたので、そちらをご覧いただきたいのですが、一見すると何の特徴も無い薄汚れた木にしか見えないかもしれませんが、そのコルク質の樹皮を強めに剥ぎ取ると、鮮やかすぎる「黄色」が現れます。あまりの鮮やかさと、元の茶褐色の板の差から、「え~っ!?」という反応を得ることの出来る木です。ハゼノキニガキも黄色い木ですが、それらは材面が黄色いのですが、キハダは内皮部分のみ。

材面は、多少黄色身を帯びてはいるものの、ややくすんだ緑黄褐色といったところで、内皮のような鮮烈な黄色は現れません。経年変化では茶褐色になりますので、キハダという名前に過剰に期待してはいけません。あくまでも厚いコルク質の樹皮の内側が黄色いというだけです。このキハダですが水質に強い事でも知られていて、流し場の板などにも利用されています。それらの特徴を活かして、今回住宅の玄関建具にお使いいただいています。詳細につきましては、完成後に改めてご紹介させていただく予定です。




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