モスキートコーストの闇の奥②

中南米ホンジュラスを舞台にした映画『モスキートコースト』の続きです。最強布陣で臨み、大ヒットが約束されていたはずが、制作費の回収にすら至らなかったのは、ひとえにテーマが重くて、キャストの顔ぶれの割に内容が深刻で暗すぎたため。といって同じハリソン・フォード主演でアーミッシュというアメリカの少数民族にスポットを当てた『刑事ジョン・ブック/目撃者』もド派手なアクションがあるでもない静謐で真面目に地味な内容であったので、これがそもそものスタイル。

 

ベトナム戦争のさ中にアマゾンの奥地に王国を築こうとした『地獄の黙示録』の原作『闇の奥の家族版であるかのように語られることの多い本作だけに、コッポラほどに哲学的でも難解でもないものの、深刻なテーマが敬遠されたのでしょう。興業的は結果はどうあれ、私にとっては忘れがたい作品で、大学生の頃に観たのですが今でも脳裏に深く刻み込まれている場面がいくつもあります。卒業後の進路に漠然としていた当時、ひたすらに自分を信じ突き進む父親の姿は刺激的でした。

 

ここで簡単にあらすじを紹介・・・アメリカの管理された文明社会を嫌悪する発明家のアリー・フォックス(ハリソン・フォード)は、家族六人で中南米のホンジュラスに移住した。そこは、”モスキート・コースト”と呼ばれる未開の密林で、アマゾンの奥地にイノセントな理想郷を築こうとする。栽培用の種を保存するために氷が必要になり、発明家の才能を発揮して巨大製氷器を作り上げたが、ある日から居座りを続けた武装集団を殺害する際に製氷器が爆発、多量のアンモニアが流出しジャングルを汚染してしまう。ジャングルを出て不安定な生活を続ける一家は、信念を貫こうとする父親に振り回されるようになり、家族の信頼関係は次第に崩壊していくのだった・・という内容。無謀な父親と家族との対立と、話は決してハッピーエンドではありません。

 

 

この中で衝撃的だったのは、熱帯アマゾンの奥地に違和感あり過ぎの巨大製氷機の姿!あまりにも無謀で馬鹿々々しく、あまりにも少年のように純真で、あまりにも情熱的でタフな父の姿に感動すら覚えたのです。きっとそこに、強靭な意思は山すらも船で越えるという、男の狂気がオーバーラップして見えていたのかもしれません(フィツカラルド)。こんな馬鹿な事をやる男達の事が羨ましいと・・・思えば私の中に潜んでいた「狂気のかけら」は覚醒を始めていたのかもしれません。続く・・・

モスキートコーストの闇の奥①

20160413 1前置きはいいから、ホンジュラスといったらあれだろ、あれ!という声が聞こえないでもないですが、サラッとスルーして本日は私の心の中のホンジュラスについて。毎度毎度映画の話で恐縮ですが、このブログを書くにあたって改めてホンジュラスの事を調べていて気が付いた事がありました。1982年にポール・セローが発表した小説を元に、ポール〔タクシードライバー〕シュレイダーが脚本を書いた1986年公開(日本公開は1987年)の映画『モスキートコースト』。

 

英語に弱い私は、このタイトルが「モスキート=蚊、コースト=海岸」、つまり蠅の群生するような地名の場所だとばかり思っていました。その頃日本映画でも内田裕也主演の「十階のモスキート」という映画があったりしたもので、てっきりそうだと思い込んでいました。そしたらモスキートというのは蠅のことではなくて、「ホンジュラス・ニカラグアに住むミスキート族が使うミスキート語の”Mískitu”に由来し、昆虫の蚊(mosquitos)から出たのではなくその逆でもない」との事。

 

ミスキート族はモスキート族とも呼ばれることがあるそうで、つまりはミスキート(モスキート)族の人たちの暮らす海岸という意味だったのでした。蚊の海岸って随分思い切った名前だとは思っていたのですが・・・今まで知らずに使ってきてました。別にそんな事たいしたことじゃないと思われるかもしれませんが、大好きな映画だからこそショック!ちなみに監督は前年に魂の小作「刑事ジョン・ブック/目撃者」を発表したピーター・ウィアー。いい仕事を連発してました。

 

ちなみに『モスキートコースト』の音楽を手掛けているのは巨匠モーリス・ジャールですし、撮影は後にハリーポッターやマッドマックス 怒りのデス・ロード を手掛けることになる若かりし頃のジョン・シールという錚々たる顔ぶれだったのです。更に主人公は、当時向かうところ敵なしのハリソン・フォード。その妻にヘレン・ミレン、長男にリバー・フェニックスという大ヒット間違いなしの最強布陣であったにも関わらず、現地でもまさかの大コケで製作費すら回収できずという惨憺たる結果。続く・・・