森のかけら | 大五木材

今日のかけら057

シラカバ

白樺

カバノキ科カバノキ属・広葉樹・北海道産

学名:Betula platyphylla

別名:シラカンバ

 英語名:‎Japanese white birch

気乾比重:0.60

白樺叙情派 第一話*

今日のかけら・#057【白樺/シラカバ】カバノキ科カバノキ属・広葉樹・北海道産

 

ときどき若い設計士や現場監督から、「カバザクラのフローリングありますか?」という問い合わせがあり、その都度「カバザクラという木はない」という説明をさせていただきます。一般的に「カバ」あるいは「カンバ」と呼ばれているのは、カバノキ科カバノキ属に含まれる落葉広葉樹の総称です。一方サクラはバラ科サクラ属の木なので、根本的に違うのですがその色合いや雰囲気など特徴がよく似ている事から業界では昔から混同され、今ではすっかり「カバザクラ」というな名前が定着してしまいました。

そこには、サクラに比べると知名度で劣るカバを売らんかな的な商業的な意思も働いたと思われますが、それによって業界では混乱も生じています。日本におけるカバノキ類の中で主要なものとしては、シラカバ(あるいはシラカンバ)、ウダイカンバ、ダケカンバ、ミズメの4種があります。その他にも【森のかけら】にも含まれるオノオレカンバなど、日本産のカバノキ類は全部で7種あります。その中で四国に住む我々に馴染む深いのはミズメ。そのミズメにもサクラの名が付きミズメザクラと呼ばれます。

一方、四国の人間にとって馴染みが薄いのが『シラカバ』。シラカバは本州の中部以北と北海道に分布しており、短歌や俳句、小説、絵画、歌謡曲などでその姿や名前はよく知っていても、四国にいると実際にその姿を目にすることはまずありません。もしかしたら久万高原町など標高の高い地域に分布しているのかもしれませんが・・・。原木を挽いて製材品となったシラカバの木は今までに幾度も目にしてきましたが、実際に生えているシラカバの木をこの目で見て触れたのはつい最近の事。

今年の初夏に岩手に行った時にシラカバの林に入り、シラカバと初遭遇。以前、長野に行った時にも遠くにシラカバ林を眺めたものの、手に触れるほど近くでシラカバをまじまじと見たのはその時が初めてでした。油分が多いことで知られるシラカバの樹皮は、樹皮細工としても人気があり、私も以前に通販で購入したことがあります。5月中旬から6月中旬の期間は材中に含まれる水分が多くなりシラカバの樹皮を剥がしやすい季節らしいのですが、それはそれはいかにも剥がしてみたくなる樹皮で・・・

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白樺叙情派 第二話*

昨日に続いてシラカバの木の話です。四国においては、その名前に比べて実物を見たことがないという『知名度だけは高い木』ですが、それは学生時代に習った『白樺派』などの影響も強いと思います。白樺派というのは、明治時代に創刊された同人事『白樺』を中心として起こった文学思想のひとつで、主な作家としては武者小路実篤、志賀直哉、有島武郎、里見弴などが知られています。小・中学生の頃はよく本を読んでいて、「小説の神様」とまで言われた志賀直哉の作品はよく読みました。当時は、白樺派がどういうもののかなんて気にもしませんでしたが今気になるのは名前の由来。

同人誌「白樺」の名前の調べてみると、志賀直哉説と武者小路実篤説の2つがあるようで、志賀直哉はよく日光や赤城などの山に登っていて、白樺の木の雰囲気が好きだったのでそうしたと主張していますが、実篤はシラカバの木の白と黒の色の配色が面白いから名づけたのだと主張しています。創刊のメンバーからして主張が違うので、恐らく先に「白樺」という名前が出て来て、それぞれが違うイメージでよいと捉えて納得したのかもしれませんね。確かに名前の響きも色のコントラストも印象深い木です。

そのシラカバは、35㎜角のキューブになっても「個性」が際立ちます。それはあまり歓迎すべき個性ではないのですが、シラカバには『ピスフレック』と呼ばれるカバノモグリバエ(樺の潜り蝿)という虫の幼虫が、木を食害した穿孔跡が、木の年輪に沿って褐色の帯、斑点となって現われるのです。これは決してシラカバだけに起こることではないのですが、特にシラカバには多く見られる特徴で、【森のかけら】が他樹種と混じってしまった時にシラカバを見つける時のてがかりのひとつにもなります。

店舗のディスプレイなどにも使われるシラカバですが、せいぜい【森のかけら】に使うぐらいでシラカバの大きな材や板を購入した事はありません。用材としては軟らかく、せいぜい割り箸や氷菓の匙(さじ)や棒、パルプ材などあまり用途が確定していません。むしろ板としてよりも丸太(そのまま山小屋風の内装に使ったり、輪切りとして花台や飾り台などに使う)や樹皮細工、あるいは観賞用としての方が有用視される珍しい木です。本日は名前や文学の話が中心でしたが、その用途については明日・・・

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白樺叙情派 第三話*

本日は『シラカバ』の用途について。その樹皮に油分が多いことは先に書きましたが、着火材としても使われるほどよく燃える事から、日本に留まらず世界各国でも同様に松明(たいまつ)にも使われます。シラカバの仲間は世界に40種ほどあるとされ、北半球の温帯から亜寒帯に分布しています。ヨーロッパの各地でもシラカバの林は叙情的な光景を見せてくれているのでしょう。着火材としてだけでなく、油分が多いことから非透水性がある樹皮を屋根に葺くという習慣もあるとの事。

古い言い回しですが、結婚式の事を「華燭(かしょく)の典」といい、このブログでも何度か使ってきました。昔の挙式や披露宴は自宅で日が落ちて暗くなってから行われる事が多かったため、祝宴を開く演出のひとつとして絵蝋燭(ハゼの実など植物性の原料で作った蝋燭)を燃やしりしたそうですが、その華やかなともしびの名残として「婚礼の儀式の席上のともしび」の美称として使われます。華はカバノキ(樺)をさしていますから、もっと昔は文字通りカバの皮を松明として燃やし明るくして祝ったのかも。

シラカバの木は典型的な陽樹で、明るく開けた場所を好む木です。山火事など直射日光が降り注ぐ裸地では、他の樹種に先駆けて定着するパイオニア的な木ですが、遅れて定着してきた陰樹に追い越され大木になる事はほとんどありません。シラカバはせいぜい20~30年の短命な木で、直径300〜400㎜、500㎜にもなれば大木の部類に入ります。それもあって住宅資材、家具資材としてはあまり重要視されていません。稀に長寿のシラカバもあるそうですが、そうなる持ち味の白い肌が失せるとか。

四国ではほとんど自生していないためその被害についても聞いたことがありませんでしたが、東北などの自生地ではシラカバの花粉飛散による花粉症も大きな問題となっているそうで、春先になると大量の花粉が飛散し、その凄まじさはスギ花粉を凌ぐとも・・・。その一方で、シラカバの幹を傷つけると滴り落ちる樹液からはシロップや、それを煮詰めた白樺糖、白樺樹液を使った銘菓、白樺樹液100%のお酒なども造られています。天然のミネラルをたっぷり含んだ白樺酒、是非取り寄せて飲んでみようと思います。2014年の『今日のかけら』、これにて完。




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