★今日のかけら・#104 【無患子/ムクロジ】 ムクロジ科ムクロジ属・広葉樹・宮崎産
石鹸と羽根突と御釈迦様①
2015年 1月 21日 水曜日 at 10:33 PM 1. 今日のかけら
『季節モノの木』というものがあって、特定の季節になるとこぞってメディアが取り上げて脚光を浴びるものの、その季節が過ぎると悲しいほどに見向きもされなくなってしまう木、いわば旬ものの木というものがあって、そのうちの1つを毎年毎年この季節に紹介しようと思いながらいつもいつもタイミングを逃してきました。今年も既に1月も後半に差し掛かり旬ではなくなったものの、滑り込みで今年はご紹介させていただきます。
それが、ムクロジ科ムクロジ属の『無患子(ムクロジ) 』。この少し変わった名前は、「患わ無い子」とも読み取れ、何だか縁起のよい名前のようにも思われますが、古来に中国大陸から渡来して、漢名の音読みが変化してこの名前になったとされています。その由来はいくつかの説があって、無患子(ムカンジ)がムクロジに変じたとか、同科のモクゲンジの漢名『木槵子』が誤って使われた説などありますがいずれにせよ字音に由来します。
高さ20m程度の落葉高木で、寺社の境内などに植栽されていますが、山中ではほとんど見られることがないようです。果皮にサポニンを含んでいて、泡立つことから物資の少ない時代には石鹸の代用品として選択や洗髪にも利用されてきました。英語名は『ソープナッツツリー』で、海外でもエコロジカルな天然素材の石鹸として親しまれています。果実にはサポニンが多量に含まれているため、鳥や虫に食べられることもありません。
そのため農薬などを使わないで収穫出来る事からナチュラルな石鹸として人気もあるようです。ではなぜこの木が1月の季節モノの木なのかというと、秋に熟した20〜30㎜の球形の果実がつくのですが、それが正月の風物詩・羽子板の羽根の玉に使われてきたからです。まあ正月に羽子板というのも今やすっかり過去のもので、テレビの中で演じられる昔の正月遊びになってしまいましたが、そこには先人たちのある思いがあったのです・・・
石鹸と羽根突と御釈迦様②
大きさや重さがちょうどよくて、身近に手に入った事から使われてきたのだと思うのですが、中国から伝わったムクロジが沢山植栽されていたのか、あるいは寺社などに立派な巨木があって充分な実の供給力があったのかもしれません。形もよかったのでしょうが、同時に『子が患わ無い』という事と、羽根の形が病気を運ぶ蚊を食べるトンボに似ている事からもで、無病息災の縁起物、お守りとして親しまれてきたという背景があります。
今でも女の子が生まれると初正月には羽子板を贈るという習慣が残っている地域もあるそうですが、都会では羽根突をする場所すら確保するのが難しい状況で、季節の風物詩が姿を消していくのは寂しい事ですが、数年前に正月に家族で松山城に上った時に、羽子板や独楽(コマ)などの昔の正月の遊び道具が置いてあり、戯れに子どもと遊びましたが、伝統文化を残していく事にも並々なぬ努力がいるものです。
羽子板の羽にムクロジの実を使うという事は知っていたものの、恥ずかしながら実際に立っているムクロジを見たことがありません。【森のかけら】に使っているムクロジは、製材した後の小さな部材なので、ちょっと肌目が粗くて黄色い木というぐらいの印象でしかありません。多くが植樹した木という事なので、大木はあっても伐採する事は少ないのでしょうし、木材市場で流通する事など滅多にないのではないかと思われます。
国内の分布としては、茨城~新潟よりも西、四国や九州、沖縄などに植栽されているそうですが、【森のかけら】を作っていなかったら、私もムクロジに出会う事も無く、気にも留めなかったかもしれません。材はなかなか手に入らないモノの、実の方はよく利用されていて、数珠の原料としても重宝されています。その起源は、お釈迦様だそうで、自らムクロジの実を108個を繋いで数珠を作って弟子たちに配ったととか。
その際に、御釈迦様は「もし、煩悩・業苦を滅し去ろうと欲するなら、ムクロジの実、百八個を貫き通して輪を作り、それを常に持って行住坐臥に渡って一心に佛法僧三宝の名を唱えてムクロジの実を一つ繰り、また唱えて実を一つ繰るということを繰り返しなさい。そうすれば煩悩・苦行が消滅し攻徳が得られるであろう」と仰いましたので、煩悩多き人間としたは材よりもまず実を集めねばならぬようです・・・。
★今日のかけら・#059 【神代杉/ジンダイスギ】 スギ科スギ属・針葉樹・秋田産
鳥海山の不死なる神代杉①
少し前にこのブログで、映画『八甲田山』の事を書いた時に『秋田富士』あるいは出羽富士とも呼ばれる名山・鳥海山に少しだけ触れました。本来はそのタイミングでご紹介しようとも思ったのですが、主題の高倉健さんから更に話が逸れそうでしたので敢えてその時にはスルーしました。改めまして本日はその鳥海山のめぐみである「神代杉」についての話。多くの動植物にめぐみをもたらす鳥海山ですが、そのめぐみの一片が弊社の倉庫にも・・・
本家の富士山にも劣らぬ美しい姿を誇る鳥海山は標高2236mで、東北を代表する名山ですが、富士山同様に活火山であり、過去に幾度も激しい噴火を繰り返してきました。太古の昔、轟音とともに空を噴煙が覆い太陽の光をさえぎる。火砕流や溶岩流れが田畑を押し流し、大小の岩石が飛乱。獣は恐れおののき鳥は狂ったように啼き叫び、火山灰が降り注ぎ、いつ終わるとも知れぬこの世の地獄のような光景は神の怒りに思えたことでしょう。
その一方で神のご乱心は、数百年後の時代に思いもよらぬ「めぐみ」をもたらしてくれます。それが火山の噴火で地下深くに閉じ込められた木、いわゆる『土埋木(どまいぼく)』です。後世の時代に道路工事などで掘り返され、数百年の眠りから覚めたタイムカプセルの木。地下水の影響などで、もはや木であって木でないモノに変化した『生ける化石』は、数百年ぶりに大気に触れる事で、急激に変形したり収縮、暴れ、割れます。
もはや人間のコントロールできる範疇を越え、神の領域に達したそれら土埋木の中でも特に色合いが美しかったり趣きのあるものは、『神代(じんだい) 』と呼ばれます。誰が名づけたのか、まさに神の世界からやってきた不死なる木。有史以来幾度となく噴火を繰り返し、多くの神代木を生み出してきた鳥海山は、神代木産出の山としても知られており、市場などにもわざわざ鳥海山の名前が冠して出材されるほどの一大ブランドなのです。明日に続く・・・
鳥海山の不死なる神代杉②
立派な神代木を山ほど在庫して全国へ流通されている大きな銘木屋さんならいざ知らず、基本的に愛媛を商圏としている弊社のような零細材木屋にとっては、高価な神代木の大物は高嶺(高値)の花。『神代』というのは、タイムカプセル形容詞なので、いろいろな樹に対してその冠はつくわけで、神代欅とか神代楢とか神代栗とかいろいろあるわけですが、同じ神代の中でも広葉樹に比べると針葉樹は比較的出土後の暴れっぷりは少ないです。
スギやヒノキの場合、ケヤキなどのように大暴れしたりねじれまくる事は少ないものの、収縮、割れ、腐食は多く見受けられます。そんな神代杉の板材を幾らか在庫しています。木であって木でなくなっているため、強度や精度の安定性は望むべくもなく、あくまでも装飾的な用途に使わせていただくのですが、その一部は【森のかけら】として再生させてもらいます。そんな場合は、ザックリ割れとか入っていた方が諦めもつきます。
もう【かけら】意外に用途が考えらないようなコンディション(割れたり反っていたり)であれば、私のモッタイナイレーダーにも反応が薄いのです。神代木に関して言えば、弱い部分は土の中で既に腐食してしまっているので、耳の辺りは大体ボロボロ。その付近について言えば【森のかけら】こそが無駄なく骨までしゃぶって使い切れる商品サイズなのです。そういう時は、「小さなサイズの商品」を作っておいて良かったとつくづく思います。
どこにどれぐらいの期間お眠りになっていらいたかという事で、地下変化の仕上がり具合も千差万別ですが、神代木を名指しで来店される方は稀で、中でも『鳥海山ブランド』で辿り着かれるケースは余程のマニア!本当に来られたとしても、ご希望のサイズを作り出すことは出来ませんし、探せば足元を見られて高くなる世界。『今ここにある現物』に要望を合わせていただく寛容さを持つことが神の木と対峙できる前提条件なのです。






