森のかけら | 大五木材

岡山の山梨の話

★今日のかけら・#081【梨/ナシ】バラ科ナシ属・広葉樹・宮城産

大銀杏も拝んで、広葉杉も写真に収め、菩提寺を後にしようとしたところ、山門の傍らに1つに木とその標識が目に入りました。そこには「奈義町指定の)天然記念物・山梨」の文字。道路の脇に、根元から大きく二股に分かれて、樹高は10m前後といったところでしょうか。幹廻りも決して大きな木ではありませんが、これでも推定樹齢は500年900年大銀杏といい、200年の広葉杉といい、この菩提寺では時間の感覚が別次元。

ナシの木は、リンゴなどと同じくバラ科の広葉樹で、それほど大木になるわけではないのでこれはかなりの巨大なナシの木だという事です。よく観察すると500円玉よりもちょっと大きいぐらいの可愛いナシの実を幾つか見つけることが出来ました。これか先どれぐらいの大きさまで成長するのか分かりませんが、これって食用になっているのでしょうか?さすがに天然記念物という事ですから、お試しに1つなんて真似は出来ませんが、この実の行く末が気になるところです。

現在食用として流通しているナシには、本州から九州まで広く分布するヤマナシを原種とする、この菩提寺のような丸っこい形のヤマナシと、アジアから南東ヨーロッパにかけてを原産とする円錐形のセイヨウナシの2つがあります。現在に至るまでさまざまな品種改良が加えられ、みずみずしくしゃりしゃりした触感の二十世紀長十郎などブランドが生まれています。一方セイヨウナシは甘くて溶けるような舌触りで、リキュールなどにも利用されています。

それぞれ見た目も味にもはっきりした違いがあるものの、材としてはその特徴を書いた文献などがほとんど見当たりません。大木にならない事と供給が安定しない事から一般的な素材としては浸透してこなかったものと考えられます。私自身も【森のかけら】を作るまで、『材としてのナシ』を見た事もありませんでしたし、気に留める事もありませんでした。このナシは宮城県から分けていただいてますが、削ってはじめてナシの滑らかさに驚かされました。

伐採後、時間が経過するとやや桃色を帯びた淡褐色になりますが、その材質は精緻で均質。その触感は果樹系の木ならではの滑るような心地のいい肌触り。通直で大きなものが取れるわけではないので、大きな家具などを作るには素材集めが大変ですが、刃物切れも良さそうなので緻密な細工物には向いていそうです。ただしナシを素材としたクラフト作品を見た事がないのですが、鳥取とかでは作られているのでしょうか?それを確かめるべく一路鳥取へ向かう事に・・・

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山梨県にナシはあるか?!*

しばらく間が空きましたが気を取り直して、ビーバーハウス紀行の続き。ビーバーハウスの製材土場にはいろいろな木がところ狭しと置いてあって、木の丸太の写真を撮るには絶好の機会!製材機を持たない弊社の場合、板になってやって来ることが多くて、板の材面や加工後の写真はいくらでも撮れるものの、その前の姿・丸太の状態や樹皮の様子などをカメラに収める機会が少ないため、こういう場面に出くわすと一気にテンションが上がってしまうのです。次のターゲットは『ヤマナシ(山梨)』の丸太。
4年ほど前に家族で岡山に遊びに行ったときに、町の天然記念物である推定樹齢500年生のヤマナシ(山梨)の木に出会った話をアップしました。普段よく口にするナシですが、材としてのナシに遭遇する機会はなかなか無くて、【森のかけら】でもしばしば欠品する木のひとつです。ナシについては、食用として品種改良が進み、有名なところでは二十世紀や長十郎など多くの品種がありますが、【森のかけら】ではあまり細かな分類はせずに、食用に栽培しているものと山に自生するもの含めて『ナシ』とさせてもらってます。
実際に製材・加工してみると栽培されたものと自生しているものでは、色合いなどに違いが見られるものの、供給が安定しないこともあって、とりあえあず外国産の『西洋梨/ラ・フランス』とは区別しています。弊社の近くは愛媛でも有名な柑橘栽培の産地なのですが、ナシは少なくて稀に剪定するという話をいただくものの、思っていた以上に入手しにくく材の確保には苦労しています。中四国では鳥取県の二十世紀が有名で、その栽培面積は全国1位で、全国の収穫量でみても約8%を占めて第5位です。
日本梨の収穫量でみると、千葉、茨木、栃木などの関東地方が上位を占めているようです。ちなみにビーバー隊長のところにあった梨は三重県産で、三重は全国で20位前後の収穫量があるようです。そこで気になるのが梨の名前を冠する『山梨県』の事。県名の由来は、ヤマナシが沢山採れていたことのようですが、不思議と現在では梨の産地というわけでもない。奈良時代には既に「山梨郡」という地名もあったようです。その説植物以外にも、山の無い平らな土地が多かったという「山無し」説もあるようです。
いずれにしても県木もカエデ、県花もフジザクラでどうも梨の影が薄い。調べてみると、山梨県下の市町でもナシを市木、町木に指定しているところは無いようで、収穫高も全国40位前後と愛媛よりも下位。折角県名に木の名前を冠していながらも、それを活かしていないのは勿体ない話のように思いますが、振り返ればわが松山市も同じことか・・・。中にいると普段は気にしていない事も外から見れば冷静にいろいろ見えてくるのはいずこも同じ。明日はもう少し木としてもナシについて。

 

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梨の汚名、晴らさでおくべきか!*

昨日はナシはナシでも山梨県の話でしたが、そもそもという言葉の語源については諸説あるものの、その果実を切ると果肉が白いことから「中が白い」→「中白(なかしろ)」が転化してナシになったというのが有力とされています。他にも中身が白くて「色がない」→ナシ説や、風があると実のつきが悪いことから「風無し」→ナシ説、また江戸時代の学者・新井白石によると中心部ほど酸味が強いことから「中酸(なす)」からナシになったという説もあるようですが、いずれもナシの見た目や味に根拠があるようです。

梨といえば思い起こされるのは、梨園という言葉。歌舞伎界を指す言葉として知られていますが、もともとは演劇界を指す言葉。唐の玄宗皇帝は、音楽や舞踏の愛好家で、宮中の梨園に指定や宮女を集めて舞楽などを教えていたため、そこで音楽や舞踏を学ぶ者のことを「梨園の弟子」と呼んでいました。それが転じて演劇界の事を指すようになったのですが、日本では歌舞伎が生まれたころから梨園という言葉を使っていたため、『歌舞伎界=梨』という言葉が定着したということのようです。

さて、そんな梨ですが、材としてのナシを見たことのある人は多くないと思われます。普通の材木屋にはまず置いていません。フルーツウッドを愛するビーバー隊にとっては、こういうマニアックな材を活かして世に出して人々にその魅力を知らしめることこそが使命なのであります。ナシは材質が緻密で驚くほど滑らかです。だだ大きな材が得にくいため、どうしてもスプーンや木の器などの小物としてしか利用されることがないので、材としての知名度は他のフルーツウッドと比べてもかなり低いのが実情。

フルーツウッドに関しては私自身もまだまだ経験が浅く、加工手段や乾燥方法なども試行錯誤で、まだまだ出口にまで辿り着けていませんが、もしナシがヤマザクラなどと同じくらいの供給力あらば、もっと陽の当たるステージに立てていたはず。ナシやリンゴ、ミカンなど甘い果実のつく材は、虫の害を受けやすく、乾燥とともに材面が褐色にくすんでいくので、伐り旬や乾燥、加工にも独特のノウハウが必要です。今まで材の確保に苦心していましたが、どうやらこれでその心配もなくなったようです。

一層、ナシの出口開発に力を入れたいと思います。ナシに力を入れる理由のひとつに、その名前ゆえにナシが言われなき汚名を着せられている事があります。それはナシが無しに通じるということから、忌み嫌われ「有りの実」などと反語で呼ばれたり、縁起が悪いからと庭などに植えるのを避けられてきたこと。そんな汚名を晴らすべく、ビーバー隊としてナシの素敵な出口を見つけたい、見つけなければならない!決してその決意が『妄想話』→『妄想は無し(梨)』なんてことに終わらぬように!




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