森のかけら | 大五木材

★今日のかけら番外篇・E027タイサンボク/泰山木モクレン科モクレン属・広葉樹・石川産

さて、兼六園の話に戻ります。兼六園は大まかに見たとしても1時間~1時間半はかかるといわれていますが、この後もスケジュールがビッシリ詰まっていますので、この辺りで出口の真弓坂に。真弓坂は兼六園が一般開放されるにあたって作られた坂だそうですが、当時は『マユミ(真弓)』の木があって、それが名前の由来となったとか。今はマユミはありません。その代わりクルミツバキ、サクラ、マンサク、など多数の木が植えられています。その中に『タイサンボク(泰山木)』の姿がありました。

この木は【森のかけら240】には含まれていないものの、庭木や街路樹などに植えられていて日常生活でよく見かける木です。成長すると樹高30mにもなる常緑高木ですが、建築用材として利用された話は聞いたことがありません。タイサンボクは漢字では、『泰山木』と表されるのですが、泰山とは中国の山東省中部にある標高1524mの山で、中国五岳のひとつとされ、地元では霊山として信仰の対象となっています。1987年に世界遺産(複合遺産)にも登録され、『岱宗』とも表わされます。

タイサンボクには純白で芳香のある大きな花が咲くのですが、その花の高貴で美しいさまを、霊山たる泰山に例えたのが名前の由来だとされています。また花は直径が150~300㎜にもなるほど大きく葉も同様に大きいことから、大山(タイサン)のようだという意味から『大山木(タイサンボク)』とか、花弁を盃に見立てて『大盞木』などと表わされることも。『ホオ(朴』と同じモクレン科モクレン属の木であることから、白蓮木(ハクレンボク)常盤木蓮(トキワモクレン)の別名もあります。

学名も、花の特徴を表したMagnolia grandiflora(マグノリア・グランディフロラ)。マグノリアは人名(18世紀のフランスの植物学者ピエール・マニョルの英語読み)で、グランディフロラは「大きな花の」という意味です。英名は、Southern magnolia(サザン・マグノリア)。「南部のマグノリア」という意味で、ミシシッピ州ルイジアナ州の州花であり、アメリカ南部を象徴する花木とも言われています。日本には、明治6年(1873)に北米南部原産のものが輸入されました。

特にミシシッピ州は、州内にタイサンボクが多いことから、Magnolia State(タイサンボクの州 )という愛称もあるほど。明治12年(1879)に、アメリカのグラント将軍(後の第18代アメリカ合衆国大統領、ユリシーズ・グラント)が来日した際に、夫人が上野公園に植えたことから、『グラント・ギョクラン(玉蘭)』とも呼ばれます(当時は綺麗な花にランの名を冠する習慣があった)。今では東北以南の各地で街路樹などに植えられ、すっかり日本の木の風情すら漂いますが出自は北アメリカ南部。

5~7月の初夏に花をつけ、季語にもなっているほど(泰山木の花は、夏の季語)、日本の風景に溶け込んでいて、和歌や俳句にも詠まれています。「がつちりと花を葉を持つて泰山木種田山頭火、「昂然と泰山木の花に立つ高浜虚子、「ゆふぐれの泰山木の白花はわれのなげきをおほふがごとし斉藤茂吉など俳人や歌人たちも泰山木のある風景を詠んでいます。まだこの木の材は手に入れたことがないものの、目をつけている樹はあって、どうにか入手できないものか思案しているところ。

話は戻って、兼六園のタイサンボク。ここまで書いていて間違っていたら恥ずかしいのですが、木の名札が付いてなかったのでその葉からの判断です。そのタイサンボクの根元に目をやると、根が気色悪いほどに瘤々に膨れ上がっていました。兼六園は前田斉泰(なりやす)が、万延元年(1860)に造ったのが元とされているので、明治12年(1879)に渡来したタイサンボクは、その後の整備工事で植えられたもののはず。外来樹なので、あまり重要視されていないのか、こんな奇怪な姿にも関わらず解説無し。

あるいはこれが何か特殊な状態の根なのか、病気なのか、もしかしたらこういう性質なのか、悲しいかな知識が無くてよく分かりませんが、かなりインパクトがあります。今まで見てきた整った美しい兼六園を表の顔とすると、長い歴史の中ではこういう奇特な木も育つという裏の顔もあるといえば、言い過ぎかもしれませんがこれも兼六園の懐の深さかと。もっと時間があればいろいろ探索できたのでしょうが、後の行程を考えてとりあえず兼六園はこれにて終了。明日からはお隣の金沢城に移動~。

星の王子様の木・バオバブ

2014年 10月 29日 水曜日 at 11:43 PM 1. 今日のかけら

今日のかけら・番外篇020 【バオバブ】Baobab  パンヤ科・広葉樹

20141028 1先日テレビを観ていたら、あるクイズ番組の問題に『バオバブの木』が出ていました。南アフリカのにある国立公園にバオバブの木があるのですが、そのバオバブの木が最近次々に枯れるという被害が発生しているのだが、その理由は何か?というクイズでした。ご覧になられた方もいらっしゃると思いますが、材木屋の性としてテレビなどで『木』とか出てくるとついつい見入ってしまいます。まあ、見てなくても子どもたちから「お父さん~、木の事やってるよ〜」と声がかかるのですが。

 

20141028 2その答えというのが、昔に比べてその一帯の気象環境が変わってきていて、昔はかなり雨が降っていたのに最近は雨量が激減しており、慢性的な水不足にあるという事。それで、喉を枯らした象が、鋭い牙を使ってバオバブの木の幹を傷つけ削り取り、材中に蓄えてあった水分を吸っているためバオバブの木が枯れるという事態になっているのだという事でした。象が幹をバキバキに削る衝撃的な場面が映し出されていましたが、バオバブは水分を多く含み軟らかいとは聞いていたもののこれほどとは・・・!

 

20141028 3繊維質が多いのだと思いますが、現地では樹皮がロープや布、織物としても利用されているそうです。またその実は食料や薬にもなり、樹齢が500年を越えるような大木の中に開いた大きな空洞は天然の貯蔵庫としても利用されるほど現地の人々の暮らしに密接な関わりがある木なのです。ただし水分が多く軟らかすぎる事から、用材としてはほとんど適性が無いと聞いた事があります。有史以前からひとの暮らしを支えたこの木の「今そこにある危機」は悲痛ですが、自然界の掟は冷徹でもあります。

 

20141028 4動物たちも生きねばなりません。『レモネードツリー』(酸味がある特徴的な味が名前の由来)の別名を持つ水分豊かなバオバブの木に動物たちが群がってくるのも至極当然の事で、それが食物連鎖という事でしょう。普通に生えていた木を根ごと引き抜いて逆さまに植えたと表現されるそのユニークな姿から、どうしてもバオバブの木が被害者で、象が憎き犯人のような構図で考えてしまいがちですが、彼らの仲間を大地から伐り離し、引き裂き加工している我が身を省みれば自然の摂理に口出しなど出来ようはずもなく・・・


星の王子様の木・バオバブ②

1. 今日のかけら

20141029 1さて、バオバブの木の続きですが、本日は具体的にその木について触れてみます。私たちがバオバブと聞いてイメージするのは、上下を逆さまにしたような造形の姿(アップサイドダウンツリーとも呼ばれます)ですが、実はバオバブというのは複数の木の総称なのです。アフリカに1種類、マダガスカルに固有種が8種類、オーストラリアに2種類が存在していて、先日テレビで放送されていたのは南アフリカの国立公園でしたので、Adansonia digitata(アダンソニア・ディギタータ)というアフリカ原産種。

 

20141029 2マダガスカルのモロンダバ郊外にある「バオバブ・アベニュー(バオバブの並木道)」に呼ばれる小道に巨大なバオバブが立ち並び、違う星にでも来たかのような錯覚を覚える光景はよくテレビなどのメディアでも紹介されていますが、こちらのバオバブはAdansonia grandidieri(アダンソニア・グランディディエリ)という種類で、アフリカのそれとは少し印象が違います。高さは20m、直径10m前後で、平地を突き破って地下から生えてきたような違和感のある姿はなんとも不思議に思えてなりません。

 

20141029 3フランス人のアントワーヌ・ド・サン=テグジュペリが書いた小説「星の王子様」に登場するバオバブは、アフリカ原産種だと言われています。主人公の「ぼく」の操縦する飛行機が不時着するのがアフリカのサハラ砂漠ですから、間違いないと思いますし、確かに有名な挿絵に描かれているのも、背の高いマダガスカル産ではなく、ずんぐりむっくりとしたアフリカ産のようです。名前だけならほとんどの人が知っているであろうこの超有名な小説ですが、恥ずかしながら私は完読した事がありません。

 

20141029 4実は文庫本まで持っていて何度も挑戦しているのですが、最後まで読み切った事がないのです。体裁は児童文学ということになっていますが、最初に出会った小学生の頃に感じた「翻訳の言葉のリズムの違和感」に体が拒否反応を覚えてしまったのと、何だか抽象的というか哲学的というか回りくどい言いどうしても馴染めず途中で投げ出してしまった事がトラウマとなっていて、おとなになってから何度も挑戦しているのですが(バオバブの木のネタとして)、どうしてもうまく着陸できないようで・・・。


星の王子様の木・バオバブ③

1. 今日のかけら
20141030 1それよりも私の心にすっと入ってくるのはアフリカに伝わる次の話。「バオバブは地球上で最初の木であった。その次に、やしの木がやってきた。やしの木は、 スレンダーで、上品であった。バオバブがそれを見たとき、もっと背が高くなりたいと泣き出した。その次に、真っ赤な花をもつ美しい火炎樹が登場した。バオバブは花を咲かすことがねたましかった。次にフルーツを実らす、いちじくの木が現れた。バオバブもフルーツを実らせたいと拝んだ。それらを見ていた神様は、怒り、バオバブの根を引っこ抜き、さかさまに地面に突き刺した。Exif_JPEG_PICTUREこれはアフリカの民芸品などを扱う店で昔買った、バナナの木の皮で作ったというバオバブの木のオブジェです。これを眺めながらいつの日にか、神さまが人に『足るを知れ』と教えられたバオバブの木の実物を見に行きたいと空想しておりますが、異常気象が原因で続々とバオバブが枯れているという話を聞くと、あの異星を思わせるエキゾチックな光景がいつまで存在しているのか不安にもなります。映像を見る限り、立木のまま朽ちるというよりは、水分がなくなって枯れるという感じでした。Exif_JPEG_PICTUREそうであれば、伐採後の二次利用というような事も恐らく難しいのでしょう。不謹慎かもしれませんが、木が倒れたり枯れたりする姿を見ると、木をなりわいとする者の本能として「そのまま朽ちさせるなんてモッタイナイ!」と感じてしまうのです。せめて第二の樹生(人生)を違う形で生かせないものかと考えてしまうのです。特に実際に手にしたことの無い木、例えばこのバオバブのような木だと、その思いは尚更膨らむのです。元気で立っている木に対しては湧かない感情なので偽善的と言われればそうかもしれませんが。

 

Africa CD, Summer 2002商売人ですからまったく打算が無いわけではありませんが、それでも日頃からアフリカの木も扱わせていただき生活の糧とさせていただいている身としては、枯れるバオバブが残念でなりません。例えばその軟らかなバオバブで何かしらの商品を作って、売り上げの一部をバオバブの保護などに充ててもらうとか、あるいはフェアトレードのようなものでも出来たらなどと妄想は広がるのですが・・・まずは「星の王子様」の完読を目指しましょうか。ちなみにバオバブとは、アラビア語で『果実が多い』という意味に由来しています。

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