森のかけら | 大五木材

 

今日のかけら066

【スモモ】

李 

バラ科サクラ属・広葉樹・宮城産

学名:Prunus salicina

別名:酢桃

 英語名Japanese plum

気乾比重:*********

 

フルーツウッドは近くにありて思ふもの

少し前に地元でカキ(柿)の幹をいただいた話をアップしましたが、今度は『スモモ(李』!一般的には食用以外ではほとんど馴染みのないスモモですが、私にとって興味の対象となるのは実よりも幹。その幹から生み出されたのが、【森のかけら】のNo.66のスモモだからです。前回のカキ以上に、木材市場で出回ることの無いフルーツウッド。たまたま製作時に手元に素材があったことから、気の迷いで作ってしまった(?!)のですが、案の定その後の入手が困難を極めることに! 20160313 1

20160313 2 なぜその後の供給の事を考えなかったのかと思われるかもしれませんが、実は弊社の近くは宮内伊予柑誕生の地であり、有数の産地なのですが、柑橘農家の方はミカン以外にもいろいろな果樹系の樹を植えられていて、その中にスモモもあるのです。【森のかけら】を作るまでは目には映っていても気に留めることもなかったのですが、会社の近くには「プラム狩り」の看板が掲げられていたりと、スモモは割合身近なところにあって、私にとっては決して「縁遠い木」ではないのです。

なので、【森のかけら】を作った時にも、いくらかのスモモの材があったことから、そのうち近所のスモモ農家の方から幹でもいただけるのではないかと漠然と考えていたりしたのです。しかし、【森のかけら】における「日本のかけら」に予想以上に販売が集中したことから、早い段階でスモモが欠品したにも関わらず、スモモのご縁がうまく成就せず困惑しておりました。こういうフルーツウッドって、お金さえ出せば簡単に手に入るというわけではないというところがもどかしいところ

それが、たまたま近所のミカン農家の方からお電話があって、スモモの樹を伐ったけどいらないかと!ふたつ返事でミカン山へ急行。既にスモモは短く伐って山積みされていました。自分のお父さんが植えられていたもので、市場に出荷するためではなく自宅で食すために植えていたのだが、事情で伐ることになったものの1本でした。消防団や町内会などの活動で日頃からいろいろ話をしていたので、気に留めてくれていて声をかけていただいたのですが、これが正統なフルーツウッドの入手方法。

スモモ、プラム、サンタ・ローザ

スモモにどういう種類があるのかなどまったく知らなかったのですが、今回分けていただいたのは『サンタ・ローザ』と『大石早生(おおいしわせ)』という種類で、日本では最も多く植えられているポピュラーな種だそうです。もしかして愛媛も隠れたスモモの産地なのではと思い、全国の収穫高ランキングなどを調べてみたのですが、全然でした・・・。ちなみにスモモの収穫高日本一は山梨県で、全国34%。2位の和歌山、3位の長野の3県で全国の実に3割以上を占めていました 20160314 1

20160314 2 最初に電話で、種類は「サンタ・ローザ」と聞いた時に、まったくスモモの知識がなかったため、てっきり「三太郎座」という和名だとばかり思いこんでいたら、「サンタ・ローザ」なんてお洒落な名前だったんでビックリ。普通ならそれで終わる話なんですが、どうもこの名前の事が気になって農家の方々にも聞いてみたのですがよく分からず。それで自分で調べてみることにしたのですが、今使っている名前の由来にあまり関心が無いというのは材木屋も農家も似たり寄ったり。

それで「サンタ・ローザ」の語源について調べると、思わぬ話に辿り着いてビックリ!そもそもスモモは、モモ(桃)に比べて酸味が強いことから「酸い桃」でスモモになったのが語源で、漢字では「」と表わします。英語では「プラム(plum)」、そういえばうちの近所でも「スモモ狩り」ではなく「プラム狩り」と書かれています。スモモとプラムの違いはないよ、日本語か英語の違いだ、とも言われましたが、きっとそこには「スギとシーダー」のような違いがあるに違いない。 20160314 3

20160314 4 ものの本のよれば、「スモモ=李、西洋スモモ=プラム」と書いてあったりするものもありますが、まあスモモの英訳がプラムで間違いはないようかと。日本では生食が主ですが、海外ではジャムやマーマレードなどに加工して食べることが多いようです。なのでアメリカでも昔から、スモモは食されてきたのですが、もともとは中国で栽培されていたものが日本に伝わったものだそうですが、話がぶれるのでここでは先に「サンタ・ローザ」の面白い名前の由来についてご紹介します。

バーバンクと長沢鼎

果樹関係のお仕事をされている方にとっては常識な話なのかもしれませんが、私は初めて知って面白がっている話。たまたまご縁があって近所の農家の方から分けていただいたスモモ(李)の種類が「サンタ・ローザ」というのですが、世界中で最も多く生産されているといううこの名前の語源を調べてみると、20世紀の初頭にアメリカのルーサー・バーバンク(Luther Burbank)という育種家が日本のスモモとアメリカの西洋スモモ(プラム)を交雑して育成した品種だったのです。

20160315 2 私は聞いたこともありませんでしたが、このルーサー・バーバンクという方、その業界では知らない人はいないという有名人だそうで、多くの植物の品種改良に努められた偉大な人で、特にジャガイモとサボテン(とげなしサボテン等)の品種改良では多くの功績を残されているそうです。このバーバンク氏が後に、カリフォルニアに移り住み広大な農園や温室を建設し、更に県境を進めていくのですが、その場所こそがカリフォルニア州ソノマ群サンタローザ。だんだん近づいてきた!

次の舞台は日本の幕末時代。当時の薩摩は日本の近代化をリードする先進県でした。海外に通じた人材養成の気運も高く、欧州への留学生派遣なども進めていました。その留学生たちの中に、長沢鼎(ながさわかなえ)という少年がいました。他の留学生たちは西欧で知識を身につけ帰国し、日本の近代化に尽くしたのですが、長沢少年だけは信仰に目覚めたこともあり、帰国せずにそのままアメリカに残り、カリフォルニアで土地を開拓してワイナリーを作り、ワインの醸造研究に励みました。 20160315 2

20160315 4 その後、長沢の作ったワインはアメリカ国内でも高い評価を得るようになり、イギリスに輸出された最初のカリフォルニアワインもナガサワ・ワインであったというほど大成功を収めることになりmした。一方、スモモの品種改良に余念ないバーバンクは世界中から果樹を取り寄せていたのですが、同じカリフォルニアに住んでいた長沢とも交流がありました。一時帰国した長沢は薩摩のスモモをバーンバンクに渡し、彼は西洋プラムと交配して優れて美味しい品種を生み出しました

外来種の功罪・ブラックバス

長沢鼎ルーサー・バーバンクというふたりの男がつながって生み出された新品種のスモモには二人が住んでいた土地サンタローザの名前がつけられたのです。当時日本のスモモは酸味が強くて、果樹としてはあまり重要視されていなかったそうですが、バーバンクの手によって改良されたサンタローザは非常に美味で、日本にも逆輸入され現在に日本におけるスモモ栽培の原点になっているそうです。もともとの薩摩の品種が「三太郎」という話もあるようですが、そこは不明 20160316 1

20160316 2 ところで、木の話からは脱線しますが、長沢鼎にちなんだ興味深い話をもうひとつ。本来その場所にはいなかった外来種が世界各地から持ち込まれ、在来種の存在を脅かす事態となっています。植物の世界でも外来種の問題は悩みの種ですが、植物以上に食害によってその被害の深刻度が大きいものに海や湖、川おける魚類の外来種問題があり、その代表的なものにブラックバスがいます。釣り愛好家に人気の魚・ブラックバスですが、この魚についても長沢氏が関わっているのです。

記録によると明治時代に赤星鉄馬という人物がアメリカから日本に持ち込んだとされています。赤星氏は、山中湖に別荘を持っていてそこで、乱獲のため年々生活が苦しくなる漁民の生活を目の当たりにして、アメリカへの留学時代に釣ったことのあるブラックバスなら、日本でも繁殖が出来るのではないかとブラックバスの移植を思い立ちます。しかし当時アメリカではブラックバスは貴重な魚で輸出が禁止されていました。そこで現地で成功を収め人望のある叔父の長沢鼎を頼ることに。 20160316 3

長沢氏を通じてカリフォルニアのサンタローザで捕獲されたブラックバス(オオクチバス)は、長沢氏のワイナリーのある池に沈められ、その後箱根の芦ノ湖の移入移されることになるのです。当時はまさかブラックバスが在来種をここまで駆逐する「害魚」になろうとは夢にも思わなかったことでしょう。ブラックバスに限らず現在問題視される外来種のほとんどは人為的に持ち込まれたもので、生物そのものに罪はなし。害魚、もとより害魚にあらず・・・。明日、スモモの話に戻ります。

キング・オブ・早生品種!

話はブラックバスからスモモ(李)に戻します。サンタ・ローザの幹や枝をいただいてから数日後に、「スモモの木、もう1本伐ったよ」とのご連絡がありました。早速取りに伺わせていただきました。今度は「大石早生(おおいしわせ)」とい品種。明治時代に海を越えて、後に逆輸入されたサンタ・ローザは、日本で更に手が加えられて改良され「大石早生」や「月光」などの品種に発展したということで、福島の大石さんが育成した大石早生は現在日本で一番多く栽培されている品種 20160317 1

20160317 2 近くて栽培されていることもあって、食べ頃になるとどこからかおすそ分けが舞い込んできて、毎年美味しくいただいているのですが、こうして名前の由来などを知ると、これからスモモを見る目を変わってきそうです。大石早生の旬は7月中旬ということなのでそれまで覚えておかねば。この大石早生には「キング・オブ・早生品種」の別名もあるとか。ちなみに「キング・オブ・フォレスト(森の王様)」は言わずもがなですが『ホワイトオーク』。

さて、材としてもスモモについてですが、サンタローザと大石早生と合わせて実に軽トラック2台分ぐらいの幹、枝を分けていただきました。これだけあれば、全部を35㎜角の【森のかけら】に加工したとしたら、向こう10年どころか一生「スモモのかけら」では苦労することもないと思われます。樹齢だと30年そこそこということで幹回りは大きくても300㎜前後で、「かけら」を取るには十分な大きさなのですが、小枝までいただきましたので「かけら」以外のも作りたい。 20160317 3

20160317 4 とりあえず大きなサイズのものは芯で割って荒加工して、重しを載せて天然乾燥させるわけですが、それでも結構な量を確保できました。小口から見ると『モモ』のような複雑で濃厚な赤~橙褐色。これから少なくとも半年は乾かしますので、半年後にどれぐらいねじれや暴れが抑えられるかが勝負ですが、当然『スモモのりんご』は作りたいと思います。分かりにくいでしょうが、『森のりんご』仕様のスモモという事。スモモの材をまざまざと見た人も少ないと思いますが驚くほど緻密

道傍の甘き李

本日は『スモモ(李)』の物語について。中国ではかなり古くから栽培されていたようで、古い諺などにもよく引用されていて、有名なものに「李下に冠を正さず」があります。この場合のスモモは栽培種だと思われますが、諺が出来たのは漢代と言われていますので,既にその時代にはスモモの栽培がされていたことからもスモモと人の付き合いの古さが伺い知れます。霊力があるとされるモモ(桃)と並んで栽培されたようですが、果実とともにその花の美しさも愛でられたのでは。 20160318 1

20160318 2 諺の意味は言うまでもありませんが、「瓜田に履を納れず」と並んで、「賢明な人は事件が起きる前に、あらぬ疑いを抱かれるような立場に身を置くことはしない。」という戒めですが、こういう言葉があるということは、実際にスモモの木の下で曲がった冠をかぶり直してスモモ泥棒と間違われた事件や、瓜畑で靴を履き直していて瓜泥棒に間違われた事件もあったのかも。戒めの対象として諺に残るぐらいなので、それぐらいスモモもポピュラーで人気のある果実だったのかもしれません。

他にも中国ではスモモが使われた諺に「道傍の苦李(どうぼうのくり」というものがあります。四文字で「道傍苦李」とも表わされます。昔、王戒が七歳の時に友達たちと一緒に通りかかった道端にスモモの実がたわわに実っていました。友達たちは争って実を取りましたが、王はまったく無関心であったそうです。そこで人々が不思議に思いその理由を尋ねると、道端にあってしかも実が沢山なっているから多分美味しくない、苦いスモモでしょうと答えた事に由来しています。 20160318 3

20160318 4 そこから、「人々から顧みられない事。人から見捨てられ、見向きもされない物事の例え。」に使われるのですが、こちらは道端にあってたわわに実っていたということから野生種だったのかもしれません。中国においても本来の目的は果実にありますが、材は緻密で耐朽性もよいことから、彫刻や農具などに利用されこともあるとか。そう考えれば、苦いからと人から見向きもされなくとも、決して役に立たないわけではないという事。ならば尚更活用を進め「道傍の甘い李」を目指そう!

えひめのあるうれしいスモモスプーン①

すっかり遅くなってしまいましたが、『えひめのあるうれしい日』で、道後のBRIDGEさんと四国中央市のまなべ商店とのコラボ商品『イチョウとホオのまな板』に続く第二弾は、松山市内で季節の美味しい手作りジャムのお店・『朗-Rou』(和田美砂さん)とのコラボ商品『愛媛県産スモモの木で作ったスモモのスプーン&スモモのジャム』です。Rouさんは、季節の様々な果樹をそのまま閉じ込めたようなジャムを作られていいらっしゃいます。味は勿論なのですが、見た目もカラフルでとっても美しいのです。

以前に『おとなの部活動』の京都遠征(京都:恵文社・一乗寺店)で初めてRouさんのジャムがズラリと並んだ姿を拝見したのですが、小さなガラスの容器の中で赤や黄色のジャムがキラキラと眩く輝いて見えたのです。【森のかけら】や『森のりんご』など弊社のオリジナル商品のラインナップをご覧になれば分かるように、1つのスペックでさまざまな種類が揃うというのが大好きで、いや大好きというより種類フェチと言ってもいいのですが、そういう私にとっては垂涎の的のジャムシリーズ!

そんな素敵なジャムとコラボさせていただくのは、以前にこのブログでも紹介した近所の農家の方からいただいた『スモモ(李)』の木から作ったスプーンです。そもそもは、【森のかけら】用にいただいていたのですが、かなり大量にいただいたので、とても『かけら』だけでは使い切れず、何か別の形に加工しようと考えていたのでまさにうってつけの出口となりました。それまでスモモで何か作ったことがなかったので、スプーンとしての適性がどうなのか試行錯誤ではありましたが、何度か修正して完成。

樹皮のついた状態だと同じバラ科サクラ属の『ヤマザクラ』に似た雰囲気があります。いただいたスモモは樹齢30年前後ということで、芯を外すとあまり大きなものは取れないのですが、スプーンを作るには十分な大きさ。見た目だけでなく中身もヤマザクラによく似た赤身を帯びていますが、ヤマザクラほどの粘りや強度はないように感じました。最後までしっかりとジャムを掬い取りたいということで、美砂さんの方から形状のご指定があり、全体的にほっそりとして柄の部分が通常よりやや細めのシンプルなスプーンを作らせていただきました。『丸いまな板』の時もそうでしたが、勝手にこちらで作るとつい余計ないらない装飾を施しがちなのですが、最前線で求められる声が反映されると最終的に実用的でシンプルな形に落ち着きます。シンプルはやっぱ強い!明日に続く・・・

えひめのあるうれしいスモモスプーン②

えひめのあるうれしい日』で作った『愛媛県産スモモの木で作ったスモモのスプーン&スモモのジャム』の『スモモ(李)』の木については、昨年の3月頃に角材に挽いて上から重しを載せて乾燥させています。ご覧いただけば分かるように、径が小さいためこれぐらいのサイズで挽いても、オール赤身というわけにはいかず白太も含まれます。なるべく艶や光沢も保ちたいので天然乾燥させているところですが、実際に削ってみると『ヤマザクラ』というよりは『シウリザクラ』に似たような、ややくすんだ赤身を帯びています。

スプーンの加工そのものは職人さんにお願いしたのですが、最後の磨き部分は私も関わりました。写真では分かりづらいかもしれませんが、柄の部分がわずかに湾曲していて、スプーンの先端にくぼみがあるのため最終的な仕上げ磨きは手作業になります。昨日も書いたように皮膚感覚だと『ヤマザクラ』よりやや軟らかくしなやかに感じます。磨き始めると、磨けば磨くほどに彫り面がツルツルに滑らかになる感覚がたまらなず、どこで止めればいいのか終わりが見えなくなります。

柄の部分は結構細いのでどんどん磨いていると、そのまま無くなってしまうのではないかなんて考えてしまうほど磨きが癖になります。通常よりも柄が細い分、固まったバターなどを救うには強度の点で不安が残りますが、ジャムであれば問題ないのではないと思います。最後は木製食器専用のオイルを塗って仕上がり。そうして完成したのがこちら㊨。このスモモのスプーンは、『朗-Rou』さんのお店で美味しいスモモのジャムと一緒に販売していただいています。木製スプーンそのものは珍しくもないでしょうが、愛媛県産のスモモのジャムと一緒にすることで新たな価値を作り出そうというもの。

お陰で出口を思案していたスモモにも1つの出口が生まれました。今までほとんど関わりの無かった『食』の分野で木を使うことで、いろいろな発見もありましたし、これから作り始めようと思っていた『フルーツウッド』(果実系の木)についても、出口のヒントになりそうです。フルーツウッドの特徴として、木は小さいけれど材が非常に緻密で滑らかということがあり、触ってその肌触りを楽しめる小モノに仕上げたいという考えがあったのですが、まさにスプーンなどの食器はうってつけの組み合わせ。こちらは『桜のシロップジュレ』。

この黄金の輝きは『金木犀と柊木犀のシロップジュレ』。もはや食べてしまうのはモッタイナイと感じてしまうほどの美しさ!今まで「材」としてしか見えていなかったフルーツウッドの、「実」の部分と繋がることで途端に発想が豊かになります。更に物語性も付加されるとなると、フルーツウッドの出口としては理想的。どうにも『かけら』だけに留めておくにはモッタイナイ、けれども『森のりんご』にするには大きさが足りないなど、いまひとつ活かしきれてなかったフルーツウッドの出口に光明が差してきた思いです。

 

イタヤカエデのかけら

  categories 1. 今日のかけら | datetime 2016/12/01 PM9:54

森のかけら・#012【板屋楓/イタヤカエデ】 カエデ科カエデ属・広葉樹・四国産


予告通り、『イタヤカエデ』の話です。今まで何度も何度も登場しながら、今頃になってようやく取り上げるのも恥ずかしいのですが、メジャーな木ほど取り上げにくかったりするものなんです。まあ、気を取り直してイタヤカエデの話。実際にこの「材」を見たことはなくても、この名前を知らない人はいないでしょう。材そのものよりも樹や特徴的な葉を含め、イメージやデザイン、象徴などの面で認知度のある木なのですが、実際の木となるとモミジメープルとかなり混同されています。

 

 

秋になると山々を錦秋に彩るカエデの紅葉は日本人の心の原風景のようなものですが、愛媛においてはそのカエデが材として流通することは決して多くはありません。恥ずかしながら広葉樹後進県である愛媛では、目を楽しませるカエデは多くても、材としてはかなりレアな存在に近く、木材市場に出ることも稀。材としては非常に硬質で堅牢な事から用途は広いものの、供給の安定性や量、品質、価格、乾燥等の問題から建築分野での利用度はかなり低いのが現状です。

 

 

地元のカエデは入手が難しいものの、国産となると東北から北海道あたりは蓄積量も多くて良質な材が揃います。それでも価格面からすると、北米産のハードメープル中国産が圧倒的に優位なのですが、クラフト細工や小物用に使うような小幅の薄板とかになれば、国産でもリーズナブルな材は結構あります。ただし、弊社の場合それらは売り物というよりも自社で商品を作るためのものになるわけですが。実はその目的で先日も北海道産のイタヤカエデの短尺材を少量購入。

 

 

こちらが長さと幅が不揃いで、厚みも薄い北海道産のイタヤカエデ。しかも乾燥工程におけるダメージなどが含まれているためかなりの廉価品でした。売り物としては問題がありますが、バラシて更に短くカットして使うには何も問題なし!ひと昔なら見向きもしなかった材ですが、今の弊社にとっては非常にありがたい存在。カエデには金筋カスリが多く出ることから、材としては木取りで手こずることも多いのですが、自分で使うとなると、捨てるところなんて無いとしか思えない!!続く・・・

 

 

イタヤは板屋根か甘いヤニか?

イタヤカエデの話の続き。国産のカエデをどう使っているのかは、今はまだ明かせませんが、実際に自分のところで最終商品を作るようになって改めて、木材って捨てるところなんてほとんど無いって実感します。造作材などを製材所に注文する場合、以前はほとんどがメートル単位でしか受けてもらえませんでしたので、実際には2.1mしかいらない時でも3mで注文して、現場で2.1mにカットしていました。そのカットした残りは、結局廃棄されたりして、モッタイナイなあと・・・。

 

 

今では端数で対応していただく製材所も増えましたし、たとえカットロスが出たとしても出口は無数に用意してあるので、きっちり骨の髄までしゃぶり尽くさせていただきます。むしろそちらが足りなくなってきているぐらいなのですが。まあ、そういうことで今回のイタヤカエデもキッチリ最後の最後まで利用致します(なんとそのおが屑までも!)。ところでカエデの特徴については、メープルの項でも何度か紹介していたので、内容が重複するかもしれませんが改めてご紹介。

 

 

カエデ科の木は、北半球の温帯におよそ150種も分布している大家族で、園芸品種まで加えるとその数は200種にも及びます。大きなものになると直径1m、高さ20mに達するものもあるそうですが、私は一枚板のテーブルにんまるようなサイズのカエデにはお目にかかったことはありません。どちらかというと、床の間の落とし掛けとか、表面の凹凸や縮み杢を利用して装飾的に使うケースがほとんどなので、割と小さなサイズのものしか扱ったことがありません。

 

 

見た目以上に重たいこともあるので油断大敵です。さて、イタヤカエデという名前ですが、「葉がよく茂って、まるで板屋根のように雨露を凌いでくれる」のが名前の由来とされています。つまり板屋楓(イタヤカエデ)。これがほぼ定説のようになっていますが、一方でその由来をイタヤカエデから採られる甘い糖分を含んだ樹液を母なる乳とみなした命名だと主張する説もあるようです。楓糖を採取するカエデとしては、サトウカエデが有名ですが、イタヤカエデからも楓糖は採れるそうです。

 

 

そこから、イタヤというのはイタヤニの略語で、イタはイチ、つまりチチ(乳)。母なる乳房から出る甘味と連想して、「甘いヤニ(樹液」が採れる木という意味で、イタヤカエデと命名されたというもの。またその他にも、大木になることから、大きな板材として利用されることがあったので、単純に「板の木」という意味でイタヤカエデという名前がつけられたのではという説もあります。いずれもイタヤカエデの前半のイタヤ部分についての命名の由来でしたが、明日は後半のカエデについて。

 

 

カエルの手、カエデとモミジ

本日は『イタヤカエデ』の後半『カエデ』の名前の由来などについて。かの万葉集には『蝦手(かへるで)』、あるいは『鶏冠木、加敞流氏(かへるで)』として登場しています。また和名抄には、『加比流提(かへるで)、加倍天乃岐(かへでのき)』として書かれているように、古くは「かへるで」と言っていたそうですが、それはカエデの葉の形が蝦(蛙/かへる)の手(前肢)に似ていることに由来しています。その「かへるで」がつまって「カエデ」になったという事です。

 

 

イタヤカエデの学名Acer mono(アーケル・モノ)の属名Acerは、欧州が原産である『コブカエデ』学名:Acer campestre(アーケル・カムペストル)のラテン語で、葉に切れ込みがあることに由来しているそうなので、世界各地でその特徴的な葉の形が名前の由来となっているようです。ちなみに一般的にカエデを漢字で書くと「」と書いていますが、本来これは『フウ』というマンサク科の木を表していて(楓香樹)、中国ではカエデには『 』の字が使われています。

 

 

稀に中国からの伝票を目にすることがありますが、やはりそこにも楓ではなく槭 、あるいは槭 木と書かれています。現在では、楓と書いても通用するそうですが、最初は何のことやら分からず混乱したものです。これは漢字が日本に伝えられた当時、まだフウの木が日本には無かった(一説では、フウは享保年間に日本に渡来したという)ために、葉の色や形がよく似ていたカエデの木に楓の漢字があてられたために起こった混乱で、それが今までずっと続いているということのようです。

 

 

とにかくこの仲間は種類が多いのでややこしいのです。実は植物の分類上は同じカエデ科カエデ属であるにも関わらず、まったく違う名前で呼ばれるため、一層ややこしくなっているのがモミジ。私も愛媛大学の樹木博士の講座に参加させていただき、農学部の先生方に教えていただくまでよく分かっていませんでした。その見分け方は葉が大きく、葉のふちに鋸歯が無くて、葉の切れ込みの深いものをカエデと呼び、葉が小さく切れ込みのふちに鋸歯があるものをモミジと呼びます。

 

 

紅出(もみいづ)るカエデ

になって、赤く色づく(紅葉)のがカエデで、黄色く色づくのが(黄葉)モミジという人もいるようですが、メカニズムとしては春夏に作られた葉緑素が、黄色のカロチノイドの色で黄色く染まり黄葉になるイタヤカエデや、アントシアンが作られて赤くなるウリハダカエデなどがあるので、必ずしも色分けではないようです。もともと、山の木の葉が紅葉(黄葉)することを指した「紅出(もみいづ)」という動詞があって、それが名詞化して「もみじ」になったとされています。

 

 

なので本来は特定の樹種を表す言葉ではなかったものが、紅葉(黄葉)する木々の中でとりわけ鮮やかに色を変えるカエデ類のことをモミジと呼ぶようになったとされています。モミジにはイロハモミジオオモミジなどがありますが、葉が掌状に5~7片に深く裂けて、7裂した葉の裂片をイロハニホヘトと数えたことから、イロハモミジの名前がつけられたとされています。植物学的な分類はそういうことですが、用材としてはカエデとモミジ、キッチリ区別されることはありません。

 

 

一般的にはモミジは観賞用として多くの園芸品種が作られたりと、小さいものが多く、用材としてはあまり利用されていないのではないかと思います。稀にモミジ表記されたと材を見ることがありますが、実際に材質にどれだけ差があるのかは分かりません。実はこちらの瘤が特徴的な板は、昔「モミジ」と表示されて購入したのですが、果たしてこれが本当にカエデでなくてモミジなのか?恥ずかしながら浅才で、正直分からないのですが、商業用材ってそんな風にかなりアバウト。

 

 

今でこそ何かあると「材のトレーサビリティを示せ」なんて言われたりしますが、銘木的な材になればなるほど、次から次へと業者の手を渡って流通するものだし、その出どころなどのソースはある意味で業者にとっての生命線でもあるため秘匿にすることが多く、知る人ぞ知るところから探してきた、なんてことがある意味で価値だったりした時代ですから。ということで、出自不明(非公開/だからといって何か怪しいという意味ではありません)の『自称モミジ』の変木の出口待ち。

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