森のかけら | 大五木材

★今日のかけら・#160 【ジェルトン】 Jelutong キョウチクトウ・広葉樹・東南アジア産

20130713

 

20130712 2では改めて『年輪の無い木』のご紹介です。東南アジアのフタバガキ科の木などはその多くに年輪が無いのですが(多少はあるものもあります)、本日取り上げさせていただくのは、東南アジア産のキョウチクトウの広葉樹『ジェルトン』!この木についてはもっと前から取り上げたかったのですが、実際に加工した実例や加工された方の感想もお伝えしたかったので時期を待っていました。加工の感想であれば、自分で削ってみればいいじゃないかと思われるかもしれませんが、そこがこの木ならではの事情が・・・

 

20130712 3この『ジェルトン』という木は、一般的にはほとんど馴染みがないのですが、ある分野の方にとっては垂涎の木であり、それとは別に一般の方でも実はこの木から出来たあるものを日頃から口にしているのです。まずは、材料としての特異性からご紹介します。『年輪が無い』という言い方が、学術的に正しいのかどうか無学なの者で分からないのですが、目視した感覚では年輪らしきものは見えません。という事は、よく目が詰まっていて均質であるという事。

 

20130712 4しかも気乾比重が0.42~0.53という事で非常に軽く木理も通直です。そのため狂いや暴れが出ずに、刃物切れもよく緻密な細工をする事が可能なのです。そういう材質が求めらるものといえば彫刻ですが、中でも特に立体的精緻な彫刻をする『バードカービング』には最適の材だと言われています。バードカービングとは、文字通り野鳥をモチーフにした彫刻の事で、1800年頃にカモ猟の時のオトリとして鳥型の木製デコイが使われた事が起源だとされています。

 

20130712 5その後、その精緻さや美しさを競う室内装飾品として発展して、今に至っているそうです。日本に紹介されたのは1979年で、現在ではJBCA日本バードカービング協会をはじめ、全国各地で愛好家たちが集まり腕を競われています。完成品には丁寧な着色がなされ、躍動感のある姿など一見すると本物の鳥と見まがうほどのリアルな作品もあります。その材料としては国産材では目が精で均質な、カツラホオ、シナノキなどが使われますが、外材として人気なのがジェルトンなのです。

 

 

20130713 1バードカービングの原料としては、ジェルトンの他にも、北米産の『チュぺロ』や『バズウッド』、『アユース』なども活用されるそうですが、それぞれに一長一短があるそうで、材質はいいが入手が難しいとか、価格が高いとか、強度が乏しい、希望するサイズが揃いにくい、質感を確認したいのだが身近なところで販売していない等々。ジェルトンやチュぺロについては、特殊な木材に分類される木ですからどこでも簡単に手に入るわけではありません。その特徴から建築分野では、フラッシュの芯材などでしか使われることぐらいしか用途がなく、一般的な認知度はほとんどありません。彫刻材を扱わない材木屋さんではその名もご存じないかも。ジェルトンは黄白色で心材と辺材の色の差もほとんどないため、細かな細工のカービングをするには歩留まりもいい木ですが、意外なところでも使われています。

  

  

20130713 2それがハイヒールの踵(かかと)の台木です。このジェルトンは、木が乾燥していく際に収縮していく割合が非常に低く、例えば木のおもちゃなどの素材で知られるビーチ(ぶな)の収縮率が、放射方向5.5、接線方向11.9なのに対して、ジェルトンのそれは2.0と4.0(米国林産試験場データ)で、他の主要な木材と比べてもトップクラスです。ちなみに収縮率が低く外部や甲板などの造船・海洋分野でも利用されるチークとほぼ同等の数値なのです。

 

 

20130713 3ただし最近ではハイヒールの台木として木が使われることは多くないようです。やはりデザインと強度の問題があって、ピンヒールなどのようにより小さなもので耐加重性の高いものが求められるようになると、木材だけではその要求に応えられないのだとか。それで最近の主流はプラスチックになってしまっているようです。この事を書くまで、ヒールの素材の事を深く考えた事もありませんでしたが、そうやってさまざまな分野で木が代替品に取って代わられている現実があります。

 

20130713 4それも時代に流れと言えばそれまでですが・・・。さて、そのジェルトンの取り扱いは主に彫刻材の専門店などで、材木市場で流通している木材ではありません。弊社には、たまたまご縁があり1パレット程度ですが短くカットした状態で入荷しています。入荷したのはかなり以前の事なのですが、彫刻材の取り扱いを始めようとしたわけではなく、【森のかけら】の素材として購入したのです。しかし、35mm角の【森のかけら】をいくら作ってもまだまだ残っています。

 

20130713 5本来のバードカービング用のジェルトンは、そのコンディションなどから細かくグレーディングされて、価格も細かく分類されています。まったくPRしていないにも関わらず、弊社にも時々ジェルトン材のお問い合わせをいただくものの、その多くが個人の愛好家の方で、必要量も数個単位という事もあって細かな対応が出来ずにお断りさせていただく事もしばしば。『ちょこっと端材』にアップして欲しいとの要望もあるものの、そこまでの在庫管理が出来ず持て余していました。

 

20130713 6小売の場合、『値付け』が相当に重要なのですが、ジェルトンなどのように1個の単位が小さいものになると、傷や染みなど細かなコンディションの違いで値段差をつかなければなりません。そもそも緻密で正確な事が苦手な性格ですので、あまりの煩雑な作業に心が折れます・・・。それが最近少しずつですが倉庫内の整理が出来始めましたので、弊社なりのザックリ仕分けで値段をつけて店頭限定で小売販売しようかなと前向きな気持ちになっています。明日はもうひとつの特徴。

★今日のかけら・238 【メルサワ Mersawa フタバガキ・広樹・東南アジア産

20110309 メルサワ 

 

 

 

 

 

20110309 足元から頭上へ、郷愁のメルサワ①昨日『ホワイトセラヤ』を取り上げたので、本日は同じフタバガキ科の仲間『メルサワ』をご紹介します。この木は、タイ、ビルマ、インドシナ半島、マレーシア、スマトラ、ボルネオ、フィリピン、ジャワ、モルッカからニューギニアにまで東南アジア一帯に分布している。こちらも『ホワイトセラヤ』同様、産地によっての呼称が多岐にわたっているのですが、一般的な市場名はほぼ『メルサワ』で定着しています。ちなみに別名としては、タイでは「Krabak(クラバク」、カンボジアでは「Phdiek(プジック」、ベトナムでは「Ven-ven(ベンベン」、さらにフィリピンでは「Palosapis(パロサピス」などと呼ばれています。ただし国内流通においては、全国どこでも『メルサワ』で通用しますし、逆にそれ以外の名前では、余程南洋材に精通した方でなければ分からないと思います。樹高が50~60mにもなり、その直径も1m近いものにもなるという大高木ですから、化粧合板に使われたりするなど用途は広い木です。

 

20110309 足元から頭上へ、郷愁のメルサワ②九州や中国地方の一部ではかなり重宝がれて使われているらしいのですが、松山周辺においてはほとんど流通していません。これは材そのものの特性がどうこういう問題ではなく、地域との相性の問題だけです。昔は結構大きな挽き材も見かけましたが、現在はそこまで大きな材は入荷しにくくなったようです。見た目以上に重硬で、黄白色の均質で幅の広い材が揃いやすく、以前はよく敷居や造作材、家具などにも利用されていました。

 

20110309 足元から頭上へ、郷愁のメルサワ③価格も決して高額ではないのですが、取り扱いにあたっては幾つかの注意点があります。まず原木を伐採して出材するまでに変菌に侵され、製材・加工しても青い染みが残ることがあります。塗装ノリも良好なので、濃く塗装すれば問題ないのですが、荒材では「これぐらい削れば落ちるのでは」と感じる程度でも、削ってみると内部まで青染みが浸透している事もしばしば!また、しっかり乾かせないと収縮の激しい木なので、施工後にトラブルの原因になる事があります

 

20110309 足元から頭上へ、郷愁のメルサワ④かなり乾燥している材を使ったつもりだったのですが、それでも以前にメルサワで【森のかけら】を作った時にはかなり収縮が発生してしまい作り直した事もあります。気乾比重も0.5~0.7ぐらいまで幅がある木なので、手にした感覚では乾いていそうに思えても、まだ乾燥が甘いという事もしばしばあるので注意が必要です。そして最大の特徴は、材中に多量のシリカを含んでいるため、加工時に刃物を痛めるという事です。これも慣れなのかもしれませんが、この辺りでは敢えてシリカを含んだモノを使おうという気風は少ないようです。それでも私が業界に入った頃はまだ少しは流通していましたが、ひと手間ふた手間掛かるものがドンドン避けられる傾向にあります。実は少し前に「メルサワ」を使ったパネリングを作らせていただいたのですが、やはり加工工程でシリカに悩まされました。加工していただいた木工所さんからも、「刃物が・・・」と渋い顔をされました。

 

20110309 足元から頭上へ、郷愁のメルサワ⑤二番目の荒材のアップの画像を細かく見ていただくと、手前の材に白い筋のようなものがたくさん入っている事が分かると思います。これがシリカです。シリカの成分が云々というようなアカデミックな話はさっぱりですが、土中からそれを吸い上げる木材の生命力と根性には恐れ入ります。削られないように身を守るための防衛手段として、木が身に付けた知恵だったりして・・・。しかし仕上がれば、あまり見慣れない黄褐色の美しい材面は心をくすぐります。こちらでは、天井一面に貼っていただき、若干着色していますが、メルサワ独特の質感があると思います。久し振りにメルサワを使わせていただき、なんだか懐かしい気持ちになりました。今までもっぱら敷居の材料という認識が強く、天井に使うなどという発想はなかったのですが、見方を少し変えてみるだけで違った面白さが発見できるものだと実感しました。

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