先日の町内会の清掃で、いただいた戦利品をご紹介。本当はこの木も【森のかけら】に加えたかったのですが、リスト選定した当時、どこをどう探しても見つけることが出来なかった木の1つが、こちらの『ネズミサシ』。ヒノキ科ビャクシン属の針葉樹で、本州から四国、九州に広く分布している木ですが、この辺りでは『ネズミサシ』という名前で呼ばれる事はほとんどありません。以前、県外の方と話をした時にこの木の別名では話が通じなかった事があります。
『ネズミサシ』というちょっと物騒な名前は、文字どおり針葉が鋭く尖り、鼠の通り道にこの木の枝葉を置いておくと針葉が鼠を刺して進入防止になることに由来しています。実際に鼠を刺したかどうかは定かではありませんが、伐採しようとする人の手に突き刺さる事は間違いありません。見た目にもかなり痛そうな事がお分かりいただけると思いますが、気をつけて触ったつもりでも容赦なく柔肌にザクザクと突き刺さります。それがまた痛いの何のって・・・!
四国では、この木の事を『ヒムロ』と呼びます。その俗名は、かの万葉集にも登場する古名で、葉が密生することから「こもる」の意味があるのではと推察されています。あるいは、実が群がってつくという事から『実群(みむろ)の木』からきたという説もあります。 サワラの園芸品種として公園や庭園などに植生されるそうですが、私は自生しているものしか見たことがありません。アカマツと同じような環境を好む事でも知られていて、案の定アカマツの付近で生えていました。
密生した枝葉が重いのか、途中で枝先は地上に向って曲がって垂れています。伐採直後の木の皮は気持ちいいぐらい綺麗に剥けるのですが、この辺りではもっと大きな立派なヒムロは、樹皮を剥いて床の間の落とし掛けなどにも利用してきました。不規則にねじれた形の中に赤味が見え隠れするコントラストと独特の風合いが何とも風情があったものですが、もはやそれを使うような床の間もほとんどなくなり、ヒムロの出番はすっかりなくなってしまいました。
今にして思えば、私がこの世界に入った20数年前は、住宅資材としても結構さまざまな種類の国産の木を使っていました。その当時はそれが当たり前、普通だと思っていましたし、それが姿を消すという感覚も実感もありませんでしたし、そもそも普段からいつも使っているわけではない特殊な樹種に対して関心がありませんでした。それがある日、気がついたらその樹種が手に入らなくなりつつ事を知り慌てて、やっとその木のありがたさを知ることに・・・
そんな繰り返しで、沢山の木が目の前を通り過ぎて行ったことか。当時は【森のかけら】のような端材を使うという視点が欠落しており、相当にもったいない事をしたと後悔しております。今になって無性に端材が愛おしくなるのはそんな木々に対する懺悔の気持ちもあるのかもしれません。で、ヒムロも【森のかけら】に加えたいと探したのですが、既にレアで高価な特殊材になってしまっていたため断念しました。それが今回偶然ごくごく身近な所で手に入る幸運が!
とはいえ、町内会で伐採しようというぐらいの大きさですので、幹の部分でも直径90mm前後のこぶりな若木です。よく、【森のかけら】は35mm角なんだから、それより少しでも大きければ使えるでしょうと言われますが、当然のことながら芯の部分は『芯割れ』といって、芯の中心部分から放射状に割れますので、芯を外した部分で取らなければなりません。稀に芯を含んだまま奇跡的に割れずに乾く木もあったりしますが、一般的には芯は外して使います。
これが柱とかになると強度の関係でまた別の話ですが。それで、35mm角の【かけら】を取ろうとすると、乾燥による収縮、ねじれまで含めて考えると、荒材(加工する前の状態)で最低でも45mm角はないと使えません。なので丸太の場合は、最低でも直径が120~130mm以上はないと【かけら】には出来ないのです。しかもそれで曲がりがあるともっと大きいものが必要になります。なのでそれ以下のものは、『モザイクボード』などに利用しています。
木の大きさに合わせて何段階かの出口を用意しておかないと、折角手に入った貴重な材をみすみす無駄にしてしまいます。それもあって、『森のりんご』、『森のたまご』、『森のこだま』と微妙なサイズ違いの出口を作りました。現在の最小サイズは『モザイクボード』(加工上がりで27X27mm角)なのですが、こういうヒムロのような材の出口も早急に考えねばと思っています。『かけら』のひとつ下をいく『森のしずく』構想がますます現実味を帯びてくる!