久々の『今日のかけら』は、【霧島あか松】です。名前からも分かるとおり、九州は宮崎県の霧島山系の『アカマツ』の一種です。もう少し東に日向市があり、その一帯から出材される【日向松】の方が全国的にも有名で、【霧島あか松】と言ってもよく分かってもらえないので、一緒にまとめて【日向松】と呼ばれてしまう事もあります。弊社では、板物や耳付き板に挽いてよく乾燥させた【霧島あか松】しか購入した事が無いので、恥ずかしながら生材の時の霧島あか松の特徴はよく分かりません。乾燥した板の特徴としては、瀬戸内周辺で使われる松に比べると、全体的にやや柔らかい感触がします。赤身部分も淡い朱橙色で、力強いというよりはむしろ温もりを感じるような色合いです。現地にどれくらいの量があるのか詳しくは分かりませんが、地元の方の話ではかつては銘木として確固たる地位を築いた【霧島あか松】も、減少傾向にあり寂しいというような話をされていました。
ひとくちにアカマツといっても、その種類は多く、用途も多岐に渡ります。一般的には、松といえば梁丸太や梁や桁などの構造材をイメージする方が多いと思います。また、赤白の色味が豪快なフローリングも最近では多く使われています。しかし、近年の住宅事情で次第に姿を消しつつある床の間での晴れ姿こそが、松を銘木にせしめている真骨頂なのです。かつては、床板、地板、床框などに松の1枚板が好んで使われていました。私がこの業界に入った20数年前には、まだそういう仕事も結構ありました。松は、正月の門松に代表されるように、その樹形の華やかさや常緑樹でいつも緑葉が茂っていることなどから、縁起の良いめでたい木として古来より愛されてきました。また、くっきりした冬目(秋から冬に成長する部分)は雅趣に溢れ、ワビサビを愛でる日本人の琴線に触れたのでしょう。その複雑で緻密な杢の美学が、『やはり、床は松でなければ』、というこだわりを生み出したのかもしれません。やがてその美学も突き板や集成材に取って代わられますが・・・。
その松の中でも、【アカマツ】と【クロマツ】は代表格です。アカマツ野の名前の由来は、樹皮が赤身を帯びている事に因りますが、樹皮もゴツゴツしたクロマツに対して、樹皮が赤く幹も細目で女性的という事で【オンナマツ】あるいは【メマツ】とも呼ばれます。どちらが先かは分かりませんが、その反語としてクロマツは【オトコマツ】と呼ばれますが、どこも女性が強いのが世の習い。まだまだ旺盛なアカマツに対して、クロマツは現在ほぼ壊滅状態に近い惨状です。マツクイムシの被害が甚大だったともいわれておりますが、本当に【クロマツ】を見かける事はなくなりました。とはいえ、【森のかけら】にはその貴重な【クロマツ】もきちんと揃っております。そこはそれ、蛇の道は蛇と申しまして、各樹種のプロが揃っております。【クロマツ】についてはまた別の機会で。
話を【霧島あか松】に戻します。以前にこのブログで、『mikan cafe』さんの事をアップさせていただきました。お店のロフトで使われるローテーブルのご依頼を受け、現地を見させていただき、樹種は『お任せ』という事になりました。そこで提案させていただいたのが、この【霧島あか松】です。しっかり乾燥した、木目の面白い板を2枚並べました。赤身がないかなりの大木から採れた正真正銘の【霧島あか松】です。
赤身がないので一見すると、まず松には見えないと思います。木目もかなり個性的な物を選びました。雰囲気は栂に近いぐらいですが、触るとしっかり松の温もりが掌に伝わってきます。オーナーが九州出身という事で、こちらも縁あって松山にやって来た九州の材を選ばせてもらいました。ロフトの床が黒っぽいので普通なら黒っぽく塗って調子を整えるところでしょうが、あえて着色せずにクリアー塗装で仕上させていただきました。それは、この木は時間が経つと植物性油と材の油脂分が結合して、淡い橙色になっていきます。しかし、すぐにそうなる訳ではありません。
お店に来た時には、黒い床に白いテーブルと、かなり違和感があり浮いた『お客さん』かもしれませんが、多くのお客さんがこのテーブルを囲み、食事や会話を楽しみ、手でさすりなでられるほどに、お店に馴染んでいくと思います。そしていつの日にかお店の名前のような淡い橙色に染まってくれるのではないかと思います。
お店がこの地でますます永く商売を続けられ、経年変化を楽しむ余裕と愛情をこの【霧島あか松】に注いでいただき、九州で生まれた命の第二の人生をこのお店で共に育んでもらいたいと願いを込めました。数えられないほどのお客さんがこのテーブルを囲んだ頃、【霧島あか松】はもう愛媛の松になっているかもしれませんが・・・永尾彰英オーナー、どうかよろしくお願い致します。