★今日のかけら・#005【槐/エンジュ】マメ科・広葉樹・愛媛産
最近、仕事をリタイアされて木工を始めた方とか、趣味で彫刻をやっている方が来店されることも多くなり、彫刻用とか木彫り用の木を所望されることがあります。木彫りの木材といえば、やはりクスノキ(樟)が有名です。クスノキの耳付きの板の在庫は結構あります。今月の『適材適所』でも【井波の彫刻】の事を書かせていただきましたので、クスノキの材料の事は今週改めてブログに書きます。話を戻します。弊社に来られる方は、そこまで本格的な方は少ないので、もう少し薄い板は?という事になり、エンジュ(槐)を勧める事もあります。
エンジュといえば、濃い茶褐色の心材と白色の辺材のはっきりしたコントラストが特徴です。その対比の面白さを利用した、フクロウの木彫りなどをよく見かけます。また表皮に凸凹した突起も出るので、それを利用した床柱や床框なども作られています。以前はそういう物もよく利用した物ですが、やはり和のテイストが強いので、最近の洋風化の傾向の中であまり使われなくなりました。こういう木は個性が強く自己主張するので、これだけが良くても、部屋や家全体のバランスを考えなければうまく収まりません。でもうまくはまると、腕組みをして唸るような「説得力」が生まれ、凄みさえ感じます。
エンジュの学名は、Sophora japonica(ソフォラ・ヤポニカ)といいます。種名のヤポニカとは、日本原産という事を意味するのですが、書物によっては古くに仏教とともに中国から伝わったという説もあります。そのため英名は、ジャパニーズ・パゴタ・ツリーとなっています。
名前の由来は、中国原産説が有力とされています。古代中国で「えす」と呼ばれていて、この古名が「えにす」になり、「えんじゅ」に転化したというものです。別名でコヤスノキとも呼ばれますが、これはその昔神功天皇がエンジュの木にすがって応神天皇を無事に産み落としたという伝説からきていて、安産のお守りとされています。
またエンジュは、「延寿」と表示されることもありますが、縁起のいい木でもあります。もとも中国の周の時代に、大師、太傅、太保の三公が、朝廷の庭に植えた三本のエンジュの前に座って執務にあたったという故事があり、それにならって大臣の位を「槐位」、朝廷を「槐庭」、大學の異名をを「槐市」などと称しました。
日本でもこのコントラストの強い気に何か神秘的なものを感じていたようで、飛騨地方などではこの木を家の玄関や門などに使うと、侵入しようとする鬼(災いごと)を防いだり、鬼を退治したり、封じ込めてくれるという言い伝えがあるそうです。
建築材としては、それほど大きくなる木ではないので、通常の構造材というよりは、前述した床柱や化粧の大黒柱という風にモニュメント的な意味合いで使っていただきたいと思います。数は少ないのですが、弊社にも大黒柱にも使えるサイズの柱が数本あります。