森のかけら | 大五木材

今日のかけら102

イスノキ

柞木

マンサク科イスノキ属・広葉樹・宮崎産

学名:Distylium racemosum

別名:ユスノキ、ヒョンノキ、蚊母樹

 英語名:*****

気乾比重:0.75~1.02

 

 

日本でもっとも重たい木イスノキ①*


今日のかけら・#011 【柞木/イスノキ】 マンサク科イスノキ属・広葉樹・宮崎産

昨日に続いて、高知県梼原町の太郎川公園の話しです。この公園の中には、『きつつき学習館』という施設があるのですが、自然体験学習施設といった趣きある木造の建物で、森の掃除役・啄木鳥(キツツキ)と木工作(木をつつく)から命名されたものだそうです。当日は施錠されていましたが、係の方が気さくに開けてもらい中を拝見させていただきました。地元梼原のスギをふんだんに使った、その地に馴染んだ建物でした。私が興味があったのは建物そのものよりも中の展示物の方です。

そこには、木に興味の無い方には恐らくスルーされてしまうであろう変哲もない1本の丸太が横たわっていました。そのネームプレートには『ゆすのき』の文字が!そう、これこそ『日本でもっとも重たい木の1つイスノキ』の別名です。「日本でもっとも重たい木の1本」というのは矛盾したような表現ですが、国産の木の場合、個体差を考えると重さに幅がありそれぞれの木の産地の強い主張もあり、イスノキ、ウバメガシ、オノオレカンバなど複数の木が『日本でもっとも重たい木』の称号を得ています。

木材図鑑などでもその表現については苦慮しているようで、『世界一重たい木・リグナムバイタ、世界一軽い木・バルサ、日本一軽い木・キリ』は、ほぼ定説となっていて異論もないようですが、『日本一重たい木』の座はなかなか決まりそうにありません。材木屋の肉体感覚(肩に担いだり加工したりの)では、このイスノキがもっとも重たく感じられますが、それはこの木の通直で大きなものが少ないため、曲がっていたり枝が出ていて担ぎにくい(持ちにくい)ため力が分散するからかも。

幾つもの樹種がNO.1という曖昧さに不満を持つ方もいるようで、何が真の日本一なのかを決めようという声もあるようですが、私はむしろこの曖昧さこそが木の面白さだと思うのです。いいんじゃないでしょうか、「OOと言われる」とか「OOらしい」なんて怪しい表現で楽しんでこそ『生きている素材・木』の魅力じゃないですか。何でもかんでも理詰めで、数値に置き換えて工業化して、鉄やアルミなどと競うという道が、木に対してどれほどの負荷を与えているのかと考える事があります

数年かけて乾燥させたんじゃ商売にならない、経験則に頼った天然乾燥では、後々のクレームの原因になる、という現実はあります。でも昔の家はそうして造られてきました。昔の大工さんはそうして木と付き合ってきました。これは単なる家作りの工程の問題ではなく、何もかもを短時間で素早く処理・解決し答えを求めようとする、今の駆け足の生き方そのものの問題だと思います。自然の時間と向き合う事を忘れると美しい風景が見えなくなってしまうんだと諭されました。

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日本でもっとも重たい木・イスノキ②*

 

さて、『イスノキ』に話しを戻します。その解説のプレートには、『ゆすのき 標準和名:イスノキ』とありました。木材業界では、「イスノキ」の名前の方が一般的だと思うのですが、俗称や別名の多さこそが、暮らしに根ざしさまざまな用途で使われてきた木の多様性を物語るものでもあります。解説文には梼原町では自生も見られ、町名にちなみ九州から製材品を取寄せ木材加工の研究をしたり、町有林の複層林の下木として植栽もしているとありました。

以前に旅行した際、鹿児島で植生された立派なイスノキを見ましたが、県内では見た事がありません。在庫として倉庫に眠るイスノキは、上の看板にもあるように私も九州は宮崎県から仕入ています。宮崎県の都城市は木工が盛んな地域で、以前お邪魔した都城木材さんでは、広葉樹の堅木(樫など)を使ったスコップや鍬など器具の柄の加工もされていました。このイスノキの出口として有名なのが木刀ですが、都城市では全国のおよそ8割ほどのシェアを持っているそうで木刀王国

ただその素材の多くは樫(シラカシ、アカガシなど)だそうで、生育量の多くないイスノキは木刀の世界でも貴重なもののようです。特に高齢木のイスノキの芯を使ったものは地元で『スヌケ』と呼ばれ、木刀の中でも最高級材として珍重されています。こんな重硬な木刀で叩かれる事を考えただけで寒気が・・・。今までに幾つものイスノキを仕入れてきましたが、立て掛けるために倉庫に運ぶのにどれほど苦労した事か!もうその見た目だけで、この木がどれほど重たいのかを自己主張しています。

濃いこげ茶色の木肌を磨いてやれば惚れ惚れするほどの滑らかさなのですが、硬さも半端ではありません!こちらはそのイスノキで作った『森のりんご』。釘すらも曲がってしまうほどに強靭なイスノキをよくぞここまで見事に加工してくれたものです!荒材の時にはその鋭いそげらに何度も泣かされたものですが(刺さるともの凄く痛い!)、こうして曲線になるとその滑らかさ、そしてズシリと掌に伝わる重さは尋常ではありません!美しいものには棘あり!

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日本でもっとも重たい木・イスノキ③*

本日も『日本で最も重たい木の1つ・イスノキ』の話しです。この重硬な木は、建築の現場ではあまり、いやほとんどお目にかかることはありません。余程上質なものがあれば、床柱床框など床の間の装飾に使われる事が稀にありますが、愛媛に限っていえば私は未だ住宅にイスノキが使われている現場を見た事はありません。中には「キツツキ館」に鎮座ましましていたような大きなイスノキもあるのでしょうがそんなものはレア!家具材としても量が揃わねば使いづらいものです。

ではなぜそんな材を仕入れているかといえば、これはもうきっぱりと『材木屋の好奇心』のみ!世界中の木を見てみたい、触ってみたいという好奇心です(どちらかと言うと、立木よりも材としての木。つまり製材された材の方への気持ちが強いのですが)。そのために仕入れるなんて道楽だ思われるかもしれませんが、決してコレクションとして仕入ているわけではありません。実際にこの目で見て、触れて、担いで、削って、塗装してみないとその特性を知ることは出来ません。

そこから、その木に適した出口を探していくのですが、すぐに出口が見つかるというわけではありません。木によっては数年、10数年かかる事も。いつ上の方から啓示が降りてくるのか?これも人とで出会い、モノとの出会いなのですが、未だ道に迷っているばかり・・・。倉庫にあるイスノキは長さが3mあり、体調のいい時に覚悟を決めて臨まないと簡単には動かす事も出来ません。今回も明るいところに移動させて写真を撮ろうと思ったのですが、肘の調子が悪いのであえなく断念・・・。

このイスノキ、生垣や庭木、公園木として植栽されますが、材は木刀だけでなく、櫛や楽器、器具、ステッキ、寄木細工にも使われます。またその灰は「柞灰(いすばい)」として陶磁器の釉薬にも使われるそうです。時々、イスノキ=椅子の木なんですか?と訊ねられる事があるのですが、そうではなくてこの名前の由来は琉球の方言に由来したものだそうですが、詳しい事が分かっていません。四国や九州の一部では『ユスノキ』とか『ユス』とも呼ばれることもあります。


それは古名のユシノキ(由之乃支)の通音と考えられているようですがはっきりしません。また『ヒョンノキ』なる変わった別名もあるのですが、それはこの木の葉っぱにアブラムシ類が寄生して作る『虫えい(虫こぶ』が出きるのですが、成虫が出た後小さな穴が空いて空洞になります。その穴に唇を当て笛のようにして吹くとヒョウヒョウと鳴る音に由来しているようです。 その虫えいはタンニンが含まれているので染料としても利用されます。硬く引き締まった木にはなにひとつ無駄がありません!




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