『創作茶寮・西村』 の奥様の点てていただいたお茶をいただいた後は、皆さん個別に個人練習に移られます。私のような初心者にも分かりやすいように、一連の所作が写真入りで事細かに解説された『薄茶点法』という作法書の入門のようなモノがありましたが、最後まで行うと実に90近くもの所作があります!これを体で丸暗記(?)して実際にお茶を点てるのですが、目が眩みそうです・・・。やってみれば意外と簡単ですよ、と優しく誘われたのですが、決して簡単ではないと思います。こういうものって、ただ形を覚えるだけでなく、その所作の意味から理解しないと身につかないのでしょうね、きっと。 いくら勉強会といってもその落ち着いた設(しつら)えだけで妙に緊張してしまいます。最近の住宅では畳の間を設けないところが多いようですが、私はやはり畳みの間が落ち着きます。
この『西村』さんには、お茶をご披露していただいた席とは別に、離れの個室のようなテーブル席があるのですが、そこのテーブルを数年前に納品させていただきました。いつもお洒落なデザインの住宅・店舗を手掛けられる『飛鷹プランニング』の飛鷹社長にお声を掛けていただき、【神代楢】の1枚板を採用していただきました。この【神代楢】は、直接北海道の旭川に行った時に買い付けたうちの1枚です。久し振りの再会です。大切にお使いいただいているようで、ほとんど傷もついておりませんでした。カメラで写すと、照明が反射して実際の色合いが分かりにくいのですが、漆黒ではない茶褐色系の複雑な色が溶け込んでいます。向かい合わせで座ってこのサイズですから、決して大きくはありませんが、とんでもなく重たいです!数千年の重みがビッシリと詰まった重さです。
雰囲気を出して撮りたかったのでちょっと画面が暗いのですが、しっとりと落ち着いた色合いで、堂々とした力強さもあります。部分的にクラック(割れ)が発生しましたが、しっかり『契り』を入れております。地中深くで悠久の時を過ごした土埋木(どまいぼく)は、土木工事などで掘り起こされ地上に現れるのですが、数千年ぶりに大気に触れるのですから、乾いていく過程での収縮変形は避けられません。また、丁寧に乾燥させても予期せぬクラックが発生したりと、人間の叡智の及ばない聖域の木は、簡単に料理される事を拒むかのように暴れます。まるで人をあざ笑うかのように、刻一刻と「変化」していくのですが、それはもしかしたら私達の知らない擬態に「進化」しているのかもしれません。何でもかんでも人減の思い通りに出来ると思ったら大間違い。
あまりに長い期間土に眠っていたという事で、神の代(みよ)という畏れ多い冠が付けられていますが、本来は土埋木の中でも特に木目や色合いの美しい物に対して称される名前です。よほどうまく条件が兼ね揃わなければ土に埋まっている間に劣化腐食するのがほとんどで、そういう意味ではとても貴重なものなのです。この時に仕入れた【神代楢】の連れ合いがまだ幾らか残っていて、かなり倉庫で眠っていますが、それでも少しずつ収縮していると思われます。お茶の品格に負けない歴史の証人に対抗する大きな板が、カウンターテーブルに鎮座ましましていました。ブビンガの長い1枚板が迫力満点!『創作茶寮・西村』さん、お料理が美味しいのは当然ながら、自然素材を多用した設(しつら)えをご覧になるだけでも価値があります。