森のかけら | 大五木材

今日のかけら030

【カツラ】

カツラ科カツラ属・広葉樹・岩手産・日本固有種

学名:Cercidiphyllum japonicum

別名:コウノキ(香の木)、オカヅラ(雄桂)

 英語名:Katsura  Tree

気乾比重:0.50

月はこっちに出ている

今晩は『中秋の名月』という事で、家内と子供たちが作ってくれた『白玉団子』でお月見です。お月様も綺麗なまん丸でした。愛媛県ではこの時期、各地の河川敷などで『いもたき』が盛んに行われています。『いもたき』とは、その名の通り里芋や鶏肉、野菜などを大鍋で炊いて、みんなで食べるというシンプルなもので、この時期にはなくてはならない愛媛の風物詩です。工務店さんの業者会などでも、それぞれに『いもたき』が企画されるほどです。以前にテレビで紹介された時(秘密のケンミンSHOW)、出演者から大袈裟な「え~っ!」という反応を浴びていました。

他県の変わった習慣には眉をひそめることもあるのに、地元の事を言われると妙にムッと過剰に反応してしまいます。しかし冷静に考えれば、確かに妙な風習です。皆が集まりただ黙々と食べて飲むだけです。まあ、どこの風習もそんなものでしょう、お酒を飲むのに理由は要りません!実はこの月と深い関係がある樹木があります。以前にもこの事に触れましたが、『』の木です。『』は日本固有の木で、カツラ属カツラ科で英語名も『カツラツリー』といいます。その桂が月とどういう関わりがあるかというと、月には五百丈(約1500m)もの巨大な桂の木があるという伝説があります。その桂の葉っぱが茂れば月は満ち、葉が枯れ少なくなっていくごとに月も欠けていくというのです。そしてまた新たな葉が出ると、それに合わせて月も徐々に大きくなっていくのです。

桂の語源は、その材に甘い香りがすることから『香出(かづ)ら』と呼ばれた事に由来していますが、弊社に入荷する桂は、製材され人工乾燥処理された物なのでその香りは飛んでしまっていて残念です。桂は潤沢な水を必要をするため川や沢の近くに良く育つようです。愛媛の山にも桂の木はありますが、建築用の材が取れるような良質な物は揃いません。弊社が取り扱っている桂は、主に北海道産、岩手産のものです。私と桂の出会いは、以前にじっくりお話させてただきましたので省略しますが、今主に取り扱っているサイズは、カウンターサイズの耳付の1枚板片耳付きの平板の2種類です。

今や桂の1枚板でテーブルを作るというのは相当贅沢な事になりつつあります。そういう材があればあるに越した事はないでしょうが、なければ無理に大きな材を伐らずとも、幅剥ぎを使うという手もあります。右の画像は偶然手に入った豪快な桂の生きた証です!イマジネーションの湧く方、どうぞ挑戦して下さい。桂の木は栄枯盛衰を繰り返し永遠に生き続けるというロマンティックな伝説です。そのエピソードに花を添えるように、桂の葉はハートの形をしています。出来すぎたような話ですが、神々はディティールに宿ります。

細やかで繊細な日本人の観察眼が、シュールな物語を紡いでいくのだと思います。桂は成長の過程で入皮などを取り込んでしまうので、板に挽くと大きな入皮を含んでいる事もあります。入皮に部分は粘りがありそうでも、時間の経過でもろくなってバラバラになる事もあります。また、材に甘味があることから虫にも好まれるのか、虫穴も結構あります。しかしその手触りは木綿に例えられる通り、サラサラとしていつまでの触っていたくなります。それも桂という木の個性です。秋の夜空に浮かぶ満月の姿に思いを馳せてみました。

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桂、待つ秋祭り*

 

本日は北海道は旭川産の【】の木を製材しました。以前にこのブログでもアップしましたが、桂は私にとっても思い出深い特別な木です。しかし残念ながら、松山周辺で桂が出材される事はほとんどなく、木材市場でも目にする機会はありません。ですので一般の方はもとより、木材業者でも取り扱った事のない方が多いのではないかと思います。『桂は木綿の肌触り』という言葉がありますが、触る以前に見た目でもその質感が伝わってきます。木綿の言葉通り、反発のない素朴な触感はいつまでも触れていたいほど。

その桂ですが、この辺りでは認知度が低いものの、お月様との話などをさせていただき、その触感を試していただくと、惚れこんでどこかに使いたいという方も多いです。少し前までは、桂のテーブルサイズの1枚板も結構入荷していましたが、今はさすがに数も減りました。その分、中径木を片耳付のままで製材したような挽き材が人気で、それをカウンターに使われたりされています。生地のままだと淡い感じに映ると思いますが、植物性オイルを塗ると鮮やかで深みのある緋色になります。これがまた美しい!派手さこそないものの控えめな品の良さが出ています。

その桂を何に製材しているかというと、こういう物(右画像)に小割りしています。長さはおよそ1000~1200㎜、幅は40㎜前後、厚みは10㎜前後という小さくて薄い板状の物が数十枚。これから更にドンドン割っていきます。このサイズから分かると思いますが、建築材ではありません。弊社では桂の木は、住宅以外の使う事の方が圧倒的に多いのです。そのきめ細かさから彫刻材としても不動の人気がありますが、やはり『彫り』との相性は抜群です!何といってもその触感は魅力ですから、是非手に触れるところで使っていただきたいです。

少しサイズ違いの数百枚の小割り材が出来ました。触感が温かいという事は、軽軟という事ですから製材や加工は実に楽です。節もほとんどないような良質な原木でしたが、節そのものもそれほど硬くはないので、サクサク削れるという感じです。その分、傷やダメージを受けやすいので、テーブルなどに加工しても、最終納品まではひと時も気が抜けません。ただ誤解なさらないで欲しいのは、決してそれが桂の欠点ではないという事です。改めて、『木は決して人間のためだけに生まれてきたわけではないのですから

片耳付の板を挽くわけですから、最後には右の画像のような耳の付いた三角形のような物が残る事になります。小割りする時は、なるべくロスが出ないように複数の商品を合わせて木取りします。一気に挽けば速く出来ますが、効率よりも『モッタイナイ』重視の会社なので、使える物はギリギリまで使いたいのです。まだこれでも【森のかけら】が1個ぐらいは取れそうに思われるかもしれませんが、桂は辺材部分に青染みが入りやすく、この三角もその影響を受けた物ばかりです。これでも使える用途があればまとめて廉価にてお分けするのですが。

さて、この薄板が何になるのかというと、この後複数の工程を経て、最終的にはこの『木札ストラップ』に生まれ変わります。右から2番目の列が『』です。この木札ストラップは、『木言葉書』などでお世話になっている、小松町の『レーザー工房・絆』の辻さんが製作されています。左の画像の物は極小サイズですが、他に大中小と全部で4種類あります。もうすぐ各地で秋祭りが始まりますが、祭りシーズンこそが木札の晴れ舞台!各地区からまとめて数10個単位でのご注文も入るようです。いろいろな樹種で試しましたが、桂がもっとも人気です。これを見た木材関係者の方はすぐに、「m3(換算)で幾らになる」とソロバンを弾いて、その桁違いの数字(!)に驚かれますが、もうそういう机上の計算で事を評価されるのは、あまりに実態と乖離していて止めた方がいいと思います。誰にでも通用する単位でないと、実体が見えにくくなってしまいます。

 

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月の桂も茂る秋*

ついこの間まで暑い、暑いと言っていたのに今週になって朝晩が急に涼しくなってきました。昨晩は日中も温度が下がり、夜は肌寒く感じるほどでした。すっかり秋の気配の中、22日は中秋の名月でしたが、1日遅れの昨晩に我が家からも綺麗な満月が見えました。庭木越しに流れる夜雲の隙間に浮かび上がる美しいお月様を眺めて堪能しました。この様子だと、月に生えているという五百丈(約1500m)の桂の木もたっぷりと葉を茂らせていることでしょう。

の木は、私が会社に入っって結構早い時期から取り扱っていたのですが、もっぱらテーブルかカウンター材という販路しかありませんでした。実は恥ずかしながら、クラフトや小物材を手掛けるようになってから、初めての偉大さに気が付いたのです。勿論それまでも桂の肌触りの心地よさや寸法安定性などは理解していましたが、このという木は細かくすればするほどその特性が発揮されるのです。普通、癖の少ない木でもある程度小割りすると反ったりすのですが、においてはそういう事がほとんどありません。それと、材質がほとんど均質なので更に細かくすれば、同じような品質の物が大量に揃える事も可能なのです。サクサク加工が出来るのもありがたいです。うまく使えば、白太のギリギリまで無駄なく使えるのも嬉しいところです。

後日詳しくアップしますが、【木言葉書】でもの優れた均質性が発揮されています。月の桂にちなんで、二人の仲が満月の如く続きますようにとの願いを込めて、『結婚する大切なあの人に・・・』という事で、結婚式にまつわるシーンで使える『永遠のムーン・ツリー』を作りました。の温もりのある木綿の手触りともうまくマッチ出来たのではないかと、自信作です!ハート型のの葉にちなんでハート型にもと考えたのですが、こちらはTPOに合わせたシリーズ品なので、ハート・バージョンは別の商品にします。

の木は、使えば使うほど、知れば知るほど、その可能性が広がっていきます。ああ、決してがメジャーではないこの愛媛の地でもっとこの木の素晴らしさを知ってもらいたいと思うのです。きっと建築や家具だけの分野に留めておいたのでは、この木の本当の良さに気づかないでしょう。やっと訪れた秋の夜風を感じながら、美しい月を見ると月のの大木の事が気になって仕方がないのです。材木屋だからといって、どの木でもも伐ればいいと思っているわけではないのです。

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宗教サミット・6000個のメッセージ②*

また、弊社の小さな小さなものづくりにもご協力とご理解をいただき、弊社で製作している『森のしるし』のスタンプは、すべてハン六さんで製作していただいています。わずか数個の注文にも温かく対応していただける事に甘えているわけですが、それでもお願いさせていただくのは、弊社のものづくりの根幹をご理解いただいているから。ただ安いものをつりたいのではなく、誰にでも頼みたいのではなく、理解と信頼の出来る「仲間」(僭越ですが)と価値観を共有できる仕事がしたいのです。

その仕事の中で、平井常務から今回の宗教サミットの記念品の話をいただきました。大震災の復興を祈願し、岩手県の『カツラ』の木を使い、復興と祈りのメッセージを折り込んだ『宗教サミットのしるし』を6000個製作していただきました。それらは、延暦寺に集われた世界中の宗教指導者の皆さんの手に配られました。そもそもの『森のしるし』の本懐であった「メッセージツール」としての役割を存分に発揮させていただく機会を得たことは本当にありがたいことです。私は敬虔な信者でもありませんし、宗教の何たるかも理解してない信仰心薄き不届き者ですが、一介の材木屋として「木」という商売道具を使って、ささやかでもお手伝いが出来た事は材木屋冥利に尽きます。しかも日頃から仕事でよくお世話になっている「東北地方の森のめぐみ・カツラの木」がこういう形で、世界へその意を伝えるメッセージツールとなったのも嬉しい限りです。

カツラは英語名も「カツラツリー」で、日本固有の木です。 カツラの木は、『人間の体温にもっとも近い木』とも言われるぐらいに温かみを感じる事の出来る木です。その触感についてはよく『木綿の肌触り』とも称されるほど素朴で味わい深さがあります。まな板や将棋盤、家具などに利用されてきましたが、その触感を楽しめる使い方を模索していました。特に岩手県には良質なカツラが多く、ただのマテリアル(素材)以上の価値観を付加できないかということは常に考えているところでした。

今回はカラー印刷という事で色彩豊かに印刷されたのですが、塗料との相性でかなりご苦労されたようです。ただうまく印刷するのが目的であえばカツラにこだわる事はありません。しかし今回は東北の事を考えるというサミットのテーマを体言できる樹種として、東北・岩手産のカツラの木は大きな使命を帯びておりました。品質・機能・性能・納期・価格が優先されがちな建築分野とは別の次元で、『木』が求められる!ここにこれらからの材木屋と木の生きる道、求められる道があります。

澄んだ水と肥沃な大地を求めるカツラにとっても震災の影響は甚大なものであったことでしょう。これからの無垢材の販売において懐刀ともなる、木の『物語性』に対する期待感が膨らむ中で、実際にどういう形でその思いが結実していくのか、私自身もいまだ手探り状態ですが、こうして具体的にカツラの木がその役割を与えていただいたという事で、これから『森のしるし』の進むべき道筋に大きな灯りがともった気分です。豊饒の東北の森がたくましく復活し、再び美しいカツラを育ててくれる事を願ってやみません。

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涙拭く木綿の桂ください♬*

建築用材としては、愛媛ではあまり馴染みの薄い『カツラ(桂)』の木ですが、弊社では日頃から大変お世話になっている木のひとつです。「カツラは木綿の肌触り」という言葉がありますが、カツラは仕上げ加工しても触るとちょっとザラザラゴワゴワした木綿のような独特の触感があります。木綿の対義語として使われる「絹糸」の触感を持つ代表格の木にトチ(栃)がありますが、そちらはまさにサラサラツルツル。その2つの木を並べて触り比べてみると、その差は歴然としています。

こちらがカツラとトチを並べてアップで撮った写真。画像だと質感までは伝わらないかもしれませんが、雰囲気の違いぐらいは分かっていただけると思います。トチには縮み杢など木目の変化が出やすく表情も豊かで、いつまでもいつまでも触っていたくなるようなそのツルツルした触感に心が持って行かれそうになりますが、カツラの少しザラットしながらも心が落ち着くような感触も捨てがたいのです。なにせ『人間の体温にもっとも近い』とも表現される手触りに安心感が漂います。

木綿の肌触り・・・「木綿」という言葉を聞くと、太田裕美さんの「木綿のハンカチーフ」という曲を思い浮かべるのは昭和世代(ちなみに1975年の曲です)。作曲:筒美京平、作詞:松本隆という黄金コンビが作った大ヒット曲で、東京に旅立つ男性と地方に残る女性との遠距離恋愛を、視点が入れ替わりながら進行するという斬新にして抒情溢れる名曲です。4番まである長い歌なのですが、その4番の最後に女性が未練を断ち切るように男性にねだるのが木綿のハンカチーフです。

当時は「ぼく」、「あなた」と視点がクルクル変わる構成の意味も、木綿のハンカチーフがどういうものなのかも分からなかったのですが、ハンカチーフなんて独特の言い回しがオシャレっぽく感じて口ずさんでいたものです。この歳になると、木綿という素材にまで言及した歌詞の奥深さが心に響きます。シルクでもリネン(麻)でも無い木綿という素材を選んだのは彼女の心の純真さ、素朴さなのか、普段使いで浸透性のよい木綿を「私という過去」と見立ててたのか、何とも切ない曲です。続く・・・

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やがて葉書になる桂*

弊社が仕入れたのはハンカチーフではなくて木綿の触感を持つカツラの木です。その素朴な触感がテーブルなどとしても人気なのですが、もうひとつカツラが好まれる舞台が、『木言葉書などのレーザー彫字の素材として。レーザーで文字を彫るようになってさまざまな木で試してきましたが、中でも抜群に相性がいいのがカツラ。彫っ部分が真っ黒に焦げる事から、小さな文字でもとても鮮明でレーザー映えのする木なのです。また温もりのある木綿の触感も手によく馴染むのです。

ずっと前に東北産のカツラの耳付き板をまとめて仕入れていたのですが、出口がよく分からないままに興味本位だけで購入したため、長い間倉庫の中で席を温めてくれていました。その後、(あくまでも弊社内部での話)レーザー彫字素材という出口が確立されて以来、何千枚、何万枚というカツラのストラップ、木札が旅立っていきました。それでいよいよ在庫にも底が見えてきたので、いずれその責を負ってもらうべく仕入れたのが、北海道は旭川産のカツラの耳付き板なのです。

ただしこちらは旭川で原木を丸太挽きしたもので、松山に運んでから乾かせるつもりで仕入れたので実際に使うのは恐らく早くても1年後ぐらい。すぐに必要としているわけではないので、それで十分間に合いのですが、カツラは乾燥しやすい木でもあるので、桟積みしておくだけでもドンドン乾いていきます。乾燥が進むと、端に巻いた鉄帯が次第に緩んできて、もう既にユルユル。通常は鉄切鋏でバシャーンと切断するのですが、緩んでしまうとその必要もなし。乾燥の目安になります。

このカツラの木を使った出口の1つに『木言葉書(きことのはがき)』があります。改めて商品の説明をしますと、ハガキサイズにカットして磨いた木に、木言葉やそれぞれの木にまつわるエピソードなどをレーザーで彫ったもので、92円切手を貼ればハガキとして使うこともできます。カツラをはじめ現在10種の木がありますが、入学祝や結婚、出産、引越し、転職、記念日など人生のいろいろな場面で使えるように設定しています。

ちなみにカツラは、『永遠のムーンツリー』ということで、結婚する友人・知人に贈るという設定。「桂の木言葉は「不変」。日本固有の種、人間の体温にいちばん近くて温かい桂の手触りは木綿のごとし。葉っぱの形はロマンチックなハート型。月には巨大な桂の木があり、その盛衰によって月の満ち欠けが決まるという伝説もあるほど月との関わりも深い。満月のような愛情が変わらずに永遠に続くことを願っています」の言葉が彫ってあります。月との関係については『今日のかけら』をご覧下さい。

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ギャラリー隣花庵の桂*

木綿のような肌触りを持つカツラ(桂)の事をご紹介させていただいていますが、本日は具体的なカツラの木の使用実例についてのご紹介。愛媛にいては建築材や家具材としてでもほとんど使われる機会のないカツラですが、不思議と弊社ではカツラを取り入れていただいた現場が連続しています。そのうちの1つが、イシマルデザイン一級建築士事務所岸絹子さんが手掛けられた『ギャラリー隣花庵』さん(松山市小栗町)。庭の美しい瀟洒な日本家屋を改造してギャラリーにされました。

店内で砥部焼などの器を展示される展示台をご注文いただきまして、岩手県産のカツラの耳付き板を使っていただきました。両耳付きで、かなり耳に変化のある(凹凸の激しい)木ですが、弊社で眠ること10数年。恐ろしいまでに乾燥が進んでいて、長さ2m、幅950㎜ありますが、独りで軽く持てるほどに乾いています。実はこのカツラの板は、私にとっては思い出の一品でもあります。まだまだ広葉樹の魅力を理解していなかった当時、私に広葉樹の、一枚板の魅力を教えてくれた板です。

ほぼ全身赤みの木だったのですが、耳に近いところに数多くのピンホール(虫穴)もあります。仕入れた時には、直径1m近い大木を板挽きにした共木が7,8枚ほどあったのですが、1枚売れ、2枚売れて、いよいよ最後の2枚となっていたうちの1枚でした。それまで国産材というと愛媛産か四国産の木しか使っていませんでいたので、樹種もスギ、ヒノキ、マツ、サクラなどに偏っていました。売れるという見込みもなかったのですが、何かに呼び寄せられるように勢いで購入しました。

あれから10数年の時が流れて、お陰様で何百枚の耳付き板を扱わせていただきましたが、その方向に自分が歩みだすきっかけになった木の事は忘れません。当時はデジカメもなかったので、何度も何度も一眼レフで写真に収めていましたし、また当時は倉庫の中にも耳付き板がほとんどなくて、弊社においてもかなり珍しい存在だったので、ご来店される人にもしきりにお見せしていたので、その形も雰囲気もよく覚えています。それがこのたびご縁をいただいてようやく嫁ぐことに。

木のご縁って本当に不思議なもので、経験則ですぐに売れるだろうと思って買って板がなかなか売れずに倉庫の中で何年も眠ることもあれば、これは売るのに時間がかかりそうだけど面白そうだから買っておくかと思った材があっという間に売れたり・・・。ある程度は傾向とか流行りってあるものですが、そこはあくまでマニアックな嗜好品の事ですから、出会った時がご縁。一抹の寂しさもありますが、うちの倉庫で馴染んでいた時よりもずっとずっと隣花庵さんで馴染んでくれますように。

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四国桂設計のカツラ*

日頃からお世話になっている四国桂設計さんが事務所を改装されということで、弊社の木材も一部使っていただきました。以前にこのブログでもご紹介させていただきましたが四国桂設計大野純平さんは、年代的にも近く感覚も似ていらっしゃる青木住巧青木英章さんと一緒によく弊社にも足を運んでいただきます。若い次世代の建築に携わられる方が、本やネットではない「リアル木材」の質感や本物の感覚や木にまつわる話を求めてご来店いただけるのは本当に嬉しいことです。

それに応えるべくこちらとしてもできる限り分かりやすく木の説明やお話をさせていただき、リアル木材を楽しんでいただこうと思っているものの、求められている肝心な話以外の逸話や伝承、などの小噺的な話に脱線してばかりなので反省しているところ。さて、事務所の移転に伴い、材のご提案をさせていただかねばならないのですが、ご自分で「」と名乗られているぐらいなのですから当然、カツラの木をお薦めしないわけにはいかないでしょう!それでまずはカツラをご提案。

ただ、その時弊社の手持ちのカツラの材は、長さ2m前後で耳付きの柾目のものが少ししか残っておりませんでしたので、幅を剥ぎ合わせて打ち合わせ用のテーブルに使っていただくことになりました。それで仕上がったのがこちら!多少「追い柾」も混じっているものの、カツラの柾目の幅剥ぎテーブル。先日からカツラの木の特徴についてはご説明してきましたが、人間の体温にもっとも近いと表現される通り、とても温もりが感じられる木です。ただし柾目なので板目よりやや堅い。

 

愛媛にもカツラは自生しているものの木材市場に出てくることは稀で(ほとんどなくて)、愛媛の建築の現場では馴染みの薄い木です。個人的に非常に興味のあった私は、北海道や東北からカツラの材を仕入れてきたのですが、愛媛では認知度が低く、1梱包を売り切るのに何年もかかりました。今回使っていただいた材で弊社のカツラの柾目もようやく底が見えたわけですが、そうなればそうなったで妙に寂しく感じてしまう・・・のは悪い癖。使っていただいてこそなんぼですから。続く・・・

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桂の糸柾まな板、帝王の元へ*

以前に、目の通った高齢木のスプルースの木を説明した時に、『糸柾』という言葉を使いました。年輪が詰まって整然と並んだ柾目の様子がまるで「細い糸を垂らした」ように見えることから、そのような木を『糸柾』と表現します。細いモノの代名詞でもある糸という言葉を使うぐらいですから、ただ目が通っているだけでなく、その幅も極めて狭くて精緻であることが、そう呼ばれる条件ですが、こちらの岩手産の『カツラ(桂)』はまさにその呼び名に相応しい堂々たる糸柾。糸柾の上品な高級まな板が仕上がりました。

カツラを触った時の触感は、人間の掌の温度にもっとも近とも言われるぐらい温もりのある木で、よく『栃の木は絹糸の肌触り、桂は木綿の肌触り』と例えられるほど。東北や北海道産のカツラを実際に仕入れて触ってみるまで、その言葉は知っていても自分で体感出来ていませんでしたが、やはり百聞は一見にしかず。そのジワ~ッと来る温もりは数ある木の中でも特筆ものだと思います。その軟らかさゆえ、包丁の刃を傷める事も無く、まな板の素材としてもよく利用されています。

イチョウ・ホオ・ヤナギ』が、まな板界の御三家と言われていますが、カツラもその3種に負けず劣らず、まな板の素材としては適材なのです。柾目というのは、木の年輪にほぼ直角になるように挽いた場合現れる、定規で引いたようなまっすぐな木目の事です。柾目の中でも、特に年輪幅が揃った精緻なモノを『本柾(ほんまさ』と呼びます。丸太の芯を通る面で年輪と直角に挽くと本柾が出やすく、芯を外した面で挽くと柾目がよれたり板目が混じったりする『追い柾』になり、本柾に比べると価値が低くなります。

いくらそういう挽き方をしたところで、丸太そのものが良質なモノでなければ価値のある柾目は取れません。素性のいい年輪の詰まった高齢木である必要があります。そういう背景を知ってこのカツラの柾目のまな板を見てもらえればその価値も分かっていただけると思います。このカツラがいかに見事な木であったのか、森での在りし日の姿が浮かぶようです。魚で例えれば大トロ中の大トロ!1本の木から取れる量にも限りがあるためおのずと値段も高価になりますが、それだけの理由はあるのです。

今回たまたま目込みの柾目挽きのカツラの板があったので、まな板に加工しましたが、取れたのはわずかに10数枚。こういうモノって注文したからといって、それが確実に取れるというモノではないので、うまく入手出来た時がご縁!既にそのうちの何枚かは売れてしまいました。このカツラのまな板は、イチョウの丸いまな板を驚くべき販売力で売ってきた『まな板の帝王』こと大塚加奈子さんのお店『BRIDGE』で販売していただいています。それだけの価値があるかどうかはご自分の目と手でお確かめ下さい。

 

BRUDGE

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