さて1日遅れとなりましたが、夾竹桃(きょうちくとう)について。その名前の由来は、花が桃に似て、葉は竹に似ている事からきています。属名のネリウムとは、ギリシャ語で「湿気」を意味するそうで、文字通り湿気を好んで生えるようです。大気汚染にも強いようで、工場地帯などでも植栽として植えられて、梅雨の終わりから夏の終わりまで花を咲かせます。一方で、熱帯アジア原産のものは乾燥にも強く、土埃の中でも健気に花を咲かせているそうです。この夾竹桃は江戸時代の中期に中国から長崎に持ち込まれて、その後全国各地に広がったとされています。
それまであまり意識してませんでしたが、本当に大きな工場の傍などにはよく植えられていて、紅い花を咲かせていました。無数の紅色が妙に艶かしい雰囲気を醸し出しています。樹皮や葉は強心剤や利尿剤にも使われるなど薬材でもあるようですが、枝を折った時に出る白い液は有毒なので注意が必要という事が分かり、慌てて丸太切りからは撤去!明治の西南戦争では、官軍の兵隊がこの木の枝を折って箸に使い中毒にあったという記述があるようですから恐ろしい・・・!
一方で、打撲の腫れや傷みには、乾燥させた葉や樹皮を煎じた樹液で患部の洗浄にも使われるなど、この夾竹桃という木は使い方次第で毒にも薬にもなる木なのです。ただ素人は手を出す物ではないようです。私が夾竹桃に特別な感情を抱いているのは、この木がある歌に登場するからです。それは、さだまさしさんの『女郎花(おみなえし)』という曲で、『夾竹桃の花は 紅い花/私の涙は 銀の鈴/お諏訪の森の風は/日見の峠を越えて来る/親の便りをのせながら/あの人の面影をしのばせて』という歌詞があります。
歌詞の通り、夾竹桃は紅い花を咲かせますが、中には白い花を咲かせる樹種もあるようです。 最初、長崎に持ち込まれたという事で、長崎出身のさださんらしい「歌詞でも聴かせる」切ない歌です。以前に「竜舌蘭」の事でこの曲を引き合いに出させていただきました。2番の歌詞に『龍舌蘭の夢は白い夢』と出てきます。地味な曲で悲しいメロディですが、曲というより歌詞が心に残っています。最近のチャラチャラ軽いだけの歌謡曲の歌詞とは別格。もはや文学の世界です。
さて、夾竹桃ですが、毒もあるという特徴を知ってからは、その美しさが何か健気で切なく感じられるようになりました。花は何の感情もなく咲いているのでしょうか。人の思いが花を一層紅く染めるのでしょうか・・・。丸太切りのイベントから、思わぬ夾竹桃との再会でしたが、もう少し大きな材があれば【森のかけら・ジャパンプレミアム】にも出来るのですが。こちらはまだまだ企画段階なのですが、価値が高いというプレミアムではなく、個性で固めた日本の変り種にしようかと考えています。夾竹桃も勿論候補の1つ。その際にはしっかり乾燥もさせますが、毒は抜け切れないかも・・・。それでもいいんじゃないでしょうか、多少危険な香りのするところに大人の嗜好品の色気や楽しみもあります。牙を抜いた子供だましの「本物」に心がときめいてこない方向けという事で・・・包容力のある粋な大人限定の『ちょっと危険な森のかけら』考えてみます!