森のかけら | 大五木材

★今日のかけら・024 【オニグルミ】 Japanese walnut クルミ科・広葉樹・日本産(岐阜産)

本日取り上げるのは、食べてもおいしい胡桃(クルミ)です。このあたりで一般的に胡桃というと、これはもう間違いなく食用です。むしろ食用以外を連想するほうが難しいかもしれません。家具とかに使えるサイズの大きな木がないところでは当然です。松山で材木の商売を普通にしていたら、お目にかかることも扱うこともなかったかもしれません。最初に出会った時の印象は、えらいパサパサした木だなというぐらいで、正直あまり惹かれるものがありませんでした。それが削って仕上てみると、これがどうして!パサパサした毛羽立ちは失せ、ほんのり温かみのある滑らかな肌触りになります。この触感こそが胡桃の最大の魅力ではないでしょうか。それほど収縮の激しい木ではないので、なるべく植物性油での塗装をお勧めしています。

その後、店舗などの仕事をさせていただくことが増え、テーブルやカウンターによく使わせていただきました。幅剥ぎしてもあまり癖がないし、前述したように収縮が少ないし軽いこともあり扱いも楽です。なにより値段も手頃で、節もそれなりに使えます。それである時期大量に仕入れて保管していました。もうだいぶ前の事ですが、夏のある日、夜遅く倉庫に入る用事があって中で商品を探していると、静寂の中から『ポリポリ』と不思議な音がします。音はするが姿は見えず、最初は不気味に思っていましたが、音の出所を探すとなんと立て掛けてある胡桃の耳付板から音がします!「えーっ、嘘この中?!」

虫が苦手な私は、おそるおそる胡桃の板を取り出しました・・・しかし虫の姿は見えません。音も止まってしまいました。「?」気のせいかと思い、木を元に戻そうと耳の部分に触れた途端!・・・なにやら柔らかい感触が手に伝わりました!虫です、虫の幼虫です!・・・・釣りの餌のゴカイとかでさえも触ることの出来ない臆病者の私は、卒倒しそうになりました。しかし、悲劇はそれだけでは終わりませんでした・・・。

★よく見ると胡桃の皮の部分がスポンジ状になっていて、触ると粉々に砕けていきます。映画「ハンナプトラ」の砂漠の魔物たちのように・・・!その部分は虫たちが食った残骸なので、虫はいません。彼らが潜んでいるのは、俗に『甘皮』と呼ばれる柔らかい皮の部分です。通常木の皮のごつごつした所を私達は『鬼皮』と呼んでいます。これは木にしっかり引っ付き、木をしっかりと守っていて簡単には剥がれません。製材するときにはリングバーカーと呼ばれる機械で、回転させて刃物で一気に削ったり、水圧で剥いてしまいます。その頑固さは文字通り『鬼』のごとしです。

虫たちは甘皮が大好きで、孵化すると周囲のやわらかくおいしいところから食べ始め、硬い鬼皮のギリギリまで食して横移動します。そうして内部をグルグル縦横無尽に食べ尽くすのです。だからパッと見では分かりません。そのうち鬼皮も薄くなり小さな穿孔穴が開くと、そこからパラパラと木の粉末が落ちてきて、こんもりと積み上がります。「あっ、虫だ!」しかし、それは【警告】ではありません。もう遅いのです・・・

 

 

その時点でもうかなりやられています。しかし、鬼皮が硬いうちは彼らはバリバリ活動中ということですので、穴の奥に潜んで人間の気配を察しています。触って鬼皮が柔らかくなっていたらもう、その時は白太はないと思ったほうがいいです。あったとしても使えません。更に赤身までいっちゃています!・・・・・仕方ないです。胡桃や栗など甘い実のなる木の宿命です。むしろ自然界ではそれこそが本来の役割でしょう。胡桃はおいしいんでしょうね。

人間だって胡桃食べますもん。私も虫に負けずにバリバリ食べてやりました!おいしいです。もともと胡桃は、中央アジアに自生していたペルシャグルミが中国に伝わり栽培され、テウチグルミに変化したとされています。日本の古代の遺跡から出土する胡桃はほとんどが、オニグルミだそうですが、その名の由来は、実の形がごつごつして、凸凹があり鬼のように醜いことによるそうです。日本特産の変種ヒメグルミは核もツルッとしていて滑らかなので、そのヒメグルミとの対比として『鬼』と付けられたようです。

確かに鬼並みのごっつい表情ではありますが・・・先人達は物事の本質を的確に表現されていたようです。なんでもそうでしょうが昔からある物の名前の付け方には甘さや容赦はないですね!そのももズバリを言い抜きます、厳しいです!鬼と犬(イヌマキとかイヌガヤとか)など身近にいるものに例えたのでしょう。太古には鬼だってちゃんといましたから。

★今日は材としての胡桃の名前や特徴について。まず名前の由来ですが、諸説あります。その中で定説といわれているのが、「呉(くれ)の実」を語源とする説です。「呉」は朝鮮三国のひとつであった高句麗を意味し、その高句麗つまり朝鮮半島から伝わった果実を表した「呉の実」が転じてクルミになったというものです。他にも、胡桃の実がクルクル回るから「クルクル回る実」→「クル(クル回る)ミ」→「クルミ」説・・・個人的には面白いのですが、かなり苦しいような気が・・・。また、実が黒いことから「黒い実」→「クロミ」→「クルミ」説もあります。

胡桃の果実は食用になりますが、葉や油も役に立ちます。葉をつぶしたもので湿布すると、目の炎症、皮膚炎などにも効果があるそうです。タンニンを含んでいるため、葉や油はノミやハエ、ダニなどの虫除けにも効果があるようですが、材が虫に好かれるのとは対照的です!乾燥機で強制的に乾燥させるから含有成分も損なわれる(失われる)のでしょうか。古くは927年の『延喜式』という書物にも「胡桃油」の事が書かれてあるらしいので、かなり古来から胡桃油は使われていたようです。また冬でも凍らないため、寒い時期の屋外灯火としても重宝されたようです。実から葉まで、特質を活かして無駄なく利用していたものですね。先人の智恵は素晴らしいです、学ばねば学ばねば!最後に材としての胡桃です。

『円い森』の胡桃です。植物性油を塗っているのでしっとり濡れ色になっています。落ち着いたいい色ですね!ただし綺麗に削ってもオイルを塗ると多少毛羽立つので、仕上げ磨きをする必要があります。板目も柾目もどちらもいい表情が出ます。幅剥ぎ(はばはぎ・・・数枚の板を幅方向につなぐこと)にして板目と柾目が混ざっても、結構私は好きです。ただ白太はオイルで塗ると、赤身とのバランスが取りにくいのでなるべく赤身を使うようにしています。節は拳大の大きな物もありますが、取り入れてもそれなりに雰囲気あると思うのですが、まあこれは好き好きですね。

とはいえ、それほど幅の広い板がバンバン取れるわけではないので1枚板のテーブルなどはかなり貴重です。むしろ狭い板をつないで使えば手頃な値段で手に入るので幅剥ぎに使うことをお勧めします。今弊社にあるのは北海道産の45㎜の耳付板です(上の写真)。今回は事前に鬼皮を剥いであるので虫の穿孔跡が確認できます。目視するかぎり、虫の心配は少ないと思うのですが・・・まだ中にいるかも・・・いいんです、それも運命です・・・でもあんまり食べないでね!

 

 

 

 

 

2. 木のはなし

20100606 リスの忘れ物①この週末、田舎で大切な用事があり帰省しておりました。その際に、丁度時間に空きが出来たので、子供達と一緒に山道を散歩しました。この山道は、昔私達が子供の頃は頻繁に通った道でしたが、今はほとんど使われる事もなくかなり荒れていて少々危険ではあるのですが、身近なところで「ある種の自然」を感じられるので、田舎に帰って時間があると結構何度も歩いています。山側の斜面が崩れかかっている所もあって、道幅も狭くなっているのではあるのですが、大人の足には相当狭く感じます。子供の頃は狭いと感じませんでしたが・・・。

20100606 リスの忘れ物②山側の反対側は急斜面の崖で、ガードレールが設置されているのはわずか一部で、足を踏み外すと転落の危険もあるのですが、そう考えると昔は結構身近な所に「生死の境」があったように思います。子供ながらに危険性を本能的に察知する能力が研ぎ澄まされていたのかもしれません。使わない能力は低下するというのは本当だと思います。前に歩いたときには気がつかなかったのですが、足元にたくさんの齧られた胡桃の残骸が落ちていました。この間、小寺さんのお話を聴いた娘達とあたりをキョロキョロ探してみましたが見当たりません。

20100606 リスの忘れ物③木の幹だけでは見分けがつきにくいので、頭上も気にしながら少し先に進むと大きな1本の胡桃の木がありました! 立派なオニグルミの木です。足元に岩があったり崩れかかっていたりするので、今まで頭上を見過ごしていました。先程の胡桃の残骸現場からは少し離れた所にありました。リスたちが運んでいたのでしょう。10数m以上もあって、枝の実までは確認できませんが、この葉っぱと樹皮、間違いないでしょう。なぜだか妙に嬉しい気持ちになって先程の胡桃の残骸も拾いに戻ったほど。

20100606 リスの忘れ物④でももっと身近で枝についている胡桃の実を見せてやりたかったのですが残念。山道を降りきると、帰り道は舗装をされた大きな道を通って帰ることにしました。舗装の道路の斜面も崖崩れが頻繁に発生していたので、大規模な改修工事が行われていて、道路が一部拡張されていたのですが、その際に周囲の木々が伐採されて奥の方の木が見えるようになっていました。そのお陰で崖側の方も注意して歩いていると、もう少しで手が届きそうな所にも背の高い胡桃が1本!こちらも今まで車で通っていた時は気付きませんでした。娘達が拾ってきた木の杖を拝借して、枝を引き寄せるとそこには黄緑色の果実が10個ほどに房になっていました。子供達は見慣れぬ胡桃に「これがクルミ?」と驚いておりました。父親の威厳を少しだけ披露できて我ながらご満悦。ささやかな喜びです。

  

20100606 リスの忘れ物⑤ぐっと引き寄せてアップで撮影。10月頃になると熟して次第に見慣れた姿になっていきます。肉果皮の表面に皺が多く、その姿を尾に面に見立てられた事が『鬼胡桃:オニグルミ』の由来ですが、まだこの状態からは創想像もつきません。いつもはとても出材出来ないであろう(出したとしても赤字になるような)ヒョロヒョロな杉・桧の姿に心を痛めるばかりでしたが。今回ばかりは胡桃との出会いに嬉しい気持ちで一杯です。鬼胡桃は食用にするには実が小さいのですが、是非秋にはわずかでも『リスの忘れ物』のご相伴にあずかりたいものです




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