森のかけら | 大五木材

今日のかけら102

ブナ

ブナ科ブナ属・広葉樹・愛媛産

学名:Fagus crenata Blume

別名:山毛欅、椈、桕、橿(ブナ)

ホンブナ、ソバグリ、ソバグルミ、

ソバ、ソバノキ、コハブナ

 英語名:Japanese Beech (ジャパニーズビーチ)

気乾比重:0.50~0.75

 

 

安比高原・ブナの二次林にて*

今日のかけら・#096【/ブナ】ブナ科ブナ属・広葉樹・愛媛産

クリの話で岩手から愛媛に戻ってしまいましたが、広葉樹の聖地・東北の巡礼の旅はまだまだ続いております。再び舞台は岩手へ。中川原商店さんクリを満喫した我々一行は、折角ここまで来たのだからと案内役の七戸さんに無理を言って、八幡平にある安比高原に車を走らせてもらう事に。安比高原といえばオールシーズンリゾートとして、また日本有数の規模を誇るスキー場としても有名ですが、我々が向かったのは日本森林浴の森100選の1つにも選ばれた『ブナの二次林』。

前から一度来てみたいと思っていましたが、ようやくその願いが叶いました。『ブナの二次林』は、安比高原駅から車で10分足らずの山の中にあります。愛媛のわが故郷・西予市野村町大野ヶ原にも『ブナの原生林』がありますが、そこは車から降りて徒歩でしばらく歩かねばならない場所にあるのですが、こちらは車の通る道路沿いに突然現れてくるのでちょっと意外でした。まあそこが、人の手が入り利活用されてきた二次林の二次林たるゆえんなのかもしれません。

そこには、岩手北部森林管理署の看板があり、二次林について以下のような説明がありました。『ブナの原生林は昔から地元の人達によって漆器の木地材や薪炭材などに利用するために伐採され、その跡に幼樹が育ち、伐採と更新が繰り替えされてきました。このブナの二次林も、昭和の初め頃に炭を焼いたり、薪にするため伐採され、伐り残した親木から落ちた種子が発芽して出来たブナ林です。』その言葉通り、ひとが伐採した後で自然の力で立派に再生したブナの林です。

ブナは成長のスピードがゆっくりなので、一度伐採してしまうといくら再生したとはいえ、元のような大きくなるにはかなりの時間がかかります。恐らく現状のブナ林はまだまだ再生の途上。夕暮れが迫る中、ブナの林にそよぐ風のなんと爽やかなこと!以前テレビで森と林の違いを説明していましたが、そこでは単一樹種で出来ているのが「林」で、いろいろ樹種が混ざっているのが「森」と解説していました。私の認識では「森」は自然に出来たもの、「林」は人工的に作ったもの

自然に出来る森は、さまざまな樹種が混在しますが、人工的に整備された林は樹種も特定されます。このブナ林も足元の下草が綺麗に整備されていて、まさにひとの手をかけて作った「林」。何だか映画の撮影のために作った巨大な屋外セットのような趣きを感じるほどで、これほど整ったブナ林を初めて見ました。大野ヶ原の原生林に比べると、マイナスイオンが天から降り注ぐような感覚には欠けましたが、絶好のアングルでたっぷりとブナの木の撮影をさせていただきました。

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東北のブナ変遷史*

たまたまYouTube でミレニアム前に放送された古い番組を観たのですが、それは『来たるべき50年後の世界』を考えるという内容の科学番組でした。まだ電気自動車も試作段階、東京スカイツリーも夢の話、の時代背景でしたが、何気に観ていたら50年後の木の事が話題に。そこでは、50年後には日本の平均温度は2℃上昇すると予測されていて、そうなった場合『ブナ森の消滅』が起き、日本のブナは現在のおよそ1/3にまで減少してしまうと警鐘が鳴らされていました。

現在2014年、来たるべき50年まで道半ばでありますが、2050年の日本の森はどうなっているのか?その番組では、ブナの南限は熊本県八代の五家荘とされていましたが、美しいブナの森が広がるその場所にも50年後にはブナは無いということでした。その予測と現実とがどこまで合致しているのか分かりませんが、環境の変化に敏感な植物は人間より先にその答えを出していくことでしょう。寒冷地の厳しい寒さにも強いブナですが、急激な温度上昇はまさに死活問題!

今回の東北巡礼でもう1日時間があれば、本当は白神山地にも行ってこの目で世界遺産のブナを見たかったのですが日程上の問題で断念。その白神山地のブナも、太古の昔からそこに根を張る「先住民」のように思われているかもしれませんが、実はかの地にブナが根づいたのは今からおよそ3000年前のこと・・・それまでは温暖化の傾向がああて、まだブナは東北までは降りてこれずに、ナラクルミ、ケヤキ、シデなどの広葉樹が支配する森だったと考えられています。

6000〜8000年前は現在より2℃ぐらい温度が高かったそうで、その環境ではブナは育たず、白神山地あたりでもナラたちがわが世の春を謳歌していたらしいのですが、4000年前ぐらいから温度が下がって雪が降るようになると、雪の重みで枝が折れナラたちはあえなく後退。代わって寒さに強いブナが登場してくるのです。3000年前頃になると現在の気候と同じようになり、白神の地に今のブナたちのご先祖様たちが定住することになるのだそうです。歴史は繰り返す・・・

木編に「無」から、木編に「貴」へ①*

かつて日本全国には沢山の立派なブナ林があったそうですが、昭和30年代から40年代頃にかけてその多くが伐採されてしまいました。その跡にはスギやヒノキの針葉樹が植林され、ブナ林は次第に姿を消していったのです。ではその当時伐採されたブナは何に利用されたのでしょうか。ブナには「ブナの立ち腐れ」とか「ブナの木一本、水一石(一石とは、およそ100升、150㎏)」という言葉があるぐらい、保水能力が高すぎるあまり腐りやすい木としても知られています。

あまりに水を保有しているため、森に立っている頃から腐ってしまうとまで揶揄されるブナは、木材の乾燥技術が未発達であった当時としては「使えない木」でした。水を多く含む木は非常に重たく扱いにくく、乾燥するまでに時間がかり、その間にも腐朽菌が繁殖して朽ちていくので、スギやヒノキなどの針葉樹と比べても価値の低い木とされ、主に生材でも使える枕木や薪炭などに使われてきました。利用価値の低さから「木では無い木」として屈辱的な『橅』という漢字があてられたほど

しかし乾燥技術が確立され、ブナを乾燥して使えるようになるとその評価は一変するのです。弾力性があって曲げにも強く、適度な硬さと重さがあり、加工もしやすく、手触りも滑らかで、色味も美白で塗装ノリもよく、実にオールマイティーな木材である事に気がついたのです。しかし残念ながら『木では無い木』という誤った評価をされていたブナは、これでもかとまでに徹底的に伐採され、しかも植林もされてこなかった事からブナは日本の森で失われてしまった存在となったのです。

ブナが大量に伐採されたもう1つの背景には『国有林生産力増強計画』、俗に『拡大造林』なる国策事業があったといわれています。今の時代ならば到底共感されない論調ですが、戦後復興で木材が不足していた時代に、全国的な物資不足の中で人知れず森で枯損していく老木を活用すべし!との論説が新聞紙上で展開されると世論の同意を得て、ブナ林などの老大木の天然林を伐採し、その跡に成長も早く汎用性も高いスギやヒノキなどの針葉樹を植えようという林業政策が実施されました。明日に続く・・・

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木編に「無」から、木編に「貴」へ②*

拡大造林』なる愚かな国策事業が推進されると、ブナに代表されるような老大木の天然林は目の敵にされ、ひと様の役に立たない『老齢過熱林』と位置付けられ、『ブナ退治』の名もとにの多くのブナが伐採されてしまったのです。歴史に翻弄されブナは苦難の時代を歩んできたのです。その後ようやく環境意識の高まりを受けて白神山地の天然のブナ林などは保護されユネスコの世界自然遺産にまで登録されたものの、成長に時間のかかるブナ林の復元は容易ではありません。

また、ブナが不遇な目に遭ってしまった遠因と考えられているのが、ブナ独特の胡麻目のような点々がついているような木柄だとも言われています。私は個人的には問題ないのですが、日本人の好みの主流は木目がくっきりしたケヤキやサクラのような木柄で、ブナの表情そのものが日本人好みではなかったため評価が低かったとも。そのため椀や盆などに繰りぬいたり削ったりして、漆で塗装して木目が目立たない用途で木地師が好んでブナを使ったのかもしれません。

ブナは素材としてだけでなく、その実が動物たちの食料ともなることから、豊かな森の象徴ともされていて『マザーツリー』の別名もあるほどです。ようやくブナの真の姿に気づき、「木でない木」とまで卑下したブナに謝罪の気持ちを込めて、「木に貴い」という字をあてて『』と呼ぼうという活動が、ブナの北限といわれている北海道黒内松町では行われています。実はこの黒内松町は、私の故郷西予市は合併前の旧野村町時代からの姉妹都市を結んでいるご縁ある町なのです。

ブナについてはもっと早く取り上げたいと思っていたのですが、なかなかブナのある森に行く機会が無くてすっかり遅くなってしまいました。ささやかながら愛媛の森で育ったブナも少しずつ入荷するようになってきましたのでいずれ改めてご紹介します。最後にブナはいろいろな漢字で表されることも多く、『山毛欅』とも書きますが、これはブナの若葉は裏面に産毛があって、その葉っぱの形がケヤキによく似ていて、里にあるケヤキに対して、ブナが山にあることに由来しています。

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使えぬブナ、使わぬブナ*

以前から何度も御紹介させていただいている愛媛県産の広葉樹ですが、長い乾燥期間を経て少しずつ光の当たる表舞台に立たせていただいております。広葉樹の場合、針葉樹に比べて乾燥に時間を要するのですが、念には念を入れて乾かせている(決してその存在を忘れていたとか、売る能力が無いという事では・・・)わけですが、同じ広葉樹の中でも乾きやすいものと乾きにくいものはあります。乾きにくい樹の典型が『ブナ』です。

ブナには、『ブナの立ち腐れ』という言葉があるように大量に水分を保有する木で、それゆえに天然乾燥が主流であった時代には、水分が多すぎて乾きにくい木、扱いにくい木、腐りやすい木とされ、枕木や薪などに乱伐され、『木であって木で無い』とまで卑下された事が『(ブナ)』という漢字の由来になっているぐらい、乾燥には手こずる木なのです。同時期に入荷した県産の広葉樹が華々しくデビューしていく中、ブナはそれを見送る立場。

そんなブナですが、しっかり乾燥させてやれば粘りや弾力がありとっても有用な木で、家具から小物まで用途の広い有用な木です。弊社では主にヨーロッパのブナである『ヨーロピアンビーチ』を取り扱ってきたものの、国産のしかも地元のブナに対する憧れが募り、少しずつですが集めているところです。テーブルサイズの大径木などは望むべくもありませんが、【森のかけら】に使えるような小さなブナであればいくらか集まってきました。

 

しかし森のダムとの異名を取るブナの保水力は、資材としては両刃の剣で、水分は腐朽菌を増殖させる器ともなってしまいます。 水分が多いためうまく乾燥させないと蒸せてしまい、赤やら青やらのカビが発生。小さな部材さえ取れない事もしばしば。また水分は虫たちにとっても命を繫ぐ得難いものとみえて、虫穴(ピンホール)もたっぷりといただいています。さて、こういう材をどう使うかというところが偏屈材木屋の腕の見せ所!

 




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