先日、新居のお引渡しがあり、その際にローテーブルを納品させていただきました。この仕事に就いてからもう数百回も新居に携わらせていただきましたが、お引渡しの瞬間の独特の緊張感と施主さんの晴れ晴れした表情を拝見するのは、何度経験してもいいものです。これから新たな人生が始まるという初々しい気持ちがこちらにも伝わってきて、妙に得したような気分にさせられます。実は我々のような木材業者は、今回のように家具という最後の最後に納品させていただくような商品がない場合は、こういう場面に出会える事はほとんどありません。弊社の場合、家具のご注文をいただくお陰で、よくこういう場面に立ち合わせていただく事があります。無垢の内装材などを納材させていただいても、全てのお施主さんと直接お話が出来るわけではありません。直接お会い出来て説明などさせていただける機会があるというのはありがたい事です。
さて、今回納品させていただいたのは、フレンチチェリーの幅剥ぎのローテーブルと椅子です。当日ご覧のような晴天で、太陽の光が室内にも降り注ぎ、実際よりもやや発色して赤味が強くなってしまいましたが、実際にはもう少し淡い色合いで、フローリングのラスティック・メープルともうまく合ったのではないでしょうか。フランス産のフレンチ・チェリーは、北米産のブラック・チェリーに比べると、やや色合いが淡く、日本の山桜に近い印象です。触感はブラック・チェリー同様にツルツルしていてとても滑らかです。結構幅のある材が取れる事から最近よく活躍してくれています。お陰でフレンチ・チェリーの【森のかけら】ばかりがたくさん出来過ぎる事態に陥っていますが・・・。このフレンチ・チェリーは荒材で55㎜ぐらいの厚みがあるので、脚材も1本物で取れるのが嬉しいところです。
やはり木にもブームというか流行り廃りがあるもので、以前はやや淡色系(メープルとかビーチとか)の家具が人気だった時期もありますが、最近は色合いのしっかりした濃い目の色合いの家具に人気があるようです。またそれも繰り返すのですが、そんな中でもこのフレンチチェリーやブラック・ウオールナットは浮き沈みのない安定した人気を誇っています。長く使っても飽きがこない落ち着いた雰囲気が理由でしょうか。このローテーブルにも少し節が絡んでいますが、節の周辺にこそ木のエッセンスがより濃密に凝縮されますので、私は敢えて節も取り入れさせていただいております。節は枝の名残ですが、雪や風に耐えながらそれでも折れずに生きよう生きようとした木の格闘の歴史が刻み込まれています。これを使わない手はないでしょう。節については、年配の方よりも若い方の方が寛容であるように感じます。
節が入る事で アクセントが生まれますし、木によっても節の形状は異なるので、材の個性を引き立てるキャラクターマークの役割もあると思います。節を取り入れることで、材もより無駄なく使えるようになっています。そもそも広葉樹の長い材で無節の板なんて、そんなに無いのです。材の特性を知ってうまく活用するという事も大切だと思います。こちらのお宅では、床の間の地板にもフレンチチェリーを使っていただきました。床の間といえばかつては『欅』の独壇場でしたが最近はかなり変わりつつあります。
こちらの新居は、ワンズ㈱さんの設計・施工ですが、ワンズさんではほとんど地板はこうして無垢の幅剥ぎで作らせていただいています。多くの建設会社で標準的に使われているのが、欅の付き板貼りですから、かなり贅沢な仕様といえると思いますが、家全体の造りがシャープなので、和室とはいっても欅の突き板よりもチェリーやブラック・ウオールナットなどの無垢の幅剥ぎの方が合っていると思います。ただ単にここだけ使ってみても浮いてしまいますので、全体のバランスを考えてセンス良く使っていただくのが一番。ワンズさんでは、女性のコーディネーターの井村多希子さんが抜群のセンスできっちりまとめられるので安心です。床にはラスティック・メープルといろいろな樹種も使っていただいているのですが、素材が喧嘩することなくうまく互いを活かし合うようなバランスで使っていただきました。新居に吹き抜けた爽やかな一陣の風に背中を押された気分になりました。