森のかけら | 大五木材

今日のかけら077

トチ

栃・橡・七葉樹

トチノキ科トチノキ属・広葉樹・日本産

学名:Aesculus turbinata

別名:クリトチ、ホントチ、オオトチ、ウマグリ

英語名:Japanese horse chestnut

(ジャパニーズ・ホースチェスナット)

気乾比重:0.40~0.63

マロニエとホース・チェスナット*

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白星招くトチノキ・初日*

本日はマロニエではなく日本の『トチノキ・栃』について材の特徴ではなく、栃の漢字にまつわる物語について、一風変わった位置から光を当ててみたいと思います。この栃を県木に掲げる栃木県の件名の由来は、諸説あるそうで正式には未詳とされていますが、その地にたくさんの栃の木があったという事が有力なのではないでしょうか。県庁所在地の町名であった「橡木(とちぎ)町」にちなんだとされていますが、県成立時に「橡」から「栃」の文字に変更され今に至ってるとされています。 ちなみに右は栃木県の県章

そもそも、昔はトチノキの事を「十千(トチ)」と表わしていたそうです。それは、栃が左の画像のような大きな葉や実をたくさん付けることから、十(とう)も百も千(せん)も葉や実が付く縁起の良い木として「十千(トチ)」と呼ばれ、十×千(10×1,000)=万(10,000)という事で、木偏に万を付けて「栃」になったとされています。冗談のような話ですが、古来より日本人が暮らしの中で自然や植物との縁(えにし)を大切にして、木を愛(め)でながら上手に活用し「木の文化」を育んできたこの説が私は大好きです。

こういう由来のエピソードの真意は正確ではないでしょうが、時を経て世代を越え、語り継がれて行くうちにもっともらしい話に脚色され、誰もが納得するのかもしれませんが、むしろだからこそ皆に親しまれ定着して残っていくのだと思います。こういう物語に、昔の日本人の粋と懐の深さ、そして日本語の素晴らしさをつくづく感じるのです。ちなみにここ静岡県はモクセイ、故郷・愛媛はマツ。この栃の木は、街路樹として植えられているので街中でよく見かける事が多いでしょうが、よく耳にするといえば・・・。

栃木県という件名以外では圧倒的に多いのは、大相撲の四股名(しこな)ではないでしょうか。 もともと栃木県出身だった栃木山が興した春日野部屋では、現在まで伝統的に「」を使った四股名が付けられ、栃錦、栃東、栃乃和歌、栃ノ海、栃光、栃赤城、栃ノ心 など多くの人気関取を輩出していますが、そもそも栃の木が、葉や実をたくさんつける縁起の良い事から、たくさん白星に恵まれますようにと縁起も担いで使われ続けられているのだと思います。この話、更に明日に続きます!

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白星招くトチノキ・千秋楽*

 

大相撲の四股名はそもそも、海や山など自然の優雅さや力強さ、美しさを表わしたものが使われていたのですが最近は外国力士の台頭で、英語名を無理矢理日本語に当て字読みさせたセンスと品の無いものばかりで寂しいです。そこには伝統的な日本語の情緒や機微も取り入れたような四股名を付けていただきたいものです。横綱・四股名を戴く者としてはに感じるのです。ご興味のある方は、大相撲にちなんだこちらの大相撲の5かけらなど如何でしょうか!

商品紹介森の5かけらコーナーでにも掲していますが、この中でも「栃」の四股名にまつわる木として「栃」の木をセレクトしております。ご年配の方だと、この栃から第44代・横綱の栃錦を連想される方が多いようです。若貴の伯父にあたる初代若乃花との激しいライバル関係は「栃・若時代」と呼ばれ一時代を築きました。何事にも好敵手の存在は大切です!ちなみに「柏」は呼び出しの際の拍子木に由来していましたが、横綱・柏戸を連想される方も多いのですが、勿論それでもOKです!鵬柏時代も遠くになりにけり。

ちなみに、栃の四股名を持つ関取の中では、私は栃東がご贔屓でした。首が短くてプロレスラーのようなゴツゴツした筋肉質の体躯で、おっつけ主体の取り組みも好きでしたが、2007年に将来の横綱を嘱望されながらも、怪我と脳梗塞(過去に起こした脳梗塞の再発の危険があるという事)が原因で早々と引退してしまったのは実に残念でした。大関の地位から一度陥落しながらも再び返り咲いたのも栃東ただ一人なら、平成18年の1月場所で栃東が賜杯を手にして依頼日本人の幕内優勝も出ていません。若い頃から稽古の鬼として知られていましたが、もともと体が硬く怪我が多く、常に満身創痍の姿で土俵に上がる姿は痛々しくもありました。引退後は、父親(13代栃東は福島県相馬市出身)から玉ノ井部屋から継承し、14代玉ノ井親方として後進の指導にあたられています。若貴しかり、ガチンコの矜持と引き換えの短命な相撲人生でした。

ところで前述の『照国という四股名は、1953年の横綱引退以来使用されていません。最近では、安馬が大関昇進の際に「照国」の四股名復活かと騒がれた事もありましたが、結局日馬富士(はるまふじ)になりました。四股名の復活を少し期待したいただけにちょっと残念でしたが、「持ち主」の一人としては、あんこ型の横綱のイメージを抱いておりますので、ちょっと雰囲気も違ったのかなと。それにしても日馬富士で「はるまふじ」は読みづらいでしょう。残念ながら初代・照国の四股名を受け継ぐべき勢ケ浜部屋は消滅してしまいましたので、鹿児島県照国町出身の力士とかの登場を待つしかないのでしょうか。照国が昔の横綱の名前でなく、「あの力士の名前と一緒ですね」として認知される日がいつ来るのでしょうか。ちなみに横綱照国は秋田県湯沢市出身。ごたごたする大相撲界ですが、是非強い「照国」に復活していただき大相撲を光ある方向に導いてほしいものです。

静岡に行ったのは先週の事。久し振りの出張でネタはたっぷり仕入れてきたのですが、あまりにくどくなるのもどうかと思い、ブログではサラリと1週間ぐらいでで静岡紀行を終わらせようと思っていました。それが、未だに駿府公園から出れず・・・。実際にはこの後、ようやく大会会場に辿り着く事になるのですが、まだ園内には『家康公お手植えのみかん』や取り上げたい公園木も数有り、大会本番、懇親会、更に翌日の大阪と・・・ブログにおいては後1週間ぐらいは松山に戻って来れそうにありません。トチノキもマロニエまだ名残惜しく・・・

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栃、巨(おお)きなるがゆえに*

早く駿府城跡を抜け出して大会会場へと向かわなければならないのですが、「」の名前に触れておいて、その材の事をスルーするのはあんまりだと思い、もう一日だけ栃のお話。本日は材としてのトチノキについてです。葉も実も大きな栃ですが、木としても25~30mにも達し、直径も1mを越えるものもあるなど、国産材の中でもその巨漢ぶりはつとに有名です。街路樹や公園木としてよく見かける栃は、それほど高くありませんが、そもそも水分の多い肥沃な土地を好むので、乾燥した街の中では大木を見かけることはないのでしょう。弊社の敷地に、自分の社長就任の記念樹として植えた栃もすっかり根付いて大きくなりました。春先になると清々しい緑が目を楽しませてくれますが、年々大きな葉をつけるようになりました。どうやら巨木になる素養はないようですが、これからずっと付き合っていくつもりです。

そんな巨木にも成長する栃の活躍の場は、テーブルや座卓でしょう。以前は「」の材料としても人気がありましたが、この辺りでは臼そのものを使う場面がすっかりなくなりました。こうして少しずつ適材適所たる森の出口が閉じられていくのは残念な事です。さて、国産材の1枚板で大きなテーブルを作りたいというオーダーに応えられる樹種には限りがあります。その中で材質も安定していて、幅の広い材が取れる木となると、その筆頭に上がるのがこの「栃」ではないでしょうか。

こちらが弊社にある最大の超巨大栃!わが娘が幼稚園の頃にモデルをさせましたので、その巨大さが窺えるでしょう。ただし、これだけの巨躯ですから全身にかなりの人(樹)生の歴史を刻まれていらっしゃいます。それも当然の事とありがたく受け止めていただく心の寛大な方との邂逅を待つばかり。さすがにこれだけ巨大な栃はそうそう出てくるものではありませんが、幅900㎜クラスであれば決して入手が難しいという樹種ではありません。ただし節も無い無傷となるとそれなりに高額になります!大きく成長する過程で現われてくる枝の足跡・節もその巨躯同様大きなものになります。私は、栃の節はそれなりに絵になると思っているのであまり気にせずダイナミックに取り込ませて使わせていただいています。いつもは管理が大変なので、倉庫の奥深くで眠っていますが、一度だけ光が当たった事があります。

それは、愛媛木材青年協議会で『どうぞのいす』を施設にプレゼントさせていただいている事がご縁で、6年前に(平成17年)東京の『劇団・』さんをお招きして、弊社の倉庫でお芝居を上演していただいた事があったのですが、その時の大きなテーブルに利用しました。まだ小学校に上がる前の息子が大の字に寝そべっているので、その巨大さが分かると思いますが、二股に変形した巨大な栃です。そのサイズや2200~3900×1800~2100×75㎜。もはやベッドです!

巨(おお)きなるものは、巨(おお)きなるがゆえに尊い。」図面の上で幅1mのテーブルを書き込む事はたやすい事ですが、いくら栃が大きく成長する木で、今でもキングサイズが出材されやすいとはいえ、いつでもどこにでもそのサイズが在庫されているわけではありません。巨きなる木にはそれなりの価値を見出し、なるべく育ったスケールに合わせた活用の仕方が肝要だと思うのです。上記の画像ほどではありませんが、こちらもかなり巨大な変形の栃。このサイズになると、さすがにそう簡単に出口があるわけではありませんが既に鎮座ましましておいでです。

ここは伊予市のレストラン『イル・デ・パン』さんの二階席。そのスケールでいつもお客様を楽しませてくれているようです。同じサイズのもう1枚は、ごく普通の(?)一般のお家でテーブルとしてお使いいただいています。こういうサイズのものって、相性の合う「奇特な(?!)持ち主」とうまく結びつかせてあげないと、こちらとしても胸が痛みます。残る巨大な栃たちもよい縁(えにし)があればと願っています。まあ、これだけのサイズになると、現場に納品出来るのかという物理的な事の方が重要になるわけですが・・・。

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栃の手触り、絹糸の如し*

弊社の倉庫にもの在庫は結構ありまして、早い段階で『今日のかけら』でも取り上げようと思っていましたが、すっかり出番が遅くなりました。その分たっぷりとご紹介させていただきます。まず、栃の特徴として「栃の手触りは、絹肌のごとし」と形容されますが、まさにそのすべるような触感は、滑らかな絹糸に触れるが如く。その気品溢れる手触りだけで魅了されてしまうほど饒舌な触感です。私の好みでは、栃との触感が双璧です品で繊細な絹糸のような栃と、素朴で木綿のような温もりのある桂、いずれも甲乙つけがたい味わいがあります。

「材」という観点で考えた時、つい乾燥とか強度、価格にばかり目を奪われがちですが、改めてじっくりと木に触れると、そこに「個性と命」を感じ取る事が出来ます。ひとり落ち着いて木の触感を愛でる、そんな木との接し方があってもいいと思うのです。また栃の場合、大きな節が現われた周辺には面白い杢が現われ、私たちの目を楽しませてくれます。大きな節の周辺には、その枝を折らせるまいと奮闘した木の命のエッセンスが凝縮された姿が妙味溢れる杢となって現われますまるで湖の波紋のようにユラユラと今にも消えてしまいそう。

上の画像はいずれも無塗装の状態ですので、これに植物性油を塗るとより濡れ色になって光沢が増します。見る角度によってキラキラと妖しい輝きを放つ「栃の縮み杢」は惚れ惚れします。栃は赤身よりも白身の方が重宝される珍しい木です。全身白身の『白栃』となると大変貴重で高額で取引されます。専門的には、この『白栃』で、なおかつ1寸(約30㎜)に10個以上の縮みが出ている『栃縮み』が最高級とされていますが、弊社の倉庫にあるのはそういう銘木ではなく、脛に傷のあるような木ばかり・・・。ただ、傷や節や割れがあっても、それも木が生きた時間が凝縮された履歴書だと思っているので、愛おしく感じられます。これからの時代、従来の物差しだけでは計りきれない『木の価値』、『木の出口』が生まれています。伝統を守る事も大事ですが、新しい感覚や価値を否定しては、木を未来に繋げる事は出来ないと思うのです。

さて、栃のもうひとつの大きな特徴とも言えるのがこちらの虫の穿孔穴カミキリムシの幼虫の仕業なのですが、直径が20~30㎜もあって、鉄砲で撃ったような穴が開く事から、俗に「鉄砲虫」と呼ばれています。これが同じ材の偏った部分に集中して出ると、こういう風になります。初めて見る人は、何か意匠的に作られたデザインか何かと勘違いするほど堂々とした痕跡です。ここまで豪快に開けられるとむしろ気持ちがいいほど!これはこれで、それなりに「味」、「アート」のレベルにまで昇華しているのでは・・・!

実は上の縮み杢とこの鉄砲虫穴は同じ1枚の板なのです。う~ん、神のイタズラの如き、この混在感。個性的な表情を持つ栃ですが、虫穴以外にも土中から石灰質などを吸い上げた『金筋(カナスジ』と呼ばれる筋状の罠があったり(これを削ると刃物がボロボロに!)や、青染みや変色(腐朽菌の影響を受けやすい)も多く、に乾燥に伴い狂いやねじれが出やすいという、神様の気まぐれ要素も持ち合わせています。とても面倒?いやいや、だからこそ栃は面白いんじゃありませんか!手が掛るものほど愛おしい。

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栃餅のほろ苦きを噛み締めて*

弊社の事務所前に植えた『』の葉も少しずつ秋の様相を帯びてきました。この地に根付いてから4年、身の丈10尺足らずのまだまだ小さな木ですが、小天狗の団扇に使えそうなぐらいの葉はつけるようになりました。木の出前授業やイベントなどでよく『』の話をするのですが、その際に名前の由来である『栃の実』について触れるので、息子や娘もすっかり覚えていて、葉っぱが色づくと「栃の実どこ?」と尋ねてきたりします。しかし残念ながらそれはまだまだ先の話なのです。

私とてこの栃の実を無事に見れるかどうか・・・。実は、栃はかなり大きくならないと実をつけない木なのです。自然の状態のものだと30年ぐらいはかかるとも言われています。以前に実生(みしょう/種子から発芽して成長する事)の若い苗木を接木して、あれこれ手を施して見事10数年で実をつけたという研究報告がありましたが、それは特殊な例で、通常は30年が目安とされているようです。順調に実をつけたとしても齢80手前にお目にかかれる事になるのか・・・気の長い話です。

そんな貴重な栃の実を使った料理が、こちらの『栃餅』です。先月、地区の役員会の慰安旅行で「姫路~城崎方面」に行ったのですが、その時立ち寄ったお店で売っていたので購入しました。但馬の郷土名物だとか。封入してあった説明書きには、【当但馬地方で昔から山の果実『とちの実』を冬の季節に皮をはがし、流れ川に3~4日さらし灰と合わせてとちの実の「アク」抜きをし地元の良質もち米を使用した田舎独自の製法で仕上げた商品です】と書いてありました。手間隙がかかっております。

それは栃の実にサポニンタンニンなどの苦味を感じる成分が含まれているため、アク抜をするなどの調理をして主成分であるトチでん粉だけを取り出して、小麦粉や米粉などと混ぜて練ったりして餅や麺として食したのでしょうが、先人たちの創意工夫には頭が下がります。しかしそれは決して甘優しい料理の向上心などとは対極にある、これを食わねば生きられないという極限状態での選択、挑戦だったのかもしれません。木の実は、昔の山村では救荒食料として多くの命を救ってきました。

森が与えてくれるめぐみはもともと「甘い」わけではなく、先人たちの生死をかけた「創意工夫」の末に、「甘美の知恵」という調味料に辿りついたのでしょう。日本人が「飢え」から解放されたのはわずか数10年前のこと。それからあっという間に肥満・糖尿病大国に堕してしまい、「山の食糧」を顧みる事が少なくなりました。自然への畏怖を無くし、踏み込んではいけない領域にまで足を踏み込んだ人間に森が与えるのは、森のめぐみではなく自然の脅威・・・。最近熊が市街地へ頻繁に出没するというニュースが聞かれますが、それは「警告」などという甘ったるいものではなく、虎の尾を踏んだ日本人に、森は木の実ではなく獰猛な獣を遣わしたのでは・・・などと考えてしまうのです。「もう後戻りできないのだ」などという愚かな傲岸から覚め、謙虚さを取り戻さなければ・・・。栃餅のほろ苦きを噛み締めて思う。

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銘木列伝⑥ 絹糸の気品と栃の実せんべい*

岐阜の銘木市場で圧倒的な存在感とボリュームを誇ったのは、銘木の王様『欅(ケヤキ) 』でありましたが、人気が高かったという点では『絹糸の気品・栃』が挙げられます。ここの市場だけでなく、今全国的に栃の板は人気が沸騰していて、ほとんどの材が落札されます。私がこの仕事を始めた20数年前は、決して人気のある木とは言えませんでした。当時から欅は別格の人気を誇っていましたが、栃は銘木とは言い難いような安い値段で取引されていました。

その地位も値段同様に高いものではなく、「予算がないからケヤキは手が届かないので、せめて幅広の栃にでもするか」なんて扱いでした。国産の耳付きの大きな板がだんだん少なくなってきていますが、栃は今でも比較的大きな材(例えばそのまま1枚板のダイニングテーブルにするような)が入手可能です。弊社にある最大の1枚板も栃です。ただし総じて材質が軟らかく、腐朽菌に侵されやすかったり、狂いやすい特徴があるので、それいわれなき低評価の原因だったのでしょう

私は高級銘木を集める趣味はないので、複雑で多彩な杢が楽しめる栃は大好物のひとつ。よく『桂は木綿の肌触り、栃は絹糸の肌触り』と例えられますが、その滑らかな触感も楽しみにひとつです。なかでも岐阜は栃の良質材が出材されることで有名で、下見段階から面白いまだらの栃が沢山並んでいて気になっていたのですが、想定していたよりも高値で次々と落札されていて、噂にたがわぬ栃人気を肌で実感!仕方なく今回は栃とはご縁がなかったと諦めました。

しかし大量の栃が並んでいましたので、面白い形のものや杢目はカメラに収めさせていただきました。テーブルの脚材にほんの少しだけ仕入れましたが、どうしても栃への思いも断ち切りがたく、せめてもと思い、駅の売店で「とちの実せんべい」を購入!栃の実を生地に混ぜ合わせて手焼きしたものですが、栃の実には苦み成分があって作るにも非常に手間がかかるです。なので旅先でトチを使った食べ物を見てしまうとつい条件反射で買ってしまうのです。

これで栃好きの溜飲が下がったわけではないのですが、木のめぐみとは直接的に材からのみ得られるものばかりではありません。その実や葉、枝や香りなどから間接的に得られるものも沢山あります。そういう知識や経験があれば、木の愉しみはもっと広がり豊かになります。特に『誕生木の商品』を作り始めてから余計に、木の周辺のものづくりにも一層強く関心が向くようになりました。骨まで使うためには、骨がどう使われてきたのかという歴史や背景も知らねば。

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6年目の栃*

事務所の入口に、平成20年に私が社長に就任した年に植えたトチ(栃)の木。今年も沢山の葉を広げて元気に成長していますが、栃の実は今年もお預けのようです。以前にもご紹介しましたが、トチはかなり大きな木にならないと実をつけないため、街路樹などに植えられたトチでも実がついているのは多くないのです。通常、トチが実をつける目安は30年とも言われていますので、まだ6年目のうちのトチに実がつくはずもないのですが、もしかしてとの思いもあって一応確認してみます。 私がこの仕事をしている頃どころか、生きているうちに実を見たいもの・・・。

そんな事を考えていると木の寿命の何と長い事か。長野県にある『赤岩のトチ』が恐らく日本で一番長寿な栃の木であろうとされていますが、記録によると樹高約20m、目通り周囲12.4m、推定樹齢はおよそ1,300年!トチの木は今でも比較的大きな材が揃いやすい『家具材の希望の星』ではありますが、見た目の大きさに対して反して意外と若い木も沢山あります。樹種によって成長のスピードが違うので、一概に材の大きさだけを比べて樹齢を比較する事は出来ません。

トチの場合、直径1mを越えるものも珍しくはないので、短命でないことは明白なのですが、数百年生のものも珍しくはない超長寿のスギやマツに比べるとそこまでのものは少ないのではないでしょうか。国の天然記念物などに指定される特別なものは別として、あくまでも一般的な感覚です。弊社に植えているトチは、少しは幹が太くなったものの見上げるような巨木になるのはまだまだ先の話。私の代ではその姿を目にすることもないでしょうが叶うならば未来の姿を見てみたいもの。

6月に角館に行った時に立派なトチの大木に遭遇しました。その場所でどれだけ美しい季節を見送ってきたのか、どれだけ厳しい風雪に耐えてきたのか、凛とした佇まいに思いを馳せたものです。年輪の詰まった材の例えに『樹齢100年程度の〜』などという枕言葉をつい使ってしまうのですが、それは恐らく自分が経験する事は出来ないであろう奇跡の歳月。植えた立場で考えてみれば、軽々しく口にしてはならない言葉であることを思い知らされます。嗚呼、トチの巨木遥かなり・・・

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キングサイズのお出まし*

 

2月、3月と一枚板の耳付テーブルや店舗のカウンターの問い合わせが相次いでおり、倉庫が慌ただしい。狭い倉庫の中に無理やり詰め込んでいることもあって、販売見込みのなさそうな大物はなるべく奥にしまっているのですが、見たいと仰っていただければ引っ張り出します。そういう場合は大体のサイズや色目の希望などをお聞きして、事前に該当する板を何枚か用意して土場に広げてご覧いただくのですが、折角ご来店いただくのだからと、ついついサービス過剰で余分に広げてしまうので土場は足の踏み場もなくなる。

そういうご依頼がこの数週間で7,8件も続いて、お陰で倉庫が随分と片付きました。そういう事でもないとなかなか奥から材を引っ張り出して整理しようなんてしないので、それを利用して整理をするようにしています。一枚板でダイニングテーブルにしようという場合、多くが長さ1,8~2.0m、幅が800~900㎜前後なのですが、この2ケ月はもっと大きなサイズが欲しいという要望が続いたので、なかなか動かなかった弊社のキングサイズが久し振りに日の目を浴びることになりました。私も久し振りに謁見!

幅1m級の一枚板というと、今在庫にあるのはモミトチ、エノキ、ヤナセスギ、ミズナラなどの国産材やチベットヒノキ、クロアチアメープルなどの外国産の白系の木。色目の濃いものとしては、イロコ、ベリ、エコップベリ、ゼブラウッド、ダリナなどなど。種類こそいろいろあれど決して大量に在庫しているわけではありません。さすがにそれぐらいのサイズになると年に何枚でも売れるというわけではないので、積極的に仕入れしているわけではありません。住宅事情も狭小住宅が増えるのでそういう需要も減ると思っていたら、

そんな思惑と逆行するように最近は大きなサイズの一枚板への問い合わせが増えてきています。たまたまそういう巡りあわせなのかもしれませんが、キングサイズへのあこがれは高まっているのかも?!しかしその傾向のお陰で、こうして懐かしい顔ぶれに揃って再会できるのも嬉しいし、ありがたい話。ここで再び倉庫の暗闇に戻ってしまうと、次のチャンスはいつになるやら分かりませんので、明るいところに出たついでにそのまま『卒業』していただこうと、決算も控えて思い切った決断が続いています!

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10数年ぶりのお出まし・巨大栃*


あまりに端材などの事ばかりアップしていると、なんだか小さな木材だけしか扱っていない『端材専門の材木店』のように思われているんじゃなかろうかという不安もありまして、一応大きめの木材も持っていますよという事で本日は大きなサイズの木の話。こちらが弊社の中で、単体の木材としてはもっとも体積の大きい木材。『トチ(栃)』の二股になった耳付きの板です。最も長い部分で3900㎜、幅が1800~最大で2100㎜、厚みが130㎜。変形しているのでカメラに収まりにくく、大きさが伝わりにくいかもしれません。

1本の原木から製材した共木が三枚。これで無傷とかであれば、恐ろしい値段がつくのかもしれませんが、そんな良質なコンディションのモノであれば逆に恐ろしくて私が手を出せません。仕入れたのは10数年前で、こういうサイズのモノが欲しいとか、探してくれと頼まれて買ったわけではなく、市場で見てその大きさに惚れこんで、店の看板に使えないかと思って仕入れたものです。大きさは圧倒的なモノの、その堂々たる巨躯にはクサリや節、入皮、虫穴など、森で暮らした長い時間の痕跡が刻み込まれています

あまりの大きさに店の「看板」として使おうという目論見は無残にも崩壊。大きすぎて動かすことすらままならず、うかつなところに置いておくと材料を移動させるのに邪魔。軒先に置いておけば屋根からはみ出て雨に濡れるとスタッフからも散々煙たがられて、結局倉庫の奥の奥へ押し込められることになりました。さすがに「これが欲しい!」なんて声がかかることはなく、倉庫の奥で埃をかぶっていました。こういうものって確かに売りにくいし、サイズが規格外ではあるものの、奥にしまっていては絶対売れません。

適度に見せておかないとその奇跡的な出会いすらないとは分かっているものの、これを引っ張り出すとなるとかなりの大作業となります。なのでなかなか表に出てくることはなかったのですが、たまたまこの上に置いていた木材に声がかかったことで何年ぶりかに奥から引っ張り出されることに!昔の記憶も曖昧で、奥に片づける前に撮った写真と見比べてみると、懐かしくもあり新鮮でもあり。トチ自身も10数年ぶりに奥から出てみればすっかり自分が来た頃とは様変わりしていて浦島太郎の感情に浸っているかも!?

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ピリー・レイスの古地図と古地図杢②*

さて昨日の、400年後に発見された南極大陸が描かれているオーパーツ『ピリー・レイスの地図』の話の続きです。実はそこに描かれているのは南極大陸ではなく南アメリカ大陸ではないのか?!という説もあって、その根拠として地図では南極大陸に「灼熱の砂漠」という記述があるとか、本来は間にあるはずのマゼラン海峡とドレーク海峡がなくて、南米大陸と南極大陸がつながっている等々。こんな事を言い出す輩はそのうち、私の大好物であるアトランティス大陸もムー大陸もUFOも宇宙人もネッシーも雪男もフェイクだ見間違えだなんて言い出すのでガン無視です!

ところで、いい歳をしたおっさんが古地図で何を熱くなっているのかというと、この地図の真贋はどうでもよくて(いや、どうでもよくはないのですがとりあえあずそれは置いといて)、倉庫の中から時々現れる杢があたかも古地図のそれのように見えるのと、それによって本来はあまり価値がなかった材に箔がついてお値打ちモノのなることから、勝手に『ピリー・レイスの地図』のようだと思っているというだけの話。ここまで引っ張るつもりではなかったのですが・・・。すわ、世紀の発見か!と私に勘違いさせてくれたのがトチ(栃』の一枚板に出現したこの古地図感とその世界観!!

いわゆる『スポルテッド』というヤツで、今までにも何度も紹介してきましたが、材の表面についた外傷などに雨水などとともに腐朽菌やカビなどが侵入して出来る黒い帯状の筋の事。その柄によっては無傷のものよりも遥かに高額で取引されるモノに変身するわけですから、自然の遊び心は偉大です。昔はあまり興味が無かったというか、その魅力がよく理解できませんでした。その面白さにはまり出したのは40歳も過ぎたころからでしょうか。あえてそういう材を選んで買うようになりました。他の銘木に比べるとその価値が明確ではないというのもスポルテッドに惹かれる理由のひとつ。

不本意に菌に侵されて出来た結果なので、それがどういう図柄を描き出すのか千差万別ですし、そういうコンディションですから周辺にはピンホール(虫穴)やら、度を越えてすっかり腐ってスポンジ状になってしまう事もあります。最近では原木も扱う機会が多くなったので、弊社の中でも不本意の製造してしまう事もあり、ちょっとすえたような匂いがしたら黄色信号。開けてみたら嗚呼~もっと早く気づいて救出してやれたら・・・と思う事もしばしば。そういう意味では結構リスクもあるうえに、価値を創出する話術も必要になるので誰でも手簡単にを出せるモノではないのです。

玉杢だの蟹杢だの孔雀杢だの、誰が見たってその価値が分かる(お高いんだろうな~)銘杢に比べると、その価値に『解説』が求められるスポルテッドは、まさにキワモノ・偏屈材木屋好みの木材なのです!あ、という事はうちにとってはオーパーツでは無いってことか(笑)。まあそれはよしとして、「どう、この形が地底都市シャンバラのかも?」なんて解説ならいくらでも喋れますぞ!嘘と真実のはざまのギリギリの駆け引き、攻防、騙しあい・化かしあい、せめぎあいも、材木屋で木を買う魅力のひとつ。ピリー・レイスの地図を売る材木屋が減ってなんと嘆かわしいことよ!

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ハラハラと散る栃の葉、十も千も*

この季節になると、事務所の敷地内に植えた『トチ(栃)』の葉が散って風に運ばれ散乱して掃除に追われます。緑色から徐々に黄色く染まっていき、やがて茶色を帯びてくると根元から気持ちいいぐらいにポキンと折れて落葉します。天狗の団扇とも形容されることもあるぐらいトチの葉っぱは大きいので、落葉すると風にも乗りやすくあちらこちらに飛んでいくので、すっかり葉が落ちきるまでは毎日のようにトチの葉の掃き掃除が日課となります。そうやって竹ぼうきで葉を集めていると、嗚呼今年も冬が巡ってきたなと思うのです。

トチは、漢字では『』と書きますが、これはトチの葉や実が沢山つくことから、十も百も千も葉や美がつく木なので、十に千で十千(トチ)。それで10×1000=10000になることから木篇に万と書いて『栃』になったという洒落の効いた話が由来とされています。話としては出来過ぎているようにも思いますが、掃いても掃いても落葉するトチの葉を見て呆れ顔でそのような話が出来上がっていったのかもしれません。うちは1本だけですからこの程度で済みますが、数本もあれば落ち葉の片付けも結構な仕事量になります。

そのトチの落ち葉なのですが、雨に濡れるとなまじ葉っぱが大きいので、アスファルトにべったり貼り付いてしまって簡単には剥がせません。雨風の強い夜などは大量に落葉するのですが、道路が濡れていると、どれほどアスファルトから離れたくないんだと思うほどに道路に密着。あまりの手強さに、道路が乾くまで待つこともしばしば。そうなったら今度は葉が千切れたりして余計に掃除しにくくなるのですが・・・。しかしこれ、足元がアスファルトでなければいい肥料になるのになあといつも思う貧乏性。

うちのトチの木は、私が社長に就任した年に植えて、それから結構順調に大きくなって葉っぱも沢山茂っているものの、実はいまだつかず。ひとが植えたトチにはなかなか実がつかないと言われていて、一説には30年から50年ぐらい経たないと実がつかないとも言われているので、私が現役のうちには実を見ることはないのかもしれません。しかしこのトチを植えたことで、その材にしか抱いていなかった興味や関心が、樹木としてのトチにも向くようになって、木を見る自分の心が少しだけ広がったような気がしています。これも落ち葉掃除修行の賜物(笑)




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