森のかけら | 大五木材

今日のかけら048

サイカチ

皀莢

マメ科ジャケツイバラ亜科サイカチ属・広葉樹・宮城産

学名:Gleditsia japonica

別名:カワラフジノキ

 英語名:*****

気乾比重:*****

石鹸の木・皀莢〔サイカチ〕*

今日のかけら・#048【皀莢/サイカチ】マメ科ジャケツイバラ亜科サイカチ属・広葉樹・宮城産

 

木の授業をさせていただく時に、漢字で表した木の名前が読めるかどうかのクイズを出題するのですが(本来植物学的にはカタカナ表記が正しいのでしょうが、漢字から木の名前を読み解いていくのは、木を知るための入口として親近感があるので)、その際最初は『』、『』、『』、『』など日頃から目にして慣れ親しんでいる漢字から入ります。そしてだんだん読みにくい漢字、『柊(ひいらぎ』とか『黄檗(きはだ』に入っていくわけですが、難読漢字の代表といっていいのがこちらの『皀莢』。

これで『サイカチ』と(あるいは、これを原料とする生薬からソウキョウとも)読みます。私も【森のかけら】を作るまでは読めませんでしたし、恥ずかしながらその存在すらも知りませんでした。【森のかけら】を作ってよかったと思う事は、自分自身の中の木に対する興味の幅が大きく広がったことです。それまでは、市場に出回る「使える木」にしか興味・関心が向きませんでしたが、【森のかけら】を作り始めてからは『世の中にあるすべての木を知りたい、見たい、触りたい。

さてサイカチを【森のかけら】に加えようと思ったのは、そのオモシロイ特徴にあります。サイカチの莢(さや)にはサポニンが含まれていて、水に浸して揉むと泡立ち、天然に界面活性物質が溶け出して石鹸のような作用をして汚れを落としてくれることから、昔から各家庭で使われていて、特に物資が不足した戦時中には石鹸の代用品として広く利用されていたという記述を読んだからです。特に岩手の盛岡あたりでは、ごく最近まで実際に利用されていたと聞き及びました。

皮膚病などで石鹸が使えない場合にも利用されたとかで、最近そのエコロジカルな特性が見直されているそうです。そのサイカチですが、盛岡出身の宮沢賢治の作品にもその名前が登場(さいかち縁)するなど、てっきり東北地方に広く分布している木なのかと思っていたのですが、改めて調べてみると、その分布域は本州(中南部)、四国、九州、朝鮮、中国の暖帯・温帯で、日当たりのよい山野や河原などに自生しており、岩手など東北には自生していないとの事!あら・・・?

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伏して葛西の復権を誓うサイカチ*

サイカチの分布の謎について調べてみると面白い事が分かりました。いくつかの文献、書物に書かれていた話を要約しますと・・・平安時代の末期から鎌倉、室町、戦国時代とおよそ400年の長きにわたり宮城県の北部から岩手県の南部一帯を葛西一族が統治してきました。それが1591年に豊臣秀吉奥州仕置によって、伊達正宗の手により滅ぼされてしまいます。悔しさに涙する家臣は、葛西家復興を祈願して、屋敷の門口にサイカチの木を植えたというのです

サイカチ、つまり『葛西勝(カサイカチ)』という語呂合わせなのだそうです。家臣たちの痛切な心の叫びとしてサイカチがメッセージツリーの役を担ったのでしょう。サイカチは成長力旺盛で、その子孫たちが東北に広がったのだろうと推論されています。またサイカチには鋭い棘がありますが、それゆえに築城時には入口周辺にサイカチを植え、その鋭い棘で天然の防御壁を築いたとも言われています。公園などに植えられ、大きくなるとその鋭利な棘に困惑してしまう事も。

そういうサイカチですが、【森のかけら】では小さな端材から作っていたので、大きな材のサイカチを見たことがなかったのですが、先の岐阜の銘木市で大きなサイカチを幾つか購入。多少割れも入っていていずれは【森のかけら】用にと思える小さなものから、キングベッドサイズはあろうかという変形の1枚板まで数種類のサイズを仕入れてみました。販売予定があるのかなんて無粋な事を訊いてはなりません。欲しいものに出会えば買う!』これが正しい材木屋のスタンス

現在乾燥中ですので、実際に使えるのはまだまだ先の事になりますが、想像していた以上に大きな材もあるようでちょっと驚きました。乾燥が進む前の表情も見ておこうと、端をカットして表面を軽くサンディング。まだ小さな材は表面が淡い桃色、辺材はニガキのような黄色色でした。無塗装の状態ですが、【森のかけら】に使っているサイカチのイメージはこれに近いと思います。オイル塗装しても淡い桃色の名残があるような色合いで、木目はやや不明瞭といったところ。

それがこちらの大きく成長した1枚板になると印象も随分変わります。色合いも少し濃くなって褐色がかり、幾つか大き目の節が絡んでいる事もあって杢目も複雑で重厚。特に二股の変形ですので、圧のかかり方も半端なく、腹に一物持っていそうな風格あるサイカチです。さすがに独りでは持てないほどの重さがあり、天然乾燥して使えるのに4、5年はかかるるとみています。それまでたっぷりと葛西家復興を望まれたサイカチの魅力を味あわせていただくつもりです。

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偏った愛情 皀莢変*

昨日のブログで、大相撲の難読四股名と同じく難しい漢字で表す木や名前の木はなかなか耳に馴染みにくいという事を書きましたが、難読漢字の代表的な名前の木と言えばこちらの『皀莢』。以前に『今日のかけら』にて一度取り上げましたが、急に漢字で書けと言われると書ける人がほとんどいないと思われる、読むのも書くのも難しい名前。マメ科ジャケツイバラ亜科サイカチ属の広葉樹『サイカチ』です。木材業界の人間でも知っている人の方が少ないのではないかと思われます。

そのサイカチは私にとっても凄く縁遠い木でした。「でした」と過去形で語れるようになったのはつい最近の事。それまで【森のかけら】でしか接した事のない木でしたが、実際に材として使ってみるとこれが何とも味わいのある木。木への嗜好も年齢と共に少しずつ変わってくるもので、若い頃は素性がよくて節のない木目の美しい木こそが最高と思っておりましたが、最近は年齢のせいもあるでしょうが、大節があったり、割れや虫食い、腐りのあるような木にこそ趣きや愛しさを感じてしまうのです。

サイカチが必ずしも脛に傷のある木というわけではありませんが、スギやヒノキのように計画植林される木ではありませんので、整備され恵まれた環境に根づくわけではありません。サイカチに限ったわけではありませんが、崖や斜面、日当たりの悪い北面、水はけの悪い湿地など不遇な場所で芽吹いた木々は、それでも不平も言わずにひたすら耐え、そんな環境においてさえも可能な限り命を繋ぐべく長い長い苦闘の人生(樹生)が始まります。そんな生への葛藤が体に刻まれます。

数十年にわたり繰り広げられた木々の苦しくもがいた痕跡を『味がある』とか『ワビサビ』なんて言ってしまうのは、木に対して不謹慎のようにも思われるかもしれませんが、その痕跡を愛でるという形で受け入れることこそが、『使えない木』と切り捨てることよりも遥かに慎み深く、彼らに対する最大級の讃辞であると考えるのです。そういう思いで節や傷、虫穴などを見つめている方とつながると、こういう木たちにもスポットライトが当たるのです。その晴れ舞台についてはまた改めて。

 

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異形なりしモノへの深き愛情*

 

石鹸の木」あるいは「葛西家復興を願う木」として知られる『サイカチ』の木ですが、長さが2700㎜で、幅が1mに迫らんとする二股変形の一枚板が2枚ありました。そのうちの1枚は4年ほど前に個人宅のテーブルとして売れたのですが、残りの1枚もようやくご縁がありました。機を逸すしてしまいすっかりアップするのが遅くなってしまったのですが、そんなサイカチについて。【森のかけら】を思いつくまでまったくご縁のなかった木のひとつであったサイカチですが、小さな接点が出来ると不思議と木が寄ってきます。

恥ずかしながら立木としてのサイカチを直接見たことがないので、この木のノーマルな感じがどの程度のものなのか分かりませんが、集まって来た多くのサイカチは耳の形もあっさりしたものが多く、二股に分かれたこのサイカチは異色でした。二股なので木目を流れてしまっていて、節も絡んでいて、サイズ感こそあれ、銘木屋とか一流どころの材木屋などでは相手にされることもないであろうモノ。他人のものさしなどどうでもよくて、形の奇抜さといい、木目のよれ具合といい、まさしく私好みの一枚

変わった形の木や珍しい種類の木を買うと、誰がこんなもの買うの?なんて尋ねる人がいらっしゃいますが、変わった木や珍しい種類の木があるからこそ、そういうとこに変人・奇人が集まってくるわけで、この木を受けいれてくれるどんな懐の深い人が現れるのだろうかと、仕入れた時からドキドキが始まるのです。ご縁は早いに越した事は無いと思われるかもしれませんが、私の場合は、出来るなら持ち主である私自身がたっぷりとその醍醐味を味わいたいので、3~4年ぐらいは倉庫で寝かしておきたいのです。

乾燥の甘い板の場合は、ちょうどその期間が乾燥養生期間にもなるため、趣味と実益を兼ねた必要不可欠な時間でもあるのです。その期間の間に、それらの端材で加工性や研磨性なども確かめ、塗装後の色の変化や材の特徴も記録。私のライフワークである『今日のかけら』の貴重な資料としても活用させてもらいます。今回のサイカチも、データ採集も終わり、すっかり乾燥も進んで、ちょうどいい売り頃になった時に、こういう個性を正面から受けてとめていただける素敵なお施主様との出会いがありました。続く・・・

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ZUCCHERO&CEDRO*

二股の異形な姿が面白いじゃないかと、寛容なお心でこのサイカチを受け止めていただいたのは、松山市千舟町にあるイタリア・スペインバル『Restaurante Bar ZUCCHERO(リストランテ・バル・ズッケロ)』さん。以前にこのブログでもご紹介させていただいた、『IL Banco(イルバンコ)』さんの姉妹店。愛媛県産の旬の食材と『薪焼き』のお肉が堪能できるお店です。このお店の植物に囲まれたオシャレなテラスのテーブルとして使っていただくことになったのです。

ZUCCHEROさんは、ずっと大街道で商売をされていたのですが、2016年に千舟町に移転されました。その際に、店内のカウンターやテーブルなどに弊社の木材をふんだんにお使いいただいたのですが、私の怠慢でその時の様子をブログにアップ出来ていませんでした。それで今更の話ではあるのですが、お店で使っていただいた木材についてご紹介させていただきます。バイクや植物、レストランなどが一緒になった『GEARS』という複合商業施設に オープンしたお店は、何とも不思議な異国籍風の雰囲気を醸し出した妖しい空間です。

写真に写っている一枚板の赤身のカウンターは、ブラジル産の『セドロ』。「スパニッシュ・シーダー」とか「シガーボックスシーダー」の名前でも呼ばれているセンダン科の広葉樹です。硬質な木ではありませんが、独特の特徴を持った木です。板目の雰囲気はによく似ていて、『赤ケヤキ』などとも呼ばれるほどです。その一方で柾目の雰囲気はすっきりとしたマホガニーに似ていて、一枚の木の中に剛と柔の相反するような質感を併せ持ったような不思議な材です。なので使い方次第では洋にも和にも使えます。

そんなセドロの3m×幅400~500㎜の迫力のある板をたっぷりと使っていただきました。和洋の特徴を併せ持ったセドロが店の雰囲気づくりに少しは貢献できたのではなかろうかと勝手に思っています。その時にはまだまだたっぷりと在庫のあったセドロでしたが、それから日々少しずつ売れていって在庫も減少。今後の入荷見込みがまったく立たず、いよいよあれだけあったセドロの底が見えてきてしまいました。今、写真を見返すと、当時の頃の事が懐かしく思えます。毎度の事ながら無くなってからモノのありがたみを知る。明日に続く・・・

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変わり者から変わり者が変わり木を買う*

Restaurante Bar ZUCCHERO』さんの話の続き。サイカチのテーブルの前のセドロの話が長くなってしまっていますが・・・。セドロに限らず外国の木の中には、今後の入荷の見込みがまったく立たないという木、お結構あったりして、【森のかけら】だけでなく、木材の供給としてのかなり不安です。だからといって、今わずかに残っている木を「これは売れません」といって販売しないというのも、木を売ることが商売の材木屋としては本末転倒な気がして、悩みどころであります。丁寧に売るしかない

しかしこいうやって収めさせていただいた現場が近くにあって、家具やカウンターになった姿をいつでも見に行けるというにはありがたいことです。これもそれも、弊社にしかないような個性のある木、癖のある木を楽しんで使っていただける施主さん、工務店さん、設計士さんたちが近くにいてこそ!類は友よ呼ぶといいますが、変わり者好きな方が友達の変わり者好きな方を連れて来てくださったりと徐々にそういう流れが出来つつあるように感じています。昔、ある方に忠告されたことがあります。

あまりマニアックな品揃えに走ると普通のお客さんが離れちゃうよ、と。当時は将来の会社の方向性についてかなり悩んでいた頃でしたので、その言葉は私も重くのしかかりました。現実的に昔からの大工さんたちが後継者問題などで店を畳まれたりしていたという事も重なり自問自答していました。それらから私なりの決断をして、あっという間に数年の月日が流れました。今となっては、その当時悩んでいた私にこう言ってやりたい。「悩んでなんかいないで、その道を突き進め!選んだ道は間違っていない!」と。

果たして今の選択がベストだったかどうか。今はそんな事すらも考えることもありません。思っていた通りになったというわけではありませんが、腹をくくって方向性を決めたことで、その先はなるようになったとも、そうしたからこうなったとも思っています。もっと利口な選択はあったかもしれませんが、でもこうして『どこにでもないような木を買い求めに来て下さるお客様が増えて、こんな素敵な店でこんな美味しい料理を食べられる』という事実が、自分の選択は間違ってなかっと確信させてくれるのです。

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変わったテーブルのどこに座るか?!*

さて話を『サイカチ』に戻します。 ZUCCHEROさんがの千舟町に移転されたのが2016年ということなので、早いものでもうあれから3年。お店には植物に囲まれたテラスがあって、そこに置く一枚板を探しに大川 聡司社長とスタッフの皆さんが来られました。料理にもこだわれているだけあって、店に置くテーブルにもこだわりがあって、あれこれ悩んだ結果選ばれたのがこの二股のサイカチでした。ご要望でしたので、変形の二股の形に合わせて別注で足を製作。耳の形を豪快に生かした仕上げとさせていただきました。

大川社長とは、Funny’s waffle (ファニーズワッフル)、 IL Banco(イルバンコ)そして今回の ZUCCHERO(ズッケロ)さんと続けてのご縁。そのご縁を作っていただいたグローブコンペティション山田徹さんとすずかけ商会川上陽介君には感謝しています。昔は店舗などに関わらせていただいても下請け業者のひとりという立場で、オーナーと直接お話しする機会もほとんどありませんでしたが、扱っている材がマニアックになってきていて材の説明が欠かせない事もあって、オーナーとお話をする機会も随分と増えました。

今回もテーブルを加工してくれたのは、お馴染みの『ZEN FURNITURE』の善家雅智君。実はこのテーブルのご注文をいただいた時に家具の仕事がかなり混み合っていて、納期がギリギリだったのですが、そこをどうにか間に合わせてくれるのが善家マジック!絶大な信頼を置いています。無事納品もさせていただき、仕上がりも気に入っていただきました。早速お約束の機縁写真。たまたまですが、ZUCCHEROさんのシェフの角藤正輝君(写真奥)は、同郷の高校の後輩(西予市野村町)で、数珠つなぎにご縁がつながっています。

ご縁といえば、後日お客さんとしてお店にお邪魔した時に、山田さんとの仕事の絡みで来県されていた、世界を股にかけて活躍されているチェンソーアート作家城所ケイジさんご夫婦もお店に来られて久しぶりにお会いしました。相変わらずエネルギッシュで精力的に各地で活動されています。城所さんの作品も松山でもいくつか見ることが出来ます。一緒にお食事したのは数年前の事、あれから城所さんのホームグランドである和歌山県田辺市の龍神村に行こう行こうと思っているのですが未だ叶わず。 

という事で一枚の板にもいろいろなご縁が結びついていますが、小さなご縁も大事にしてないと縁が遠ざかっていってしまいます。大切に小さなご縁を育てていかねばならないと思っています。別の飲食店などでも、オーナーがこういう変形の耳の形に惚れられて、かなり形が個性的な面白い一枚板のテーブルを作らせていただいたことがあります。見た目の面白さを優先しすぎて、お客さんが座って食事するには使いにくいのではなんて、やり過ぎ感をちょっと後悔されたりする事もあったりしましたが、実際は変わったところに座るお客さんが多くて心配は杞憂に終わります。結局変わったテーブルに惹かれるお客さんは、その変わり具合が好きなのであって、実用性よりも好奇心が勝ってしまうのだと思います。個性的な店には個性的なテーブルがあって、個性的なお客さんがやって来るというのが私の結論

Restaurante BAR Zucchero(ズッケロ)
定休日 火曜日

 

 




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