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私は子供の頃は真剣に漫画家を目指した事があるほど画を描くのが好きで、右手人差し指のペンだこは私の誇りでもありました。やがてその夢はあえなく幻となってしまうのですが、今となっては『適材適所』などを通じて楽しみながら画を描かせてもらっています。こういう物は個人の満足度に尽きるので、うまい下手は別問題です・・・。描くのも好きなのですが、読むのは更に大好きで、子供の頃はありとあらゆるジャンルの漫画を読み漁りました。まだビデオもゲームも普及してない当時の事で、私にとって何よりの楽しみは漫画でした。おこづかいのほとんどは漫画につぎ込み、破れるぐらいまで読み込んだものです。中でも手塚治虫、藤子不二雄、赤塚不二夫、石ノ森章太郎氏などいわゆる『トキワ荘』関連の方々の漫画は大好物でした!かつて子供の頃に父親に連れて行ってもらった重機か何かの展示会に、たまたま藤子・F・不二雄さんが来られていて、サインをしていただいたのは今でも宝物です。
三つ子の魂百まで!その嗜好は精神の細部にまで浸み込み、今でも時折引っ張り出して読みたくなる漫画があります。また、40歳を過ぎた今でも発売を楽しみにしている漫画があります。私達の世代は同じ趣味の人間は多いと思います。さすがにもう『ドラえもん』は卒業し嗜好は変化してきました。週間で発行される物は、読みたくないものも含まれているのとブツ切りが嫌なので、単行本化されるまで待ってから購入するのですが、中でも待ち遠しいのが永福一成・作、松本大洋・画の『竹光侍』(小学館)です。作者の松本大洋氏の作風は独特で確固たる地位を確立されていますが、全てのコマが絵画的な風格を持ち、作者の渾身の一筆が刻み込まれています。『ZERO』や『ピンポン』、『鉄コン筋クリート』など多くのヒット作を抱える人気の作家を今更紹介するのも気が引けますが、この『竹光侍』はそのどれと比較しても物が違います!
緻密に描き込むという作風の方ではないのですが、まさに一筆入魂!物語は江戸時代で、突如長屋に住み着いた訳ありの素浪人・瀬能宗一郎が主人公です。この瀬能宗一郎、長屋の衆には昼行灯を装うものの、ひとたび刃を抜けば一刀両断。何者かが憑いたかごとく鬼人の剣は容赦がない。しかし、あまりの殺気ゆえに自ら剣を封じ、腰の銘刀・国房を質に入れるや、手挟(たばさ)んだのは竹光!瀬能宗一郎に吸い寄せられるがごとく、次々に災い事が舞い込んでくる。辻斬りに凶剣士、そして次第に彼の素性が明かされていく・・・。竹ペンで書かれた様な雰囲気のあるタッチは、敬愛する和田誠さんにも似て、味があるなどという陳腐な言葉で語るにはあまりに失礼なほど繊細で優雅で美しすぎます。鮮血ほとばしる決闘シーンもありますが、何気ない市井の静かな描写にこそ凛とした緊張感があって好きです。
竹光を帯同しながらも消え去る事のない殺気。子供や動物の大好きな瀬能宗一郎が垣間見せる笑顔との苦悩の表情。魅力的過ぎる登場人物。それぞれのエピソードの奥深さ。どれをとっても簡単にページをめくるには惜しいほどの画力です。瀬能宗一郎の刀は恐ろしいまでに人を斬りたがっていますが、その殺気はまるで作者の松本大洋氏のペンにも乗り移ったかのように気合が満ち満ちています。竹光は、本来武士にとって屈辱でしかありませんが、瀬能宗一郎にとっては己の殺気を閉じ込めるための封印です。竹は【イネ科タケ亜科】の植物で、真竹や孟宗竹、破竹、黒竹など多くの種類がありますが、竹光にはしなやかで弾力のある真竹が使われたのではないかと想像するのですが。日々の暮らしに困って質に入れたぐらいですから、手に入りやすい素材を使ったものと思われます。何はともあれ、一見の価値あり!タイトルは竹光でも、中身は正真正銘の切れ味抜群の真剣です!
★同作品は2007年、第11回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞しています。
◆関連ブログ・・・『竹光侍』つながり→「銘刀クニサカと竹光侍」
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