森のかけら | 大五木材


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マガジンハウス社が発行している『月刊COSA BRUTUS』という日頃は私が手にすることも無いオシャレな雑誌があります。いつも特殊加工でお世話になっている広島の冨田徳明君からメールが来なければそのページをめくることもなかったでしょう。その1月号の特集は、『ライフスタイルホテル2020』。甲子園観戦にはカプセルホテルを定宿とする我々には無縁の世界のはず。しかしなんとそこに我々の仕事の爪痕が載っていることを冨田君がコンビニで立ち読みしている最中に(買えよっ!)偶然発見して通報してくれたのです。

このブログでもその特殊加工の奮戦記については書きましたが、現場は京都の『MAJA HOTEL KYUTO(マヤホテルキョウト』。うちの懐刀、善家雅智君(ZEN FURNITURE)が請けて来た物件で、弊社はその材料を供給させてもらいました。依頼を受けたのは写真の梯子と框、テーブル。写真で見ると普通の梯子に見えると思いますが、実は支柱も横桟もすべて丸棒になっています。それが30数台あって現場での金具の取り付け調整があるので、わずか数日の現場施工に合わせて完璧な下準備を施して現地に持ち込まなければならないというタイトな日程勝負!

その中の丸棒と丸棒が接合する部分の特殊な加工を受け持ってもらったのが、広島の特殊加工専門(有)トミタの冨田君でした。厳しい条件の中でしたが、そこは条件が厳しくなればなるほど奮起する「納期の鬼」冨田君が頑張ってもらい無事納期までに収めることが出来ました。私は現場には行きませんでしたが、善家君からは無事に仕上がりましたとの報告を受けてひと安心したのは、確か11月の上旬の事だったと思います。なのでその時の事はすっかり忘れてしまっていたので、雑誌に掲載されていると聞いてビックリしたくらいです。

最初にこの仕事の話を善家君から聞いた時、京都に新しいカプセルホテルが出来るのだけれど、それがフィンランド人のひとが設計したオシャレなデザイナーズホテルだという事は伺っていました。何度かその人の名前を聞いたのですがなかなか覚えれず、ホテルの全体像やその経緯も分らなかったので、なんでまたフィンランド人がわざわざカプセルホテルの設計するのかよく分っていませんでした。このCOSAを読んで全国各地にこれほど数多くの洗練されたデザイナーズホテルが建てられていることに驚きました。まあいくらデザインがよくとも、1泊30,000円もするような高級ホテルは私には無縁ですが、ハッリ・コスキネンさんが手掛けたこの『マヤホテル』であれば1泊7,000円~という事なので、これならどうにか泊まれそうです。

ホテルの名前になっている「マヤ」というのはフィンランド語で小屋を意味しているそうで、そう言われれば一般的なカプセルホテルでは見ることのない三角屋根が小屋のよう。機能性や効率性を重視するカプセルホテルにおいては異質な感覚を受けます。木の国・フィンランドの設計士らしくふんだんに木が取り込まれていますが、木を多用しても日本人の木の使い方とはどこか違っていて「これでもか感」がなくてスマートに感じました。次は宿泊リポートをさせていただく予定です(空いてたら)

 

MAJA HOTEL KYOTO(マヤホテル京都)

 




少し前の話になりますが、ダイヤモンド社から発刊されたある本が話題になり私も購入しました。国立科学博物館で哺乳類の分類学・生態学を学び、上野動物園の動物解説員を経て東京動物園協会評議員の今泉忠明さん監修、図鑑制作者でゲネブ砂漠でハイラックスの調査に従事した丸山貴史さん著の『わけあって絶滅しました。』とその続編『続・わけあって絶滅しました』の2冊。本屋でパラパラとページをめくってすぐに購入を決意。「世界一おもしろい絶滅したいきもの図鑑」のサブタイトルに偽りなし!

面白い!面白すぎる!大ヒットしたので読まれた方も多いと思いますし、そのタイトルがすべてを言い表しているので内容を説明するまでもないと思いますが、要するにさまざまな理由で絶滅してしまった生き物たちの図鑑です。それを進化の過程でうまく環境に適合できずに滅びた「自然絶滅」と、人間が絶滅させてしまった「人為絶命」、いわば愉快な絶命と悲しい絶命に分けて書かれているのですが、その書き出しからして言葉選びが絶妙。見開き2ページで超シンプルに解説している文体も自由奔放で縦横無尽!

一人称あり三人称あり、日記体あれば詩体あり、レポート風なのもあれば質問形式もありと自由自在なスタイルも大好き!本格的な図鑑を求められる方には邪道・外道に映るかもしれませんが、私は分野こそ違えど、目指す方向性を明るく照らしてくれた希望の灯りに見えました。一読すればふざけた文体に思えますが、こういう変化球って相当に精通したいなければ投げられるものではありません。机の上だけで論文の研究を重ねる学者先生からは決して出てこない発想と書きっぷりに惚れ惚れします!短い言葉に込められたセンスオブワンダー!

漫画チックなイラストのタッチも絶妙で文体とピッタリはまります。一方で「この本のオツな楽しみ方」として生息年代や基本データなども記載されていて、ただのおふざけ図鑑ではないところも深いし、絶滅した生き物たちに対する「こうすりゃよかった」のワンポイントアドバイスも辛辣で深い。何度も何度も読み返しています。自分にはこんな文才も知識もないけれど、いつの日か本を出せるものならこういう分野を目指したいと思ったいたものがそのまま形になっていて、ただただ憧れるばかり。

邪道・外道の道を往く者として後世に少しばかりでもその爪痕を残したいならば、誰もが使うような当たり前の表現や言い回しで木を語ってはいけないと思ってはいるのです。実際に触れて加工した感覚をもっと自分らしい言葉で伝えないと意味がない。材木屋というものさしで計りたいとは考えているものの、そのものさしが定まっていないのが問題。それぞれの木への思いをシンプルにぎゅっと凝縮しておもしろく表現するって笑いのセンスも求められる高等技術。かけらの目指す最終到達点は見えたが、あまりに高くて遠い💦




このブログを書くにあたってさまざまな木の本や辞典などを参考にさせてもらっていますが、瀬戸大橋などの橋で本州と繋がるまでは、木の文化については本州とは隔離されていたようなもので実体験はもとより情報も乏しく、ネットも無い時代、本や辞典だけが私を木の世界に導いてくれる「どこでもドア」でした。葉っぱの図鑑や樹木図鑑は数あれど、材木屋の私が欲していたのは伐採後の材木となった木の図鑑。木柄や杢、用途、特徴などが知りたいのです。それで私がずっと愛読しているのが『木材加工面がわかる樹木図鑑』。

国内外の235種の樹木について、木工ロクロで挽いて作った小箱の写真と個別の材の色や硬さ、匂い、加工性、特徴、用途などを網羅した、まさにわれわれ材木屋にとってはうってつけの事典。昔から出版されている図鑑は平面の板の写真が1枚だけ掲載されている事が多く、それだと写真の撮り方で板目や柾目が混在していたり、アップ過ぎて雰囲気が伝わらないことがあるのですが、この本は多角度からの写真もあるのと曲面の状態が分るので非常に分りやすい。樹種数が多いのも多樹種異常溺愛症候群の患者にはとってもありがたい。

その本の著者がノンフィクションライターの西川栄明(たかあき)さん。木材や木工、木育などに関するさまざまな本を出版されています。掲載していあるろくろ加工は、愛知県在住の木工家・河村寿昌さん。河村さんとの面識はないのですが、その息子の有軌くんは以前に四国お遍路をしていて弊社にも立ち寄ってくれました。その著者の西川さんが、弊社のブースを訪ねてやって来ていただきました。ビーバー隊長こと武田さんとは親交も深く、いつか紹介してあげると言ってもらっていたので出会いを楽しみにしていたのですが、まさかの僥倖!

わざわざブースを目がけて来ていただき、短時間でしたがいろいろな話をさせていただきました。直接お会いしたことはなくとも、西川さんの書かれた本のお世話になっている材木屋は全国に沢山いると思います。勿論私もそのひとり。西川さんが2年ほど前に出版された『樹木と木材の図鑑』も愛読していて参考にさせてもらっています。こちらの本では日本の有用樹種101について、立木の姿、樹皮や材面、加工品などについて解説されていて、前書よりもう一歩踏み込んで木の背景の話があるのも嬉しいところ。この本大好評でなんと既に6刷

それも西川さんの綿密な取材と業界人だけでなく材木としての情報欲している欲している幅広い層のターゲットへ向けた分りやすい表現力あればこそだと思います。そんな西川さんは7月生まれという事で、7月の誕生木『のストラップをプレゼントしてあざとく記念写真(笑)。誕生木などを作っているのも木の物語を楽しみたいがためで、いつの日にか木の本を出版したいというのが私の夢。勿論私には西川さんのような知識も文章力も無いので、本当のような嘘のような風土記的なものとして。そのためにも『今日のかけら』を早くまとめないと💦




長々と芥川龍之介の『河童』の疑問について書いてきましたが、もともとは『日本の文学の5かけら』という商品について説明しようと思って書き始めたのですが、すっかり寄り道をしてしまいました。『河童』における水松がイチイだと分かった(あくまでも私の脳内では)のですが、私が気持ち的に引っかかったので、ここまで捜査網が広がりましたが、物語の中においてはわずかに1度だけその言葉が出てくるだけでテーマに深く関わっているのでもないので、それで〔河童=イチイ〕と連想させるのはさすがにこじつけが強すぎる。

まあ「河童」に関しては、最初に「物語に登場する木ありき」ではなく、何かしらの形で木が登場しないかしらという下心で聴き始めたので、無理にこの作品を木につなげる必要はないのです。それでもたぶん今の小説なら、イチイとかブナとか特定の樹種名まで描かないと思うし、それ以前に若い作家さんって木の名前って知っているのかしら?イメージしやすいサクラなどはよく使われていますが、身近にある木の名前すら分らなければ、その背景にある物語も分らないわけで、それではモチーフにはなりえないでしょう。

森の5かけら』は文学に関わらず、われわれの身近なところにある木のモノ、無意識のうちに普段から使っている木のモノなどを改めて見直してみませんか、という意味合いもあります。そうすればさまざまな種類の木が、それぞれの特徴を活かして無数の用途に使われている(いた)という事に気づくと思うのです。もう一度そんな暮らしに戻ろうなんて声高に叫ぶつもりはありませんが、気づいてもらう、知ってもらうことでもしかしたら少しでも木に関心を持つ人、木のモノを使う人が増えてくれると嬉しいと思うのです。

私たちやそれより上の世代だと懐かしさを感じる木のモノも、若い世代にすれば新鮮に感じることもあるはず。いま木のおもちゃが若い子育て世代に見直されているのもそういうことだと思います。小難しい理屈抜きに、感覚的・本能的にわが子に触れさせる、遊ばせるものは木のモノがいいと感じている、考えている人は増えています。なんとなく、漠然と、よく分らないけど木が好き。森の入口の扉をあけるきっかけはそれで充分です。そこから先は油断すると、芥川龍之介が橋の上から河童を見たがごとく、森のかけらの底なし沼に引きずり込まれますのでご注意下さい!

 




いよいよ捜査は佳境に入ってきました。北海道芦別市の黄金水松公園ですが、これは「黄金水松」という木の名前ということではなくて黄金というのは地名です。豊穣の地という意味で、黄金町の水松という意。1939(昭和14)年10月に部落字名改正により黄金町となったようです。この木のある一帯はかつて上班渓御料林と呼ばれ、昭和7年には帝室林野局が保存木に指定されましたが、戦後になって開拓の対象となり、土地が払い下げられようとしたため、地元の農家が水松保存会を結成して水松を守ってきたという歴史がありました。

ということは北海道ではイチイは水松と呼ばれていた?木の図鑑や辞典では、「イチイを水松とするのは誤用」という記述がありますが、どうやら北海道芦別市では古くからイチイは水松と呼ばれて親しまれていたようです。その理由について、北海道においては、スギやヒノキといった針葉樹が少なく、針葉樹といえばトドマツやエゾマツ、アカエゾマツなど圧倒的にマツが多いので、針葉樹全般をザックリと「マツ」と呼ぶ習慣があって、そのためイチイもマツと呼ばれたのではなかろうかというのが核心のようです

ここからは私の推論ですが、その中でもイチイは日陰を好む陰樹なので、じめじめしたような日陰に育つイチイに対して「水」というイメージがついて水+松=水松になったのではないでしょうか。なので、中国原産のスイショウ(水松)と誤用しているのではなくて、水気のあるところに育つマツ(北海道での針葉樹全般の呼称)という意味の『水松』ではないかというのが私の結論です。もちろんこれは材木屋探偵の推理ですので間違っていたらごめんなさいですが。しかし、これでもまだ残る疑問が、水松がイチイだったとしてもなぜイチイを巡査の棒にしたのか?

イチイといえば、赤身と白身のコントラストを巧みに活かした飛騨の一刀彫が有名です。昔、飛騨に行った頃私もイチイのタイピンを買いました。彫刻に適するぐらいですから決して硬い木ではありません。警察の警棒と言えば硬くて折れにくいカシ(樫)の木と相場が決まっているのですが、なぜあえて折れやすいようなイチイを使ったのか。人間の世界よりも進んだ河童の世界では、言葉こそ高圧的でも力でひとを押さえつけようとする国家権力の強行は行わないのだよという皮肉としてイチイを用いたのでしょうか。

あるいは芥川龍之介も『森の出口』を探している材木フェチ野郎で、河童の国だからそこに生えていそうな水にまつわる木として水松(イチイ)をわざわざ引っ張り出してきて、暴力的ではないが地位が高いことを暗に示すために「イチイのやさしい警棒」という出口を考えていたのだとしたら・・・。最後に彼が残した言葉、「橋の上ゆ胡瓜なくれは水ひびきすなはち見ゆる禿の頭」(二つの世界を結ぶ「橋」という空間の上で、わたしは日常的な食べ物である胡瓜を、橋の外に放り投げた。水音というこの世の事象は、私の耳にも響いてきたのだが、それを求める異界の者の姿もまた見えたのだ。)合掌。

 




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