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今日の日曜日は、イベントも何もない久々の完全オフ日で、午前中は部屋の【森のかけら】の在庫整理をして、午後からはこれも久し振りに映画館に行きました。やはり映画は大きなスクリーンで観なければなりません。どうしても映画館で観たかった『剣岳 点の記』に一人で出掛けました。
いろいろなところで宣伝されているのでご存知の方も多いと思いますが、明治時代に日本地図を完成させるために、未踏峰の劔岳山頂を目指す測量手と山の案内人たちの物語です。細かなストーリーは、公開中の映画のマナーとして伏せておきますが、今時長めの139分の長編でしたが、私は一切飽きることがありませんでした。映画というよりは、ひとつの丁寧な仕事の記録を観た思いです。上映前にハリウッドのフルCGの予告編があっただけに、その本物の映像と真摯な仕事ぶりには緊張感すら覚えました。
本作の監督『木村大作』という名前は、日本映画ファンでは知らない人がいないくらい有名な名カメラマンです。数多くの名作の撮影を手がけてこられました。私の印象では、高倉健さんの映画か降旗康男監督の作品の常連カメラマンでした。その鬼のような仕事師ぶりも多くの物の本で読んできました。しかし何と言ってもその名前が世に出たのは、かの名作『八甲田山』ではないでしょうか。1977年公開ですから、まだCGなどがなかった時代に、この映画の前哨戦のごとき「八甲田山・雪の行軍」を見事にカメラに収められました。
当時とは撮影機材の品質が比べ物にはならないほど向上しているので、同次元では語られませんが、雪の粒子まで捉えてしまいそうな映像の美しさは特筆物です!雪だけでなく、樹木や花、岩などの表情まで克明に映し出しています。どちらも新田次郎の原作というのはただの偶然ではないでしょう。私の亡母が昔幼稚園の先生をしていて、教育問題には熱心だったので、新田次郎の『聖職の碑』を薦められて読んだ記憶があります。それ以来、雪山は私にとって恐怖と畏敬の対象でもありました。
大学生の頃は、映画研究部にいたりした習慣で、撮影の技法やら編集や演出やら重箱の隅をつつくような映画の観方ばかりをしていました。今にして思えば実に心無い映画の観方でした。ストーリーはなぞれても根底にあるものにまで理解は及ばなかったと思います。今日はひたすらスクリーンに映しだされる映像のみを目で追い続けました。冒頭からラストまで、ストーリーに必要のないカットはひとつもなかったように思います。出演者と撮影クルーが実際に自分の足で登山し撮影したといわれる映像は、研ぎ澄まされた緊張感が伝わってきました。感情の昂ぶりに抑制をかけた演出で、感情移入もしやすかったです。
とりわけ主演の香川照之さんの『山の案内人』ぶりは特に素晴らしかったです。実際に何度も何度も上ってるわけですから、もはや演技ではないのかもしれません。本来演技とは、こうして実際に体験した中からじわりと自然に滲み出てくるものなのかもしれません。古い言い回しで恐縮ですが、アカデミー賞間違いなしの心に残る名演技です。言葉にも表情にも、本物の持つ説得力があります。他の出演者も誰もが素晴らしいのは、やはりひとつの目的のために共に実際に汗を流したチームだからこそでしょう。
剣岳の自然の美しさも圧倒的ですが、どのシーンもそのまま切り取っても画になるほど綿密に考えられた映像で、本当に素晴らしく荘厳ですらあります。厳雪に耐えそびえる樹木の姿と仕事に臨む真摯な姿勢に多くの事を考えました。映画の中にこういう台詞がありました。「本当の自然の美は、厳しさの中にしか存在しない。」登山の趣味はありませんが、山に登ってみたい衝動に駆られます。立木の素晴らしさももっと学ばねばならないと思いました。その美しさまで伝えねば、勿体ないし申し訳ない気持ちになりました。日本映画の良心を観た思いがします。まさに品格溢れる上質の1本。今年のベストワンに推したいと思います。木や山の好きな方は是非観ていただきたいと思います!
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