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9月19日は、わが愛媛の生んだ偉大な俳人・正岡子規の亡くなった日、『糸瓜忌(へちまき)』でした。それとはまったく関係なくたまたまの一致だったのですが、その前日に娘(小5)が「音読聞いてください」と持ってきた国語の教科書には正岡子規の名がありました。短歌を読むという内容の項目で、代表的な短歌として子規の作品が掲載されていました。(私の認識では)決してメジャーなモノではないと思っていたのですが、教科書に載るぐらいですから実はメジャーな歌なんでしょう、認識不足・・・。
その短歌は、『ビードロのガラス戸すかし向ひ家の棟の薺の花咲ける見ゆ』。体の弱かった子規が病室のベッドから詠んだ歌。解説には・・・その病室から外界を眺めるとき、己の世界をくっきりと際立たせる境界が必要になる。それがガラスなのだろう。「ガラス窓」という一連もあるくらい、子規は執拗にガラスを通した風景を詠んでいる。子規にとってガラスを通して外界をみることも、また一つの「幻視」だったのだろう。直接に見つめる場合とはまた違う世界を、子規はその晩年に見つめていた。
我々の字宙とはまた違う小宇宙にその濃密な生を送った子規。小宇宙にいて外界を幻視すること、それはとりもなおさず己の精神の核を幻視し続けることでもあったのだろう・・・とありました。34歳の若さで亡くなった子規の歌には、己の末期を悟ったような諦観の刹那さが感じられるものが多い一方で、あっけらかんと目の前で繰り広げられる光景を無邪気に詠んだユニークなものも多々あります。それはまるで光と影のように位置関係。死の不安があるからこそに、今そこにある精一杯の生を五感全てで享受しょうとしたのでしょうか。
私の好きな句、『のどかさや娘が眠る猫が鳴く』。この時子規は既に脊椎カリエスという病気で苦しい病床にあったそうです。そんな病人の「私」が、思わず床から離れてしまうほどにのどかで天真爛漫な春であったことよ、と詠った歌だそうです。俳句や短歌に詳しいわけではありませんが、道後周辺の配達の際に、子規記念記念博物館に『今月の句』として掲げられる子規の句は、試験の暗記で苦しんだ学生時代に比べると、すーっと心に入ってきます。
事務所に戻るまで覚えておこうと、何度も言葉を繰り返しているうちに、その情景が思い浮かんできて、文学の世界の浸った気分で独り悦に入っております。深い意味や伏されたテーマは分からずとも、そういう楽しみ方があってもいいのでは。子規の句からは瑞々しいその時々の情景が想起され、食べ物の場合はシズル感まで香り立つようで、私は希代の名コピーライターだったと思うのです。子規が生きていたら、木の魅力をどう詠んだでしょうか。人に伝える事の難しさを痛感する今日この頃です。
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