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なぜ【ラミン】が市場から姿を消したかという事ですが、そもそも【ラミン】は東南アジア、主にインドネシア、フィリピン、マレーシアなどに生育するゴニスチラ(ジンチョウゲ)科の大径木です。
10数年前まで盛んに使われていた樹種が突然姿を消したのは、インドネシア政府からラミンの伐採・商業取引の禁止令が出され、2001年にワシントン条約によって、絶滅する危険性がある種に指定されたからです。ラミンという樹種そのものが、乱伐により今では伐採を制限しなければならないほど希少な樹種になってしまったようです。かつてその輸入先の上位には日本も名を連ね、大量のラミンが輸入されてきました。ラミンだけでなく、良質の材が紹介されると、われ先にと商社が競い合い乱伐を進めてしまった罪深い過去があります。輸入が禁止された後も、違法伐採が横行したようです。さらにラミンの生育地が、こちらもワシントン条約で絶滅する危険性がある種に掲載されている野生動物、オラウータンの生息地でもあるのです。つまりラミンの森を伐る事は、オラウータンの森を奪い去ってしまう事にもつながってしまうのです
4,5年前に【森のかけら】構想を考えた時に、実はラミンも候補に入れようか迷ったのですが、条約締結以前に国内に合法的に輸入された物であったとしても、そういう悲しい背景のある木を入れるのは不本意だったので除外しました。勿論、輸入材を扱わせていただいている立場から、違法伐採の問題を対岸の火事として、自分の責任を回避して偽善者ぶるつもりはありません。ただ、こういう事例があると全ての輸入材がすべて悪であるという極端な理屈もどうかとは思います。発展途上国のような地域においては、今でも森林崩壊が進められ大きな問題となっています。
全世界的にこれだけ住宅産業が落ち込み、物が売れない現状で一体そんなに木を伐採して何を作っているのかと不思議に思うほどです。かつてのように無垢材にはもはやそれだけの求心力はなく、多くが製紙原料であったり、合板の材料になっているようです。また、焼畑による森林伐採も深刻な問題ようです。しかし、森林が現地に住む多くの人々の生活の糧である現実もあります。様々主張や利権が複雑に絡み合い、机上の話し合いで簡単に解決できるような生優しい問題ではありません。突き詰めていくと林業=悪のような解釈をされてもたまりません。そもそも人間という存在そのものが、他の生き物の命を奪わねば生きていけない罪深い生き物なんですから、動物や環境など自分以外の他者との関わり方のバランスを取るしかないのではないかと思います。
あまり普段の生活に関わりのない大きな事では冷静で論理的な論理を展開できるのに、日常的な小事には慣れすぎて焦点がぼけた判断しか出来なくなる事があります。例えば野生動物の保護や環境問題を声高に叫ぶ方が、肉牛の入ったハンバーガーを食べる行為。食用として飼いならされた肉牛の命よりも、野生の動物の命の方が尊いという理屈は偏狭です。あげ足を取るつもりではなく、野生動物の保護や環境問題を訴えていくその理念は大いに賛同します。しかし、その一方でそういうこと(例えば鯨の捕獲や、焼畑農業での生活)に関わって生きていかねばならない現実もあるわけで、その部分を必要以上にバッシングする行為が私にはどうしても偽善に写って仕方ありません。
私自身も森の恩恵で仕事をさせていただいておりますが、人のつながりの中で商売をしています。違法伐採した物を購入しようなどとは考えもしませんが、直接アメリカや東南アジアに行って、伐採現場に立ちえるわけではありません。結局、間に入っている人間を信じるしかないのですが、これは木材に限らずあらゆる商売の原則だと思います。誰を信じて物を買う、つまり商品の裏に信用も張り付いている事になると思います。
今日は珍しく硬い話になってしまいましたが、通常考えているのはそんな大仰な事ではなく、『縁あって手に入った材は、無駄のないように骨までしゃぶって使い切る』という【ドケチ精神】だけです。その軸だけぶれないような商売をするのが材木屋としての使命だと信じるしかない、というのが私の信条です。スイカ割りに使ったラミンの丸棒も、ワシントン条約の締結により、ラミンが輸入出来なくなったために廃業した木材屋の倉庫に眠っていた古い在庫をまとめて引き受けた物です。数千本ありましたが、店舗の内装やら太鼓のバチやらで少しずつ販売しています。勿論、ここにある物が売り切れば、後は仕入れるつもりもありません。中には古すぎてカビが発生している物もあり結構処分もしました。かなり年季の入った梱包で、10数年前の物かもしれません。もうその会社はありません。当時どういう状況で伐採・加工されたものなのかもはや知る由もありません。しかし、この丸棒の木・ラミンがオラウータンの森を豊かにしていた事、そして乱伐したという現実を物語る遺産として私の手元にあるのも事実です。
そして私は材木屋としてそのことを語りながら、ここに残ったラミンの丸棒がお役に立てるように信じて売っていくしかないのです。それは物が売れていくということが必ずしも手放しで喜べない複雑な心境です。みなそれぞれの『覚悟』を心に秘めて生きているのだと思います。
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