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★今日のかけら・#009【明日桧/アスナロ】 ヒノキ科アスナロ属・針葉樹・四国産
昨日、話が出たところでそれに関連付けて本日は『アスナロ』について。私にとってアスナロは思い出深い木ですが、それは実物の木としてではなく、物語の中に出てくる木として。初めて私がアスナロに出会ったのは小学5年生の時。夏休みの宿題に読書感想文があったのですが、その時母親が買ってきてくれたのが井上靖の『あすなろ物語』でした。当時情報量の少なった田舎で、母親がときどき本を買ってきてくれる本は私にとって大袈裟ではなくて『世界』を知る貴重なツールでした。
あすなろ物語は、そんな私にとって実に思い出深い本であり、『小説』というものを最初に意識するようになった本です。この物語は、6つの編で構成された200ページ前後の中長篇で、難しい文体が使っているわけでもなく、子どもにとっても読みやすい本だと思うのですが、改めて読み返してみると、当時は気づかなかった人生の機微が随所に織り込まれていて驚きました。当時は理解できる言葉だけ拾い集めて読んでいたのだと思うのですが、それでも充分に面白く感じました。
あらましを説明すると、天城山麓の小さな村で、血のつながりのない祖母と二人で土蔵で暮らした少年・鮎太が主人公。北国の高校で青春時代を過ごしたのちに新聞記者となり、やがて終戦を迎えるまでの体験が描かれています。その過程で出会う6人の女性との出会いも描かれているのですが、両親がいるにも関わらず両親と離れ祖母と暮らす事情や年上の女性との交流など、それが何を意味するのかもよく分からずに読んでいましたが、鮎太が不遇な環境にあることだけは分かりました。
作者井上靖の自伝的小と紹介されていますが、作者は「自伝小説ではありません。あすなろの説話の持つ哀しさや美しさを、この小説で取り扱ってみたかったものです」と語っています。両親の仕事の関係で、幼い頃乳母さんが私たちのや家の面倒を見てもらっていた時期があり、祖母と暮らす梶太に感情移入しやすかったのと、『巨人の星』に代表される『不遇な主人公が耐え忍び栄光を掴む姿』に対する強い憧れのような屈折した思いが混然となり、この物語にのめり込んだのだと思います。
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