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「河童の正体=カワウソ説」については、昔からまことしやかに囁かれていました。昔はカワウソそのものが妖怪の一種ではないかと怪物視されたこともあったようです。古い書物によると、歳をとった老カワウソが河童に変身するのだという記述もあったとか。河童の棲む条件は清い水のある所ということですから、生活排水の無い人里離れた場所という事になり、人気のない山奥などで目撃される愛嬌のあるその姿は妖怪のように見えたことでしょう。世界で唯一ニホンカワウソを飼育した道後動物園でも、人なつっこくて愛嬌があり、飼育員の手から直接餌を食べたりしたという記録も残っています。しかし、もしかしたらその正体がカワウソである事は分かっていたのに、敢えて乱獲を避けたり、清き水を象徴する守護獣として畏敬の念を込める意味で、また子供たちの危険な水辺に立ち入らないような戒めの目的で、カワウソを妖怪視したのかもしれません。
それぐらい全国の昔はそれぐらいカワウソが全国的にもポピュラーな生き物で、どこでも頻繁に目撃されていたのでしょう。すなわち、それはかつての日本中に豊かな自然が溢れていた事を伝える「水辺の生き証人」としての存在。一般的な河童のイメージとしては、頭にお皿を乗っけて、掌に水かきがあり、泳ぎが得意で、愛嬌があって人をだましたり悪戯をするというところでしょう。この特徴は、そのままカワウソに当てはまる特徴でもあります。その立ち姿や振る舞いから「河原の童」を想像するのもやむなし。
さて、最大の特徴である頭の皿については、興味深い記録があります。動物園でカワウソたちがじゃれあって石を取り合っては頭に乗せて遊んでいる様子が写真に収められています。カワウソの頭は平べったくてちょうど小石がうまく乗るのだそうです。その姿を遠くから見たとしたら、頭の小石が夏の日差しに反射して白っぽくお皿に見えたのかもしれません。それが人を化かしたという噂につながったのかも。写真など無縁の時代、人の思い込みは心の畏れや恐怖と結びついて妖怪や怪物を作り出します。
私は、決して河童の正体がカワウソで、河童なんて存在しないと断言したいのではありません。カワウソを河童と見誤って、より河童伝説のディティールに深みが増したということはあるかもしれませんが、それとは別にやっぱりどこかに本物の河童が生きていると思うのです。捕獲して標本にしなければその存在を認めないといのならば、永遠に見つからない方がいいと思います。河童の存在を信じる事の出来ない硬直化した心の狭さがニホンカワウソの『住処』を奪ってしまったのではないでしょうか。
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