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今日、落語家の三遊亭園楽さんが亡くなられましたそうです。以前から病気を患っていたということでしたが、長寿番組の「笑点」の司会を降板されてからは、テレビでも見かけることが少なくなり心配していました。あの訥々とした口調の落語が聞けなくなると思うと残念です。また一人好きな落語家がいなくなりました、ご冥福をお祈りいたします。実は私、落語も大好きで乗用車には、桂枝雀さんの落語の全集のDVDを乗せています。身振り手振りのオーバーアクションの舞台を遂に生で観ることが出来なかったのが残念です。天才ゆえに目指す頂きに妥協もなかったのでしょう。常に高いレベルの「笑い」を求められ、英語落語や新たなジャンルに果敢に挑んだ天才の孤独な「創作の苦しみ」は、壮絶なものだったと思われます。私にとって、桂枝雀こそが不世出の大名人です!
ご両人とも間違いなく昭和の落語界に名を残す名人だと思いますが、そのタイプはかなり違いました。同じ噺をしても全く違う話に聞こえてしまう語り口こそが、名人の個性です。そもそも落語は口伝で習い教わる物で、いくらDVDや書物に残そうとも、空気を震わせ通じる生の感覚は伝わりません。枝雀さんはよく、『笑いは緊張と緩和』という言葉を使っておられました。その弛緩の差が激しければ激しいほど、笑いが起こるのだと。DVDはもう何十回も聞いて、すっかり言葉を覚えた噺もありますが、なぞって喋ってみても全く面白くありません。絶妙の間合いやリズム、客との駆け引きなどは決して真似できる物ではありません。
枝雀さんの噺はどれも好きなのですが、中でも自分の仕事の教訓としてとても気に入ってるのが、『はてなの茶碗』です。落語の噺を要約して説明する事ほどくだらない事はないので、そんな愚はしたくありませんが、それでは意味が通じないと思うので、あえて超簡潔に説明しますと・・・
ある日、京の町に大阪からやって来た油売りが峠の茶屋でお茶を飲んでいると、隣の身なりの良い旦那が「はて?」と、茶碗を千度ひっくり返し眺めている。旦那が席を立った後、店の主人に頼みごとをする。どうかその旦那が使っていた茶碗を譲って欲しいと。すると店の主人が、先程のお方は京の町では知らない人のいない程有名な茶道具屋の金兵衛さんこと茶金さんで、その人が「これは」と言ったものが何十両にもなるほど目利きのお方、その方が千度眺めて「はてな?」とまで言った曰くつきの茶碗、何百両するや分からない銘品に違いない。譲るわけにはいかない!いやそこを何とか三年飲まず食わずで溜めた全財産のこの三両でと、半ば強奪するように茶碗を奪った油売り、早速茶金さんのお店に持ち込んで高く買い取ってくれと交渉する。
そこに現れた茶金さん、思わず笑ってしまう、いやあれはどこを見ても上薬の傷ひとつないのにポタポタと水がぼる、それで「はてな?」と言ったので、1両の値打ちもない安物だと。それを聞いた油屋はがっくり肩を落とすが、自分の言葉一つに全財産を投げ打った男の心意気に惚れ、「いわば茶金という名前を買ってくれたもの、そういう方に損をさせてはいかん」と、足代を付けて買い取ってしまわれる。油売りはばつが悪くなり恐縮して去っていく。
この噺を茶金さんが友人知人にしたところ面白がられて高い位の方々の間で話題となり、ついには時の帝の耳にもその噂が入る。「是非その茶碗が見てみたい」帝の裾をも濡らした茶碗には、高貴なお方の箱書きまで座り大層高価なものになってしまう。それを知った質屋商人が是非千両で強引に質流ししてくれと頼み込み、遂には水に漏れる茶碗ひとつに千両もの値打ちが付いてしまう・・・。
まあ要約するとこういう噺ですが、オチは別にあります。これが枝雀渾身の名人芸!泣きと笑いを織り交ぜながら、商人の欲と情、人間の心の機微を情感たっぷりに大熱演!茶金さんが大見得を切り、「すんません!身の丈に合わん事をしました!」と泣き詫びる油屋の掛け合いは、何度聞いても泣きそうになります。
また、茶金さんのプロとしての「目利きっぷり」にも惚れ惚れします。価値のなかった傷物の茶碗が、持つ人によって千両もの価値を持つ物に生まれ変わるという商人冥利に尽きる夢物語。そしてここまで言い切れる自信と信念、これぞまさにプロフェッショナル!ああ、自分もいつかこんな台詞を言ってみたい!いつも自分への仕事に対する金言として肝に銘じて、心の中では自分自身に叫んでいるのです、『お前に矜持(きょうじ)はあるか!』と。実は、枝雀さんの名人噺でもうひとつ好きな物があるのですが、それはまたいつか別の日に。円楽、枝雀、二人の稀代のエンターティナーよ、永遠なれ!
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