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さて、『日本酒を美味しく飲む会』の二合目です。その日はご自身が杜氏でもある石鎚酒造㈱の越智浩専務㊨とその弟の越智稔製造部長㊦がいらして、自社の歴史や酒造りのこだわり、そして㈱乃万酒店さんやなが坂さんとの出会いやつながりについてなどを熱く語られました。前で御三人が立って喋っている姿を見ると、こうして不特定多数の方にご自身の仕事や取引先との関連を語る姿が、愛媛木青協や異業種交流、学校の授業、モーニングセミナーなどで自分達が喋っている姿とオーバーラップしました。いつもはあちらの立場でいるのに、と思うと何やら感慨深げ。
工務店さんや設計士さんに木の事を説明するのと違って、たちまち家を建てたり家具を買うという目的があるわけではない、ごく一般の方に木の事をお話しする場合、当然専門用語はタブーだし、材木屋の(へ)理屈も業界論理も通用しません。噛み砕いていかに短時間で分かり易く平易な言葉で喋るか、更にそれを理解していただいて如何にファンになってもらうかという事にまで骨を砕かねばなりませんが、これもずっとやっているとただの難しいの中に面白さを見出す事があります。余計な下地がない分、理解していただいたり、共鳴していただくとお金の取引では得られないような別の意味の満足感を得る事があります。酒も木も根っこは同じ自然素材といえますが、そうであればあるほど対象も万人向けの物とも言え、誰もが如何様にも解釈・評価できるという事にもなります。百杯の酒には百通りの感想があります。難しい事の中にこそ無上の喜びもあるのだと思います。
酒の味に明確な答えがあるわけではなく、あくまで嗜好品、好みですからどういう感想を持とうが、何を言おうが自由という事になります。その明確な答えのないところで、自分の評価と他人との評価のズレをああじゃないこうじゃないと勝手に思い描き悩むのですから、奥が深いというか結論が出ないというか・・・。酒も木材以上に摩訶不思議な世界かもしれません。ですが、それ故に永遠に飽きることなく仕事を楽しませていただいております。我々の周りにあるもので明確な答えのある物って案外少ないのではないでしょうか。
弊社の【森のかけら】は、端材を何とか利用・活用したいというドケチ根性(ひとはそれをモッタイナイと呼びますが、ただケチなだけです・・・)から生まれましたが、石鎚酒造さんも元々は余剰米の活用というところから酒造りが始まったとの事。酒に歴史あり。それを熱く語るご兄弟杜氏のお姿を見ていると、職種は違えどもとても親近感を覚えます。酒は味で飲む物かも知れませんが、こういう人が造るモノを飲んでみたいという飲み方があってもいいんじゃないかと思います。以前ブログで、『夏子の酒』という酒造りの漫画の事に触れましたが、皆さんよく読まれていらっしゃいました。私にはそこに登場する酒人達の姿が、日本酒に情熱を傾ける彼らにダブって見えました。その時にも、【酒良醸和】(わじょうりょうしゅ)という言葉に触れましたが、「和は良酒を醸す」という意味です。まさに彼らが体現しています。
石鎚酒造㈱の兄弟杜氏が精魂込めて醸造され、乃万酒店の乃万さんがその思いをつないで語り、なが坂で美味しい料理共に食す。そういう人たちがひたむきに取り組むお酒を飲んでみたいと思うのです。きっと【森のかけら】を買っていただく方の中にも、ただ商品としての魅力だけではなく、他のいろいろな属性もあってご購入してくださった方もいらっしゃると思います。モノの価値は商品だけの中にあるのではなく、それを扱う人もその一翼を担っているのだと言う事を改めて感じさせられました。
石鎚酒造㈱さんでは、『食中に生きる酒造り』を目指しているとの事で、ラベルにも『食中純米』としっかり書いてありました。酒を飲むとご飯を食べない方もいらっしゃいますが、私は食べながら飲める方なので、お酒もお料理も美味しくいただきました。4種のお酒を飲ましていただきましたが、緑のラベルの『純米吟醸』が私には合いました。皆さんがそれぞれ酒の味を自分の言葉で表現するのも楽しいものです。知らない隣の方とも自然に会話が弾みます。これも酒の力のなせる技でしょう。
ラベルをよく見ると松の枝の図柄が!これは昭和初期に自社で製造されて人気を誇った高級清酒「黒松」にちなんでの事のようです。あまりの高額ゆえになかなか手が出ず「せめて黒松飲ませてやりたや」と歌にまで詠まれたという伝説の銘酒の心意気を今に伝えるものです。その黒松の上に掲げられた『威徳輝宇宙(いっときうちゅう)』という言葉に蔵元の誇りを感じます。思いのある物は強く重たい!喉だけでなく心も潤してくれた素敵な会でした。次回からの1杯は、是非「石鎚」でお願いします、長坂さん!
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