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マッチの話の続きですが、以前に岩手にあった「日本最後のマッチ製軸工場」の話をアップしたことがあります。そこではマッチそのものではなくて、マッチの軸木を生産していましたが、今回の兼松日産農林のマッチ製造からの撤退は、マッチという商品そのもののを止めるということで、原材料の高い安いとか納期等の問題ではなくて、マーケット(需要)そのものが縮小し、ビジネスとしては成立しなくなるという話だけに深刻です。ちなみに兼松日産農林のマッチ事業売上は2億足らず。
それでも経常損益は赤字だったということで、需要が減少する中で設備の維持管理費が増加し利益を圧迫している構造だと思われます。国内に自動マッチ製造機を持つのは4社しかなく、同社を含め県内に工場を持つ3社で国内マッチの実に9割を生産しているそうですが、それらが兵庫県に集中しているというのは驚きでしたが、火薬を扱うマッチ製造において温暖な気候が求められたから。現在、業界統計によると、年間のマッチの出荷量は45本入りの小箱換算で約1億個だそうです。
兼松日産農林の淡路工場は70年代には、年間1億7千万個ものマッチを生産していたようで、今でも4割のシェアがある中での撤退ということですが、寡占化しても生き残れないというのは木材業界にもある話。特定樹種の競合相手が減ると、市場を寡占化できると思いきや、供給が絞られすぎて急ぎの需要や大量注文に対応できなくなり、その樹種がマーケットで避けられるようになり、代替樹種に取って代わられるという話は決して珍しいものではありません。
個別事情はいろいろありますが、例えば『ホワイトセラヤ』を含めたラワン系がそうでしたし、愛媛でいえばかつて『モアビ』や『アガチス』などがそのような道を辿ってきました。現在では『ウエスタンヘムロック(米栂)』がそういう状況に置かれていて、もしかして数年後には過去形で語られることになっているかも・・・。これは必ずこの素材でなければならないという絶対条件がない分野で勢力を広げた汎用性の高い樹種にとって、これからは厳しい時代になってくるかもしれません。
主人公ヒュー・グラス並みの執拗さでもう1日だけ映画『レヴェナント:蘇えりし者』の話。この映画のテーマは、愛する息子を殺された男の復讐譚であって、映画の宣伝コピーにも「愛は死んだ。憎しみだけが生きている。」とあります。鑑賞後、決して晴れ晴れしい気持ちになる映画ではありません。徹底的に自然光にこだわった撮影監督エマニュエル・ルベツキの映像の美しさも、完全にタイタニックの呪縛を解き放った鬼気迫るディカプリオの演技も胸に迫る大傑作であることは間違いなし。
にも関わらず何かひっかかる事がいくつかあったのは、先住民(ネイティブ・アメリカン)の描写。史実ではヒュー・グラスには先住民の妻やその間に生まれた息子はいなかったそうです(グラスはアメリカではかなり有名でいくつもの本が出版されています)。映画ではその妻はかつて白人たちに村を焼き討ちされ殺され、生き残ったのが混血の息子という設定になっています。にも関わらず、グラスたちを襲撃する先住民はまるで白人を襲って「獲物」を奪い取る略奪人のような描かれ方。
根深い樹種問題を抱えるアメリカでは私などのうかがい知れぬ複雑は歴史的背景や複雑な事情があるものと思われますが、先住民たちは「言葉も通じぬ未開の野蛮人」のごとく銃の標的となって倒れていきます。先住民の襲撃を受けたという形ですが、本来はグラスたちこそが先住民のテリトリーを荒らす侵入者で無法者。自分たちのルールを強引に持ち込んでアメリカ大陸の中で領土拡大を図った時代。先住民の妻の遺した言葉は、白人たちの暴力的支配に対抗する心の教えでもあります。
グリズリーとのとてもCGとは思えない迫力の死闘(一方的ですが)や、生魚を捕らえてそのまま食ったり、死んだ馬の腹を裂いてその中で寒さを凌いだりとディカプリオの迫真の演技には目を奪われながらもそんな事が気になっていました。元々ここは誰の土地で誰のものだったのか?映画に深みを与える壮大なあの森だって、極寒の川だって。開拓時代にはもっと壮絶な略奪や殺人が繰り返され森や川に持ち主の名が刻まれたのだと思うと、簡単に面白いとは言えない映画なのでした。★★★★1/2
さて、砥部焼の新しいカタチにも積極的に挑戦されている森陶房さんの新居に納めさせていただいたのは、地元・愛媛の山から出材された『オニグルミ』を使ったダイニングテーブル。久万高原町産のオニグルミは、板に製材したあと2年ほど天然乾燥させたもので、クルミの美しい艶と光沢を保っています。もともとクルミは中軽軟な部類に入る木で、乾燥もしやすいのですが、人工乾燥機に入れるとどうしても艶っ気が無くなってしまい、パサパサした感じに仕上がってしまいます。
それでもオイルを塗れば、オイルが浸透して濡れ色になって赤身に瑞々しさは戻るものの、やはり天然乾燥の艶ややかさを知ってしまうと、人工乾燥させてその艶を失うのはモッタイナイ。それで、じっくり乾燥させてみたのですが、なにぶん時間がかかるのと、乾燥工程で割れやらねじれ、暴れなども発生し、どれぐらいの量がどれぐらいの期間で準備できるのかが読みにくく、まだまだ試行錯誤の途中です。もっともっと素材を集めておけばいいじゃないかと思われるかもしれませんが、
愛媛の山から出材される広葉樹って案外少ないのと、出てきたものがすべて家具材や建築に使えるというわけではありません。堅さや素性の問題でそもそも家具などに向かない、向きにくいという木もあります(例えばクヌギとか)。また、使える木でもサイズや搬出コスト、製剤コスト等の問題で断念しなければならない事も多々あります。趣味でしているわけではないので、道楽のように目的もなく好きなだけ集めてみても仕方ありません。先の出口がきちんと描ける事がなにより大切。
クルミについては、その色合いや触感、また言葉のイメージなどから、ご提案すれば賛同していただくケースが多くて、本当はもっともっと集めておきたいのですが、倉庫のスペース等の問題もあって、今は少なくなってきています。鬼という言葉から察するには拍子抜けするくらい、繊細で柔らかく、頬ずりしたくなるぐらい滑らかなクルミですので、テーブルとしてお使いいただくにはそれなりのご配慮をしていただければ末永くお愉しみいただけると思います。ちなみにクルミの木言葉は『知性』。
そういう流れの中、従来の「大工さんが元請けする」従来型のスタイルはどんどんシェアを減らし、今や大工さんと木の話をして木を売買する機会も風前の灯となりつつあります。住宅建築の工期が短縮化され流れ作業化する中で、世間一般的には暇も時間もかかる『材木屋での木選び』は敬遠され、とことん木にこだわるマニア向けのイベントとなるつつあるのかもしれません。効率化が必須課題である大手材木店にとっては死活問題でも、弊社のような零細企業にとってはおむしろ追い風。
あらかじめ予約を入れていただき、設計士さんや工務店さんと同行してきた施主さん家族と、倉庫の中で共に埃にまみれていただきながら、あれこれ材を見てもらい、触ってもらい、木の名前の由来や昔から語り継がれる逸話や特徴などを何時間もかけて聞いていただきながら木を選んでいきます。そうしてようやくこれは!という木が決まった頃には、虫や反り・割れのリスクにも立ち向かう覚悟が生まれているのです!もちろん日々の仕事はそんな幸運な現場ばかりではありません。
良いか悪いかは別にして、最初から最後まで施主さんと一度も顔も合わさない現場だっていくつもあります。そういう場合、弊社が関わらせていただけるのは主に野縁や下地板などの羽柄材がほとんどで、得意の耳付き板や無垢のフローリングの出番はありません。なのでお会いしたとしてもお話させていただくネタもないのですが、直接お会いすれば小さな場面でも木を使っていただく機会は生まれるのではないかというささやかな希望もあったりはするのですが。
ともあれ、弊社の営業スタイルはこの数年で大きく変化しました。そんな中で、新たに若手の営業を育てる努力をしてこなかった事で、来るべき世代交代期に谷間を作ることになり大いに反省しています。その現実を受け止めながらもいつまでも悲観しているわけにもいかず、その状況の中で次の一歩をどう踏み出していくかが大事。捨てる神あれば拾う神ありとはよく言ったもので、そういう中で新たな「進むべき道」を照らしてくれる人も現れ、2016年の幕が上がりました!
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