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すこし前に金星と月との接近遭遇の天体ショーがありましたが、私は家族とともに堀江の(元)港付近で観ました。あいにく、ズーム機能のない単焦点のGRカメラと携帯電話しか持ち合わせてなく、仕方なく携帯電話のカメラで撮影。う~ん、遥か遠くにしか観えません・・・裸眼よりもむしろ遠くに観えます、残念。非常に面白い画だったのですが、ズームは諦めるしかありません。この潔さもGRならではでしょう。ところで最近、私達の世代に親しみのある著名な方の不幸が続いて、多くの方が夜空の星になられているような気がします(統計的にはそういうわけでもないのでしょうが)。青春時代の思い出は、人やその人の作品とともにありますので、それらが全て無くなってしまうような喪失感とノスタルジックな気持ちが入り混じってつい感傷的になってしまいます。
特に私にとってショックだったのは、作家の井上ひさしさん。高校生の頃に長編小説『吉里吉里人』で出会いました。その後は、もっぱら『こまつ座』の戯曲の作家さんとしてご活躍を拝見させていただいておりました。当時よくNHKの『芸術劇場』や『劇場中継』でこまつ座のお芝居を放送しており、かかさず観てはビデオにも撮っておりました。井上ひさしさんの独特の言い回しが好きで、当時よく台詞を真似したりしておりました。何の予備知識もなく、初めて観た『頭痛肩こり樋口一葉』は衝撃(笑撃)でした!このリズミカルな言い回しのタイトルも大好きです。その後、「昭和庶民伝三部作」として、『闇に咲く花』、『きらめく星座』、『雪やこんこん』を観るに至って、私の井上ひさし熱はピークを迎えます。日本人としてタブー視されて問題にも真剣に取り組まれていました。
中でも特に私が好きなのは、『闇に咲く花』です。物語は、昭和22年夏の東京は神田の愛敬稲荷神社の境内。神主の一人息子で元職業野球のエース・健太郎が、戦場から無事に帰還するのですが、実は戦死の報が届いていて、いわゆる『生きた英霊』となったのです。その彼はC級戦犯の容疑でグアムに送られることになる・・・というもので、井上戯曲らしく天変地異の大事件が起きるわけでもなく、物語はトツトツと展開していきます。しかし、健太郎の河原崎建三さんが健太郎役を演じられていた初演(?)しか観ていないのですが、河原崎さんの実直そうなお人柄が健太郎役としっかり重なって、すっかり感情移入してしまいました。庶民にとっての戦争の責任とは?とか、神社や神道とな何か?という、当時ではとても消化できない重たいメッセージに戸惑いながらも、妙に胸が熱くなった事を覚えています。
繰り返し何度も何度もビデオを観ていましたが、悲しいかな録画したのがβ(ベータ)で、しばらくするとデッキも壊れてしまい二度と観ることが出来なくなりました・・・。大学の頃、スピーディな言葉遊びで舞台を駆け回る『夢の遊民社』などが「小劇場の全盛期を迎えて、脳髄に刺激的でしたが、今となっては内容も覚えていません。そんな中、井上さんの戯曲は、派手さも大仕掛けもないものの、噛めば噛むほど味の出てくるスルメのようで、重たいテーマを大上段から振り下ろすのではなく、ごく平凡な市民の生活の中から切り取った物語が全く時代に風化しません。
森林や林業問題にしても、建築資材の側面だけからマイナス面をシュプレヒコールをするばかりでなく、『木の使命』をもっと身近な生活レベルの視座で考え直すべきではないかと思うのです。人間が自然を利用するのですから、そこには当然功罪があります。それを国とか国土という巨大な闇の中に閉じ込めて、遠くて難しい問題にすげ替えてしまうのではなく、井上さんが示した「庶民伝」のように、庶民の手元に戻してみると案外闇の中に一筋の光明が見えてくるのかもしれません。
昨日のシンポジウムを経験して、短い時間で自分の思いを端的に正確に伝える難しさを感じた時に、ひとつひとつの『言葉』に作家生命を賭けた井上ひさしさんの姿が思い浮かびました。『言葉』は人を勇気づけもし傷つけもします。生前にあるインタビューで、(離婚問題などがあり)辛い環境でもなぜ笑いのある作品を書くのかと問われ、「人間は生きているだけで辛い。だからこそいとおしんで笑いのある物を書きたい」という旨の事をおっしゃっていて、とても心に残っています。自他ともに認める大変な遅筆で、書き下ろしの戯曲が公演初日に届いたとか、間に合わなかった事もしばしば。それを逆手に取って自虐的に『遅筆堂(ちひつどう)』と名乗り、ペンネームに使うことも。それも、いい加減な物をお客に見せては申し訳ないとギリギリまで推敲を重ねた井上さんのプロの執念でした。人生も作品同様にもっと遅筆であって欲しかったです、改めて合掌。
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