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ケンポナシの色目は淡黄白色とも橙色とも表現さえますが、個体差にはバラつきがあって弊社の在庫しているケンポナシはどちらかというと濃い茶褐色。昔の書物には、「ケンポナシ、箸となすべく白くして美なり」の記述もあるぐらいなので、色合いは比較的淡いのが標準的なのかもしれませんが、なにしろ私自身も使用実績が少なく詳しく言及できません。主な伝統的な用途としては、床板や落し掛けなどの装飾的なものから、家具や器や盆、指物、器具、彫刻材などが挙げられます。
【森のかけら】の中のケンポナシも、この在庫の中の一部を利用しています。そのケンポナシのかけらを見て、「こんなのケンポナシじゃない!」なんて鬼の首でも取ったように仰る輩もいらっしゃいますが、それぐらい色味や材質に個体差があるということでしょう。実際木目の詰まった部分と、荒い部分では確かに印象は随分違って見えます。例えばこのケンポナシなどのように、瘤がよく現れるのですが、その部分には入皮が巻き込まれ、非常に複雑な表情を醸し出しています。
ケヤキやタモ、クリ、ヤマグワなどの代替材にされることもあるいいながら、変な話ですが流通量が少ないことと寸法的な問題もあって、弊社においては代替材とされるケヤキやクリ、タモなどと比べても高価となります。一般的に言われる「相場」とか「標準的な価格」というのは、あくまでも相対的なものであって、絶対的なものではありません。かつては何に使っても惜しくはないと至る所で頻繁に使われた安価なラワンも、今ではすっかり高級材になったように時代の推移で状況は激変。
このあたりの現場で「ここはケンポナシでお願いします」なんてオファーはまずありえませんので、余程こだわりのある施主さんが出現するか、こちらからの提案が通るような事でもなければなかなか陽の目を見ることがありません。こういうものって、縁を呼んでくるもので、この事をアップした途端にケンポナシが欲しいとか、是非ともそれでお願いしますって人が現れるという法則があったようななかったような。という事でいうまく実例が出れば改めて報告したいと思います。
実は私が初めて『ケンポナシ』に出会ったのは、材としてではなくその葉の方です。若い頃は体のことも気にせずに毎日仲間と浴びるようにお酒を飲んでいましたが、いくら若いからとさすがに連日ともなると体の調子がおかしくなることもあって、そんな時にたまたま目についたのが道の駅かどこかで売っていた『ケンポナシ茶』。ケンポナシの葉を発酵させて作ったもので、ほのかな甘みと程よい苦みがあるものの、あと口がさっぱりしていて二日酔いに効果があると明記。
これは買うしかないと、すぐに買ったものの喉持つ過ぎれば暑さを忘れるという事で、実際に愛飲したのは随分後になってのことだったので、効果はすっかり失っていたのかもしれませんが、清涼感ある飲み口は健在でした。後になって地元の年配の方と話をしても、ケンポナシの葉を昔から利用していた人も結構いらして、その効用に頼っているお酒好きも沢山いらっしゃいました。今回の事で、またもう一度ケンポナシ茶をお酒のお共に購入してみようかと考えているところ。
お茶以外にもケンポナシの抽出成分には口臭除去効果があることが認められていて、チューインガムなどにも利用されています。古代中国で伝えられてきた「霊木的な力」というのは、もしかしたらアルコールに対する悪酔い防止作用や口臭防止作用のことだったのかもしれません?(笑)そんな秘められた力持つケンポナシの葉は普通無毛なのですが、果実表面や葉の下面に赤褐色の毛がある『ケケンポナシ』という仲間もあってややこしいのですが、材木としては分類していません。
気乾比重は0.65~0.66という事で重さ、硬さもほどよい程度で加工も容易なのですが、最初に書いたようにケヤキやタモ、クリと同じく道管が年輪に沿ってリング状に並ぶ環孔材なので、触感は少しざらついた感じです。ケヤキなどに比べると木理は優しく上品で癖は少ないのですが、他の環孔材に比べると流通量も少なく、弊社で在庫しているのももっぱら耳付きの1枚板ばかりなので、実際に使用実例も多くありません。そんな数少ない在庫ではありますが、幾つかをご紹介。
昨日に続いて、ケンポナシの名前についての話ですが、その名前の語源が癩(らい)病患者の腫れた手にちなんでいるとか、現代の感覚では不謹慎と感じられますが、木の名前に関わらず今から考えれば残酷とか差別的と思われるような『ものの名前の由来』は結構あって、それが時代とともに転訛して、原型が分かりづらくなって何も気にせず普通に使っている言葉って案外多いものです。それを不謹慎だからといって封印してしまうとものの本質を見失うことになりかねません。
木の名前のルーツを探っていると往々にしてそういう事がよくあるのですが、当時の暮らしぶりや風俗、感覚を知るうえでも、そこは避けずに紹介させていただいています。例えば動物の名前でも、片方の前肢が肥大して大きくなった「テンボウエビ」(標準和名はテッポウエビ/大きなハサミをパチンパチンと鳴らすのが由来との説も)という海老や、「テンボウガニ」(標準和名はシオマネキ)という蟹がいますが、これらも『テボウ(手棒)』が語源となっているそうです。
次に、「ナシ」の言葉の由来についてですが、こちらはこの木の実が甘くて、熟した梨のような味がすることに由来しているのですが、面白いのはケンポナシの英名は『Japanese raisin tree(ジャパニーズ・レーズンツリー)』といって、日本では梨、アメリカでは葡萄とそれぞれ別の果実で表現されます。もっともアメリカでは、味覚として葡萄の名前がついているわけではなく、その見た目や枝の付き具合が「干し葡萄」のように見えるところに由来しているそうですが。
漢字表記の『玄圃梨』については、中国の古い書物の中に、昔神仙の棲むといわれた懸圃(けんぽ)という場所に生えている梨があって、それが霊木として崇められていて、その果実を食すると水に溺れることがない、水難から身を守る不思議な霊力があると信じられていたという話があって、その『懸圃(けんぽ)の梨』にちなんで、『玄圃』という字が充てられたようですが漢字そのものには特別な意味があるわけではないようです。それでは名前の由来はこのあたりにして明日は材の特徴へ。
★今日のかけら・#044【玄圃梨/ケンポナシ】
クロウメモドキ科ケンポナシ属・広葉樹・東北産 学名 Hovenia dulcis
ほぼ日本全国の低地や野に分布している落葉高木なのですが、いまひとつ知名度が高くないのは分布量が比較的少ないという事と、その特徴や見た目がケヤキやタモやクリといったメジャーな木と似ていることから、その代用品として扱われる事が多いためかもしれません。成長すると高さ17m、直径が1m近くなるほど立派なものもあるそうで、良質なものはクワの代用として高級装飾家具や指物にも使われますが、杢目の優れた大径木は減少しており次第にレアな木になりつつあります。
この木を紹介するにあたって、まずはその変わった名前のルーツについてご紹介したいと思います。漢名では「枳椇」と表されますが。学名のHovenia dulcisのうち属名のHoveniaは、日本にも住んだことのあるオランダの宣教師ホフェン(Hoven)の名前にちなでいます。 種名のulcisは「甘味のある」という意味ですが、実には甘味があって民話などの中にもこの実を拾って食べたという話があります。古名の『ケムノキ』は、実を噛んで味わったカムノキ(噛むの木)の転訛。
「甘味の木」が転じて「カミノキ」→「カムノキ」→「ケムノキ」となったという説もありますが、では次にケンポナシの名前の由来について。愛媛県では、地域ケンプナシ、ケンポ、テンプナシ、テンポノキ、トデなどとも呼ばれますが一般的にはケンポナシ。全国的にみるとケンポコナシ、ケンポガナシ、ケンポノナシ、ケンプ、テンポナシ、テンボナシ、テンポガナシ、テンポウナシ、テンポコナシ、テンポコ、テンガポウなどケンポ系とテンポ系の2系統があるようです。
原型は「テンポナシ」で、それが訛ってケンポナシになったといわれていますが、その「テンポ」とは「手棒」という意味で、「手棒」とは手に持った棒、棒状の腫れぼったい手の事を示していて、実の形がそのように見えることから名付けられたと言われています。またケンポナシの実の事を漢名では『癩漢指頭(らいかんしとう)』と呼ぶそうですが、これは肥厚したケンポナシの実が、癩(らい)病患者の手のように膨れ上がっているところから命名されたそうです。明日に続く。
県外での展示会の楽しみのひとつは、夜の懇親会でもあります。開催2日目の夜は、全メンバーが一堂に揃って、チッキー(女帝・帽子千秋女史)が日頃からお付き合いのある、京都の天然染料の染め工房『手染メ屋』の青木正明さんの工房で食事会&交流会&諸々を開催させていただくことになりました。展示会前日より先行して京都入りしているメンバーは、すっかり京都の夜をご堪能されていらっしゃるようですが、疲れなど微塵も見せることなく京都3日目の長く濃密な夜に突入!
青木さんとは初多面でしたが、Sa-Rahがお付き合いされているようなお方ですから、まともなはずがない、いや面白くないはずがない!Sa-Rahでも『天然染め展』を開催されていて、この恵文社の展示会の後でも『天然染め展』をされるそうで、今後ますます愛媛ともご縁が出来そう。この青木さんは、東京大学医学部ご卒業後、大手衣料品メーカーを経て独立。京都造形芸術大学で非常勤講師も務められている異才のひとなのですが、お話しすると同い歳でした!同じ歳でも随分違う・・・
お酒が入って青木さんの『変態論』の講義が始まったのですが、これがまさに理論明快でいちいち頷くことばかり。変態というと、一般的には倒錯した性欲の意味で使われがちですが、ここで言う変態とは、『通常とは違うきわめて強くて真似のできないオリジナリティ』という意味。私の身近な材木仲間の間でも、「変態」という言葉は最大級の賛辞としてふだんから使われていますが、手染め業界でも青木さんは変態扱いされている様子。しかし青木さんによれば変態は目指すものではない。
目指した段階で、もはやそれは誰かのコピーであって、本来の変態とは似て非なるもの。例えるならばピカソやマティスのような決して真似の出来ないような異端の才こそが変態として崇められるものであって、その線を少しでも意識して狙った時点でそれは変態などではなく、普通の人が変態をコピーしただけのもの。なりたいと思ってなるものが変態ではなく、周囲が自然とそう呼んで認めものこそが本物の変態。だから決して変態を目指してはいけない。嗚呼、変態の道は深し!
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