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さて、そろそろ『栃』はこのあたりにして、前に進むとしましょう。実は、数日前から駿府城で足止めを加えさせていたのはこのためです、そう『家康公手植えのミカンの木』!散々勿体をつけた割には超地味な画しかなのは、このミカンの木の周囲には頑丈な柵が張り巡らされていて、これ以上は近づけないからです。もしかして地元の方ですら知らないぐらい地味なスポットなのかもしれませんが?私的には「愛媛を代表する果樹・ミカン」と家康公が結びついて(愛媛のミカンを植えたわけではないのですが)、ちょっと嬉しかったのです。
立て札によりますと、家康公が将軍職を退いてここ駿府城に隠居している時に、紀州(和歌山)より献上された鉢植えのミカンの天守閣下の本丸に、家康公自らが移植されたとの事。こういう話って後から尾ひれ背ひれがついて、うやうやしく脚色されたりするものですから、どこまでが本当か分かりませんが、教育委員会のお印付きなのでさぞ由緒ある実話なのでしょう。浪漫派の私としては、こういう話の真偽はどうでも良い事なのですが・・・。いいじゃないですか「家康公手植えのミカン」!よくぞ今の世に語り継いでいただきました。
ただのミカンじゃありませんよ!かの徳川家康公御自ら御手を汚して植えられたミカンですぞ!者ども、頭が高~い!柵を乗り越えないようにギリギリまで迫って精一杯の接写でこれ・・・。おお~っ、駿府殿の息遣いが伝わって参りますぞ。立場が人を作るといいますが、この堂々たる枝ぶりは天下人の威風が乗り移ったかが如し。記述から察するに、およそ400年もの間、風雪を凌いで連綿と命を繋いでいるという事ですが、今でも毎年立派なミカンを付けるそうですから凄い事です。天下人の眼にかなったミカン、一度食してみたいものです。
柵越しのミカンに向かって精一杯手を伸ばして写真を撮る背広姿のおっさんは、さぞ奇異に映ったことでしょうが、今撮らずにいつ撮れる、ワシが撮らずに誰が撮る!しかし、実のないミカンの木は地味です・・・。こちらは収穫時期の画像。小学生達が収穫して皆さんに配られるとか。以前に近所で、樹齢70年生の伐採したミカンの木を分けていただきましたが、水分をたっぷり含んでとんでもなく重かったです。こちらは歴史の重みも加わりさぞ重たい事でしょう。さて、私の好きな落語に『千両みかん』という噺があります。
ある呉服屋の若旦那が正体不明の病に倒れる。飯も喉を通らなくなった息子が不憫な大旦那は、番頭に病の理由を探らせると、実はミカン食べたさゆえのミカン煩(わずら)いであった。それでは座敷をミカンで埋めて病を治してみせると大見得を切った番頭はハタと気付いた。今は真夏の八月。約束を守らねば磔(はりつけ)にすると脅された番頭は、街中探してようやく一軒の問屋に行き着く。蔵に山積みされたミカンはどれも腐っているが、最後の箱からわずかに1個だけ無傷のミカンが現われる。問屋の主人は事情を聴いて、ただでもって行きなさいと言うが、番頭がこちらも名のある呉服屋、金に糸目はつけぬと見栄を張る。ならばこのミカン1個千両!大事な息子の命には換えれぬと千両でミカン1個を購入。感激した若旦那、両親や番頭にも分け与えたいと半分を番頭に渡す。自分がのれん分けしてもらえる金が二十両、このミカンが5房で五百両。悩んだ番頭、ミカン5房を持って夜逃げをしてしまう・・・という噺。
相当かいつまんだあらすじなので面白さが伝わらないかもしれませんが(落語のあらすじを読むことほど味気のない事はありませんなあ。書いていてつくづく感じました・・・)、『はてなの茶碗』と並んで私の大好きな噺です。特に稀代の爆笑王・桂枝雀の『千両みかん』が大好きで、DVDで何十回と聴いたか分かりません。情感たっぷりに語る枝雀さんの話芸は何度聴いても素晴らしい。是非一度生の高座を聴いてみたかったなあ、勿論千両もは払えませんが・・・。
タダでは貰えぬとつまらぬ意地を張ったばかりに千両になったミカンは、上方の商売人の面子とプライドの象徴でしょう。千両に化けたミカンに振り回される大旦那や番頭の姿が滑稽ですが、これも人と人がモノを売り買いする商売の妙味かもしれません。無価値のモノがひょんな事から光を浴びて宝に変わる。どちらの噺もそういう展開に惹きつけられるのです。家康公のミカンだって千両したわけではないでしょうが、そのご威光で千両以上の価値となったわけです。ああ、いつか出来ぬか『千両かけら』・・・。
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