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本日は『コブシ(辛夷) 』の木の最終話。3〜4月頃、葉に先立って小枝の先に純白の大形の花をつけ、北国では春を告げる木として親しまれていています。私が興味深いのはこの材の特徴よりもその名前の由来。和名であるコブシとは、そのまま『拳(こぶし)』の意味で、果実の形がが手を握り締めた拳の形に似ているからだとされています。そう言われればそう見えない事もないですが先人たちの詩的な想像力には惚れ惚れするばかりです。
花には芳香があって香水の原料にもなることから銘木の世界では『香節』の漢字が使われています。若い頃は、無知ゆえに辛夷と香節が別モノだと思っていました。香る木というぐらいだから幹からも香りがするのかと匂いを嗅いだりしたこともありました。では辛夷という漢字が使われる理由は何か?それは漢方で、モクレンの蕾(つぼみ)を陰干しした生薬を『辛夷(しんい)』といい、鎮痛剤や鼻炎などの薬として用いられている事に由来しています。
辛夷というのは、その実が辛い事から。日本にはそのモクレンが自生していなかったため、その代用として同じモクレン科のコブシやタムシバが使われてきたため、そのまま辛夷の漢字が充てられたのです。そのためコブシには『山木蓮(ヤマモクレン)』の別名もあります。他にも『田打桜(タウチザクラ)』の別名もありますが、田んぼの土を起こす田打ちの作業を始める頃にサクラに先駆けて咲き、農作業の時期を決める目安にもなっています。
愛媛でも「コブシの花が咲いたらトウモロコシの種を撒け」と言われる地域もあります。また愛媛の方言名には『ユウレイバナ(幽霊花)』というのもありますが、これは白色の大振りの花が咲いた様子を、夕方や月夜に遠くから眺めるとまるで幽霊にように見えることに由来しています。田んぼや畑の近くに咲く事が多いのも、コブシが日陰に耐えて生育する性質を持った耐陰性の木で、やや湿った場所を好むことによるのかもしれません。
コブシの種は果実を食べた小鳥によって運ばれますが、種子は乾燥に非常に弱く、一旦乾燥してしまうと発芽が悪くなるそうです。樹皮や枝葉からは『こぶし油』が採取されたり、木炭としても金銀などの研磨剤にも使われるなど、意外と言っては失礼ですがコブシにはしっかりとした用途の出口が定まっていたのです。従来の茶室や床の間だけでなくこういう丸太を意匠的に使おうという動きもあり、私自身もこれを契機にコブシの木を見直してご縁を持ちたいところなのですが、現在松山市内での銘木の流通はかなり細っており、昔のように頻繁にコブシのような材に巡り合うのも難しくなってきているのが少々不安なところ。ちなみに英語名はKobus Magnolia。コブシの咲く春はもうすぐです!
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