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先日のNHKの夜の番組『ワンダーXワンダー』で、京都西本願寺の御影堂の10年がかりの世紀の大修復を取り上げていて、見入ってしまいました。400年間風雪に耐えた巨大木造建築物です。材木屋でありながらも、建築の資格を持っている訳ではないので難しい理屈は分かりませんが、それが「物凄いこと」だという事は一目見れば分かります。木造構築物としては世界最大とか、屋根瓦の数が11万5千枚とか、10年の修復にかかる費用が60億円近くとか、その威容を形容する言葉は尽きません。よくぞ400年も昔にこれだけの物を作れたものだとただ唸るしかありません。
その中で、屋根に大曲りの梁が使われていましたが損傷がひどく、30本ほどが取り替えられることとなったようです。当時は粘りがあり強度にも優れた【松】が使われていたようですが、(もはやこういう時の常套句ですが)マツクイムシの被害で良質な大径木を揃えることは叶わず、【桧】で代用することとなり、根曲がりの巨大な桧探しが始まりました。すると意外にも、四国は愛媛県が登場したではないですか!一瞬「?」と思いましたが、直材の立派な物を探している訳ではないのです。要するに、大きく根曲がりのある物ということになると、急斜な岩山ということになります。そこで四国の登場と相成ったわけです。それでもちょうどのサイズの根曲がり材はなかなか見つからず、数年越しで適材に出会ったということでした!四国の曲がり材が西本願寺でこれから数百年も瓦を支えていくわけです。頑張れーっ!
修復を終え、瓦が葺き直された大伽藍の姿とてつもなく美しいです。もはや建築というよりは芸術品です。仕事の上では馴染みの薄い寺社建築ですが、国宝の古い木造建築物といえば欠かせないのが【鉄釘】です。そして【鉄釘】といえば、郷土の鉄の匠・白鷹幸伯(しらたか ゆきのり)さんに触れないわけにはなりません。白鷹さんは、松山市堀江町にお住まいで、弊社からわずか車で4、5分の距離です。今まで何度も行こう行こうと思いながらも、縁がなかったのですが、昨年の夏にやっと念願が叶いました。
このブログでもしばしば登場する、白菊木材加工所の太田菊則さんと白鷹さんと私の三人で盃を交わす機会に恵まれました。白鷹さんは75歳ぐらいのお歳だと思いますが実にお元気です。三人ともお酒が嫌いではないので盃も進み、酒とともに口も滑らかになります。白鷹さんもいい気分井酔われて、ご自身の生い立ちから西岡常一棟梁との出会いの話など面白おかしく話していただきました。中でも、西岡棟梁の元で薬師寺西塔のための白鳳型和釘を作ったときの話は、声も大きくなり熱く語っていただきました。人の出会いや縁のありがたさと西岡棟梁や修復に関わった方々の話はとても興味深く拝聴しました。本で読んだ話とは随分違うこともあったようです。大変な責任感と体力を要する仕事ではあったが、自分の中では最高に充実した日々であったと感慨深く話されていました。まさに、ここに歴史あり・・・そんな思いで話を聞いていました。
お会いするまでは、これだけの人ですから、さぞかし気難しい職人気質の頑固親父(失礼!)だと思っていましたが、実際にお会いしてみると物凄く気さくな方で、昔の話の記憶もしっかりされていて驚きました。私は釘や鍛冶の事は素人ですが、お会いして失礼のないように著書『鉄、千年のいのち』(草思社)を改めて読み込んで臨み、ちゃっかりサインまでいただきました。私のような若輩者の語る「木の話」も真剣に聞いていただきました。孤高の職人同士、太田さんとは気が合うようです。そんな大物二人に囲まれて実に楽しお酒でした。
その後、仕事場を訪ね、またいろいろお話を伺いました。今まで、木・和紙・珪藻土・植物油など天然素材に力を入れて扱ってきましたが、鉄も奥深く面白い素材です。白鷹さんの打つ釘は、古代から使われてきた純鉄で、その辺りで売られている鉄とは訳が違います。大変貴重な国宝・薬師寺の修復に使った釘(上)と山口県の錦帯橋の修復に使った釘(下)をいただきました。長いものでは2尺(約600㎜)の釘を打ったこともあるらしいです。貴重な和釘、大切に飾らせていただこうと思います。
白鷹さんの部屋にも、尊敬されている西岡棟梁の写真が飾ってありました。自分の事を理解して評価してもらうという事は、仕事人として何事のも勝る喜びだと思います。薬師寺の本当の評価は千年後に分かればいいと西岡棟梁が語られましたが、千年後に評価される仕事とは壮大なスケールです!『鉄、千年のいのち』 鉄が、千年の木の命をつないでいきます・・・まさに至言!
また寄らせていただきます。いつまでもお元気で、お仕事頑張ってください!
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