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石鎚山で出会った落葉高木『リョウブ』について。漢字で書くと『令法』と表わしますが、その名前の由来について植物学者の深津正氏によると「律令国家末期のあたる平安時代の初期から中期にかけて、農民たちに対して田畑の面積を基準として、一定量のリョウブの植栽及び葉の採取と貯蔵とを命ずる官令が発せられるのですが、この官令(令法)がそのまま木の名前になった」もので、当初は「リョウボウ」と呼ばれていたのが、後に転じて「リョウブ」になったと記されています。
愛媛県内ではさまざまな別名があるようで、この木の樹皮が薄いことから「ウスカワ」、夏に咲く白い小花をツツジの花に見立ててそれが枝先から穂のように長く伸びた様子から「オオツツジ」、樹皮が剥げて表面が平滑になってサルも滑るという意味で「サルスベリ」などの別名があります。また地域によって「リョウブナ」とか「ビョウブナ」など語尾にナ(菜)がつく方言名でも呼ばれるようですが(川之江や新居浜等)それは若葉を菜として食用にしたことに由来しているそうです。
このリョウブの古名は『ハタツモリ』といいますが、その名前の由来もリョウブと似ていて「ハタツモリ」のハタは畑、ツモリはあらかじめ見積もった量のことで、つまりハタツモリとは田畑の面積に応じて割り出した作物を植え付ける量のことで、『令法』と同じくかつて政府が飢饉の際の非常食として、この木の若葉の採取と貯蓄を奨励したことが語源となっているという変わり種の木です。ところがリョウブの花は5~8年に一度しか咲かないという事でその花を見るのはかなり貴重。
かつては救荒植物でしたが、最近ではリョウブのハチミツなども人気だそうですが、なにしろ5~8年に一度しか採取できないそうですからかなり貴重。政府が採取と貯蓄を奨励し、それが正式な名前になったのも頷けます。古い書物にも「令法とはもと田穀をおろしける其分量の目名なり、田人(たみ)の辞にこれを畠賦(はたつもり)といへり、(中略)また糧賦の字音と令法の音便と通したるこころあるべし」と、あるように名前の根拠だけでも【森のかけら】に加わる資格十分です。
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