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木を使う場合、『乾燥』は絶対必須条件ではありますが、その方法には2通りあって、ひたすら自然にその身を任せて自然に乾燥させる『天然乾燥』と、乾燥窯に入れて短期間で強制的に乾燥させる『人工乾燥』があります。こういう風に書くと、どう考えたって自然乾燥の方がいいじゃないかと思われるかもしれませんが、そこは一長一短。それぞれにプラス面、マイナス面があります。マイナス面というと誤解があるかもしれませんが、天然乾燥における最大のネックはそれに要する期間。
かつては主流であった天然乾燥から人工乾燥に大きく切り替わってきたのは、建築現場の工期短縮に伴う納期の短縮化。今日発注して明日納品してくれ、というようなスピーディでジャスト・イン・タイムの納材が求められるようになると、のんびりお日様と根競べしながら木を乾かしましょう的な手法では追いつかなくなります。本当は、それでも間に合うぐらいのローテーションで回せる潤沢な在庫を材木屋が持っていればいいのかもしれません(零細弱小材木屋にとっては死活問題)。
自然乾燥と天然乾燥の事についてはまたいずれ改めて取り上げますが、本日はその乾燥も乾けば乾くほどいいのかという問題。樹種にもよりますが、乾燥し過ぎると問題が生じるケースもあります。例えばヒノキですが、こちらは鴨居・敷居サイズに挽いてから天然乾燥で10年近く乾かしていたもの。それを再割りして球に加工したのですが、長期間にわたる乾燥の結果内部にもヤニ(脂)が滲み出てきてしまっています。ヒノキにヤニって出るの?と思われるかもしれませんが、出ます。
こういう球に関わらず、縁甲板などの製品になったものだと特に出やすいようで、私の感覚だとやはり10年ぐらいそのままだとヤニが発生することもよくあるようです。強度的に劣化していることはないと思いますが、問題は見た目と触感。触ると少しザラッとして、指にねとつきを感じます。今よりもっと高く売れるのではと、欲の皮が突っ張って、売り時の判断を見誤り長期在庫となってしまった愚か結果。多少のヤニであればシンナーで拭けば取れたりしますが、これは難しそう。
なのでいくらでも乾燥させればいいというわけではなくて、何事にもタイミングと旬があるという事。それは分かっていても、回転寿司のように、もう少し待っていればもっと新鮮な、もっと美味しいネタが来るのではと思っていたら閉店の時間になってしまったようなもの。モッタイナイも度が過ぎてしまうと、折角の旬を台無しにしてしまう目利かずの人になってしまいます。だからといってこのヒノキ球だって無駄にはしません。ほら、よく言うでしょう、肉は腐る前が一番美味しいって!
さて本日は『リョウブ(令法)』の木としての特徴について。前日も書いたように、【森のかけら】を作り始めてから手にしたぐらいで、私自身馴染みも薄く活用事例もほとんどありません。森のかけらとして35㎜のキューブに加工して初めてその仕上がりの色合いや触感を知ったぐらいなのです。もしかしたら昔に樹皮が剥げて鹿の子模様になった『サルスベリ』の名前で使っていた床柱や変木丸太などの中には、このリョウブが混ざっていたのかもしれないなんて思ったりもするのです。
樹皮の個性的な表情に比べると、その影響は内部には反映されておらず、加工した表情は白に近いクリーム色できわっだった特徴は見受けられません。木目もはっきりしていません。個人的な印象としては、『ミズキ(水木)』の木をもう少し白っぽくしたような感じで、どうしてもこの木でなければという用途が定まらなかったのも頷けます。それよりも個性的な樹皮を少し残した感じで、『皮付き』で仕上げる方が面白いかもしれません。そう考えれば枝だって使い方次第で活かせそう。
用材として身近でもないリョウブなのですが、私にとっては別に意味で馴染みがあります。それは、この木が【森のかけら】の日本の木・120種の120番目の木だから。この順番はアイウエオ順で3桁の番号が割り振られているのですが、ラ行の木は『リュウキュウマメガキ』とこのリョウブだけです。【森のかけら】をお買い上げいただいた際には、必ず120種のリストと照合していくのですが、その時一番最後に読み上げるのが『リョウブ』なので、その名前だけはいつも耳にします。
名前はよく知っていても、実物はよく知らないなんて木は『リョウブ』だけにとどまらず、恥ずかしながら沢山あるのです(逆に外国の木・世界の120種の方が実体験が伴っていたりします)。あるきっかけで、今まで近くにあっても気が付いていなかったモノが急に見え始めるようになって、そのものが突然身近に感じられるようになることってよくあるのですが、石鎚山で立ち木に出会ったことでリョウブももしかしたら、「120番目の木」から「もっと身近な木」になるかもしれません?!
〔補足解説〕
リョウブは、関西の里山ではどこにでもありますが、亜高木で、太いのは見ません。薪として使えるので、昔は薪炭林で残して使ったと聞きました。ニホンジカがこの樹皮を好んで食べるので、不思議に思って学生と一緒に内樹皮をかじったところ、苦味渋味がないのです。さらに不思議なことに、この木は樹皮を剥がれても枯れません。目立たないのに個性豊かな樹種です。(神戸大学大学院農学研究科 黒田慶子教授)※黒田先生から補足解説をいただきました。
石鎚山で出会った落葉高木『リョウブ』について。漢字で書くと『令法』と表わしますが、その名前の由来について植物学者の深津正氏によると「律令国家末期のあたる平安時代の初期から中期にかけて、農民たちに対して田畑の面積を基準として、一定量のリョウブの植栽及び葉の採取と貯蔵とを命ずる官令が発せられるのですが、この官令(令法)がそのまま木の名前になった」もので、当初は「リョウボウ」と呼ばれていたのが、後に転じて「リョウブ」になったと記されています。
愛媛県内ではさまざまな別名があるようで、この木の樹皮が薄いことから「ウスカワ」、夏に咲く白い小花をツツジの花に見立ててそれが枝先から穂のように長く伸びた様子から「オオツツジ」、樹皮が剥げて表面が平滑になってサルも滑るという意味で「サルスベリ」などの別名があります。また地域によって「リョウブナ」とか「ビョウブナ」など語尾にナ(菜)がつく方言名でも呼ばれるようですが(川之江や新居浜等)それは若葉を菜として食用にしたことに由来しているそうです。
このリョウブの古名は『ハタツモリ』といいますが、その名前の由来もリョウブと似ていて「ハタツモリ」のハタは畑、ツモリはあらかじめ見積もった量のことで、つまりハタツモリとは田畑の面積に応じて割り出した作物を植え付ける量のことで、『令法』と同じくかつて政府が飢饉の際の非常食として、この木の若葉の採取と貯蓄を奨励したことが語源となっているという変わり種の木です。ところがリョウブの花は5~8年に一度しか咲かないという事でその花を見るのはかなり貴重。
かつては救荒植物でしたが、最近ではリョウブのハチミツなども人気だそうですが、なにしろ5~8年に一度しか採取できないそうですからかなり貴重。政府が採取と貯蓄を奨励し、それが正式な名前になったのも頷けます。古い書物にも「令法とはもと田穀をおろしける其分量の目名なり、田人(たみ)の辞にこれを畠賦(はたつもり)といへり、(中略)また糧賦の字音と令法の音便と通したるこころあるべし」と、あるように名前の根拠だけでも【森のかけら】に加わる資格十分です。
森のかけら・#120【令法/リョウブ】 リョウブ科リョウブ属・広葉樹・宮崎産
石鎚山のイベントで出会った木のひとつが、この『リョウブ(令法)』です。【森のかけら】の日本の木120種の最後の120番目の木(アイウエオ順)がこのリョウブです。よく、「【森のかけら】にリストアップしてある木は全部使ったことがあると思うのですが、その中でもっともOOな木は何ですか?」という質問を受けることがあるのですが、『かけら』に加工した事はありますが、それら全ての木を建築用材や家具、クラフトなどに活用しているというわけではありません。
【森のかけら】を作るぐらいのサイズ、例えば長さ500㎜で40~45㎜角ぐらいのものであれば入手出来ても、少し大き目の板材になると途端に入手困難になる木は沢山あります。このリョウブもそのひとつで、今まで多くの『リョウブのかけら』を販売してきましたが、恥ずかしながらいまだにこの木の『かけら以外』の材を扱ったことはありません。なので、この木の特性についても実感が伴っていません。【森のかけら】を作るまで、まあ今でも私にとっては縁遠い木のひとつ。
幹の樹皮が剥げ落ちると茶褐色で平滑になって『サルスベリ(百日紅)』のようになるので、そのまま床柱に使われる木です。北海道の南部から日本全国に分布し、尾根沿いなどの日なたを好む木だそうですが、私は石鎚山で初めて立木を見ました。そこで見かけたリョウブは結構な大きさのモノで、ネームプレートに「材は柄などの器具に使われる」との解説もありましたが、これぐらいの大きさがあればクラフト細工には十分。まあ、伐採せずに保護しているからの大きさだと思います。
だからといって伐採して使えればなどとは思いませんが・・・。確かに樹皮が部分的に剥がれてサルスベリのような趣きがありますが、私の知り限りのサルスベリよりは随分と大きいように感じました。材が干割れしない特徴があるということで、柄や床柱以外にも輪切りのまま工作用材や薪炭などにも利用されるそうですが、自分には縁遠かったこの木をなぜ【森のかけら】に加えたかというと、その変わった名前に惹かれたからに他なりません。明日は、この変わった名前の由来について。
今回の石鎚山のイベントはゴールデンウイークさなかの5月の3日に開催されたのですが、早朝から生憎の曇天。山に近づくほどに温度は下がり、雨の心配も出てきました。山の天候は変わりやすいといいますが、ここからの回復を信じてロープウェイで成就社駅へ向かうことに。毎度ながら900mの標高差を8分ほどで上がるロープウェイからの眺めは最高!目に青葉のしみる季節の山は秋とはまた違った風情があります。木の梢を見下ろすと不思議になぜかテンションが上がります。
前回は生憎かなり激しい雨に見舞われましたが、今回雨はそこまで酷くはなかったものの、横殴りの強い風が窓外の樹木を左右に大揺れさせます。駅内にある温度計は10℃となっていましたが体感温度はもう少し低く思えました。今回はもともと成就社駅内でのイベントなので、セッティングを終えて登山客を待つことに。先日は天候が良かったので早朝から相当な登山客でロープウェイも賑わったそうなのですが、雨の日の山は危険度が増しますのでどうしても足が遠ざかります。
それでも次第にポツポツとロープウェイで登って来られる方も増えてきて、鉄板の『木の球プール』の周辺には小さな子供たちが集まってきました。逆に天気等のコンディションが良ければ、皆山に登ることが主目的なのですから、我々には目を向けることもなくスルーしていくところですが、天候の悪さが災いして、出発前に様子見で腰を下ろしてこちらに目を向けられる方もいらしたりと、何が幸いするか分かりません。ただし目的は山登りですから、皆同様に財布の中身は軽い!
まあうちとしてもここで大きな商売になるとは考えておりませんので、登山者の方にとって彩りの一つにでもなればいいと考えています。足を止めて下さる方々とはいろいろお話もさせていただいたのですが、思っていた以上に県外からの方が多かったのは驚き。その日はたまたま東京、石川、岡山などから来られた方とお話ししましたが、初めてというわけではなくてもう何度も来ているという方も随分いらして、さすがは西日本最高峰霊山。全国的に登山愛好家には人気の山だそうです。
その後も天候はなかなか回復せず、イベントとしては少し寂しかったのですが足止めを食った子供たちはたっぷりと楽しんでくれたようです。私もいつもなら、中抜けして樹の写真を撮りに行くのですが、途中から冷たい雨も降ってきたので今回の撮影会は断念。それでも今までにかなりの数の写真のストックがありますので、整理してこれから少しづつ、中々進まない『今日のかけら』あたりと絡めたりしてご紹介していくつもりです。思うようにならないのは山の天気と女心と『今日のかけら』。
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