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少し前の話になりますが、北海道の紋別市で体重400キロになろうという巨大な羆(ヒグマ)が駆除されたというニュースが報道されました。同時期に紋別市内の別の町でも推定350キロの巨大羆の足跡が発見されていて、地元の猟友会が警戒していたそうです。冬眠に備えてデントコーン畑に侵入して畑を荒らされているという農家からの被害を受けて、残ったデントコーンを刈り取って羆が潜んでいそうなエリアを絞り込んだところ、突然羆が現れハンターが猟銃で仕留めたという事。
その腕利きのハンターは10年前にも310キロの羆を仕留めたそうですが、今回仕留めたヒグマをユニックで吊り上げたところ400キロもあったという事で新記録だったとか。巨大ヒグマといえば思い起こされるのが、国内最大の野生動物の獣害とされる『三毛別(さんけべつ)羆事件』。胎児を含めた7人が死亡し、3人が負傷するという悲惨極まりない事件でしたが、吉村昭の筆によるノンフィクション『羆嵐(くまあらし)』は、自然の厳しさを冷徹なほどに描写した渾身の一作です。
この報道に対して、殺さなくてもよかったのではとか、射殺以外の方法はなかったのかなどとコメントが寄せられていましたが、そういう人はまず『羆嵐』を読むべきでしょう。三毛別事件が起きたのは今からちょうど100年前。そこに暮らす住人たちは、東北の貧しい農村から移住してきた人々で、北海道にしかいない羆についての情報は皆無。銃どころか掘っ立て小屋のような暮らしの中、わが身を守る者がほとんどない暗闇の中で、いつ現れるやもしれない巨大な獣に怯える恐怖。
私は巨大生物マニアですので、その存在には心が躍る反面、射殺された事に胸は痛むものの、当事者にしてみれば生きるか死ぬかの修羅場。自分が生き延びるのに必死な局面で理屈など意味がありません。羆の獣害としては、2011年にシベリア東部のペトロパブロフスクで起きた食害事件(羆に襲撃され2名の親子が死亡。娘が羆に食害されている最中に母親に電話で助けを要請した凄惨な事件)も有名ですが、弱きものが喰われるという自然界の厳しく残酷な掟の前に人間の倫理感など不毛。
三毛別に現れた羆は体重340キロだったので、今回撃たれた羆は更にそれを超える巨大さで、日本にも陸上でいまだにこれだけの巨体生物が存在するのかと興奮したものです。銃で武装していたとはいえ、これだけの巨体が突然目の前に現れたとしたら、どれほどの衝撃であったことか。これだけの獣がいて、人命が失われていなかったことが不思議なくらいですが、自然界にて大きなるものが命を永らくつなぐという事がいかに難しいことか。ゆえに大きなるものは、それだけで尊い。獣も樹木も。
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